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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第3章 初めての都市間移動

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第28話 行商の女性

今回も途中で視点が変わります。

 収納から取り出したベッドを並べて、四人で横になる。昨日より早めに野営の準備を始めただけあって、今日はゆったりした時間を過ごすことが出来た。それにマラクスさんから、効率的な洗濯のやり方や水の利用法を教えてもらえたので、更に余裕が生まれている。



「こうしてると旅の途中で野営しているなんて思えないね」


「これに慣れてしまうと、普通に野営ができなくなる危険性に俺も気がついたよ」


「まさにその通りだよリュウセイ君、僕は君たちと別れてからどうやって旅を続ければいいんだろう」


「ライムたちといっしょのパーティーになる?」


「それはすごく魅力的なお誘いだけど、僕には仕事があるから残念だよ」


「俺が剣の扱いを少し習ったくらいで、近づいてくる動物を追い払うくらいの力しかないから、赤の魔法が使える人がいると安心して旅ができそうだが、わがままは言えないな」


「僕の魔法も動物を狩ったりする程度でそんなに強くないけど、これから君たちが森の奥やダンジョンに入ったりするなら、盾役や斥候が出来るメンバーも必要になってくるだろうね」


「青の防御魔法や水色の感知魔法を持った人がいると、出来ることも増える気がするから探してみるのも手か……」


「水色は珍しいんだよね?」


「黄色と水色はリュウセイ君の紫と同じくらい、持ってる人は少ないよ」


「かーさんの白はもっと少ない?」


「白を持ってる人は千人に一人とか、もっと少ないって言われてるね」



 人口一万人の都市があったとして、その中で白を持ってる人は十人程度ってことか。アージンの街でも、パーティーに所属している人の他は、冒険者ギルドで依頼を受けていた二人と教会に一人、それから治療院に数人いるそうだから、確かにそれくらいの割合かもしれない。



「収納と治癒魔法の使い手がいるから、メンバーを募集したらすぐ集まりそうだ」


「でも変な人が来たら嫌だなぁ」


「ライムもマラクスおにーちゃんみたいな人がいい」


「ライムちゃんにそう言ってもらえると、僕も嬉しいな」


「だって抱っこしてもらうと、すごく気持ちよかったから」



 そういえばライムは、俺以外の男性に抱っこをねだったことはなかったはずだ。体を拭いた後のマラクスさんに抱き上げてもらってすごく嬉しそうにしていたし、やはり柔らかい方がいいんだろうか。



「パーティーを組むなら相性もあるけど、やっぱり可愛い女の子がオススメだよ」


「それはマラクスさんの趣味じゃないのか?」


「失礼だなリュウセイ君、僕がそんな理由で薦めるわけ無いじゃないか」


「何か理由があるんですか?」


「それはライムちゃんがいるからだね」


「ライムがいるからなの?」


「ライムちゃんが手入れもロクにしてない、伸ばし放題の髭面(ひげづら)をしたおじさんに抱っこされてたり、変な感情のこもった目で見つめる男と添い寝する姿なんて、想像するだけで僕は耐えられないよ」


「ライムも抱っこや一緒に寝るのは、とーさんやかーさんみたいな人がいい」



 例えがちょっと極端だが、マラクスさんの願望も多分に含まれていそうだ。でもまぁライムもいるんだし、女性限定というのは無しにしても、メンバー選びは慎重にやろう。マラクスさんのように若くて経験豊富な人がいるというのもわかったし、この先の冒険者活動を考えるとメンバーを増やすことは考えたほうが良いだろうな。


 マラクスさんが本来の目的としている、生の声を聞きたいというリクエストでアージンの街のことも話したが、ギルド長タンバリーさんの(うろこ)好きはかなり有名らしい。俺が拾って渡した黒竜の鱗と添い寝したという話を聞いて、ベッドの上で笑い転げていた。真白もその時一緒にいたかったと言っていたが、あの恍惚とした表情はあまり見せたくない。


 そうして、ライムがウトウトし出すまで色々な話をし、その日は眠りについた。




―――――・―――――・―――――




 次の日も四人の旅はトラブルもなく続いている。朝起きたマラクスさんが「旅の途中でこんな穏やかに寝られたのは初めてだよ」と言いながら、いつものクセなのか胸をそらすように大きく伸びをして、慌てて視線をそらすことになったイベントは発生したが……


 ベッドに入るまで羽織っていた上着を脱いで、寝間着代わりのシャツ姿でそれをやってしまったせいだが、肌着や下着というのはとても大切だと思い知った。



◇◆◇



 その日のお昼は、昨日から仕込んでくれている鶏ガラスープでご飯にしようと真白が提案してくれたので、キッチンを使えるように小屋を出すことにしている。街道の広くなった所で準備をするため周りを確認すると、前の方から荷物を背負った女性が歩いてくるのが見えた。



「やぁこんにちは、女性なのにそんな大きな荷物を背負って大変そうだね」


「この荷物は服や肌着なので、そんなに重くないんですよ」


「どこまで行かれるんですか?」


「この先の分かれ道の向こうに小さな村があるから、そこに売りに行くんです」



 確かに途中に十字路があって、別の方向に伸びる細い道があったが、あれは小さな村に繋がっていたのか。



「ライムたちここで休憩するんだけど、おねーちゃんも一休みする?」


「私もどこかでお昼にしようと思ってたから、ここで食べさせてもらってもいいですか?」


「あぁ問題ない、一緒にお昼にしよう」


「私たちは今からお昼を作ろうと思ってるんですけど、良かったら食べていきませんか?」


「えっ!? 突然お邪魔してしまったのにいいんですか?」


「材料はたくさんありますし、これから作るのでいくらでも増やせますから構いませんよ」


「でしたらこれ使ってください、昨日泊まった村でいただいた新鮮な卵なんです」


「わー、ありがとうございます、これお昼に使わせてもらいます」



 女性は背負っていたリュックを下ろすと、中からカゴに入った卵を取り出して真白に渡してくれる。代金がわりにこうした物をもらうことも多いらしく、食べきれないのでちょうど良かったみたいだ。



「今から料理のできる小屋を取り出すが、驚かないでくれると助かる」



 そう断ってから街道の端まで行って、収納から小屋を取り出した。それを見ていた女性は声を上げなかったものの、目を丸くして棒立ちになっている。



「……凄いですね、こんな大きな物が入る収納なんて、羨ましすぎます。これがあったら、もっと色々なものを売りにいけるのに」


「僕も初めて見たときは驚いたけど、彼の持つ容量はもっと大きいみたいだよ」


「ますます羨ましいです」



 行商をやっているからか、その女性はやはり自分の仕事に結びつけていた。真白は中に入ってお昼の準備を始め、マラクスさんはその女性から服を何点か購入していた。今朝のこともあるし、寝間着になるようなものを追加したみたいだ。



◇◆◇



「チーズと目玉焼きを挟んで焼いたパンと、鶏ガラで作った野菜たっぷりのスープです」


「旅の途中なのに、こんな美味しそうなものが食べられるなんて思ってなかったです」


「こちらこそ、新鮮な卵をもらったので、予定してたものより豪華になりました」



 早速いただきますやお祈りをして食べ始めたが、パンは表面がサクサクしていて、中に入っているチーズは熱で程よく溶けている。それに新鮮な卵と言っていたので、半熟の目玉焼きなのが嬉しい。そして鳥の骨で出汁(だし)を取ったスープは、旨味がぎゅっと凝縮されていて野菜もとろとろだ。



「チーズがすごく伸びるよ!」


「口の所にチーズが少し付いてるぞ」


「ホント!? どこについてるの?」


「父さんが取ってやるから、そのまま動かないでくれ」


「ありがとう、とーさん」


「パンって上手に焼くと、こんなにサクサクして美味しいんですね。それにチーズもとろっとしていて、卵もこんな焼き方があるなんて」


「これは新鮮な卵だから出来る焼き方なんです」


「鳥の骨なんて捨ててしまう部分だと思ってたけど、こうやって手間と時間をかけると、ここまでおいしいスープになるんだね」


「せっかく獲ってきてもらったものですから、全部使ってしまわないともったいないですから」


「本当にお嬢……コホン、驚きました」


「喜んでいただけてよかったです」


「旅の間こんなに美味しいものが食べられるなんて羨ましい……」



 行商をしている女性の視線はマラクスさんに向けられているが、イケメンが美味しそうにパンを頬張っている姿が絵になるからだろうか。やはりマラクスさんのイケメンオーラは、通りすがりの女性を虜にしてしまうくらいの魅力を持っているようだ。



◇◆◇



 何度も頭を下げて食事のお礼をしてくれた女性と別れ、ドーヴァの街に向かって歩いていく。旅の途中で新鮮な卵が手に入るとは思っていなかったが、まだ余っているみたいなので明日は野菜やお肉を入れた、ふわふわオムレツを作ってくれるみたいだ。


 その日も野営できそうな場所まで進み、小屋を取り出して準備を始める。マラクスさんは今日も狩りをしてくると言って、森の方に走って行ってしまった。臭みもなくてやわらかい肉質の動物がいるので、見つかったらそれを捕まえてくる予定らしい。




―――――*―――――*―――――




 ベルは今日も森の中を走り、少し開けた場所まで到着する。そこには昨日と同じように、五人の男女が現れた。一人の手にはウサギくらいの大きさの動物がぶら下げられていて、血抜きや下処理もしっかり終わっている。



「みんな、今日もお疲れさま」


「ベルお嬢様、とても楽しそうなお顔をされていますね」


「ふふふ、今夜の食事も楽しみだし、あの家では気兼ねなく女性の姿で寝られるから、とても気が楽なのよ」


「我らの前でもあまりそのお姿はなさいませんが、リュウセイ殿が近くにいても平気なのですか?」


「リュウセイ君ってかなり紳士的に接してくれるし凄く落ち着いているから、変に意識すると自分ばかり恥ずかしい思いをする事になってしまうの。だけど、そのおかげで逆に冷静でいられるわ」


「ですがお嬢様、殿方(とのがた)の前であまり無防備な姿を晒すのは感心いたしません」


「今朝はちょっと油断してしまったわね、でも新しい服を用意してもらったからもう大丈夫よ」


「お昼に食べた食事の味は忘れられないです……」



 行商を装って龍青たちに近づいてきた女性がその時のことを思い出し、頬に両手を当てながらうっとりした目で遠くの方を見つめる。顔を覆っている布のせいで見えないが、その口はだらしなく緩んでいて、よだれが垂れそうだ。



「そっ、そんなに美味しかったのか?」


「表面がカリッと焼かれたパンに、程よく溶けたチーズと中途半端に焼いた卵の黄身が混じり合い、口いっぱいに広がった時の感動は一生の思い出です」


「それに鳥の骨を煮込んで作ったスープも絶品よ、まさか捨ててしまうような部分であんなに美味しいものが出来るなんて、魔法のようだったわ」


「「「「ゴクリッ」」」」



 まだ真白の料理を味わったことのない四人は、恍惚とした表情を浮かべる二人の女性を見ながら喉を鳴らす。



「私、新鮮な野菜と果物の調達に命をかけるわ」

「俺の順番が終わったらドーヴァまで定時連絡に行くから、仲間に伝えてやろう」

「そうだな護衛を交代しながら、街にいる仲間にも味わってもらおう」

「確かドーヴァの近くで食肉用の動物を飼育しているはずだから、それを調達するのがいいかもしれないわね」


「あなた達、あまり無茶をしてはダメよ?」


「「「「「全て我らにお任せください、ベルお嬢様!!」」」」」



 五人の心は今日も綺麗に一つになっていた。


室内でおきた出来事まで知っている隠密たちですが、別に覗き見や盗み聞きしているわけではありません(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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