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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第17章 せっかくだから、俺はこのルートを選ぶぜ!
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第227話 序曲

中盤から視点が変わります。

 ライムと一緒に試練の洞窟をクリアして戻ってくると、みんなが笑顔で出迎えてくれた。



「かーさん、ただいま!」


「ライムちゃん、どうだった?」


「ちゃんとさいごまで行けたよ!!」


「一か所だけ同化で突破した部分があるけど、他はライム一人でやり遂げたぞ」


「やるねライム、さすがリュウセイとマシロの娘だよ」


『一歳という年齢でそこまで出来れば大したものだ』


『さすがはライムさんですわ』


『やるじゃねぇかライム、見直したぜ!』


「これは試練の洞窟を攻略した、最年少記録になるだろうな」



 みんなが口々に褒めてくれるなか、シークさんだけは微妙な顔をしている。自分たちの里にある施設で、好き放題やったことに気を悪くしたのかと思ったら、実は違う理由だった。


 今この里で暮らしている若いハイエルフたちは、一度失敗すると諦めてしまうことが多いらしい。イザーさんたちのように、里を出て自由に暮らしたいとか明確な目標がある人は何度も挑戦するけど、そういった覇気のある若者が減っているそうだ。


 ここは訓練施設ではないかという可能性を俺が示したので、失敗を恐れず鍛錬する目的で挑戦者を増やしたい、そんな事を考えていた。



「俺たちは試練を与える洞窟だという固定観念にずっと囚われていた、別の視点で物事を見ることができなくなっていたんだ」


「俺は別の世界から来た流れ人だから、その可能性に気づけたんだと思う」


「こんな森の奥に他の種族が来ることはないし、お前たちが訪ねてきてくれて良かった、感謝する」


「俺たちの方こそ、秘薬と言われている万浄水(ばんじょうすい)を作ってもらうんだ、お礼を言うのはこっちの方だよ」



 やはりここで暮らしているハイエルフは、かなり柔軟な考えができる人が多い。里の出身者に手紙を書いてもらったとはいえ、自分たちに関係のない人の病気を治すために力を貸してくれたり、人情味にもあふれてるんだろう。


 マキさん、シマさん、イザーさんの三人がフレンドリーで偉ぶったりしないのは、この里が持っている気風かもしれないな。



◇◆◇



 薬の材料となる白い花を四つも手に入れたので、出来上がった万浄水は三つ全てもらえることになった。ヴィオレの時空収納に入れておけば時間が停止するから、薬がダメになることはないだろう。


 お礼になにかしたいと申し出てみたものの、精霊王たちを始め様々な種族が訪れてくれただけで十分だと言われてしまっている。娯楽の少ない森の中で、接点を持つ可能性が少ない他種族の来訪者は、彼らにとって一大イベントだったらしい。


 俺が試練の洞窟に挑戦している間、近所の人達が集まって盛り上がってたそうだ。冬越しの作業が忙しく、戻ってきたときに解散していたのは残念だが、楽しんでもらえたようだから良しとするか。


 この場所にも転移ポイントが設定できたから、いつでも訪問できるしな。


 今度はお世話になったイザーさんたちも誘って遊びに来よう。その時、里で手に入りにくいものや、みんなが喜びそうなものを聞いて、お土産にするのが良さそうだ。



「貴重な薬を作ってくれて、本当にありがとう」


「この短時間のうちに四人も勇者が誕生するとは、この里が始まって以来じゃ。勇者たちよ、その力は世のために役立てるのじゃぞ」


「ライムの力は、みんなをたすけけるためにつかうね」


「うむ、日々精進するがよい」


「またここに来ても構わないか?」


「うむ、日々しょ――」

「いつでも来てくれ、歓迎するぞ」


「今度は他の家族も連れて遊びに来ますね」



 真白が見送りの人たちにそう言って微笑んだ時、何人かの目尻が下がったのを俺は見逃さなかった。

 他のメンバーに対して手を振ってる人もいるし、ディストに熱い視線を向ける女性もいる。うちの家族は今回もエルフ族を魅了してるな。


 だがしかし、俺の目の黒いうちは簡単に渡したりしないぞ。


 そんな黒い感情をぐっと抑え、ハイエルフの里を後にすることにした。

 真白にはバレバレだったらしく、腕にギュッと抱きついてきたが……



「この次はもっとゆっくり出来る時に来るよ」


「我々は力あるものを歓迎する、いつでも訪ねてくるが良い、勇者たちよ」


「息子たちにも顔を出すように伝えてくれ」



 里の人たちに見送られながら、俺たちは転移魔法で作った門をくぐった。




―――――*―――――*―――――




 マキ、シマ、イザーの三人は、その日も新しいダンジョンに潜っていた。


 彼らは魔物の強さや分布、危険な場所などを含む詳細な地図作成、それらの調査を国から請け負っている。寿命が七百年近くあるハイエルフの種族特性を活かし、百年近く冒険者を続けている彼らにとって、ダンジョンの調査はよくある依頼だ。



「ここまで下りてきた感じだと、初級から中級にかけてといったところか」


「アージンにいる冒険者たちにとっては、丁度いいくらいじゃないか?」


「危険な場所もややこしい地形もないし、階を下りるごとに少しずつ狭くなるのが特徴と言えるかな」



 シマの放った矢が魔物の眉間を正確に貫き、ピンポン玉くらいの黒い魔晶をドロップする。イザーはそれを回収しながら、このダンジョンの難易度を推定していた。


 現在の彼らがいる場所は地下六階。

 索敵とマッピング担当のマキが言ったとおり、階が進むほどフロア面積が狭くなる以外、特にこれといった特徴のないダンジョンだ。そのため、調査は驚くほどスムーズに進行している。



「あいつら、いつ戻ってこられるだろうな……」


「あれからまだ3日しか経ってないのに、いくらなんでも里には着いてないだろ」


「中央大森林に近いアージンからでも、半月くらいはかかるよね」


「しかしアイツラのことだから、のんびり徒歩で行くようなタマじゃないか」



 つぶやきのように漏れたイザーの言葉に反応した二人だったが、シマの予想は大当たりである。その時の龍青たちは、ちょうど試練の洞窟を攻略中だった。



「ねぇイザー、あの子たちのこと心配?」


「里の連中はよそ者に寛容だし、俺の親父も協力してくれるだろうから心配はしていない」


「まぁ、リュウセイならチョチョイと突破できるだろ」


「案外、他の子でも軽く攻略しちゃうかもよ」


「誰ならいけると思う?」


「私の予想だと、クリムちゃんとアズルちゃんなら大丈夫な気がする」


「アイツラ主従契約もしてるし、身体能力がとんでもないからな」


「ソラちゃんは体力的にきつそうだし、スファレさんは付与魔法だから厳し目だね」


「妖精のヴィオレと竜人族のライムは、洞窟に入れないかもしれんな」


「俺はコールもいけるんじゃないかと思ってるぞ」


「あー、確かに。あの子の並列発動と魔法制御は鬼よ、鬼。

 鬼人族だけに!」



 マキのダジャレに男二人は苦笑を浮かべるが、実際のところ四つの魔法を個別に制御するのは、英雄譚に出てくるような人物の御業(みわざ)だ。魔法の得意なエルフ族ですら、ときどき二並列の使い手が出るくらいで、個別制御できる人物は三人も見たことはない。



「よくもまぁ、あれだけの人材が集まったもんだ」


「しかも全員、容姿が優れているからな」


「あら、イザーがそんなこと言うなんて珍しい。誰か気になる子でもいるの?」


「……い、いや、そんなやつはいない」


「どもったわね!」


「白状しろよイザー。スファレさんか? それともマシロか? コールもアリっちゃアリだな、あの子も胸がでかい」


「シィ~マァ~、それは私に対する当てつけかなぁ~?」


「ちょっ、待てって。俺はお前の全てを愛してる!

 今のはイザーの好きそうな外見を言ってみただけで、そもそもリュウセイと敵対するつもりはな……………ヒッ!」



 弓を構えたマキがシマに迫り、その顔面に向けて矢を放った。それは頬スレスレをかすめ、後ろにいた魔物の首に命中する。


 こうしてふざけあっていても索敵や集中を切らさないのが、ベテランと呼ばれる彼らの実力だ。



「それで、イザーは誰が気になってるの?」


「その話題は終わったんじゃないのか?」


「お前のせいで俺はマキからお仕置きされそうになったんだ、とっとと白状しろ!」


「先日、クラリネと一緒にギルドへ来た女性だ。

 彼女はとても可憐だった……」



 龍青のパーティーとは違う人物を挙げられ、シマはニヤニヤとイザーを眺める。今まで恋愛に興味を示さなかった彼が、人族の女性を気にしているというのは格好のネタだ。


 そんな二人の姿を見ながら、マキはちょっと複雑な表情で目を伏せた。彼女は気づいていた、ケーナの意識がずっと龍青に向けられていたことを。



◇◆◇



 三人は午前中に六階の探索を終え、七階の探索を始めている。ここも中級程度の強さを持った魔物しか出現せず、ベテラン冒険者にとっては物足りない難易度だった。



「更に階層が狭くなってきたな」


「この調子だと、多くてもあと一~二階って辺りか?」


「確かにそうねぇ、あっさり終わりそうでちょっと残念」


「まぁ、無事に終わるに越したことはない」


「前みたいに変種がわんさか出たら手に負えんしな」



 シマの言葉を聞いたマキは、がっくりと肩を落とす。エルフにとっては、例えダンジョンの中にある森でも、自分の庭のような感覚で行動できる。


 その時も魔物が近づいているのがわかっていながら、自分たちが森で遅れを取るはずがないという慢心が、()()()()変種の片方を見落とす結果になった。


 しかし、それはある意味仕方のないことだ。そもそも感知魔法というのは、方向と位置がぼんやり判別できる程度の精度しか無い。


 ソラは器用な小人族という種族ゆえ、元から高い精度で感知する力を持っていた。そこに強化魔法や妖精王の祝福が加わったため、姿形や強さのみならず正確な距離までわかる、驚異的な性能を誇るレーダーになっているのだ。



「おい、あそこを見てみろ、下に降りる通路があるぞ」


「この階の残りは帰りに調べて、先に入ってみようか」


「そうだな、まずは下の階を見てみるか」



 パーティーリーダーであるイザーが決断し、三人は下の階へ続く通路を降りた。そして八階のフロアに出た瞬間、全身を悪寒が走り抜ける。



「まずいぞこれ、あの時と同じだ」


「俺たちの手には負えんな、引き返そう」


「少しだけ待って、何があるか感知だけしてみる」


「急げよマキ、あの時とは比べ物にならんおぞましさだ」



 八階は壁や柱のない開けたフロアだった。


 そしてその中心には不気味な黒い塊があり、表面が波打つようにゆらゆら揺れている。よく目を凝らしてみると手足のような影が浮かび上がっていて、膝を抱えてうずくまる人のように見えた。



「……魔力……それから、危険物。

 あと、敵意もある」


「やばいぞ、アイツこっちを見やがった!」


「撤退だ! 二人とも急げ!!」



 黒い塊から頭のようなものが持ち上がり、それが三人の方の向けられた瞬間、赤く光る目と口がニタリと笑う。それは心の奥底から嫌悪感と恐怖心を引き出す、不気味な表情をしていた。


 マキ、シマ、イザーは後ろを振り返らず一目散に通路を駆け上がり、出口へ向かって全力疾走を開始する。






 これが大陸全土を巻き込んだ、事件の始まりであった――


場外でも無自覚に無双する主人公……


次回も視点を切り替えつつ、物語は進行します。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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