第35話 魔法枠制御
四人部屋のテーブルを囲みこれからの事や自分たちの事を話していたが、買い物に行くにも中途半端な時間なので、俺と真白の持っている力についても伝えてしまおう。
「これから生活を共にしていくコールには、俺たちの特殊な力も知っておいてもらおうと思うんだが、構わないか?」
「はい、その力にはもう既にお世話になっていますし、秘密は必ず守りますのでお願いします」
俺と真白は呪文を唱えて、自分の持っている魔法を左手に表示させる。
「これが俺の持っている魔法だ」
「収納はわかりますが、色彩強化というのは聞いた事のない魔法ですね」
「それの説明も兼ねて私の魔法も見てもらっていいですか」
「治癒はやっぱり羨ましいです、それにマナ共有とマナ計器ですか」
「マナ共有がヴェルデちゃんが元気になった、みんなのマナを一つにまとめる魔法です」
「ピピッ!」
「これは一度繋がるとそのままの状態を維持できる、常時発動型みたいだ」
「そんな魔法があるなんて凄いです……
でも、そのおかげでヴェルデの命が救われました」
「ヴェルデちゃんが元気になってライムもうれしい」
「マナ計器は全員のマナの量や使った分がわかる魔法で、これは呪文なしに少し意識するだけで見られるんです」
「どちらかと言うと、真白の魔法はスキルに近いものだと思う」
「私たち鬼人族が耐性向上を持っていたり、獣人族が身体強化を持っているのと同じですね」
「そして色彩強化だが、こんな効果がある」
俺が真白の左手を握って呪文を唱えると、“治癒”の部分が“治癒+浄化”に変化した。
「表示してる内容が変わったみたいですけど、治癒+浄化ですか」
「これは治癒魔法に効果が追加されて、状態異常を治すことが出来るみたいなんです」
「呪いも解けたんだよ」
「コールさんの治療をする時にも、傷口の消毒とこの魔法をかけてますから、変な病気になったり後遺症が出たりって可能性は低くなってると思います」
「そんな事までしていただいていたんですか、本当にありがとうございます」
「そして俺の場合は、こう変化する」
「収納の横に縮地という文字が増えましたね」
「まだまだ練習不足でうまく使いこなせないんだが、短い距離を一瞬で移動できる魔法だ」
俺は部屋の端に立ち呪文を唱えると、向かい側の壁が一瞬で目の前に迫る。障害物の手前で解除されるからだが、まだまだこの感覚にはついていけない。
「消えたと思ったら別の場所に……こんな魔法があるなんて、信じられません。でも、これがあると魔物に一瞬で近づけますから、戦いでとても有利になりますよ」
「危険の少ない魔物に使って練習したいから、その時は付き合ってもらえると助かる」
「はい、私が敵を抑えてリュウセイさんが攻撃すれば、すごく戦いやすくなると思います」
「もう一つ魔法が発現すると思うんだが、まだわからないんだ」
「あの変な模様みたいな、カスレた部分がそうですか?」
「最初は色彩強化もあんな感じに見えていたんだが、この世界の魔法のことを学んだら使えるようになったんだ。いま読めない部分も、何かのきっかけで使えるようになるんじゃないかと思う」
「それはちょっと楽しみですね。あっ、私の魔法はこれです」
《魔法を見せて》
コールが呪文を唱えると、左手の甲に[製水|□□|■■|■■]と枠が並んでいる。
「製水って水が作れるんですか?」
「そうですよ、ちゃんと飲めるお水が作れます」
「すごく便利な魔法じゃないですか、とても助かりますよ」
「料理や洗い物でかなり水を使うし、井戸から汲み上げるのは結構大変で時間がかかるから、コールがいてくれると助かるな」
「私はマナの量が少ないから、ほんの少ししかお水を作れませんし、皆さんのご期待には添えないと思います」
「大丈夫です、私のマナ共有があるから、水は作り放題です」
俺の収納魔法で水樽を複数運んでいるとはいえ、旅の途中は常に水の問題がつきまとうので、真白は大喜びでコールの手を握っている。しかし、俺には少し気になることがある。それはもちろんコールの左手に浮かんだ魔法の枠に、まだ記載されていない部分があるからだ。
「コールの魔法はこれから別のものが発現したりするのか?」
「私には一つしか枠がないですし、二つも発現したら“魔法の達人”とか言われてしまいます」
「真白やライムにはコールの魔法はどう見えてる?」
「私にも一つしか見えてないよ」
「ライムもかーさんと同じ」
「つまり俺にしか見えてない枠があるってことか……」
「お兄ちゃんにはどう見えてるの?」
「俺には製水の下に薄い色の枠が一つと、濃い色の枠が二つ見えている」
「それって、私に四つの魔法が発現する可能性があるってことですか?」
「すごいね、コールおねーちゃん!」
「お兄ちゃんの読んだ本には、二つが名人や達人で三つが英雄や賢者って書いてたんだよね」
「四つで魔神、五つで伝説、六つは神話と書かれていたな」
「私、人じゃなくなってしまうんですか……?」
コールは少し悲しそうな怯えたような顔をするが、単にそういった事例を知られていないから、そう呼ばれているだけだと思う。もしかすると、この世界の人は複数の魔法を発現させる素質を持っているが、何らかの条件や環境が合わずに、それが見えてないだけかもしれない。
「ヴェルデの魔法を見せてもらっても構わないか?」
「ピピピ、ピッ!」
「ヴェルデが私以外のお願いを聞くなんて、少し複雑な気分です」
俺の手に降り立って左羽に魔法を表示してくれた姿を見て、コールが落ち込んでしまった。どうしてここまで俺に懐いてくれているのか、少し思い当たることもあるのでそれも確かめてみよう。
《カラー・ブースト》
ヴェルデは守護獣だからなのか魔法枠は一つだけだったが、それが“[身体補助【土】]”から“[身体補助(強化)【土】]”に変化した。
「ヴェルデの魔法が強化されたから、これでコールをもっと守ってやれるようになるぞ」
「ピー!」
「リュウセイさんの魔法はヴェルデにも効くんですね」
「俺にこうした力があることを、ヴェルデはわかってるんだと思う。言うことを聞いたり懐いてくれるのも、コールのことをより守護するためじゃないか?」
「ピピッ」
「そうだったんだ、ありがとうヴェルデ」
自分の手に移動してきたヴェルデの頭を、コールは嬉しそうに撫でている。この力があればコールは更に怪我をしにくくなるはずだ、それはヴェルデの存在意義と言ってもいい。精霊に近い存在だから、人のわからない力も読み取れるんだろう。
「ピッ、ピピッ、ピ」
「なんだ? 俺の魔法を表示すればいいのか?」
「ピピッ!」
ヴェルデが再び俺の方に戻ってくると、左手の甲をくちばしで軽く突き始める。それは何かを訴えているようなので、言われたとおりに魔法を表示させてみた。
「お兄ちゃん、一番下の枠が読めるようになってるよ」
「ホントだな」
「とーさん、なんて書いてあるの?」
「魔法枠制御と書いてある」
「どういった魔法なんでしょうか?」
「コールが持っているような、いま使えない枠を利用できるようにする魔法だと思う」
「私が魔神になってしまうってことですか!?」
「いや、魔神はモノの例えだろうし、そんな存在には変化しないから大丈夫だ」
「それ、私に試してもらってもいいですか?」
「未知の魔法だが構わないのか?」
「リュウセイさんたちの使う魔法は、きっと誰かのためになるものだと思いますから平気です。それに、他にも魔法が使えるようになったら、役に立てることが増えますから」
コールの方から申し出てくれたので、新しく発現した魔法を試してみよう。制御というくらいだから、色々なことができるんだと思うが、まずは枠の開放からだな。
少し恥ずかしがられたが、コールの左手を握らせてもらい、俺は頭に浮かんだ呪文を唱えた。
《スロット・リリース》
すると左手の甲に浮かんでいた文字が[製水| |■■|■■]と変化し、色の薄かった部分が完全な空白になった。濃い枠の部分に変化はないが、これはまた別の条件があるのかもしれない。
「どうだ?」
「製水の下に何も書いてない枠が増えました、凄いです!」
少し興奮気味のコールの答えを聞いて、真白とライムも確かめてみたが、やはり同じように見えていた。つまり増えた枠に、何らかの生活魔法が発現するのは間違いない。この魔法が使えるようになったのは、やはりコールの魔法表示を見て、枠について考察したからだろう。
「新しく増えた場所って、いつ魔法が発現するのかな」
「最初の魔法が発現するときも、ある程度成長してからみたいだし、何かの条件やきっかけが必要なんじゃないかと思う」
「自分の身にこんな事が起きるなんて信じられませんけど、何が使えるようになるのかちょっと楽しみです」
「べんりな魔法がつかえるようになるといーね、コールおねーちゃん」
「役に立てるような魔法が発現するように頑張りますね」
最初の魔法のときも完全ランダムなので、どんな魔法が発現するかわからないが、俺が使えるようになったのは“魔法枠制御”なので、振り直しも出来るんだろう。これはハズレを引いたときにでも試してみることにしよう。
◇◆◇
その後は、色彩強化や魔法枠制御を色々試してみたが、生活魔法は黒の無彩色なので強化はできなかった。それに色の濃い部分の枠は開放できないし、俺が見えていない三人とヴェルデは、魔法枠を増やせないことが判明した。
制限や制約もあるが、この世界に存在しない魔法だけあって、その存在価値は計り知れない。これからパーティーメンバーが増えたとしても、安全の確保や戦力の向上に大きく役に立ってくれるだろう。
これで主人公と妹のチート魔法が出揃いましたが、当然これで終りではありません(笑)
次回は視点を変えて、コールの話になります。




