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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第17章 せっかくだから、俺はこのルートを選ぶぜ!
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第226話 再挑戦

 試練の洞窟を無事クリアして、みんなのいる場所まで戻ってきた。入り口とは違う場所から出てきているので、集まっていた里の人たちは一様に驚いた顔をしている。



「とーさん、おわったの?」


「あぁ、ちゃんと花は取ってきたぞ」


「人族の身でやり遂げるとは見事なり。我らの力、(まこと)なる勇者に捧げよう」



 走り寄ってきたライムを抱き上げ、洞窟から取ってきた花を見せると、周囲から歓声が上がる。里長(さとおさ)から祝辞をもらったけど、失敗した時に考えていた台詞を、ちょっと聞きたくなった。


 妙に芝居ががった言い回しは、ゲームに出てくる王様を彷彿とさせる。まさかこの世界にロール()プレイング()ゲーム()は無いと思うけど、「死んでしまうとは情けない。そなたにもう一度、機会を与えよう」とか言いそうなんだよな。


 花を受け取った里の人たちは、シークさん一人を残して帰っていった。薬を作るのには時間がかかるらしく、完成はお昼くらいになるとのことだ。


 ここは広々として景色もいいので、レジャーシートを広げてそのまま待たせてもらうことにした。



「試練の洞窟は中の情報を聞いたくらいでは突破は難しいが、やはりお前が流れ人だからなのか?」


「流れ人の力も使わせてもらったけど、基本的に工夫すれば最後まで行けるように作られていたな」


「それにしても必要なものは多岐(たき)に渡るだろ」


「収納の容量には自信があるんだ」



 レジャーシートの端まで移動し、野営用の小屋を近くに取り出してみる。それを見たシークさんは、少しだけ驚いた顔をしていた。


 シェイキアさんの情報によると、マナの量で()けている古代エルフの平均が、国お抱えの上級魔法使いくらいだ。つまり俺が元々持っていたマナの量と同程度になる。


 この大きさのものが二つ入ると言っておけば、ハイエルフの平均より上だとわかってもらえるだろう。



「なるほどな、息子がお前のことを推していたのが判ったよ」


「リュウセイ、中どんなだった?」


「細い道を歩かされたり、高い場所に登らされたり、色々な仕掛けがあったな」


「おちたらどうなるの?」


「道を踏み外したりすると最初からやり直しになって、何度か再挑戦させられたよ」


「危険はなかったのじゃな?」


「俺の予想なんだけど、ここは魔法の使い方を鍛える訓練施設じゃないかと思うんだ」



 失敗してスタート地点に戻される時に、転移装置と同じ浮遊感があること。入る人によって中身がガラリと変わるのは、あの岩全体が魔道具になってるんじゃないかということ。この施設の維持には地脈が使われているかもしれないことを説明した。



「確かに、この近くまで地脈の枝が伸びてるね」


「ほんとだね、ディストにーちゃん」


「あるじさまー、それなら私も挑戦してみたいよー」


「私も行ってみていいでしょうか、ご主人さま」


「入ってみても構わないか?」


「訓練施設とは面白い解釈だな、構わんぞ好きなだけ入ってみろ」



 シークさんの許可が降りたので、まずはクリムが名乗りを上げる。一度きりになってしまうけど、三倍強化をかけて試練の洞窟に送り出す。赤の具現と飛翔系を持っているクリムだと、どんな訓練が待ち受けているんだろう。



「真白は挑戦してみないか?」


「白の魔法はわざと怪我とかさせられそうだし、やめておくよ」


「われの付与もリュウセイがおらんと使い勝手が悪いから遠慮しておくのじゃ」


「迷路歩かされるの面倒、私もやめとく」


「あの、私やってみたいです!」


「あらあら、コールちゃんにしては珍しいわね」


「生活魔法に課せられる試練ってどんなものがあるのか、ちょっと興味あるんです」



 確かに言われてみればそうだ。水を出したり体をきれいにしたり、周囲を明るくする魔法をどう活用してクリアするのか、俺もちょっと興味がある。


 結局、クリムの挑戦が終わった後に、アズルとコールが挑んでみることになった。



◇◆◇



 クリムが試練の洞窟に挑戦している間、シークさんに竜人族に会ったという男性のことを聞いてみた。残念ながら本人は寿命で亡くなっていたが、さっきまでいた集団に息子さんがいたらしい。


 ライムと直接話せたことや、竜人族の生き様を聞いてかなり喜んでいたそうだ。みんな法螺(ほら)だと言って信じてなかったみたいだし、息子として色々と思うところがあったのだろう。



「あるじさまー、おわったよー!!」


「もう突破できたのか?」


「なんか広い部屋に出たら、土で出来た大きな人形が何十人も出てきたから、全部ハンマーで壊したら終わったよー」



 俺の胸に飛び込んできたクリムの手には、根っこ付きの白い花が握られていた。人形というのは恐らくクレイゴーレムだろうけど、上位属性の石で出来た耐性無視攻撃を受ければ、ひとたまりもないだろう。


 これは最初からクリムに頼んでおけば、あっという間に終わったかもしれない。

 まぁ、面白い経験だったし、追加で薬の材料も手に入ったから、これはシークさんに渡しておくか。



「次は私が挑戦してみますね」


「頑張ってね、アズルちゃんー」



 なでなでを堪能しているクリムに見送られ、三倍強化したアズルが中に入っていった。青の障壁使いだから、攻撃を防ぐ試練を課せられるだろうけど、今のアズルが使うと反射するからな。一体どんな結果になるか楽しみだ。



「まさか二人連続で突破できるとは……」


「思いっきりハンマーを振り回せて、気持ちよかったよー」


「クリムおねーちゃんいいな。ライムもやってみたい、とーさん、ダメ?」


「ライムは竜魔法だから扉が反応しないかもしれないけど、そうだな……

 父さんと同化して挑戦してみるか?」


「ホント!? やったー、とーさんだいすき!!」



 ライムと同化すると竜魔法は使えないが、俺の持っている色魔法や強化は使える。ディストから授かった魔法があるとはいえ、まだ幼いわが子を一人で洞窟に入れるのは心配だ。


 二人同時に入れないという制約を、俺とライムしか使えない魔法で回避できるのか、検証も兼ねて挑戦してみよう。紫の魔法で入れるのはフィールドアスレチックコースだし、ライムと存分に楽しもうじゃないか。



◇◆◇



 アズルもあっさり帰ってきたので試練内容を聞くと、石つぶてや魔法が飛んでくる狭い部屋に閉じ込められたとのことだ。状態異常攻撃もされたかもしれないが、なにせ反射属性を持った障壁魔法なので、すぐ攻撃がやんでしまったらしい。


 想定外のことで機能停止したのか、あるいは跳ね返った攻撃で自滅したのか。しっかり花を持ち帰っているので、クリア判定が出たのは間違いないだろう。シークさんが微妙な顔をしてるけど、チート魔法は反則過ぎるな。


 そんな訳で今はコールが挑戦中だが、彼女が扉の向こうに入った後、ヴェルデも消えてしまった。恐らく中で呼び出したんだろう。二人にも三倍強化をかけているから、あっさり突破してくるに違いない。



「リュウセイさん、終わりました!」


「ピルルルルー!」


「コールも早かったな、どんな試練だったんだ?」


「はふぅ~、中は真っ暗だったですが、大きな水槽みたいなのがあって、水を貯めると通り道が浮かんできました」



 俺の胸に飛び込んできて、頭やツノを撫でられながら、試練内容を教えてくれる。やはり明かりを使った出口探しや、水を溜めてギミックを解除したりする内容ばかりだった。


 四並列で魔法が使えるコールにとって、大した障害にはならなかったみたいだ。水量も多いし、マナが切れる心配も無用だからな。



「とーさん、はやくいってみよ」


「よし、父さんたちも二人で入ってみるか」


「うん!」


「さっきも説明したが、二人同時に入るの無理だぞ?」


「俺とライムは一心同体になれるから、恐らく大丈夫だ」



《とーさんといっしょ!》



「なっ……何だそれは!? 体が緑色に光ってるが、大丈夫なのか?」


『これはとーさんとライムにしか使えない魔法だよ』

『試練の洞窟にとっては想定外の方法だと思うけど、この状態で挑戦してみるよ』



 壁の前に立って軽く押すと、くるりと回転して中に入ることが出来た。思ったとおり、この状態だと一人としてカウントされるみたいだ。チート能力を使ったり、想定外の竜魔法で二人同時に入ったり、この施設を作った人が今の状況を見たら、泣いてしまうかもしれない。



『とーさん、ダンジョンみたいに明るいね』

『失敗すると暗い部屋に閉じ込められるけど、すぐ出られるから大丈夫だぞ』

『とーさんがさっき入ったのと同じ?』

『さっき入った時は入り口が大きな石で塞がれてたけど、今度は違うみたいだ』



 中に入ってしまえばこっちのものだから、同化を解いて手をつなぎながら通路を歩く。少し先に行くと真っ直ぐ伸びる細い通路のコースが出現した。



「とーさん、これどうやって進んだらいいの?」


「ここは長い棒を横に持って、どちらかに倒れないよう均衡(バランス)を保ちながら進むんだ。収納から取り出すから、やってみるか?」


「えっと、こんなかんじ?」


「そうだ、上手いぞライム!

 もし足を踏み外して暗い場所に出ても慌てずにな。壁を押したら出られるようになってる」


「とーさん、だいぶすすめたよー」


「ライムはやっぱり運動が得意だな。でも、後ろを振り返ったらバランスを崩すぞー」


「……あっ!?」



 俺の方を振り返って手を振ろうとしたライムは、案の定バランスを崩してコースアウトしてしまった。持っていた棒を離してから転移したので、召喚魔法を使って手元に呼び寄せる。ライムは大丈夫だろうかと思っていたら、横の壁がくるりと回転して笑顔を浮かべながら外へ出てきた。



「失敗してしまったな」


「うん。でもおもしろいね、ここ!」


「今度は父さんも後ろをついていくよ」


「がんばろうね、とーさん」



 お互いにヒヤッとする場面はあったけど、ライムは持ち前の運動神経でミスなく渡り終えた。俺は一度落ちてしまったが……



◇◆◇



 乗った床が動き出すギミックにはライムが大喜びし、スリットの間に鉄パイプを通し、体を振りながら前進するコースなど、前回見られなかったものも多い。入るたびに内部構造がかわるというだけあり、様々な訓練ができるようになっているようだ。


 ちなみに動く床は、上に重いものを乗せると止まる。

 古代のテクノロジーは凄いな。


 一回目の挑戦で経験した一定時間以内に突破するコースもあって、今度はライムと同化して走り抜けるという力技でクリアしてみた。二人で本気を出すと、かなりのスピードが出るから楽勝だ。


 体を動かすコースが多かったのは、ライムと同化した状態で入ったからかもしれない。


 そしてゴール直前だろう場所には、前回と同じく底の光る湖が待ち構えていた。



「とーさん、水たまりがひかってるよ!」


「ここに船を浮かべて向こう岸までいこうか」


「ライムがうごかしてみてもいい?」


「あぁ、父さんが教えてやるから、やっていいぞ」


「やったー!」



 二人でボートに乗り込んでライムを膝の上に乗せ、まずは手を添えてサポートしながらオールを動かしてみる。大きくカーブしてしまっているが、慣れないうちは仕方ないだろう。



「なかなか上手だぞ、ライム」


「でもちゃんとまっすぐ進まないよ」


「父さんもチェトレで教わった時は、同じ場所をくるくる回ってしまったからな。まっすぐ動かすためには練習あるのみだ」


「ライムがんばる!」



 最初のうちは悪戦苦闘していたが、あっという間にコツを掴んでいた。泳ぎを教えた時もそうだったけど、この子の飲み込みの良さは特筆すべきものがある。



「ライムは何でも上手にできて凄いな」


「とーさんとかーさんの子供だからね」


「せっかくだし、ぐるっと大きく回ってから、あっちの出口に行こうか」


「ここすごくきれいだから、ライムもそうしたい」


「さっき来た時もこの水たまりがあって、誰かと一緒だったらいいなと思ってたんだ。ライムと来られてよかったよ」


「ライムもとーさんと一緒でしあわせ」



 膝に座ったライムを軽く抱き寄せ、頭をそっと撫でながら幻想的な景色を存分に堪能した。


 そしてゴールで白い花を採集し、二人で手をつなぎながら扉を開ける。


 遊び感覚で使ってしまったのは申し訳ないけど、この施設を作ってくれた人には感謝だ。

 娘とのいい思い出ができた。


設計者は涙目(笑)


第0章の資料集と登場人物一覧を更新しました。

サブキャラの古代エルフの下に、ハイエルフの2名を追加。


そして次回から、時系列を同時進行させつつ、物語が最大の山場を迎えます。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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