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第240話 護衛依頼の開始

中盤から視点が変わります。

 サンザ王子から受けた依頼の開始まで、通常の活動は一切せず休暇や準備に費やした。クレアとの時間もたっぷり取れたので、家族の絆はますます強くなっている。


 休暇中にケーナさんとリコのメイド服も完成し、家で試着会を開催。少し恥ずかしがるケーナさんはとても可愛らしく、大喜びではしゃぎまわるリコは愛らしかった。本当にソラの仕事は、百二十点をあげたいくらい素晴らしい。


 ケーナさんのご主人様呼びは桁外れの破壊力を秘めており、思わず真白がライバル認定したくらいだ。そのポテンシャルが全て開放されたら、有名な電気街で間違いなくトップを狙えるだろう。段位をもらえること間違いなしの、いわゆる“メイドさん”と呼ばれるものだった。


 そんな風に充実した日々を送りつつ、いよいよ出発の日が来た。




―――――・―――――・―――――




 俺たちは街を出て、門から少し離れた場所で王子たちを待っている。街の中では沿道に人が集り、ちょっとしたパレードになってしまうので、混乱を避けるための措置だ。


 俺たちが乗る馬車も王家から貸し出されたものだが、しっかりした屋根のついたものを用意してくれた。今回は要人護衛ということもあり、いつでも飛び出せるように土禁化はしていない。


 車両はかなり上質だし、座席もクッション入りだから、十分快適に過ごせるだろう。


 俺たちの家族のうち、出発から参加するのは九人。他の家族や四人の王とディストたちは、途中で何度か合流して一緒に過ごす予定にしている。大陸を揺るがす事件も一段落し、今後のことを考えて力の回復を優先してもらった結果だ。


 実際のところは、下手すると国王よりも上位存在の五人が、初めて家族で長距離移動する王子一家に配慮した、という面が大きい。カリン王女の落ち着ける場所で合流するほうが、王たちやディストも楽しめるだろう。是非あのほんわかした空気を体験して欲しい。


 ここからでも街の喧騒が聞こえてくるので、パレードはかなり盛り上がってるみたいだ。それだけ注目されたカリン王女は大丈夫だろうかと、ちょっと心配になってしまう。


 仲の良い侍従見習いを二人連れてくるという話だし、今回はポーニャも参加してくれる。護衛が俺たちとコンガー、それに二名の騎士だけなのも、カリン王女のことを最大限に考えた人選のはずだ。その期待に応えられるだけの働きを心がけないとな。



「あるじさまー、みんなが来たみたいだよー」


「コンガーさんは、すごく立派な鎧を着ていますね」


「あれ、ちょっと重そう」


「やたら装飾が派手じゃし、実用性はあまり無いかもしれんの」


「コンガーおにーちゃん、かっこいいね」


「ん……晴れてたら光を反射して、キラキラ光りそう」



 兜こそかぶっていないものの手足や胴回りまで覆う鎧は、ゲームに出てくるフルプレートアーマーに近いだろうか。真っ白の金属に金色の装飾が施され、内側には赤い防具を着込んでいる。直射日光を浴びれば眩しいほど光るに違いない、曇りの多い黒月(くろのつき)で良かった。


 先頭は騎士の乗っている馬車で、その後ろに王子一家が乗る馬車が続いている。こちらも金の装飾がよく目立つ白い箱馬車で、引いている馬も真っ白という徹底っぷり。きっと白が王家のイメージカラーなんだろう。



「おう、リュウセイ。これからしばらく頼むぞ」


「なるべく快適な旅になるよう、出来る限りのことをするよ」


「サンザ様たちも楽しみにしてるから、期待してるぜ!」


「とりあえず行程表どおりに、しばらく進んでから休憩でいいんだよな?」


「ここでサンザ様たちが馬車から降りると大騒ぎになるからな、まずは手はずどおり進んでくれ」



 後ろから護衛していた騎士団員にコンガーが指示を出し、王子たちの乗った馬車に人が押し寄せないよう、壁を作って出発する。二名の騎士がそれぞれ御者を務め、先頭はコンガーの乗るオープンな馬車、その後ろに王子一家の乗る箱馬車、最後尾が俺たちの屋根付き馬車だ。


 今回のような長旅の場合、荷物や世話役を乗せた馬車を、数台随伴させるのが普通らしい。世話役は収納持ちや、生活魔法が使える者だったり、移動日数や要人の身分によって大きく変わる。


 王位継承権第一位の人物が移動するので、本来ならもっと多くの人が絡む。そこは俺たちの持つ王国認定冒険者という肩書と、チート能力を発揮する前提で極限まで絞った。


 王子一家の日用品は、カリン王女が収納してくれている。彼女も上級魔法使い並みのマナ量があるそうなので、野営小屋くらいなら楽々持ち運べるだろう。


 食事はすべて真白に一任されるという、これまた異例の措置が取られた。ヴィオレが保管している大量の新鮮食材が、旅の間に思う存分振る舞われる。それにコールの生み出すおいしい水が加われば、王族の肥えた舌だって怖くない。


 馬車の窓越しにサンザ王子が軽く手を振ってくれたので、いよいよ出発するみたいだ。



「私はあっちの馬車に行って、カリン王女とポーニャの様子を見てくるわね」


「ヴィオレがいると心が落ち着くから、そうしてあげてくれ」


「ん……パパは私が癒やしてあげる」


「ライムもとーさんの近くにいるね」


「索敵まかせて、精霊たちの負担減らす」



 御者台には俺と膝の上に座ったクレア、両隣にライムとソラが腰を下ろす。ここにもクッション付きの長椅子が取り付けてあり、背もたれまでフカフカだ。


 三人の精霊王と暮らしている俺たち家族は、精霊から一目置かれるようになったらしい。お互いにコミュニケーションの取れるスファレは人気者のようで、今では精霊の方から自主的にお手伝いしてくれほど親密度が上がった。


 今回の旅でも大雑把な索敵を精霊にお願いし、なにか不自然なことがあればソラが感知魔法を発動する。


 初めてづくしの旅になるだろうけど、気を緩めずにできるだけ楽しんで移動できれば最高だ。

 クレアやカリン王女にとって最初の旅を、良い思い出として残してあげられるようにしないとな。




―――――*―――――*―――――




 龍青の頭から飛び立ったヴィオレが白い馬車へ移動し、窓をコンコンと軽く叩く。それに気づいたサンザが窓を開け、中へ招き入れてくれた。



「少しお邪魔しても構わないかしら」


「名前は確かヴィオレだったね、歓迎するよ」


「……ヴィオレ、いらっしゃい」


「あの……お久しぶりです、……ヴィオレさん」


「カリン王女もポーニャも元気そうで良かったわ」



 王子一家の乗る馬車の内装は、厚い絨毯と布張りのソファーが備え付けられ、どちらも赤い色で統一されている。内装は王家の紋章を模様にした、布製クッション素材で全てが覆われていた。


 ソファーは背もたれを倒すことも可能で、仮眠もできるという特注品だ。


 そこにサンザとラメラが並んで座り、向かい側にはカリンを中心にして少女が二人、左右に座っている。


 向かって右に座っているのが鬼人族のタルカ、反対側は犬人族のスワラ。二人は将来、カリンの侍従になるべく修行中の身で、それぞれ十三歳と十一歳という未成年の少女である。


 重要な公務に未熟な二人が選ばれたのは、カリンが一番気を許している従者という点を考慮し、サンザの一存で決定した。


 鬼人族のタルカは、両親を冒険者活動中の事故で亡くした孤児だった。王城で下働きをしていた際、一生懸命働く姿が評判になってサンザの耳にも届く。身分や種族を問わず真面目な者を重用する、現王室が掲げる方針のもと、王女の世話係として任命されている。


 犬人族のスワラは、コンガーと同じ武人の家で生まれた少女だ。王女の世話係を募集していると話を聞いた彼女が、自ら立候補して働くことになった。犬人族特有の忠誠心がとても高く、将来はカリンとの主従契約を夢見ている。


 二人ともまだ幼いものの十分な教育を受けており、侍従候補という立場まで上り詰めた。この旅の中で、もう一段成長することを期待されている。



「……すごくたいへんだったって、おじい様がいってました。

 ……みんなだいじょうぶ?」


「あれからずっと活動はお休みにしてるから、みんなとても元気よ」


「禁書庫の本……勝手に見てた人を、……教えてあげられなくて……ごめんなさい」


「あらあら、いいのよ。もう何十年も前のことなんだから。それに下手に話しかけたりしたら、何されてたかわからないわよ」


「凄く変な……人だった。……ずっと独り言を漏らしながら……本ばかり読んで……時々不気味に……笑うの。悪い事してるって……わかってたら……もっと……ちゃんと」



 龍青が浄化した男は、自らに発現した空間魔法を悪用し、禁書庫にある本を勝手に閲覧していた。そこで知り得た知識を元に、邪法を使い思念体として現世にとどまったり、邪魔玉の作成に手を染めている。


 いくら厳重に警備されてるとはいえ、部屋の中まで調べることはそう多くない。しかも、外部からダイレクトに出入りする人間を、見つけろという方が無理な話だ。


 男の方も本を抜き出すような真似をせず、その場で読んだり書き写していたため、誰にも気づかれず禁忌の技術を習得するに至った。ただ一人、男が去るまで震えながら隠れていた、ポーニャを除いて……



「……へいきだよ、ポーニャ。

 ……しっぱいはつぎにいかせばいい、おじい様はそういってた」


「私……誰かが入ってきても……怖くて逃げるだけ……だった。でも今度おなじことが……あったら、ちゃんとカリンや……王家の人に……伝える」


「……うん、ポーニャはえらいね」


「うふふ、二人ともすっかり仲良しね」


「……まいにち、いっしょにおふろ、はいってるよ」


「寝る時も……一緒です」



 落ち込むポーニャを抱きしめながら、カリンは優しく頭を撫でる。慈愛のこもった顔は王族としての片鱗が現れており、ポーニャやミルクと出会って大きく成長したことを物語っていた。


 実際、人見知りも徐々にではあるが改善し、侍従見習いの二人や側付きの使用人と挨拶を交わしたり、ねぎらいの言葉をかける姿が頻繁に目撃されている。王宮に務める者の間では、何度カリンに話しかけられたか自慢するのが、密かなブームになっている程だ。



「隣の二人は初めて見る顔だけど、大勢に囲まれて大丈夫だったかしら?」


「はっ、はい! カリン様と一緒ですから、何も怖いものはありません」


「姫様に手を握っていただいたので、平気です」



 カリンの左右に座っているタルカとスワラは、背筋をピンと伸ばしたまま硬い口調で話す。民衆に向かって手をふる三人を、そばに控えながら見守っていたが、あまりの熱狂ぶりに少し腰が引けていた。


 タルカはカリンのぬくもりを感じるほど近くに寄り添い、スワラは差し出してくれた手をずっと握りながら耐えている。もしそれがなければ熱気に当てられて、床にへたり込んでしまっていたかもしれない。


 更にこれから長期間、王子や王妃と常に行動をともにする緊張で、かなり固くなっていた。

 実は二人とも、今日はちょっと睡眠不足だ。



「もう少し肩の力を抜いてくれてもいいのよ?」


「初日だから仕方ないと思うけど、無理だけはしないようにね」


「はい、ありがとうございます、ラメラ様、サンザ様」


「お家の名に恥じぬよう尽くします」


「何だかとっても立派な見習いさんね」


「……ふたりとも、すごくよくしてくれます。

 ……わたしはたびのあいだに、ふたりともっとなかよくなりたいの」


「……カリン様」


「……姫様」


「そうねぇ……

 もっと仲良くなりたいんだったら、寝る前のリュウセイ君たちを観察するといいわよ」


「さすがに皆さまの寝所にお邪魔するわけには……」


「コンガー様を倒した方を観察するなんて、何だか恐れ多いです……」


「私たちも夜になったら訪ねてみるつもりだよ」


「リュウセイさんたちがどう過ごしてるのか、ちょっと興味があるの」


「……わたしも、みてみたいです」



 機転を利かせたサンザたちが参加を表明し、お世話係の二人もお供が決定する。




 その夜に体験した出来事は、二人の将来に大きな影響を与えるのだった――


黒い思念体の男が邪法を身につけた方法は、禁書庫にある書物からでした。


次回は秘密兵器(バレバレw)の登場です、お楽しみに!

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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