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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第17章 せっかくだから、俺はこのルートを選ぶぜ!
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第221話 協力者たち

 途中でうまく時間調整できたので、休診時間直前に治癒師のもとへ到着した。セミの街でもらってきた診断書を渡して調べてもらった結果、該当する症例は一つしか無いことが判明する。


 その病名は【多発性紫紋症(しもんしょう)】といって、少なくともここ数百年は罹患(りかん)の記録がない古代病の一つだ。赤い斑点が腫れになって熱を持ち、発症部位の筋力が著しく低下する。そして、腫れが紫色へ変わると激しい痛みを伴う。


 発症する場所は四肢のみで、片足だけで済む場合もあれば、両手両足にできてしまうこともある。古代病というだけあって原因や治療法は不明だが、伝染性はないと明記してあった。


 足の筋肉は血液を心臓に戻す大事な役目があるから、そこが衰えると健康上のリスクが増大する。水泳で体を鍛えている時に少し勉強したが、エコノミークラス症候群の原因にも関わっているはずだ。


 とにかく紫色になる前に治療法や薬を探さないと、どんな痛みが襲ってくるのかわかったもんじゃない。身内の苦しむ姿をシロフたちに見せないためにも、できるだけのことはやってみよう。



◇◆◇



 俺は真白と二人で王立図書館までやってきた。

 ここにある古い本なら、もしかすると病気の手がかりが見つかるかもしれない、治癒師の人にそう言われたからだ。



「私の浄化や再生で治らないのは悔しいよ」


「呪いや状態異常には有効だけど、病気に効かないのは仕方ない。とりあえず今日は二人で時間いっぱいまで探してみよう」


「紫色になるのに二ヶ月程度かかるみたいだから、それまでになんとかしないとね」



 黒い閲覧カードを受付けに渡して中に入ると、よく見知った顔がトコトコ歩いていた。以前、ここが半分職場みたいなものと言ってただけあり、本当に入り浸ってるみたいだ。



「あっ、リュウセイくん~、マシロちゃん~。今日は二人だけなのぉ~?」


「あぁ、今日は急ぎの調べ物があって、二人だけで来たんだ」


「シエナさんはお仕事ですか?」


「うん、そうだよぉ~」


「そうだ、もし知ってたら本のある場所を教えて欲しい」



 事情と病名を説明すると、シエナさんも協力すると申し出てくれた。なにせ閉架書庫にしまっている本まで網羅しているくらいだ、この王立図書館では一番力強い味方だろう。



「それならまず古文書だねぇ、古代病に関する本は医学書以外にもあるからぁ、それをまず調べてみようかぁ~」


「ありがとう、助かるよ」


「今度来た時はごちそうにしますね」


「やったぁ、楽しみだなぁ~」


「貸し切りにできる温泉も見つかったから、新しい野営用の設備が完成したら連れて行くよ」


「そんなご褒美が待ってるならぁ、お姉さん頑張っちゃうぞぉ~」



 小さくガッツポーズをしたシエナさんは、こちらに向かって両手を伸ばしてきた。せっかく出してくれたやる気を削がないよう、抱っこくらいならいくらでもやろう。


 受付けの女性が、こちらを羨ましそうな目で見てるけど、抱っこして欲しいんだろうか?

 耳のせいで少し大きく見えるけど、小柄な体型が多い兎人族だから、それくらいなら出来なくもないが……



◇◆◇



 真横から感じる妙に熱い視線を振り切って、目的の本が置いてある場所からいくつか見繕って個室に移動した。シエナさんは定位置とばかりに、俺の膝に座っている。最近会えなかったから、ちょっと甘えグセが悪化してるな。


 だが、髪もサラサラで石鹸の香りも漂っていて、身だしなみも完璧だ。一人暮らしの生活態度が大きく改善したのは確かだろう。



「似たような症例はこれだけどぉ、森人(もりびと)族がよく(かか)ってたみたいだねぇ~」


「森人族ってエルフのことですか?」


「うん、そうだよぉ~。古い呼び方でぇ、そんな風に言うんだぁ~」


「スファレはこの病気について何も知らなかったけど、どういうことなんだ?」


「ある地方でしか罹らないぃ、風土病みたいなものじゃないかなぁ~」



 スファレの住んでいる里は西部大森林にあるし、マキさんたちは中央大森林が出身だ。ちょうどアージンに来ているから、あの人たちにも聞いてみよう。それでも無理だったらシェイキアさんを頼るしか無いな。



「治療法や薬については書かれてないんですか?」


「ここには書いてないけどぉ、前史(ぜんし)エルフ語の本だったら可能性があるかもぉ~」


「シエナさんは前史エルフ語を、どこまで読めるようになったんだ?」


「スファレちゃんみたいにスラスラ読むのはまだ無理だけどぉ、あれからだいぶ勉強して辞書なしで内容くらいわかるようになったんだよぉ~」



 俺たちの家で古代竜言語(こだい・りゅうげんご)の勉強をしていた時、スファレから前史エルフ語も習ってたけど、もうそんな所まで理解してしまったのか。


 小さいのに凄いな。さすが一線で活躍する研究者だけはある。小さくて甘えん坊だけど。



「さすがシエナさんだ、偉いぞ」


「頭をなでてくれるのは嬉しいんだけどぉ、リュウセイくんの父性が荒ぶってないぃ~?」


「今日はライム以外の子供ばかり抱っこしてるから、いつもと違う雰囲気が出てしまってるのかもしれないな」


「やっぱり子供扱いされてるぅぅぅ~」



 おっと、しまった。

 シエナさんのことも、リコの延長で考えてしまっていたようだ。



「とにかく次は前史エルフ語で書かれた本を探してみよう」


「なんかごまかされてる気がするけどぉ、今日のところは勘弁しておいてあげるよぉ~」


「そんな大人の対応ができるシエナさんのことを、俺はすごく尊敬してるぞ」


「リュウセイくんの言葉にはぁ、誠意が感じられない気がするんだけどなぁ~」



 失礼な。シエナさんの知識や学習能力は、心から凄いと思っている。


 次々に新しいことを吸収していく姿は、ぐんぐん伸びるタケノコのようだ。

 ……もしかすると、伸びる力を知識に全振りしてるのかもしれないな。



「シエナさんのおかげで、お兄ちゃんの気持ちに余裕が出てきたみたいです」


「お姉さんなにか役に立ってるのぉ~?」


「お兄ちゃんは親しい人が病気になると、心配しすぎちゃうんです。そんな時はいつもより大胆になったり、直情的な行動をしたりするんですよ」


「以前とちょっと違う気がしたのわぁ、そのせいなんだぁ~」


「焦って普段やらないような失敗をしちゃうこともありますから、こうやって落ち着かせてくれて嬉しいです」


「さすが真白ちゃんだなぁ、お兄ちゃんのことになると洞察力が半端ないねぇ~。それなら早く治療法を見つけてぇ、リュウセイくんを安心させてあげようかぁ~」



 やっぱり真白には敵わないな……

 俺自身は普通にしているつもりだったが、言われてみてハッとする。


 こうしてシエナさんを(いじ)りだす前は、気づくと早足になっていたり、妹に迫るなんて真似もしてしまった。それは既に冷静じゃなかったってことだ。


 心に潤いを与えてくれたシエナさんには、感謝してもしきれない。この小さくて可愛いお姉さんのために、これから先も出来るだけのことをしてあげよう。



◇◆◇



 シエナさんに前史(ぜんし)エルフ語の本をいくつか読み解いてもらったところ、普通の薬が効かない病気を治すために、神水(しんすい)という霊薬を用いたという記録を発見した。


 具体的にどんな病に効いたかまでは記載されていなかったけど、断片的な情報をつなぎ合わせると治療薬になる可能性が高いとのことだ。


 数々の文献を精読している王立考古学研究所の主席研究員がそう結論づけたのだから、この情報にかけるだけの価値は十分ある。


 大陸の中心で見つけた祭壇の調査にもいつか行こうと誘い、俺と真白はアージンへ戻ってきた。



「サラスさんの(かか)った病気は多発性紫紋症(しもんしょう)といって、発症箇所の筋力が衰える古代病の一つらしい。その病気に効く可能性が高い薬は、エルフ族に伝わる神水と呼ばれる霊薬だとわかった」


「あんたたち凄いね、セミの治癒師がひと月かけてもわからなかった治療法を、たった半日で……」


「俺の転移魔法があるからというのも大きいけど、王立考古学研究所の主席研究員に協力してもらえたのが、ここまで早く詳細が判明した理由だ」


「古文書や前史エルフ語の本は、私やお兄ちゃんには難しすぎます。王立図書館でたまたまシエナさんに会えなかったら、もっと時間がかかっていたと思いますよ」



 ソラとスファレが協力してくれたら、いずれ同じ結論にたどり着いたかもしれない。しかし、あれだけ多い蔵書の中からピンポイントで必要な情報を探し出せるのは、愛書家のシエナさんだけだろう。



「パーティメンバーを見て何となくわかってたけど、なんかリュウセイ君の人脈が凄い……」


「それでスファレは神水という名前に聞き覚えはないんだよな?」


「われの里で使っておる薬は、普通の薬草と街で売っとるポーションに似た水薬(すいやく)のみじゃ。お役目で読んだ本にも、そのような薬に触れたものは無かったのじゃ」


「それなら、まずはハイエルフの三人に聞いてみるか」


「とーさん、マキおねーちゃんたち、ごはん食べにきてるよ」



 冒険者ギルドで会った時に食事処としてここを紹介しておいたから、さっそく食べに来てくれたのか。ちょうどいいタイミングだし、ちょっと話を聞かせてもらおう。



「あの人たちにこれを持っていってくれ、俺からのおごりだ」


「喜んでもらえると思うよ、ありがとう」



 親父さんからハンバーグを受け取って、食堂の方へ移動した。そこではコールやアズルが動き回り、注文をとったり料理を運んだりしている。メイド服目当てのお客さんも多いのか、今の時間も空席はほとんどない。


 マキさんたち三人は、目立ちにくい端っこの席に案内されたようだ。エルフがご飯を食べているということで注目されているけど、みんなチラチラ見るだけで相席をしている人はおらず、四人がけのテーブルが一つだけ空いている。



「ここ、構わないか?」


「おっ、リュウセイじゃないか、いいぞ」


「おまえの言ったとおり無茶苦茶うまいな」


「さすがマシロちゃんの師匠なだけはあるわね」


「これは親父さんから預かってきた、三人に食べて欲しいそうだ」



 バンバーグの乗った皿をテーブルに置くと、三人の目がキラリと光った。小さく切り分けて口に運んだあと、とても満足そうな表情で味わっている。



「お前はなにか食べないのか?」


「ちょっと三人に聞きたいことがあるんだ」



 サラスさんの症状や病名、そして古文書から得られた情報を伝え、神水について尋ねてみる。病気については三人も知らなかったが、霊薬についての情報を得られた。


 彼らの里では万の病を治す【万浄水(ばんじょうすい)】として、代々製法が受け継がれているらしい。



「里の者じゃないお前が欲しいと言っても、簡単には渡してくれんぞ」


「まぁ霊薬というくらいだから貴重なんだろうし、それは覚悟の上だ」


「日持ちしないだけで、作るのはそう難しものじゃないのよ」


「だが、連中のことだから、当然アレをやらせるだろうな」


「試験みたいなものがあるのか?」


「いい線いってるな、リュウセイ」


「俺たちも里を出る時やらされたんだぜ」


「もう二度と挑戦したくないわー」



 うんざりした顔の三人に嫌な予感がしたが、試験内容はよくありがちなものだった。彼らの里には【試練の洞窟】という場所があり、そこを突破すると実力者として認められる風習があるらしい。


 試練の洞窟というのはお一人様専用で、持っている魔法の色によって中の様子が変わるという、特殊なダンジョンだ。例えば感知魔法持ちのマキさんが入ると、複雑な迷路の中で反応の異なる複数のアイテムを見つける、宝探しみたいな試練が課せられる。


 しかも入るたびに内部構造や試練内容が変わるので、地図や攻略法を作っても無意味。時間制限もあるので、じっくり腰を据えて挑むことも不可能。里でも力試しに挑戦する者は多いが、突破できるのは二割を切るそうだ。



「一番成功する確率が高いのは――」



 イザーさんはそこで一旦言葉を切り、俺の顔をじっと見つめる。

 ハンバーグのソースが口元に付いてしまっているが、とても真剣な表情だ。



「――リュウセイ、お前だ」


「それはイザーさんと同じ収納持ちだからか?」


「試練の洞窟に入る前に色々なものを用意できる、その利点を活かせばある程度有利に進められるだろう」


「こいつも自分の収納いっぱいに色々詰め込んで洞窟に入ったんだぜ」


「リュウセイ君の収納はとんでも容量だからね、一番可能性が高いと思うわよ」



 ここまでヒントを貰えたんだし、三人の住んでいた里で試練に挑戦してみよう。


 イザーさんたちに里長(さとおさ)への手紙を書いてもらい、中央大森林にあるハイエルフの里まで行くことが決定した。


真白が熱を出したときに学校を休んだり、夜中に買い物をしに行ったり。ライムが熱を出したときに救急車を呼ぼうとしたり、過去にも色々とやらかしてます(笑)


シエナとの調査旅行は、この先でまるまる1章使って書く予定です。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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