第271話 エピローグ[後編] 赤井龍青の日常
今日は連続で2話更新しています。
その2話目[後編]です。
最新話のリンクから飛ばれた方は、前にもう1話ありますのでご注意下さい。
翌日の夕方前、ジェヴィヤで滞在していた真白とライム、それに両親を連れて王都へ戻ってきた。俺はそのままシエナを迎えに、王立考古学研究所まで行く。
所長から直接話を聞いておいた方が安心できるし、今回の旅はショートカットは帰りのみだ。行程も含めて、ちゃんと打ち合わせをしておこう。シエナの不正を、未然に防ぐためにも!
「いつもご苦労さまです!」
「シエナと所長に用事があるんだけど、入っても構わないか?」
「はい、本日もシエナ主席研究員のこと、よろしくお願いします」
建物の玄関にある守衛室で入場の許可を取ろうとしたら、若い男性が敬礼しながら挨拶してくれた。そんな頻繁に訪れてる場所じゃないけど、何故か顔パスになってしまってるんだよな。
今日は執事服を着てないのに……
面倒な手続き無しで入れるから、気にせず所長室に行こう。
「あら、シエナちゃんのお出迎え?」
「近いうちに現地調査にいく予定だから、打ち合わせを兼ねて迎えに来た」
「そうなんだ、頑張ってね」
「怪我や病気の無いよう、気をつけて行ってくるよ」
「シエナちゃんって、本当にいい男の子みつけたなぁー。私も頑張ろっと!」
部屋から出てきた、ちょっと化粧の派手なお姉さんが、手を振りながら玄関の方へ去っていく。
最近は建物の中に入っても、こんな調子で声をかけられる。いつの間に所内の有名人になってしまったのか疑問だけど、きっとシエナがそれだけ愛されてるからだろうな。
研究所のマスコットだし、ある意味当然か。
そんな事を考えながら所長室に入ると、部屋の主とシエナの他に見知った顔が二人いた。
「シェイキアも一緒だったんだ」
「今度リュウセイくんたちが行く場所は、国の最上級機密区域だからね。現地にもウチの隠密を派遣しておくから、仲良くしてあげてくれると嬉しいな」
「隠密たちも食事に誘いたいと思ってるから、伝えておいてくれるか」
「さすが私の旦那さまは優しいねっ!」
「あぁ~、シェイキアちゃんだけずるいよぉ~。私も抱っこしてぇ~」
左右からしがみついてきた二人を抱き上げると、所長はヤレヤレといった顔をしてソファーまで案内してくれる。
ヴァイオリさんも普段に比べて、優しい目つきをしてる気がしないでもない。滅多なことではポーカーフェイスを崩さない人だし、俺に読み取ることは不可能だ。
シェイキアとは正式に付き合うことになり、古代エルフの里まで挨拶に行った。ただ彼女は立場上、家を捨てられないので、ちょっと複雑な関係になる。入籍とは違う形になってるけど、お互いに好き合っているという事実だけで十分だろう。
「許可は問題なく下りたんだな?」
「うん、いつでも出発できるよぉ~」
「なら帰ってから打ち合わせをするか」
まだシエナとは結婚の約束を交わしていない。俺が周りの年上女性を次々呼び捨てにし始めたので、一人だけ仲間はずれは嫌だと言い始めただけだ。
彼女にとって結婚という儀式は、あまり重要じゃないと言っていた。だからこの先、お互いを求め合う間柄になったら、もう一度関係を見つめ直すという方向で付き合ってる。
「シエナは最近働きすぎだから、子供を作って休ませてやってくれ、少年」
「いつもはもっと仕事しろって煩いのにぃ、そんなこと言うなんて一体どうしたんですかぁ~?」
「お前たちが組んで現地調査にいくと、必ず国家を揺るがす成果を持ち帰ってくるからだ! このままでは酒の量が増えて、私の体が持たんっ!!」
あー、うん。
真竜を連れて帰ったり、女神を拾ったりするからな。
所長の肝臓を守るためにも、シエナとの結婚は本気で考えよう……
◇◆◇
家まで帰ってきたら、全員で旅の打ち合わせだ。父さんと母さんも研究の手伝いが終わったところなので、来月まで暇になる。青月は過ごしやすい日が続くし、旅をするにはもってこいの季節。全員であれこれ考える時間は一番楽しい。
「馬車の旅って一度やってみたかったのよ、楽しみね広墨さん」
「俺にも御者をやらせてくれよ、龍青」
「御者は交代でみんなやるから、何度でも楽しんでくれていいぞ」
「とーさん、またライムがお馬さんを、えらんでいい?」
「クレアとも相談して、好きなのを選んでくれ。頼りにしてるからな」
「ん……前の旅行で一緒だった馬みたいに、賢い子を見つけ出す!」
そういえばカリン王女は、王家で所有する馬たちを、ほとんど掌握したという話だ。厩舎の方によく足を運ぶようになり、世話係や調教師たちを失意のどん底に叩き込んでいるのだとか。
そんな風にちょっと大げさに伝わっているようだけど、実際は馬の世話をしている人たちにも大人気だそうだ。あの子の声や喋り方、それに性格や容姿を嫌うなんて、人類には不可能だもんな。
「ディスト君はどうするの?」
「今回はボクも参加させてもらうよ、マシロ。なんたってヒロズミやミドリと旅ができる、初めての機会だからね」
「私たちは夕方からの参加なのです」
「毎日迎えに来てくれるのを、楽しみにしてるですよ」
「キュキュキューイ」
本当に彩子さんからもらったスキルは破格だ。
聖域からあまり長く離れられないバニラ、そしてそのお世話をするイコやライザと、旅の途中で毎日会えるのが嬉しい。
王都の店に勤めているケーナとリコは、休みの日は一緒に馬車で移動する予定だし、ベルとシェイキアも時間の許す限り同じ場所で過ごす。
どれだけ交通機関が発達しても実現できない、旅の大革命といえるだろう。
用意しておく物や作りおきの量や種類、そして買い出しなどの計画を次々決めていく。行ったことのない街の情報を聞いていると、ワクワクが止まらなくなってきた。
今度の旅も絶対面白くなる。
―――――・―――――・―――――
数日かけて旅の準備を終わらせ、いよいよ出発の日になった。空は雲ひとつなく晴れ渡り、絶好の旅行日和といえる。ここの所ずっとソワソワしてた父さんと母さんは、期待に満ちた表情で空を見上げていた。
今回の旅に参加する家族たちも、馬に話しかけたり荷台でゴロゴロしたり、思い思いに出発前の時間を楽しんでいる。
来月の八日になると、俺がこの世界に来てから丸二年だ。
そんな短時間で大所帯と呼べるくらい、家族が増えている。
元々人付き合いが苦手で、他人と積極的に関わるのは少し怖かった。それが今では、誰かが近くにいないと落ち着かない。お互いに触れ合ったり、話しかけたりすることも自然にできるようになって、自分の気持ちを素直に表現するのにも慣れてきた。
いきなり子供ができた時はどうしようかと思ったけど、あの出会いが今の俺を形づくっている。ライムは目の中に入れても痛くない存在になっているし、俺はこの子のためなら何だって出来るだろう。
それに真白がいなかったら、この世界で暮らしていくのは困難だった。どちらの世界でも俺を支え続けてくれた彼女には、一生かかってでも恩返ししたい。
コールが家族になってから生活が豊かになり、生活魔法の恩恵で旅の自由度は大きく上昇した。
主従契約をしてくれたクリムとアズルは、安心して背中を任せられるパートナーだ。
ソラの知識には何度も助けられているし、索敵の優秀さは世界一といって良い。
ヴィオレはその存在自体が癒やしでもあり、いつも一緒にいてくれる彼女は俺の一部となってしまった。
イコとライザの力がなければ日々家事に追われ、みんなとのスキンシップが減っていたのは明らかだ。
スファレはその長い人生経験を活かし、他の家族とは違う視点で気づきを与えてくれる。
クレアがくれた縁は、俺と真白にとって大切なものを届けてくれた。
ベルが授けてくれたノウハウは今でも旅の役に立ち、シェイキアは王都の暮らしを影から支えてくれている。リコは家族に元気をくれるし、ケーナの包容力は安らぎだ。シエナは俺の知らなかった、人との距離感を教えてくれた。
四人の王たちからは様々な祝福をもらい、九人の竜たちからも恩恵や情報をもらっている。
街や村だけでなく森に中にある里、そして旅の途中でも数多の出会いがあり、その人たちが協力してくれたから、俺はこの世界でやってこられたんだ。
だから何度でもお礼を言いたい。
大切なこの世界に
出会った全ての人たちに
そして心から愛している家族に
ありがとう、俺はいま幸せです
「そろそろ出発しようか」
俺は愛娘たちと一緒に御者台へ座り、出発の合図を告げる。
王都から伸びる道は、遥か彼方まで続いていた――
色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~ 【fin】
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*** 赤井龍青の軌跡 ***
◆新王歴:383年
赤月8日 龍青が転移してくる
黄月2日 真白が転移してくる
黄月3日 真白の固有魔法が発現
黄月4日 ピアーノと出会う
黄月6日 ピアーノの母を解呪
黄月42日 アージンを出発してドーヴァへ向かう
黄月43日 マラクス(ベル)と出会う
紫月7日 ドーヴァ到着
紫月18日 コール&ヴェルデ加入
紫月37日 ダンジョン初挑戦
黒月15日 ドーヴァを出発してトーリへ向かう
黒月20日 納品先の村でハグレと戦闘
黒月22日 ビブラ&マリン夫婦と出会う
黒月26日 トーリ到着
黒月44日 ビブラ&マリン夫婦が別の街へ出発
ソラの依頼を受ける
黒月45日 年末の食事会に来たソラがパーティー加入
◆新王歴:384年
白月12日 ダンジョンで宝石発見
白月25日 トーリを出発
白月28日 泉の花広場に到着
白月38日 チェトレ到着
白月39日 異世界カレー誕生
白月40日 ライム発熱
白月41日 ライムに魔法発現
緑月2日 岬の頂上にある家で悪魔の呪いを受けた人物に出会う
緑月3日 ラチエットとカスターネの二人と共同生活開始
緑月10日 船旅の開始
緑月16日 早朝に王都到着&拠点購入
緑月18日 拠点へ引っ越し
緑月19日 白竜のフィドと出会い、自宅が聖域化
霊獣バニラに加え、家妖精のイコ&ライザも同居開始
緑月20日 屋内リフォームで日本式住居に
緑月40日 王都の公園でマラクス(ベル)と再会
水月2日 スファレと出会う
水月3日 シェイキア訪問
水月38日 アージン再訪問、迷子の捜索
水月40日 貸し馬車屋に行く
水月44日 北へ向かって出発
青月6日 緑の精霊王と出会う
青月12日 シェスチーに到着
青月13日 入浴剤販売の仮契約締結
青月20日 青の精霊王の手がかり発見
青月23日 ピャチに向かって出発
青月30日 ピャチに到着
青月31日 青の精霊王に出会う
青月32日 王都へ帰還
青月43日 海水浴
赤月1日 赤竜と空の旅、赤の精霊王に出会う
赤月6日 紫竜の情報を入手
赤月7日 紫竜のいる場所へ出発
赤月12日 紫竜のいる場所に到着
赤月20日 セミの街へ到着、リコの解呪
赤月21日 妖精王の救出、王都へ帰還
黄月1日 神樹祭
黄月20日 リコとケーナの引っ越し
黄月25日 三倍色彩強化に成長
黄月30日 迷い猫捜索
黄月31日 行方不明パーティーの捜索開始
黄月32日 湿地階と砂漠階の攻略
黄月33日 森林階で行方不明パーティーと合流
黄月34日 カメの変種を討伐
黄月35日 近衛隊長と模擬戦
黄月36日 王立図書館でシエナと出会う
黄月37日 王立考古学研究所で所長と会議
黄月42日 遺跡調査の旅に出発
紫月6日 ヴォーセの街に到着、マヨネーズ誕生
紫月9日 遺跡に到着し、神域でディストと出会う
紫月10日 王都へ帰還
紫月28日 シェイキア&ベル訪問
紫月32日 禁書庫の掃除
紫月33日 ケーナ発熱
紫月34日 竜人族の隠れ里で温泉三昧
紫月35日 竜人族の隠れ里で、穢れ治療に来た家族と遭遇
紫月40日 大陸中央祭壇で怨霊と邪魔玉浄化
紫月43日 アージンへ鱗の売却と別荘の発注
紫月44日 ヴィオレと買い物デート
紫月45日 中央大森林へ転移
黒月1日 ハイエルフの里に到着
黒月2日 合同パーティーでダンジョン調査
黒月5日 冒険者ギルド本部へ招聘
黒月25日 サンザ王子一家とジェヴィヤへ向け出発
黒月36日 ドーヴァ到着
黒月38日 ドーヴァ出発
◆新王歴:385年
白月1日 トーリ到着
白月3日 トーリ出発
白月7日 ジェヴィヤ到着
白月10日 学会
白月12日 ジェヴィヤ出発
白月23日 チェトレ到着
白月25日 チェトレ出発
白月29日 王都到着
白月33日 シエナとケーナの初顔合わせ
白月34日 祭壇の下見で女神降臨
白月35日 王立考古学研究所に報告、シェイキア&ベル訪問
白月36日 彩子が天界へ戻る
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青月xx日 新たな街を目指して出発
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
活動報告の方に後書きのようなものを書いていますので、よろしければそちらもご覧ください。
(頂いたファンアートも展示させていただきました)
最後の年表は製作時に使っていたものなんですが、折角なので公開しちゃいます(笑)
◇◆◇
後日談もありますので、よろしければお楽しみください!
https://ncode.syosetu.com/n0593gj/