第254話 初顔合わせ
誤字報告ありがとうございます!
いよいよ最終章の始まりになります。
某戦車道のように年単位でお待たせはしませんので、安心してお読み下さい(笑)
王子一家と各地を回る旅は無事終了し、約一ヶ月ぶりに王都へ帰ってきた。ちょくちょく戻っていたとはいえ、やっぱり自分の家は一番落ち着く。
船の旅はこれ以上無いというくらい快適だったし、精霊王たちのおかげで半日ほど早く入港。王子たちの到着が告知される前に帰宅して、家族全員で帰還パレードを見学しに行った。こちらに気づいたカリン王女が、満面の笑みを浮かべながら手を振ってくれたので、周囲が大きく盛り上がったのは言うまでもない。
そんな帰郷の日から数日たち、事後処理や報告も全て完了させ、かなり高額の依頼達成料が振り込まれている。
最高の査定をもらった上に、功績に応じた手当が凄いことになってしまったからだ。国王直々の感謝状が冒険者ギルドを通して届いたこともあり、トロボさんを大いに驚かせてしまった。
侍従見習いだったタルカとスワラは叙勲を受け、晴れてカリン王女の従者として正式に就任したそうだ。旅の後半からは見習いの称号が外れていたし、きっと問題なく務められるだろう。
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旅の疲れを癒やすため俺たち家族は、少し長めの休暇を取ることにしていた。一番寒い時期になる白月も終盤に突入し、暖炉の前で過ごす毎日が楽しい。
日々軽い運動と訓練をして、あとはまったり過ごすだけ。仕事を引退して余生を過ごしている人は、こんな生活をしてるんだろうか……
ケーナさんとリコには帰ったその日に知らせていたので、仕事休みに合わせて二人で泊まりに来てくれた。
今日は早い時間に店を閉める日だったらしく、夕食までにはまだまだ時間がある。みんなで暖炉の前に敷いてあるフカフカ絨毯の上に座り、俺はリコを膝に乗せながらくつろぎ中だ。
「こんなにこの家を留守にしたのは初めてですよね?」
「今回は転移魔法を一切使わない移動だったし、街を四ヶ所も回ってるしな」
「お母さん、まいにち“いつかえってくるかな”って言ってたんだよ」
「リッ、リコちゃん!? それは言っちゃダメだって……あっ」
ケーナさんが慌てて口をふさごうとリコに近づいてきたが、無理な体勢で動こうとしてバランスを崩してしまう。リコと一緒に倒れないよう抱きとめると、まろやかな感触と甘い匂いが俺に伝わってくる。
久しぶりにこうして触れてしまったけど、一緒に暮らしている家族とは違う大人の女性を意識して、どうしても鼓動が高鳴ってしまう。
「お母さん、大丈夫?」
「あの、私……ご、ごめんなさい」
「どこか捻って痛くなったりしてないか?」
「……はい、リュウセイさんとリコちゃんが支えてくれたので、大丈夫です」
「それならいいんだ。俺たちのことを心配して、帰るのを心待ちにしてくれたのは嬉しいよ」
抱き寄せたまま頭を撫でると、安心してくれたのか力を抜いて、胸元に顔を埋めてきた。そのままスンスン匂いを嗅いでるけど、前もこれと同じことされたな。ちょっと匂いフェチなところがあるのか?
「ん……ケーナはやっぱり強敵」
「一番大人の女性って感じがするもんねー」
「ああして時々甘えるのが、ご主人さまにはとても効果的みたいです」
「いくらリュウセイさんに対して有効な手段でも、毎日ツノや頭を撫でてもらわないと禁断症状が出てしまいそうです。減らすのはちょっと怖いですね」
以前シエナさんに肩車した時も言われたけど、俺のなでなでにも中毒性があったとは……
なでなで絶ちすると、一体どんな症状が出るんだろう。少し興味があるけど、何となく取り返しのつかない結果を生みそうな気がする。
集中力の低下やイライラくらいならいいけど、幻覚が見えたり暴れだしたりするとまずい。やめる時は徐々に減らしていくのが良さそうだ。
「お客様がお見えになったのです」
「シエナ様が来てくれたですよ」
「みんなが帰ってきたってぇ、話を聞いたから遊びに来たんだけどぉ、知らない子供と女の人が増えてるぅぅぅ~」
リビングに入ってきたのは、ついさっき思い浮かべたシエナさんだった。突然の来客を告げられ、ケーナさんは慌てて居住まいを正す。温もりが消えてちょっと残念だ。
そういえばシエナさんと会うのは、サラスさんの治療法を王立図書館へ調べに行ったとき以来になる。
クレアはもちろんのこと、ケーナさんやリコとも初対面の様子。フィールドワークの苦手な人が、丈夫で実用性の高い靴やカバンを買いに行かないだろうし、会う機会がないのは当然といえるか。
「こっちの子が俺の娘になったクレア。膝に座ってるのがリコという名前で、隣りにいるのが母親のケーナさんだ」
「ん……私はクレア。この世界に来たパパの娘で、迷い人とか言われてる。記憶が無いから良くわからないけど、パパと同じ世界に居たみたい。今はママを探してるの」
「えっとぉ~……不思議な言葉を使ってるけどぉ、“ぱぱ”っていうのがお父さんでぇ、“まま”っていうのがお母さんでいいのかなぁ~」
「さすがシエナさんだな、理解が早くて助かる」
「えっへん、これでもお姉さんだからねぇ~」
腰に両手を当てて胸を反らせているけど、残念ながら子供が背伸びしている姿にしか見えない。でも、クレアの一言から、異世界語の意味を類推してしまえるのは、素直に凄いと思う。
さすが言語関係にも精通してるシエナさんだ。
ただのちびっ子とは一線を画している。
「私はリコっていうの。あったかいきせつになったら、七歳になるんだよ!」
「クレアちゃんもリコちゃんも可愛いねぇ~。でも七歳ってぇ、お母さんがいくつの時に生まれたのぉ~?」
「初めまして、リコの母でケーナといいます。この寒い季節で二十六になりましたから、リコちゃんは十九歳の時の子供ですよ」
「うわぁ、まだ二十歳くらいだって思ってたよぉ~」
出会った頃に比べて、確実に若く見えるようになってるからな、ケーナさんは。王家の血というのは本当に恐ろしい。つい最近まで王子一家と一緒に生活していたけど、あの人たちと同じカリスマ性のある容姿は、ケーナさんもしっかり受け継いでいる。
「確か王都にある研究所に勤めてらっしゃるんですよね?」
「そうだよぉ、王立考古学研究所でぇ、主席研究員やってるんだぁ~。これでも暑い季節になったらぁ、二十九歳になるんだぞぉ~」
「……え!?」
「シエナちゃんって、お母さんより年上なの?」
「驚いたぁ~?」
「うん、すっごくびっくりしたよー」
「シエナの年齢など、われの足元にも及ばんのじゃ」
「スファレちゃんわぁ、四十分の一くらいでお願いしますぅぅぅ~」
「それだとスファレ、だいたい十三歳くらい。さすがシエナ、いい数字出してきた」
相変わらずソラの計算は速いな。
そしてシエナさんの年齢を聞いたケーナさんは、思った通り固まってしまった。
機会があれば会わせてみたいと思ってたし、今日は思う存分交流を深めてもらおう。シエナさんの姿を見て、俺に対する遠慮が少しでも減ってくれると嬉しい。
「今日は暖炉に火を入れてるんだねぇ、外が寒かったから温もるよぉ~」
「シエナちゃんもこっちに来て座るといいわよ」
「どうせ座るならぁ、リュウセイくんの膝がいいなぁ~」
「シエナちゃん、いっしょにお兄ちゃんのひざに座る?」
「やったぁ~! ありがとぉ、リコちゃん~」
「リュウセイお兄ちゃんのひざは、みんなのものなんだよ」
リコは長く病気をしていたので、同年代の子と比べて少し背が低い。シエナさんとの身長差は、十センチちょっとくらいだろうか。でも、あと二~三年で追い越されるのは確実だ。
「リュウセイく~ん、またなんか失礼なこと考えてないぃ~?」
「娘が増えたなんて、これっぽっちも考えてないぞ」
「やっぱり娘扱いされてるぅぅぅ~」
膝に座った二人の頭を撫でながら、適当に思いついたことを言っておく。なにせシエナさんの身長はクレアより低い、俺の中では既に次女として立場が確立した。
娘ができた順番はライム、リコ、シエナ、クレアだが、背丈ポジション的には長女クレア、次女シエナ、三女リコ、末っ子ライムになる。ディストは長男だから別枠だ。
「そういえばクレア、初めて会ったシエナを確認はしないのかい?」
「ん……忘れてた。やってもいい? シエナ」
「あのぉ、何をするのかなぁ~?」
「さっき自己紹介でクレアちゃんが探してるって言った、お母さんが誰か確認する作業ですよ。それに合格すると、晴れてお兄ちゃんのお嫁さんになれます!」
「自分より大きな娘ができるのわぁ、なんだか複雑なんだけどぉ~」
「ちょっと匂いをかぐだけだからすぐ終わるし、試しにやってみないか?」
「うわぁ、なにそれぇ~。さすがリュウセイくんの娘だなぁ、変なところがそっくりだよぉ~」
何気に今、すごく失礼なことを言われた気がするぞ。
俺は至って常識的な行動を心がけているつもりだ。
これは以前から考えていた構想を、実行に移す時が来たのかもしれない。
じっくり本音で語り合うなら、温泉が一番適している。
今夜は竜人族の隠れ里に行くか?
真白の方をちらっと見たら、こちらに向かってサムズ・アップしていた。さすが俺の妹様、シエナさんの湯浴み着も用意してあるみたいだ。
「シエナちゃんとあるじさまの相性ってすごくいいから、確率が高そうだよー」
「今のところ、ママに一番近いのはこの場にいない人ですしね」
「あれぇ~? 子供のいるケーナちゃんじゃないのぉ~?」
「とっっっても残念ですけど、私は選ばれませんでした」
「私も“まま”になれなかったんだ」
「年上の娘ってぇ、無理があるんじゃないかなぁ~」
「それくらい別に問題ないだろ?」
「リュウセイ君はすぐそうやってぇ、私を娘にしようとするぅ~。いいもん、いいもん、クレアちゃんのママになったらぁ、リュウセイくんを尻に敷いてあげるんだからねぇ~」
「というわけでクレア、無事許可が出たから思いっきり確認していいぞ」
「あぁぁぁぁ、誘導尋問なんてずるいよぉぉぉぉ~」
痛恨の一撃をくらったみたいに悔しがってるけど、もう手遅れだ。即座に近寄ってきたクレアが、シエナさんの胸元に顔を寄せて匂いをかぎ始めた。
「クレアさん、どうですか?」
「ピピ~?」
「ん……ママじゃなかった」
「なかなかママが見つからないのは、残念なのです」
「でも、旦那様が娘と子供を作るのは、とても複雑な関係になってしまうですよ」
「私リュウセイくんの娘じゃないもん、お姉さんだもん!」
うん、それ、どっちも思いっきりタブーだからな。
「姉はダメでも、妹なら大丈夫だからね、お兄ちゃん!」
ダメに決まってるじゃないか。
ちょっと場がカオスになってきた、これはとっとと温泉に行こう。
寒い時期の温泉は格別だぞ!
お兄ちゃん先生の思考
胸襟を開く=湯浴み着を着る
みたいな?(笑)




