第266話 エターナルフォースブリザード
まだ名前間違い残ってたー
誤字報告ありがとうございます! 助かります!!
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タイトル名の意味がわからない場合、検索すれば簡単に判明します(笑)
どちらかというと、属性は逆ですけどね……
ベルさんから放たれた衝撃の告白で、応接室は騒然となってしまった。シェイキアさんはそのどさくさに紛れて、所長からの追求を有耶無耶にしようとしたみたいだが、あっけなく白状させられている。
あのシェイキアさんをやり込めるなんて、所長もなかなかすごい女性だ。
結局のところ色気のある話ではなく、大陸の統一をする際に諜報活動をしていたシェイキアさんは、何度も危ない目に合う。そのたびに子供のふりをしたり、相手に色目を使ってスキを作り、難を逃れていたらしい。
それを彩子さんが感じ取っていたので、ちょっとカマをかけて反応を見ようとした。頭が可哀想と言われたことに対する、軽い仕返しみたいなものだったと、ケラケラ笑っていたが……
見事に引っかかってしてしまったシェイキアさんは、頬を膨らませながら俺の膝で拗ねている。
「シェイキアさんが乙女なのはわかったから、そろそろ機嫌を直してくれ」
「四百年近く前のことを蒸し返すなんて酷いよー」
「そないにえぇ反応返してくれるとは思わんかったんや、ホンマすまんことしたって反省しとるさかい、許したって」
「私にもベルちゃんと同じことしてくれたら、機嫌直してあげる」
彩子さんの尻拭いをなんで俺がしないといけないのか疑問は残るけど、耳元で囁くくらいならお安い御用だ。危険を伴う技ではあるが、本人の希望なら致し方あるまい。
俺はシェイキアさんを後ろから抱きしめ、長くて神秘的な耳元に顔を近づける。そういえば耳を触らせてもらったことはあるけど、その時に嫌悪感を示さなかった。つまり俺たちの相性は良いんだろう。
って、余計なことを思い出すと、なんかドキドキしてくるな。
とりあえず何も考えるな、無心になって言葉を紡ぐことのみ集中だ。
「俺がこの世界を好きになったのは、シェイキアさんが今の国造りを頑張ってくれたおかげだ。感謝してるよ、ありがとう」
「……うっ……………ベルちゃん、ヴァイオリ……、あとは頼んだわ(ガクリ)」
「おっ、お館様!?」
「やる前からわかってたけど、お母様でもあれは耐えられないわよね」
「龍青君ってホンマたらしやなぁ」
「シェイキアのこんな姿を見られるとは、やはり少年は面白い」
シェイキアさんは耳まで赤く染め、腕の中でぐったりしてしまった。やはりこれは禁忌の技として、厳重に封印しておいたほうが良いんじゃないだろうか。特定の人物に対する効果が高すぎる。
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しばらくして復活したシェイキアさんは、さっきの宣言どおりとても上機嫌になった。両足をプラプラさせながら俺の手を握り、時々こっちを見てはニヘラと笑いかけてくる。なんかすごく可愛いぞ、この生き物。
「私は空から何本も暖かい光が降り注ぐ場所で、顔のはっきりしない男の人と女の人に抱かれてる夢を見たけど、お母様はどうだった?」
「すごく暖かくて気持ちのいい草原に立っていたら、子供の頃に遊んでもらった里の長老が、遠くの方で手招きしてたよ」
……二人とも、それは臨死体験なのでは?
「龍青君、さっきのめっちゃ危ない技やから、今後一切禁止や」
「えー、今度はあっち側に行けそうだから、またやってよー」
「私も二人の顔をちゃんと確かめてみたいわ」
そういえばケーナさんにその時の状況を聞いてなかった、次に会ったら確認しておこう。以前、真白から言われていた“みんな萌え死んでしまう”とは、このことを示していたのではないだろうか。
さすがに俺の手で彼岸へ渡すわけにはいかない。そんなことをすれば、今度こそ眠れない夜を過ごすことになるからな。
「でも国を一つにするのってぇ、やっぱり大変なんだねぇ~」
「綺麗事だけじゃ済まないことって、結構たくさんあるんだよ。その当時は貴族の力がむちゃくちゃ強くて、やりたい放題の領主とかいたからね」
「何があっても、私はお母様の味方ですからね」
「別に犯罪行為を犯したわけではないのだ、気にするだけ無駄ではないか」
確かに所長の言うとおりだ。
今の国ができる前の状況を俺は知らないけど、こうして四百年近く続いているってことは、しっかりとした治世ができてる証拠だろう。そんな国を作るためにやった努力なら誇ってもいい。
「後悔とかはしてないけど、気になる男の子に嫌な女って思われるのが辛いんだよー」
「シェイキアさんがより良い世の中を作るためにやってきた努力を、悪し様に捉えたりしないから安心してくれ。俺が神を敵に回してでも守りたいと思った国を、ずっと影から支え続けてくれたんだ。そんな事ができるのは、シェイキアさんしかいないよ」
「……そんな風に言われたの初めて。すごく、うれしい」
俺を見つめるシェイキアさんの瞳は涙で潤んでいて、膝の上で体を反転させると胸に顔を埋めてくる。きっと涙を流すところを見られたくないんだろう。
押し殺すような嗚咽を漏らす小さな体を抱きしめ、プラチナブロンドの髪を優しく撫で続けた。
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しばらく俺の胸に顔を埋めていたシェイキアさんは、さっきよりも更にスッキリした表情で膝に座り直す。この人が重荷に感じていたことを、少しでも軽くしてあげられただろうか。
「さすがリュウセイ殿です、このヴァイオリ感服いたしました」
「お母様の全てを受け入れてくれた感じがして、ちょっと羨ましい」
「あなたがどれだけリュウセイ君の前で、あれこれやらかしたと思ってるの? それでも今までと同じように付き合ってくれてるんだから、当然ベルちゃんだって受け入れてもらえてるわよ」
出会った頃と全く同じではないけどな。
最近は女性としてのベルさんを意識しすぎて、普通でいられないことのほうが多い。額だったとはいえ、ベルさんのファーストキスをもらってしまっている。その先を考えてしまうのは、健康な男子としては当たり前だ。
「さて、そろそろ本題に入ろうじゃないか。私とシエナは研究所に戻らねばならんのでな」
「えぇ~、もう今日はリュウセイくんの家でぇ、ずっと本を読んでたいよぉ~」
「バカモノ、祭壇の調査に行くために申請書を書かんといかんだろ」
「うぅ~、そうでしたぁぁぁ~」
「祭壇まで転移魔法で直接飛べるから、出張期間は短めで大丈夫だ」
「ふむ、では日帰りでもいいな」
「うわぁぁぁーん、せっかく計画してた読書三昧の生活設計がぁぁぁ~」
やはり仕事をサボって、うちの書斎に引きこもる予定だったな。
まったく、油断も隙もない。
「ホンマ、龍青君の嫁っておもろい子が多いな」
彩子さんも、すっかり全員を嫁扱いするようになってしまった。
父さんたちにも同じ捉えられ方をしているが、そうやって言われることに、もう抵抗はない。むしろどこかのタイミングで、しっかりケジメを付ける予定にしている。
だがしかし、シエナさんはいじられ枠だから特別だ。
◇◆◇
祭壇で起こった出来事や、騒動の内容を時系列に並べて報告していく。俺たちの行動は完全な運任せだったとはいえ、想定を超える成果を出していたことについては、当然のように驚かれた。
「そっかー、ならクレアちゃんに関する捜索は打ち切りだね。通達の方はヴァイオリに任せるわ」
「畏まりました、お館様」
「せっかく色々手を回してもらってたのに、無駄にしてしまって申し訳ない」
「いいんだよ、そんなこと。それよりクレアちゃんの両親が判明したことの方を喜ばなきゃ」
「今のクレアちゃん見とったら、天界で眠らせとくんは可哀想やし、龍青君と一緒に暮らすほうが幸せや思うねん」
「すごく楽しそうにしてるしぃ、リュウセイくんにべったりだもんねぇ~」
「本当の“まま”が現れて、ちょっと残念……」
今まで一番気に入ってた女性がベルさんだったもんな。
なにせクレアが初めて俺以外の膝に座った人だから、彩子さんとの共通点が何かあるかもしれない。
ベルさんの控えめで奥ゆかしい所は日本女性っぽくはあるけど、それを言うならコールだって大和撫子っぽい。彩子さんの身長は真白と同じくらいだし、性格は関西人特有といったら良いんだろうか、今まで俺の近くにいなかったタイプだ。
いろいろ考えてみたけど、これといった共通点は見つからない。強いて言うなら、クレアがママチェックで匂いをかぐ部分の戦闘力が似通っている。去年の夏に直接触れてしまったが、クリムやアズルより一回り小さ……いかんいかん、思い出すと体が熱くなってしまう。
「あっ、うちは明日にでも天界に戻らなあかんし、頻繁にこっち来るんは無理なんよ。ベルちゃんがママになってくれるんやったら、ウチめっちゃ嬉しいで」
「私でよろしいんですか?」
「そんなん、こっちからお願いしたいくらいや」
俺の方を見て微笑みかけてくれるベルさんはすごく可愛い、これはもう頭をなでなでするしかない。そっと手を伸ばすと、目を細めて柔らかい表情をしてくれる。いつもの数割増しで愛らしいぞ。
ライムを通して俺と真白が夫婦になってるんだから、ベルさんも同じということでいいな。この嬉しそうな顔を見る限り断られる可能性は低そうだし、クレアの気持ちを聞いてから、それとなく伝えてみるか。
でも、その理屈でいくと、彩子さんとも夫婦ということになる。別に嫌なわけではないけど、この人のノリにはイマイチついて行けない所があって、素直に喜べない。
「くっ……まさか娘に先を越されるとは、不覚を取ったわ!」
「なにを言ってるんですか、お母様。こんなの競争じゃないと思うんだけど」
「勝者の余裕ね! いいわ、お母さんの本気を見せてあげるから覚悟なさい」
何をするつもりなんだ、シェイキアさんは。シエナさんと同じ思考パターンで、既成事実でも作ろうとか言い出すんじゃないだろうな。
この人たちには伝えてないけど、そんな事したら本当に子供ができてしまう。
「なんやなんや、えらいおもろい事になりそうな予感がすんで」
「リュウセイくんのご両親もここに来てるって言ってたけど、いま家にいらっしゃるの?」
「冒険者ギルドでカードの発行をして、日用品や着替えを買いに行ってるけど、そろそろ戻ってる頃だと思う」
「それなら決まりね! ベルちゃん、すぐ服を着替えてらっしゃい」
「お母様、一体なにをするつもりなの?」
「リュウセイ君と夫婦になるんだから、彼のご両親に挨拶するのは当然よ!」
「えっ!? いつそんな事になったの?」
クレアの気持ちを聞く前に、どうやら夫婦になってしまったようだ。
「たった今よ! 私もちゃんと認めてもらうんだから、ちょっと正装してくるわ。今日は戻らないから、あとは頼んだわよヴァイオリ」
「承知いたしました、お館様」
そこで承知しちゃうのか、ヴァイオリさん。
っていうか、御三家ってこんなに自由でいいのか?
後で国王とかに怒られそうな気がするんだが……
「あの……リュウセイ君、ホントにいいの?」
「まぁ夫婦や結婚はともかく、二人のことはちゃんと両親にも紹介したかったし、時間が大丈夫なら家に来て欲しい」
「わっ、わかったわ」
シェイキアさんは既に応接室を退室しており、ベルさんも恥ずかしいような困ったような、複雑な表情をしながら部屋を出ていった。
嫁を次々増やす俺に両親がどんな反応を示すか、ちょっと不安だ。
これでベルと龍青は、ほぼ夫婦と言っていいでしょう(笑)
できちゃった婚みたいですが!(ぁ
スファレ同様、自分のやってきたことを肯定してくれる言葉に弱いのは、古代エルフ族共通の感性です。
次回は主人公の両親が、この世界でどう生きていきたいのか、そんなことにもちょっと触れる話。




