第248話 年越しパーティー
誤字報告ありがとうございます!
語感優先で意図的に別の平仮名を当てている文章もあります。その場合は適用せず放置していますので、直ってないなと思ったらそうしたケースだとお考え下さい。折角のお手間を無駄にしてしまうのは心苦しいですが、ご了承いただけますと幸いです。
(「それわぁ」や「はぢめて」等)
「うなずく」や「うなづく」みたいに、ややこしいのもあるんですよね。
(本則は“ず”だけど、どっちでも正しい)
◇◆◇
小人族のソラが仲間になってから、1年が経過しました。
◇◆◇
(2020/06/17)
236行目にある誕生日の語句を、誕生季に差し替えました。
アージンでの公務も無事終わり、サンザ王子一行と俺たちはトーリへ向けて順調に進んでいる。王子たちが街を出る時間は事前に告知され、王都と同じように沿道は大混雑だったようだ。
前回と同じく、あらかじめ街の外に退避していた俺たちは、その光景を見ることは出来なかった。まぁ、毎日顔を合わせている人を、わざわざ遠くから人混みに紛れて見る必要もないだろう。
テーマパークでやってるようなパレードと同じで、場の雰囲気を生で楽しんでみたい気もするが……
―――――・―――――・―――――
今日は行程を少し変更してもらい、早めに野営の準備に入っている。場所も街道から若干離れた場所にある、目立たない広場だ。
「俺たち獣人族は音や匂いに敏感だ、それは利点にも欠点にもなりうる。どんな場合でも惑わされないよう気を引き締めろ」
「はっ、はいっ!」
「鬼人族の女性は体が小さいですから、正面からぶつかるとどうしても力負けします。体は男女問わず丈夫なので、多少強引にでも受け流すことを意識してください」
「やってみます、コールお姉さま!」
『こっちはちょっと休憩しようか』
『いっぱい体を動かせたね、とーさん』
「はぁっ、はぁっ、二対一でも全く歯が立たないとは……」
「竜人族の強さを改めて思い知った……」
「さすが騎士団だけあって、太刀筋や体捌きは凄いと思うぞ。何度も一撃入れられそうになったよ」
「……お兄ちゃん、ライムちゃん、みんなもおつかれさま」
「あっ、ありがとうございます、カリン様!」
「我々にまで優しくしてくださって、感激です!」
「……たびのあいだは、ごえいでくろうをかけてますから、これくらいはやらせてください」
カリン王女から受け取ったタオルで、軽く汗を拭う。
今日は食事の前にお風呂を済ませるほうが良さそうだ。
日の高い時間から野営準備に入ったこともあり、いつもより本格的な訓練をやっている。普段は軽くて手合わせするくらいだけど、今日はガッツリ模擬戦までこなした。
コンガーは同じ獣人族のスワラに剣の扱いを教え、コールは鬼人族同士でタルカに受け流しを伝授している。俺はライムと同化して、騎士団の二人を相手に多対一の戦闘訓練だ。
集団戦闘を得意としてるだけあり、連携や囮を使った戦い方は素晴らしい。竜人族の身体能力と気配察知がなければ、全く相手にならないほど彼らのレベルは高かった。さすが旅の護衛を任されるだけはある。
「あるじさま、ただいまー」
「いつもの倍くらい走ってきました」
「……ふたりもこれを、つかってください」
「ありがとー、ちょっと汗かいてたんだー」
「ありがとうございます、カリン王女」
走り込みに行っていたクリムとアズルも戻ってきて、カリン王女から受け取ったタオルで汗を拭う。これだけお腹をすかせれば、今夜のご飯は美味しく食べられるはずだ。
なんといっても今日は年末、真白はちょっとしたごちそうを準備してくれている。
年越しパーティーは去年もやったけど、まさか王族と一緒にその日を迎えるとは思わなかった。そういえば去年はソラを招待して、そのまま家族になったんだったな。
カリン王女も旅に参加している全員を、家族のように思ってくれてるみたいだし、きっと楽しく年を越せるだろう。
◇◆◇
訓練を終えたメンバーはお風呂に入り、いよいよ年越しパーティーが始まった。テーブルの上には黄色や緑や白、様々な料理で彩られている。
中央には冬でも咲いている花を飾ってあり、いつもより華やかだ。これは森でスファレとヴィオレが摘んできてくれた。
「真白、また腕を上げたな」
「サラスさんに教わった技法も取り入れたし、ピャチの香辛料も使ってみたんだ」
「……おいしいです、マシロ様。
……こんなのおしろでも、たべたことありません」
「カリン王女が作ってくれた材料も入ってますからね」
「……じぶんでつくったものは、よけいおいしくかんじます」
「とても複雑で深い味わいがして、本当に美味しいわね」
「これは一体、何種類の香辛料を使ってるんだい?」
「今回は十五種類使ってみました」
その答えを聞いて、サンザ王子もラメラ王妃も驚いた顔になる。王城で出される料理も、高級料亭やレストランのように、素材や調理法の説明があるらしい。そんな場所ですら、香辛料をこれだけ贅沢に使ったものは出ないんだろう。
「マシロ様やコールお姉さまが凄く時間をかけて作ってらしたので、どんなものが出来上がるか楽しみだったんです」
「訓練中もずっといい匂いがして、集中できなかったんですよー」
「実は俺もかなりキツかったんだ、しかしこれは待った甲斐がある旨さだな!」
「俺、今回の出張に選ばれて本当に良かった……」
「あぁ、俺もそうだ。いっそここに就職したい……」
年越しパーティーで出す料理は、俺たち家族全員の意見を反映してカレーに決まった。下ごしらえに数日かけた力作で、今日は早めの時間から準備した成果だ。
スパイス挽きはカリン王女も手伝ってくれている。立場のある人はなかなかこうした機会に恵まれないだろうし、自らお手伝いしたものを食べることはいい経験になったと思う。
しかし、サラスさんの教えがさっそく反映しているとは、さすがとしか言いようがない。本当に真白が俺の妹で良かった。このカレーを食べられるだけで、俺は幸せになれる。
ディストたちも来られれば良かったんだけど、道の途中では転移ポイントを覚えられないので断念した。小分けにしたものをヴィオレが保存してあるから、トーリを出る時に渡してあげよう。
「かーさん、カレーパンも作れる?」
「もちろんだよ! ちゃんと用意してあるから、今度のお昼にしようね」
「ん……カレーパン大好き、また楽しみが増えた」
「カレーの日は食卓が一段とにぎやかになって楽しいわね」
「みんな嬉しそう……です」
「私たちはアイスクリームを楽しみましょ」
「はい……、これなら私も……食べられます」
俺たちに会うまで何かを口にしたことがなかったポーニャも、アイスは少し味がわかるみたいだ。エコォウものど越しが面白いといって食べることが多いから、何気に妖精たちの常食になってしまっている。俺も手作りアイスは好きだけど、今は冬の時期だし遠慮しておこう。
「今日は食後のお菓子もちょっと変わったものですから、楽しみにしていてください」
「ほんとー!? コールちゃん」
「何が出てくるか楽しみです」
「去年の四角いケーキ、美味しかった」
「年の終わりを祝うというのは不思議な風習と思っておったが、なかなか楽しいものじゃな」
そういえばデザートに何を作るのか聞いてなかった。この別荘についているビルドインオーブンを使えば、色々なお菓子ができそうだし、どんなものが出てくるか俺も楽しみだ。
◇◆◇
楽しい食事の時間も終わり、真白はすぐオーブンに火を入れにいった。やはりデザートは焼き菓子らしい。
食後の片付けも終わらせた後、みんなはリビングでくつろぎながら、今か今かとデザートの到着を待っている。
「おまたせー、今日は焼きプリンに挑戦してみました」
「まだ少し熱いので、食べる時は気をつけてくださいね」
真白とコールがお盆に乗せて持ってきてくれたのは、小さなカップに入ったプリンだった。表面に焦げ目が入り、甘くてちょっと香ばしい匂いが漂っている。
冷やして食べるなめらかなプリンも美味しいけど、寒い時期に食べるならやっぱりこっちだよな。
「かーさん、あったかくておいしいよ!」
「底の方に茶色いソースが入ってて、それを一緒に食べると違う味になるから試してみて」
「ちょっと苦味も加わるのか、でも旨いな!」
「……マシロ様、これはなにをつかってるのですか?」
「茶色いソースは、お砂糖を加熱して作るんです。黄色の部分はミルクにお砂糖とはちみつを溶かして、卵を加えてよく混ぜ合わせたら、あとは蒸しながら焼くだけなんですよ」
「あら、はちみつも使ってるのね」
「少し食べてみるか? ヴィオレ」
「ちょっともらうわね、リュウセイ君」
俺のスプーンに近づいてきたヴィオレが、小さな口を開けてプリンにかぶりつく。ちゃんと味を感じるみたいで、カラメルソースのかかった部分や、表面の焦げたところも口にしている。
「ヴィオレさん、どうですか?」
「茶色いところと焦げたところはちょっと苦手だけど、黄色いところは食べられるわ」
「それならカラメル抜きの蒸しプリンなら食べられそうですね、今度はそれも作ってみましょう」
「うふふ、うれしいわマシロちゃん」
今までプリンは作ったことがなかったけど、ヴォーセに行けば安定して卵も手に入るし、これからの定番スイーツになりそうだ。ヴィオレの食べられる物が増えるのは、いいことだな。
「使っている材料は少ないけど、実に面白いお菓子だね」
「表面が焦げて固くなった部分や、中のトロッとした部分、そして底にある茶色いソースと、この小さな器一つで色々楽しめるのは凄いわ」
「お城に住み込みで働かせていただくようになって、世の中にこんな美味しいものがあるのかと感動したんですが、マシロ様は更にその上をいってます」
「私の家はお弟子さんの数が多くて、大きな鍋でごった煮するような料理ばかりなので、何を食べても美味しいです」
「あそこはどの流派も、同じような食事事情だからな」
「王都ではあまりお菓子を食べなかったけど、帰ったらお店巡りをしてしまいそうだ」
「俺も食後に酒じゃなくて、お菓子を食べる生活になりそうだよ」
二人の騎士も味覚が変わってしまったのか、すっかりお菓子好きになってしまっていた。おやつに出している焼き菓子やケーキを、いつも美味しそうに食べていたもんな。
「普段は果物だけど、お菓子を食べるのもいいねー」
「こうしていつもと違う物が出てくると、特別感があって嬉しいです」
「ん……毎月年越しがあってもいいと思う」
「そんなことになると、クレアの年齢がエルフ並みになってしまうのじゃ」
「クレアいま十歳、毎月年越しだと八倍」
「私の年齢が三桁になってしまいます」
「ピルルー」
そんなことになれば、俺だって百五十歳くらいになってしまう。まだクレアは参加したことがないけど、誕生季パーティーの時はこうやってデザートにお菓子を食べたりするし、それで我慢してもらうしかないな。
こうして今年の年越しパーティーも、にぎやかに過ぎていった。
次回はスファレと二人だけのデートです。
エルフ族の新たな生態(?)も判明しますので、お楽しみに!




