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第268話 ジェネレーションギャップ

 両親との挨拶も終え、ベルさんとシェイキアさんは普段着に着替えている。ドレス姿が綺麗だっただけに、ちょっと残念だ。


 俺の膝に座りたいシェイキアさんとしては、ドレスを着たままという選択肢は無かったのだろう。


 クレアを生み出した彩子(あやこ)さんは、明日になれば天界に帰らないといけない。母親不在の寂しさを少しでも軽くできるよう、ベルさんが里親になると言ってくれた。クレア自身もベルさんに懐いているので、これからは「ベルママ」と呼ぶことにしたみたいだ。


 今も膝に座って甘えているけど、すっかり母娘のようになっている。


 今後なるべく一緒の時間を過ごせるよう、ベルさんの出張を全面的にサポートするつもりだ。たとえ行ったことのない場所でも、クレアと俺が力を合わせれば、どこでも転移できるしな。



「さすが女神のスキルは反則だね」


「ウチかて、こないな使い方されるとは思わなんだんや。反則なんは龍青君やで!」


「移動時間が実質ゼロになるからって、これまで以上に仕事を入れられると困るけどな」


「不正を働く人ってそんなに多くないし、ギルドの査察は抜き打ちでちょこちょこ入るだけだから、ベルちゃんがこれ以上忙しくなることはないよ」


「ん……ベルママと一緒にいられるのは嬉しい」


「なるべく会いに来るようにするからね、クレアちゃん」



 なんだかベルさんから感じる母性が、とても大きくなった気がするぞ。隣に座っている彼女の横顔は、これまで以上に魅力的だ。これは甘えられる時の危険度が、更に上昇したということか?



「なあ母さん、俺には龍青の家族関係が複雑すぎて、ついていけん」


「簡単よ広墨(ひろずみ)さん、私たちにとってライムちゃんとクレアちゃん、それにディストくんが孫で、あとは全員娘じゃない」


「ウチも娘になるんか?」


「彩子さんはクレアちゃんの母親なんだから、当然そうなるわね」


「まぁウチかてピッチピチの二十三歳やさかい、娘でもええねんけどな。生まれたばっかしの翠里(みどり)ちゃんを見とるだけに、なんや複雑な気分やわ」



 自分のことをピッチピチって、カニか何かに例えてるんだろうか、この海産物女神は。どうにも感性のズレが大きすぎて、ついて行けないことが多い。


 ……これがジェネ()レーシ()ョンギ()ャップ()というやつか。


 彩子さんの続柄(つづきがら)は、母さんからみて叔母になるけど、年齢はすっかり抜かれてしまってる。真竜を孫に持ち、女神まで娘にしてしまった母さんって、実は一番最強なのかも。



「ボクもリュウセイの子供という立場がしっくり来すぎて、元の大きさに戻るのを躊躇してしまいそうだよ。折角だから百年くらいこの姿でいてみようかな」


「さすが真竜、出来ること一味(ひとあじ)違う」


「まるでシエナのようじゃな」


「私たち古代エルフでも、もっと成長は早いもんね」



 シエナさんの子供の頃って、一体どんな姿だったんだろう。両親に会ってみたいけど、どこに居るかわからないし、このまま永遠の謎になってしまいそうだ。



「そうだ、彩子さんにちょっと聞いてみたいんですけど、構いません?」


「なんや、真白ちゃん。ウチにわかることやったら、何でも答えたんで」


「成長の仕方って話題になって、ちょっと気になったんですけど、どうしてエルフ族って三つに分かれたんですか?」


「そんなん簡単や、エルフ族は精霊と人の間に生まれた子やけど、精霊王が三人やからや」



 大気を司る赤の精霊王からは普通のエルフ族、水を司る青の精霊王からはハイエルフ、そして大地を司る緑の精霊王から古代エルフが生まれた。形の変わりやすい大気と変化が緩やかな大地、そしてその中間の水という三つの特徴が受け継がれ、それぞれ寿命や体格の異なるエルフ族として誕生したそうだ。



「何だか凄く納得できたよー」


「私たち獣人族も、元になった獣族の特徴を、それぞれ受け継いでますからね」


「もしかして鬼人族のツノの数や形が違うのも、(オーガ)族が由来になってるんですか?」


「その通りや、コールちゃん。遺伝っちゅうんやけどな、鬼人族は元になった鬼族のどれかを受け継いで、生まれてくるねん」



 妖精とのハーフである小人族は、男性が王だけなので単一種族になった。竜人族もディストが祖先にあたるので同様だ。


 彩子さんのスキルは生み出す種族と性別のみ選択でき、容姿や引き継がれる遺伝子はランダムで決まるらしい。一度取り込んだ種の特徴は何度でも再現できるけど、原種に近い者は総じて能力が高くなる。世界に与える影響が大きすぎるため、特別な場合を除いてスキルを使うことはない、そんな説明もしてくれた。



「これは王立考古学研究所が、私に丸投げするはずだわ……」


「アヤコがむやみに人を増やすと、国が荒れそうなのじゃ」


「今回みたいにウチらの不始末が原因やったらまだしも、今は上手いことバランス(均衡)保っとるさかい、干渉するつもりなんか無いで」


「神話との違い、面白い」


「あの、アヤコさんは守護獣がどうして生まれるかも知ってるんですか?」


「ピピ?」


「そっちはもう一人の(かみ)さんが担当しとるんで、ウチもよお知らんのや」


「ネロの秘密はわからなかったわね」


「なぁーう」


「ん……そんなのわからなくても、ネロは可愛いからそれでいい」


「なぅ!」



 膝の上で寝転んでいるネロの頭を、クレアがそっと撫でる。ベルさんを里親認定したからだろう、ネロはクレアに抱かれても平気になった。


 そんな姿をシェイキアさんは羨ましそうに見てるけど、どうもこの人はネロを可愛がりすぎる傾向が強い。その辺りがネロのトラウマになってそうだ。



「ヴェルデちゃんもコールちゃんと一緒にいられれば、それでいいものね」


「ピッピッ」


「そうね、リュウセイ君も必要ね」


「ピピーッ!」



 なんだか守護獣にまで必要と思われるのはとても嬉しい。それはつまりヴェルデも、俺とコールの仲を認めてくれてるったことだもんな。


 そう思ってコールの方を見ると、花が咲いたような笑顔を返してくれた。



「旦那様、お客様がお見えになったのです」


「中にお通ししますですよ」


「あっ、カリンおねーちゃん!」



 ライムがイコとライザの後ろにいたカリン王女に気づき、真白の膝から降りて入り口に走っていく。他にもサンザ王子とラメラ王妃、それにコンガーと二人の侍従も一緒だ。もちろんポーニャはカリン王女の肩に座っているし、ミルクは腕にしっかり抱かれている。


 家の門の前には例の白い馬車ではなく、地味な茶色の車体が停まっているので、きっとお忍びで来てくれたんだろう。護衛がついてるとはいえ、王子が一般家庭を訪問するのって平気なんだろうか……



「いらっしゃいませ、サンザ王子様、ラメラ王妃様、カリン王女様」


「お邪魔するよ、マシロ。シェイキアと……今日はベルも来ているんだね」


「あらサンザ王子、こんな所にまで来て、一体どうされたんですか?」


「カリンがこの家を見てみたいと言っていたし、ちょっと個人的な用事もあったから、足を運んでみたんだよ」



 俺の膝から降りたシェイキアさんが入口の方に向かい、ベルさんはクレアの手を引いてその後に続く。王子や王妃だけでなく、カリン王女もベルさんの性別について知ってるみたいだ。


 カリン王女はここの霊木に興味があったらしく、ライムとクレアに手を引かれて玄関ホールへ戻っていった。その後は書斎の方にも行ってみるみたいだ。まだ本の妖精は見つかっていないけど、ポーニャはきっと喜んでくれるだろう。


 侍従の二人もついていったので、そっちは任せてしまって大丈夫だな。



「なぁ龍青、この人たちは王族なんだよな。大丈夫なのか?」


「旅の間はずっと寝食を共にしていたし、ここに来てくれることは問題ないぞ。下手すると王城より安全な場所だからな」


「皆さんよく遊びに来るの?」


「隣に立ってる獣人族の男性は時々遊びに来るけど、他の人は初めてだ」


「この国の王族って、すごくフレンドリーだな」


「まずはご挨拶しましょ、広墨(ひろずみ)さん」



 他の王族には会ったことないけど、庶民にも普通に接してくれるのは、この人だけじゃないだろうか。どの街でもすごい人気だったし、悪い噂というのを聞いたことがない。サンザ王子のイケメンスマイルに女性たちは虜になり、初めて公の場に姿を現したカリン王女の愛くるしさは、多数の信者を生み出した。


 今ではラメラ王妃派とカリン王女派という、二つの大きな派閥が誕生し、時々軽い衝突が起きているそうだ。ラメラ王妃派は若い男性が多く、カリン王女派は中高年が多数を占めている。


 古代エルフや小人族ですら性の対象に見られると、以前シェイキアさんから聞いていたけど、ロリコンが多いなこの国は。



◇◆◇



 軽い自己紹介と経緯の説明をし、全員お昼を食べてもらうことにした。真白が作る料理のファンになった侍従の二人は、すごく嬉しそうだ。


 そういえば、タルカのツノがだいぶ伸びてきている。もう少し長くなるみたいだけど、今の状態でも以前より一回り大きいだろうか。目立つようになってきたとはいえ、(ひたい)の真ん中からぴょこんと飛び出たツノは、相変わらず可愛らしい。



「神様を呼び出したり異世界から両親を召喚するなんて、君たちはいつも想像の斜め上を行くね」


「……アヤコ様はおじい様より、えらいかたなんですね」


「この国で一番偉いんは国王なんやし、ウチのことはちょっと訳知りのお姉さんくらいに、(おも)といたらええで」


「戻ってから父上(国王)には報告させてもらうけど、リュウセイのご両親と女神アヤコの身元は王家の方で保証するから、なにも心配いらないよ。これからは我が国の民として、この世界で自由に過ごして欲しい」



 いずれシェイキアさんの方から情報は渡ると思ってたけど、こうして直接会ってもらえたのは幸運だった。驚かれはしたけど、すんなり受け入れてくれた辺り、サンザ王子は本当に懐が深い。


 ちょっと俺たちのことを信頼し過ぎという気もするけど、女神を呼び出したとか異世界から両親を召喚したとか、荒唐無稽すぎてに嘘にもならない。きっと妄言(ぼうげん)の可能性は、捨ててくれてるんだろう。どっちにしても、ありがたいことだ。


 感謝の気持を込めて膝の上に座っているカリン王女の頭を撫でると、嬉しそうにこちらを見上げてくれる。


 父さんは心配そうに俺に視線を向けてくるけど、いつものことだから問題ない。普通とは違うって俺もわかってるけどな!



「えろー気ぃ使ってもろて申し訳ないなぁ」


「王族の方に歓迎してもらえるとは、思っていませんでしたよ」


「こっちの世界に来てから、驚くことばかりだわ」


「なに、絶対面白いことになると私の勘が告げてるからね。今度はリュウセイたちが何をやってくれるか、楽しみでたまらないよ」


「旅の間も、さんざん驚かせてくれましたものね」


「……まいにち、びっくりのれんぞくでした」


「面白いことをやらかす時は、俺にも教えてくれよ」


「あの……カリン様の教育に悪いことだけは、やめて下さい」


「そうです、姫様があれからリュウセイさんの真似をして、大変なんですよ」


「……何やらかしたんだ龍青、ちょっとそこに正座しろ」



 父さんが半眼で睨んできたので、カリン王女を膝に乗せたままソファーの上で正座する。王女は正座しなくていいです、王妃の笑顔がどことなく怖いので。


 何をやらかしたと問われても、収納魔法で二階建ての別荘を運んだり、ドーラが管理する船を一時的な聖域にしてみたり、あとは転移魔法であちこち飛び回ったり?


 そう思って具体例を聞いてみたら、俺が教えた連番制で何でもかんでも収納してしまうこと、それにウトウトするまで抱っこやなでなでする行為を、カリン王女が真似しているそうだ。


 上級魔法使い並みのマナ量を持つカリン王女の収納数は大幅に増え、小物や消耗品でも言えば大体出てくるんだとか。更にタルカとスワラは寝る前のスキンシップが、かなり濃厚になったらしい。


 どんな事になってるのかちょっと興味あるけど、聞くと責任を取らされそうだから、やめておこう。



「まぁカリンに関しては、特に困ったことになってないから、不問にするよ」


「……お兄ちゃんのおかげで、まいにちたのしいです」


「それより、今日ここに来た本題を話そう。

 先日ジェヴィヤで開催された学会発表の中で、国家として支援する研究成果が決まったんだ。それはマナ変換触媒に関する論文だったから、身内のいる君たちには真っ先に伝えておこうと思ってね」


「それ、ほんと?」



 まだ国からの通達が現地まで届いていないけど、内定の情報は王都の関係者に開示されたそうだ。特化型に強い小さな研究所から発表された汎用技術に関する論文は、講演会でもトリを務めるほど注目を集めていた。潤沢な予算が付けば、今の理論が抱えている欠点の克服にはずみがつく。


 ソラが子細(しさい)の確認をして、すごく嬉しそうな顔をしている。


 学校を出ていない研究者が国から支援を受ける、それはものすごい快挙であると同時に、嫉妬や軋轢を生み出さないか心配だ。その辺りを聞いてみた所、この世界で活動する研究者の価値観だと、そうした行為は自らの品位を落とすとして、己の首を絞めることになると教えてくれた。


 同じ研究職だった俺の両親も言語道断だと言い切るほどだから、どの世界でも通用する共通認識なんだろう。


 仮に(ねた)みの感情なんかで妨害した場合、シェイキアさんの家が黙っていない。過去にもそういった取り締まりや摘発をしたそうだ。


 このままジェヴィヤまで転移して伝えたいけど、そんな事をすれば出来レースだったと疑う人が必ず出る。これまで頑張ってきた二人に、そんな思いはして欲しくないから、ここは我慢しなければ。


 公式発表があったら、ヴァリハさんとサラミヤさんを王都に招いて、お祝いしよう。


 最終盤でしれっとエルフ族の新事実も出てきましたが、女神絡みの情報は大体で尽くしたはず。


 次回はとうとう女神が天界に……

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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