第261話 異世界召喚
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夜の女神である彩子さんが、自分の存在をかけた最終手段で使う杖に溜めた力を利用して、この世界と日本をつなぐ道を作ってくれた。そこに俺の転移魔法を乗せ、自分たちの家から連絡用のホワイトボードを召喚。俺と真白に宛てられた手紙を読み、両親に会いたいと決意する。
俺の気持ちは固まったから、みんなの考えを聞かせてもらおう。
「その杖の力を使い切ってしまっても構わないのか?」
「そんくらい問題あらへん、放っといたらそのうち溜まるしな」
「真白は召喚に賛成か?」
「うん、お父さんとお母さんに会いたい」
「ライムはおじいちゃんとおばあちゃんに会ってみたいか?」
「うん! じーちゃんとばーちゃんにあって、とーさんとかーさんの子どもだって、あいさつしたい!」
「クレアはどうだ?」
「ん……もちろん会いたい。ちゃんと挨拶して、パパとの結婚を認めてもらう」
「さすがクレアちゃんやな! 龍青君みたいな超優良物件、絶対離したらアカンで」
「ん……すぐママに孫の顔を見せてあげるからね」
「……ガフゥッ」
彩子さんがものすごいダメージを受けてる。
肉体は不変でも心は傷つくようだ、ちゃんと覚えておこう。
転移当時は二十三歳だと言っていたし、結婚もしてなかったんだよな、この人。流れ人にならずに日本で暮らしていたら、だいたい六十……これ以上考えるのは止めておいたほうが良いな。
いま背中がゾワッとした、あれは殺気かもしれない。
しかし彩子さんもこっちの世界で慣れたからか、俺の顔つきに対して偏見がないらしく、優良物件と言われてしまった。嬉しいような照れくさいような、何ともいえないむず痒さがある。
「コールも構わないか?」
「もちろんです。リュウセイさんとマシロさんのご両親なら、私にとって義理の親と同じですから」
この中では一番付き合いが長いからか、完全に家族として感じてもらっているのが嬉しい。今夜のなでなでは、いつもの五割増し決定だ。
「クリムとアズルはどう思う?」
「あるじさまとマシロちゃんの両親って、私たちみたいな獣人族を見ても変に思わないかなー?」
「それは大丈夫だよ! 特にお母さんは猫が大好きだから、すごく可愛がってもらえると思う」
「それなら安心して会えます、ぜひご挨拶したいです」
その点に関しては、ファンタジー好きの父さんも問題ない。あの人の場合、ねこみみメイドさんとか結構いけるじゃないだろうか。そんなラノベを読んでたし、一度試してみよう。
「ソラの気持ちも聞かせてくれ」
「リュウセイ私の両親に、愛してるって言ってくれた。私も同じこと、伝えたい」
これ、家族にもかなり冷やかされたんだよな。種族をちゃんと説明しておかないと、ソラと付き合ってるなんて言ったら、ロリコン認定を受けかねない。最優先事項にしておこう。
「ヴィオレも問題ないか?」
「リュウセイ君とマシロちゃんが小さかった頃の話を聞けるし、すごく楽しみだわ」
「あー、うん、程々に楽しんでくれ」
「私はお兄ちゃんと常に一緒だったから、聞かなくても大丈夫だと思いますよ」
逃げたな真白。
折角だしこの機会に、俺の知らない真白のエピソードも聞かせてもらおう。
「家にまた人が増えるけど、イコとライザは平気か?」
「大旦那様と大奥様のお世話は、私たちにお任せなのです」
「メイド妖精の素晴らしさを、とくとご覧に入れるですよ」
なんかすごく気合が入ってるな。
俺の両親は大旦那様と大奥様になるのか、大家の家督を継いだ息子になった気分だ。
「スファレは俺以外の男が増えても大丈夫か?」
「リュウセイと同じ創作物を嗜んどるなら、われのこともそういった目で見んじゃろ。気にせず召喚すると良いのじゃ」
父さんはかなり一途だから、たぶん大丈夫だと思う。その息子が王都で多妻王の二つ名で呼ばれてると聞けば、一体どんな反応されるんだろう。ちょっと怖いな。
王たちやディストからも反対意見は出なかったし、残るは三人だけだ。
「ケーナさんとリコは、家に来づらくなったりしないか?」
「リュウセイさんとマシロさんのご両親にも、ちゃんとお礼を言いたいですから、ぜひ会わせて下さい」
「私のおじいちゃんと、おばあちゃんになる人かもしれないし、もしかするとお父さんと、お母さんになるかもしれないから、会うのすっごくたのしみ!」
「えっと、あの、リ、リコちゃん? ちゃんと意味がわかって言ってるの?」
俺とケーナさんが結婚すれば祖父母で、リコと俺が結婚すれば義父母か。ちゃんとわかって言ってるところが凄いな、一体どこでそんなことを覚えてるんだろう。
「シエナさんは異世界召喚に反対だったりしないか?」
「どっちかと言うとぉ、賛成だよぉ~。なんかすごく面白そうだしぃ、異世界の話がいっぱい聞けるのが楽しみだもん~」
忘れてた、この人も知的好奇心を優先する人だ。それに、シエナさんの年齢も真っ先に説明しないと、ロリコン疑惑が加速する。
とりあえず誰からも反対意見は出ないし、ベルさんとシェイキアさんは申し訳ないけど事後報告にしよう。説明は彩子さんに丸投げでもいいしな!
「俺たちの両親も会いたがっているし、みんなも受け入れてくれるから、召喚することにするよ」
「でもお兄ちゃん、ちょっと顔色悪いけど大丈夫?」
「異世界召喚はかなり大量のマナを使うみたいで、ちょっとだるいけど平気だ」
「とーさん、ライムと同化して魔法をつかったら?」
「そうか、その手があったな。お願いしてもいいか、ライム」
「うん!」
《とーさんといっしょ!》
『どうだライム、気分が悪かったり体がだるくなったりしないか?』
『平気だよとーさん。これだったらマナがたくさん流れても大丈夫だからね』
ライムと同化したお陰で、体のだるさはすっかり消えている。俺の二十倍ほどマナの量を保持してるあって、耐性もかなり高いんだろう。
さすが人型種族最強の竜人族だ。
「ほな、準備はええな?」
『いつでも大丈夫だ』
『いつでもいいよ、アヤコおねーちゃん』
彩子さんはこの世界に呼んでしまったお詫びと、大陸の危機を救ってくれたお礼として、地球からの召喚に手を貸してくれると言ってくれた。世界の理を司る女神だけあって、他に意図があるかもしれないけど、それは別にどうでもいい。きっと一番大きな部分は、ただの厚意だろうしな。
杖に溜めた力を使って出来るのは、彩子さんと縁が深い地球へ道を通すことだけで、召喚するのは俺の魔法だ。
つまり、こちらから元の世界には、戻れないことになる。黒い思念体の男が持っていた転送魔法なら、元の世界へ行けるかもしれない。だけど、もし送還が可能だったとしても、俺はその道を選ぶことはないだろう。
こちらの世界で出来た家族や友人は、もうかけがえのない存在になっている。
これが最後のワガママになってもいい、身勝手だと罵られたって構わない、軽率な行動だと笑われても受け入れよう。それでも俺は父さんと母さんに会いたい、そしてこの世界で出来た家族と、一緒に暮らしていきたいんだ。
《《トリプル・カラー・ブースト》》
《《サモン・赤井広墨》》
俺とライムの声が綺麗に重なり、祭壇が真っ白の光りに包まれる。それが徐々に人の形になると、そこには懐かしい人が立っていた。
「お父さんっ!!!」
「……っ!? 真白、真白なのか!?」
「うん、そうだよ、お父さん」
真白が祭壇に走っていき、父さんの胸に飛び込んだ。かなり戸惑っている感じだけど、真白の頭をそっと撫でてくれる。
辺りをぐるっと見渡した後、その視線は俺の所で止まった。
「久しぶりだな、龍青」
『断りもなしに召喚してすまない』
『じーちゃん、ごめんなさい』
「それよりお前、体が緑色になってるけど大丈夫なのか? それに肩に乗ってる子供が、俺をじいちゃんと呼んでるんだが……」
『詳しいことは、後で話すよ。それより母さんを呼んでも大丈夫か?』
『ライム、ばーちゃんにも会いたい』
「二人とも居間にいたから問題ない、俺が消えて心配してると思うから、呼んでやってくれ」
聞きたいことは山のようにあると思うけど、かなり落ち着いているのはありがたい。やはりこの辺りはファンタジー耐性が高いからか。
真白に手を引かれながら祭壇を下りたのを確認し、俺とライムはもう一度呪文を唱える。
《《トリプル・カラー・ブースト》》
《《サモン・赤井翠里》》
父の時と同じように祭壇が光り、それが人の形になると母が現れる。無事召喚できたことを確認して彩子さんの方を見ると、白い杖についていた金色の宝石は完全に輝きを失い、黄土色の石のようになってしまっていた。
「あら? あらら? 広墨さんが消えて驚いてたら、私も知らない場所に出ちゃった」
『母さん、会いたかったよ』
『ばーちゃん、初めまして』
「龍青くんじゃない! それに真白ちゃんと広墨さんも。もしかしてこれって……」
「見たことのない場所、地球に存在しない種族、俺たちは異世界に来たってことで、いいんだよな?」
「女神様に協力してもらって、お父さんとお母さんの手紙を読んで、みんなと相談してこの世界に来てもらおうって決めたんだ」
「それで私と広墨さんが、こんな洞窟に連れてこられたんだね」
「やはり異世界召喚か……」
父さんは腕を組んで、難しい顔をしながら黙ってしまった。手紙には必ず呼べと書いていたたけど、やはり二人の都合も聞かず一方的に召喚して、怒ってるんだろうか。
「じーちゃん、ばーちゃん。とーさんと、かーさんのこと、おこらないで」
「龍青くんの肩から降りたら、緑に光らなくなったわね。それに、私と広墨さんのことをそう呼ぶってことは、龍青くんと真白ちゃんの子供?」
「うん、そうだよ、お母さん。この子は私とお兄ちゃんの娘で、ライムっていうの」
「あら、ホント!? 広墨さん、私たちの孫ができたのよ! しかも、龍青くんと真白ちゃんの娘だって!!」
「あぁ、そうだな。
……それより龍青、ちょっとこっちに来い」
難しい顔をしたままの父さんへ近づくが、やはり緊張してしまう。
父さんは両手を上げると、俺の肩を少し強めに握る。
「ここは魔法のある世界か?」
「人によって使える種類が決まっているけど、俺には収納魔法、真白は治癒魔法が発現した」
「モンスターとか居たりするか?」
「ダンジョンに行くと魔物が出るな」
「そうか、よし。
ふっ、ふふふ……………でかした龍青! さすが俺たち自慢の子供だ!!」
そう言って父さんは肩に置いた手を上下に動かし、バンバン叩き出す。かなり興奮してるのか、手加減を忘れているようで結構痛い。だが、とりあえず怒ってなさそうなのは良かった。
「家族の紹介とかもしたいし、まずは俺たちの家に戻ろう。
もう移動しても大丈夫か?」
「少しだけ祭壇に細工するさかい、それ終わった後やったらかめへんで」
祭壇の整備はすぐ終わったので、王都の家へ転移門を開く。
今日は長い一日になりそうだ。
ディストと出会った時にもちらっと触れましたが、ライムと同化した際に軽い意識の共有があります。ライムの喋り方が漢字かな交じりになったり、声を合わせて名前を呼べるのはそのおかげ。
次回の更新で後書きに年齢シートを貼り付けますが、父親の年齢は42歳、母親が41歳です。異世界転移を受け入れるくらいの柔軟さは十分ある年齢です(笑)
王都に戻ってからも伏線の回収がありますので、お楽しみに!




