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第256話 学校では教わらないこと

誤字報告ありがとうございました!


ケーナの髪色は柳葉色(やなぎばいろ)です。

それを思い浮かべながらお楽しみ下さい。

 この世界に来て、学校で習わないことも数多く学んだ。

 俺に備わった灰色の脳細胞は、何の解決策も生み出せない、こうした経験もその一つだ。


 元の世界より誰かと触れ合う時間が大きく増えたとはいえ、それで慣れるかというと全く別問題だったりする。


 普段から習慣的に抱っこしている家族が、いつもと違うシチュエーションで求めてくる、それだけでも大きく心揺さぶられてしまう。数々の試練をクリアして、精神力がすり減った状態の俺に、ラスボスとして降臨したのがケーナさんだ。


 大人の魅力に加え、隠しきれない色香を放つ姿は、まさに王者の風格。温泉で体温が上昇している影響か、いつもより甘い匂いが強く感じられるのは、きっと気のせいではないだろう。


 ケーナさんが熱を出した時にさんざん甘えられたので、少しは耐性がついたんじゃないかと期待していた。しかし、そんな考えは浅はかだったと言わざるをえない。


 やはり人生という旅路の中で、圧倒的な力を持っているのは経験値だ。情報というデータだけでは決して埋められない、そう思い知ったのは本日最大の収穫である。



「ふぅ……みんながリュウセイさんの膝の上に座りたがる理由、よくわかりました」


「ソウカ、ソレハナニヨリダ」



 うなじを流れ落ちる汗って、どうしてこんなに心惹かれるんだろう……



「なんだか包み込まれる感じがするので、安心して落ち着けます」


「キニイッテモラエタナラ、ウレシイヨ」



 しっとり濡れたケーナさんの髪の毛って、ちょっと日本茶を思い浮かべる色だ。

 ペットボトルのでいいから、お茶が飲みたい……



「やっぱり背が高いからでしょうか」


「ソノカノウセイハ、オオイニアルナ」



 真白が買ってる湯浴(ゆあ)み着は、パイプ状の服を紐で吊り下げるタイプだから、腕だけでなく肩も露出している。こんな華奢な肩や腕で、ずっと娘のことを守ってきたのかと思うと、ギュッと抱きしめて支えたくなってしまう……



「とーさんのしゃべりかた、ちょっとへんだね」


「ん……なんだか人形(ロボ)っぽい」


「お兄ちゃんの考えてることは手に取るようにわかるけど、今は発言を差し控えて(ノーコメントにして)おくよ」



 真白から見ると、俺の心の声はダダ漏れのようだ。

 その辺りの空気を読んで黙っててくれるのは、この子の良いところだと常々思ってる。


 まぁ、後でイジられたりするけどな!



「あの……リュウセイさん。こうしてるのは迷惑だったりしますか?」


「いや、そんなことはないから安心してくれ。こうやって甘えてもらえたり、くつろいでくれるのはすごく嬉しい。シエナさんと一緒に温泉に誘ったのは、前からこんな時間を過ごしたかったからなんだ」



 計算外だったのは、いつものスキンシップタイムでなく、温泉でおねだりされたこと。


 しかし今の言葉に偽りはない。



「ねぇねぇリュウセイくん、どうしてお姉さんが関係あるのぉ~?」


「ケーナさんと同年代のシエナさんが甘える姿には、学ぶべき点が多いと常々感じていたからな」


「確かにシエナさんのおかげで、私も目が覚める思いをしました」


「それってぇ、私が子供っぽいとかぁ、思ってるんじゃないんだよねぇ~?」


「シエナさんのことは、ちゃんと大人の女性として尊敬してるぞ。あえて言うなら、小さくて可愛いとか、甘やかすのが楽しいとか、娘が増えて嬉しいくらいで、子供扱いとは全く別の感情だ」


「もぉ~、なんだかちょっといい話になってた気がしたのにぃ、最後で台無しだよぉぉぉ~」


「だからほら、ケーナさんも遠慮しないで、ここでゆっくり落ち着いてくれ」



 ケーナさんの髪に鼻先を埋め、軽く抱き寄せながらそっと囁いてみた。やっぱりいい匂いがするな、この人は。ずっとこのまま、抱きしめていたくなる。



「もぉ、お姉さんを無視して二人だけでいい雰囲気にならないでよぉ~。そろそろ泣いちゃうぞぉ~」



 なんかシエナさんと話していたら、今までが嘘のように落ち着きを取り戻す。こうしてちょっと大胆なことをやっても、血流の変化は全く認められない。


 やっぱりこの小さくて可愛いお姉さんは、俺にとって心のオアシスだ。



「お母さん、だいじょうぶ?」


「(……きゅうぅぅ)」



 しまった、背後から抱きしめて耳元で喋ったから、ケーナさんの方が耐えられなかった……



◇◆◇



 すぐ意識を取り戻したケーナさんに謝ったあと、順番に温泉を上がる。ジト目で「死んじゃうかと思いました」なんて言われたので、ちゃんと反省しよう。


 今日はここでご飯を食べてしまう計画なので、隠れ里にある広場に行って地面を平坦にしたら、いよいよ持ち運び式別荘のお披露目だ。



「うわぁなにこれぇ、普通の人が暮らしてる家より大きいよぉ~」


「すごいねお母さん、にかいだてだよー」


「まさかこんなに立派なものが出来あがってるなんて、思いもしませんでした」


「暖かくなったら景色のいい場所に泊まりに行ったり、夏は無人島に泊まって海水浴しような」


「さぁみんな、靴を脱いで上にあがってね」



 真白が玄関の鍵を開け、みんなを中に招き入れた。まだ新しい木の香りが残っている家は、イコとライザのおかげで汚れや痛みは一切ない。



「このいえには、おふろがあるんだよ!」


「ん……あっちが脱衣所」


「ここは温泉があるので使わなくても大丈夫ですけど、私が生活魔法で水を出せばいつでも入れますから、遠慮なく言って下さい」



 ライムとクレアに手を引かれ、リコがお風呂のある方に走っていった。料理を担当してくれる四人とケーナさんは、ダイニングキッチンの方に消えていく。


 大した戦力にならない俺たちは、リビングで待たせてもらおう。



「明かりの魔道具も色々な場所につけてあるしぃ、なんだかすごく贅沢な作りだよねぇ~」


「少し前に調べ物に協力してもらっただろ?」


「病気の薬をぉ、探してるんだったよねぇ~」


「その霊薬が手に入ったから、知り合いの身内を助けることが出来たんだ。明かりの魔道具は、その家族が全て購入してくれた。言ってみれば、シエナさんのおかげだな」



 大勢の職人さんが参加してくれた家づくりだったので、アージンの街では結構話題になったらしい。それを聞いたシロフの家族が、家に置く明かりの魔道具をプレゼントしてくれた。


 職人さんと相談して取り付けてあるので、インテリアとしても違和感なく溶け込んでいる。



「えへへぇ、そう言ってくれるとなんか嬉しいなぁ~。お姉さんのことぉ、存分に褒めていいよぉ~」


「シエナさんは本当に偉いな、いいこいいこ」


「シエナちゃんって、もうあるじさまの娘でいいんじゃないかなぁー」


「これってどう見ても父に甘える娘ですよね」


「リュウセイの父性、荒ぶってる」


「真竜であるボクですら、時々リュウセイから父性を感じるくらいだし、シエナがああなってしまうのも仕方ないんじゃないかな」


「シエナは少々特殊じゃが、その気持はわからんでもないのじゃ」


「なんだかリュウセイ君の神様疑惑が、現実味を帯びてきたがするわね」



 神様はちょっと勘弁して欲しい、シエナさんの頭を撫でくりまわしながら、俺はそんなことを考えていた。それにしても、すごく撫で心地が良いんだよな、この人の頭は。まるで俺だけのために存在するんじゃないかと思えるほど手に馴染む。



「そういえばシエナさん」


「ん~、どうしたのかなぁ~?」


「今夜はここに泊まっていっても大丈夫なのか?」


「うん~、明日はお休みだから平気だよぉ~」


「今日は中途半端な時間に来たから、何かの用事だと思ってたよ」



 今日のシエナさんは、仕事が終わる時間よりかなり早く家に来ている。そうでなければ、のんびり温泉に入ってくつろごうなんて、思いつかなかったかもしれない。


 初顔合わせのゴタゴタや、クレアのママチェックで聞きそびれてたけど、それなら安心だ。思う存分撫で回そう。



「あっ、でも一つだけお願いがあるんだぁ~」


「もしかして、どこかの現地調査か?」


「当たりだよぉ~。どうせ今年もどこかに行けって言われるからぁ、前に言ってた祭壇に連れてって欲しいなぁ、って思うんだけどぉ~」


「それなら俺の転移魔法で行けるから、明日にでも下見してみるか?」


「やったぁ~! 事前に必要なものを用意してぇ、調査期間は長めに申告しちゃうぞぉ~。余った時間はリュウセイくんの家でぇ、ゴロゴロするんだぁ~」



 いや、時間が余ったら仕事してくれ。確かに日帰りできるのは異常なんだけど、だからといって怠惰に過ごすのはどうかと思う。


 これで明日の予定は決まったし、明後日はシエナさんと一緒に研究所だな。所長と話して詳細を詰めさせてもらおう。任せっきりだと、どんなことになるかわからない。


 今度は忘れずに執事服を着ていかないと……



「あっ、シエナちゃんばっかりズルいー。リュウセイお兄ちゃん、私もだっこして、あたまなでて」


「とーさん、ライムも頭なでてほしい」


「ん……私もなでなでを所望する」


「みんな順番になでなでするけど、ご飯の時間までだぞ」



 二階の見学をしていたライムたちが戻ってきた。

 様子を見守ってくれていた、王たち四人も一緒だ。



「とーさん、シエナおねーちゃんと、なんのお話ししてたの?」


「前に行った神様を祀っていた場所があるだろ?」


「うん、あの黒いのがでたとこだよね」


「そこを調査したいってシエナさんが言うから、明日下見に行ってみようって話をしてた」


「私たちもいっていいの?」


「もちろんリコとケーナさんも一緒に行こうな」


「やったー! どんなとこか、たのしみー」


「ん……私も知らない場所。あちこち探検してみたい」



 あの祭壇には、ソラでさえ読み解けなかった、祝詞(のりと)が書かれている。それを見たシエナさんが、どういった反応を示すのか楽しみだ。


 明日はすぐ帰る予定だけど、あれだけきれいに残っている場所だから、見ただけで何か新しい発見があるかもしれない。


 ちょっとワクワクしてきた。


主人公が新たに身につけた必殺技「天上なる囁き(ヘヴンズヴォイス)(仮)」ですが、同年代と年下には効果がありません(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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