第245話 お説教
終盤で視点が変わります。
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第243話を加筆修正しています。
話の流れに変化はありませんが、状況説明を明確にしています。
(前書きに修正箇所を乗せてるので、そこだけ確認しても大丈夫な程度の変更)
暗闇の中から聞こえてきた助けを呼ぶ声に気づき、カリン王女たちが救助に向かってしまう。侍従見習いの二人は大怪我をしてしまったけど、真白の治療で完全に回復している。
ハグレに襲われていた幼い子供は、王子たちと話し合いをしていた男性の娘だった。いつまでも帰ってこない父を心配して家の外に出たものの、暗闇の中で迷子になってしまったようだ。
今はリビングにベッドを置いてタルカとスワラを眠らせているが、カリン王女は二人の手を握ったままそばに寄り添い、離れようとしない。
もう一匹の存在を見落とした件は、誰にも責任はないとサンザ王子が宣言した。とりあえず明日の昼間に俺たちのパーティーが森へ入り、他にハグレが残っていないか調査する。
アージンの森で迷子捜索した時もちょっとした騒ぎになったが、こうして集団で現れるのはかなりのレアケースらしい。今回の件も国や冒険者ギルドに報告を上げ、村まで人を派遣してくれるそうだ。
「ん……あれ………ここは?」
「……きがつきましたか、タルカ」
「カリン様、私どうして……あっ!?」
さっきのことを思い出したんだろう、タルカは自分の腕に手を当てて表情を固くする。しかし、一向に襲ってこない傷みと、傷の残っていない体に気づいたらしく、驚いた顔でカリン王女を見つめた。
「……からだのきずは、すべてなおりましたよ」
「まっ、まさかカリン様が収納している、お薬を使ったのでは!? あれは王家の人間にしか使ってはいけないと……」
「……いいえ、タルカをなおしてくださったのは、マシロ様です」
以前、真白から霊薬のことを聞いたことがあったが、やっぱり持ってるんだな。
それに、真白のことを様呼びし始めた。まぁ、再生魔法を見てしまうと仕方ないか。夕方にやった村人の治療は、カリン王女がいない場所だったし、さっきの傷はあれよりかなり酷かった。失った部分まで治せる治癒でないと、元の生活には戻れなかっただろう。
続いてスワラも目を覚まし、怪我の治療が終わってることや、子供が無事だったことを伝えられる。
その話が終わったところで、サンザ王子とラメラ王妃が立ち上がった。
「カリン、こちらに来なさい」
「……はい、父上さま」
「今日のお前は間違ったことをした、それはわかっているね?」
「……はい、わたしのせいで、みなさまにごめいわくをおかけしました」
「カリン様をお守りできなかったのは、私たちの責任です」
「お叱りは私たちの方が受けるべきです」
「これは王族として、人の上に立つ者が持つ責務の話だ、君たちは黙っていなさい」
「はっ、はい、申し訳ありません」
「いらぬ差し出口、お許しください」
サンザ王子がここまでピシャリと言い放つ姿を見るのは初めてだ。
これが王子としての威厳か……
「どうして私やコンガー、それに外にいる騎士たちに相談しなかったのか、説明しなさい」
「……父上さまはおしごとちゅう、だったからです。
……コンガーは父上さまと母上さまの、ちかくにいないといけません。
……きしのふたりには、うまをまもる、やくめがありました」
「それで黙って出ていったというのか?」
「……はい、そのとおりです」
そして今のサンザ王子には、父親としての厳しさも出ていると思う。
俺には全く足りていない部分だ。
これまで数は少ないながら、ライムを叱ったことはある。
しかし、ここまで厳しく問いただすようなことは出来なかった。
俺がそんなことを考えている間も、カリン王女に状況の説明や判断の理由を求めていく。
「ここは王城ではないから、いつもの常識は通じない。それに危ないから外には出るなと言われていたはずだ。決まり事を破ったあげく、部下を危険に晒すなど、上に立つものとして絶対にやってはいけない。そんな事をすれば、誰もついてこなくなる」
「……父上さまのいうとおりです。
……こんかいのことは、すべてわたしのせきにんです」
「今回は優秀な冒険者の方がいたから、誰も失わずに済んだのだ。こんな幸運は二度とない、そう肝に銘じなさい」
「……このようなまねは、にどといたしません」
「だが、小さな子供を守ろうとしたのは立派だった。よくやったね、カリン」
「……はっ、はい……ひっく……ありがとうございます、父上さま」
カリン王女は、王子と王妃に抱きしめられながら泣いてしまう。相手の言い分や考えを聞き、その上で何が悪かったのか、どうするのが最善かをしっかり説明する。サンザ王子の叱り方はこんな感じだった。
そして最後に、良かった所を褒めてあげる。サンザ王子は俺より五歳くらい年上だが、本当に立派な父親をしていると思う。これは負けられないな。
「あっちの話は終わったな。タルカ、スワラ、立てるか?」
「はいっ!」
「問題ありません!」
「ならそこに並んで立て」
今度はコンガーがベッドの近くに行き、侍従見習いの二人をその場に立たせた。
「お前たちの役目はなんだ、言ってみろ」
「カリン様の盾になり、その身をお守りすることです」
「姫様の剣となり、脅威となるものを排除することです」
「それは近衛や騎士団でも出来ることだ。お前たち侍従には、もっと重要な役目がある。なんだと思う」
「身の回りのお世話でしょうか?」
「姫様の手助けをすることでしょうか?」
「常に近くにいる侍従の役目は、主君が間違ったことをしようとした場合、体を張って止めることだ。今日のお前たちは、それが出来たか?」
「……あっ」
「……出来ません、でした」
「それにどうして、お前たちが二人で仕えているかよく考えろ。カリン様が飛び出してしまった場合でも、一人が護衛し、もう一人が報告する。二人一緒に選ばれたのは、それが理由だ」
「おっしゃるとおりです」
「全く気が回りませんでした」
「お前たちはまだ未熟だ、何かあれば誰かを頼れ」
「はい、次は必ず」
「今度は姫様をお止めいたします」
「体を張ってカリン様を守ろうとしたのは立派だった、よくやったな二人とも。さすが俺の後輩だ」
「あっ、ありがとうございます」
「嬉しいです、コンガー様」
コンガーが抱きしめて頭を撫ではじめると、二人の目からキラリと光るものが流れ落ちた。
やはりコンガーも上に立つ者としての適性が高い。俺たちと模擬戦をする前は、時々暴走することもあったみたいだけど、それでも近衛隊長を任されていたのは、こうした部分が優れているからだろう。
「お風呂の準備ができてるみたいだから、三人で入ってらっしゃい」
ラメラ王妃にそう言われ、カリン王女と侍従見習いの二人が脱衣場の方に消える。それを見送ったリビングは、ホッとした空気に包まれた。
俺たちは仲の良い者、気の合う者が集まり、家族として暮らしている。そのためにどうしても、なあなあで済ませている部分があると思う。
今回の遠征は俺たちにとっても、いい経験になってるのは間違いない。
「ポーニャは一緒に入らなくていいの?」
「今日は三人だけのほうが……いいと思う」
「なら、リュウセイ君の頭で一緒に休みましょ。今日はかなり頑張って飛んだみたいだし、ここにいると癒やされるわよ」
「いい?」
「あぁ、遠慮なく来てくれ」
ポーニャがあの場から飛び出してコンガーを呼んでくれなかったら、状況が更に悪化していたかもしれない。今回の件では、間違いなく一番の功労者だ。俺の頭で良かったらゆっくり休んでほしい。
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カリンと侍従見習いの二人が脱衣場で服を脱ぎ、そろってお風呂場に入っていく。旅の間のスキンシップで親密度を大きく上げた三人は、一緒のお風呂に抵抗がなくなっていた。
「旅を続けているのに、毎日お風呂に入れるって不思議」
「お風呂や料理で使う水は、全てコールお姉さまが魔法で作ってるんだって」
「鬼人族って、マナの量は少ない種族なんだよね?」
「生活魔法を使える人でも、自分の飲む水を出すのが精一杯かな」
「……こんなことができるのは、このくにでもお兄ちゃんのパーティーだけ、父上さまはそういってたよ」
「魔法も凄いし料理だってとても美味しい、また一緒に旅ができるといいな」
「種族がいっぱいで驚いたけど、みんな仲良くて優しいもんね」
「……わたしたちも、もっとなかよくなりましょう」
三人は椅子に座り、お互いの頭を洗い出す。
そしてタルカの頭をカリンが洗っている時、額に一本だけあるツノに少し強く手があたってしまった。
「あっ!?」
「……ごめんなさい、いたかった?」
「ううん違うの。これが上から落ちてきて、ちょっとびっくりしただけ」
タルカは自分の足の間に落ちてきたものを掴み、お湯の中で洗い流す。それは小さな円錐形をした、変わった手触りの硬いものだ。
「……タ、タルカのツノがとれてしまいました。
……いたくない? きょうのケガが、なおってなかった? ちとかでてない?」
「カリン様、落ち着いて。鬼人族は一生に一度ツノが生え変わるの。これは私が大人になった証拠だから、心配は無用だよ」
「……そうだったの、よかった」
とれてしまったツノを見ながら、タルカは嬉しそうな顔になった。後でコールお姉さまに報告しよう、きっと祝福してくれる。自分もあんな素敵な女性になれたらいいな、そのようなことを考えていると、頬の緩みはいつまでたっても元に戻らない。
「タルカってば嬉しそうでいいなぁ、私もなにか変化が欲しい……」
「スワラはまだ十一歳なんだから、大人になるのは無理だと思う」
「それはわかってるんだけどぉ……あっ!
姫様、お願いがあるんだけど」
「……なに? なんでもきくよ」
「私と主従契約して!」
スワラは誰かと主従契約するのが、小さな頃からの夢だった。コンガーが二人同時に主従契約を結んだと聞き、その思いは更に強くなっている。そして一緒に旅をしたことで、カリンに対する忠誠心が一生離れたくないほど大きくなったのだ。
「……わたしでいいの?」
「姫様じゃないと嫌」
「……それなら、ぎしきのあいだだけでいいから、わたしのことカリンってよんでほしい」
「うん、いいよカリン」
「……ありがとう、じゃあやって」
二人は簡単に体を流して立ち上がると、生まれたままの姿で向き合い、お互いの体を抱きしめ合う。カリンは耳としっぽを左右の手で触れ、スワラは右手をまだ幼い胸に当てる。
《私の全部をカリンにあげる》
するとスワラの首元に、薄っすらとリボンのような模様が浮かび上がった。
こうしてお互いの絆がより深まった夜、タルカは鬼人族の成人を迎え、スワラはカリンとの主従契約を成立させたのだった。
カリン王女たちの成長は、これにて終了。
次回からは主人公たちのイチャコラが開始(笑)




