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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第17章 せっかくだから、俺はこのルートを選ぶぜ!
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第219話 祖母のお店

 病気になったシロフの祖母が住んでいる場所は、路地を抜けたところにある小さなお店だった。既に営業していないので入り口は閉まっていて、周囲には物悲しい雰囲気が漂っている。



「このお店では何を売ってたんだ?」


「雑貨屋さんだったんですけど、玩具の取り扱いが豊富でした」


「私もおもちゃ買ってもらったことあるよ」


「死んだお爺ちゃんって変わったものが好きだったから、私が子供の頃は見たことないおもちゃをいっぱい貰ったんだ」


「王都でも取り扱ってないようなものが残ってたら売って欲しいな」



 これから寒くなってくると暖炉の前でのんびりする機会も多いだろうし、みんなで出来るゲームなんかあったらぜひ手に入れたい。そんな物を買っておけば、移動中の退屈しのぎにも使えるはずだ。



「リュウセイさん、あっちに裏口があるみたいですから行ってみましょう」


「お婆ちゃん大丈夫かな……」



 不安そうにしているシロフに近づいたケーナさんが、そっと手を握って励ましている。それで勇気づけられたのか、シロフは裏口のドアをノックした。



「……誰だい?」


「お婆ちゃん、シロフだよ」


「鍵は開いてるから入っといで」



 中に入ると椅子に腰掛けた女性がいて、横には松葉杖のようなものが二本置かれている。年齢はマリンさんやカスターネさんと同じくらいだろうか。少し衰えた感じはするものの、顔色が悪かったりどこか怪我をしている様子はない。



「お婆ちゃん! 大丈夫なの!?」


「なんだい、手紙にちゃんと書いてあっただろ。そう簡単にくたばったりしないよ」


「でも、だって……お店やめたっていうから、心配で……………、起き上がれないくらい悪かったらどうしようとか、間に合わなかったらどうしようとか、考えたら……仕事も手につかなくて………

 ……ふっ、ふえぇぇぇーーーん」


「まったく、いい年して情けないねぇ」



 腰にすがり付いて泣き始めたシロフの頭を、サラスさんが優しく撫で始めた。やっぱり孫が来てくれて嬉しかったんだろう、何だかとても温もりのある笑顔だ。


 しばらくむせび泣いていたシロフの顔が、ゆっくりと持ち上がる。サラスさんは涙でぐちゃぐちゃの顔を、横に置いてあったタオルでちょっと乱暴に拭き始めた。シロフはくすぐったそうな恥ずかしそうな顔をしてるので、力はほとんど入ってないみたいだ。



「ありがとう、お婆ちゃん」


「あんた店はどうしたんだい、放ったらかしにしてきたんじゃないだろうね」


「お店はお友だちに少しだけお願いしてきたんだよ」


「それにしても、手紙が着いたのって昨日か一昨日くらいのはずだろ、どうやってここまで来たんだい?」


「えっと、リュウセイ君に送ってもらった」



 サラスさんがこちらに視線を向けたので、軽く会釈して少し近くに寄らせてもらう。視線を上下に動かしながらじっくり見られていると、値踏みされているようで少々居心地が悪い。


 スファレの時もそうだったけど、いきなり異性を連れて帰ってきたから、色々勘ぐられてる気がする。



「シロフにもとうとう彼氏が出来たのかい、こりゃめでたいね」


「えっ、ちっ、違うよ!? リュウセイ君とはそんなんじゃないから」


「でもアージンからこんな所まで送ってくれるくらい、深い仲なんだろ?」


「だから違うって、この人は宿のお客さんだった人だよ」


「背も高いし頼もしそうだし、若い割に風格のあるいい男じゃないか。いいかいシロフ、絶対手放すんじゃないよ」


「確かにリュウセイ君は年下なのに、妙に貫禄があって落ち着いてる男の子だけど……」


「ほほう年下かい、そりゃいい。きっと元気な子が生まれるよ。こりゃ、ひ孫の顔を見るまで死ねないね」


「お婆ちゃん、なに気の早いこと言ってるの!?」


「よくお聞きリュウセイ、こんなに可愛くて一途で器量良しの孫を幸せにしてやらないと、あたしが許さないからね」


「そんなんじゃないって、さっきから言ってるのにーっ!」



 何というか、矢継ぎ早に話をしてくるので、ツッコミを入れる暇がない。それにシロフの言葉を、半分以上聞き流してる感じだ。


 多分からかってるだけなんだろうけど、うかつなことを言えば言質(げんち)をとられそうな気がする。ここはしばらく口をつぐんでいる方が安全だろうか……



「後ろにいる子はケーナちゃんだね?」


「はい、ご無沙汰してます」


「リコちゃんの治療で王都に行ったって噂を聞いたけど、戻ってきたのかい?」


「おばあちゃん、こんにちは!」


「おぉ、元気になったみたいじゃないか、良かった良かった」


「私とお母さんは王都にひっこしたんだよ」


「リュウセイさんの家族や、多くの人に力を貸してもらえたので、リコちゃんも元気になりました。だから私たちもお世話になった人を支えてあげられるように、近くで暮らしていこうと決めたんです」



 入口の近くにいた二人が俺の隣に並ぶと、ケーナさんがそっと腕を組んできた。いつもより大胆な行動に、思考が一瞬停止する。



「セミ一番の美人が相手じゃ、さすがのシロフもちょっと分が悪いね。だが諦めちゃいけないよ、あんたには若さって武器がある。それを十二分に活かせば、ケーナちゃんにだって負けないから自信を持ちな」


「だからお婆ちゃん、その話題からそろそろ離れてよー」



 確かお見舞いに来たはずなのに、全くその話題にたどり着ける気配がない。しかし、ずっと落ち込んでいたシロフはすっかり元の明るさ取り戻してるし、何となく狙ってやっている気がする。さすがに孫のことはお見通しなんだろう。


 やっぱりケーナさんは、街で一番の美人と言われていたのか。そう考えると、ここに来る途中に男性たちが、軒並み行動不能に陥った理由も納得だ。死屍累々といった感じの地獄絵図だったからな。



◇◆◇



 その後も散々からかわれたり(あお)られたりしたが、やっと自己紹介も終わって本題に入ることが出来た。


 どんな病気か聞かせてもらったところ、ひと月ほど前から急に足が腫れてきたそうだ。最初はあまり気にならなかったので、揉んだり市販の薬を使っていたが、徐々に歩行が困難なってくる。


 さすがにおかしいと思って、街の治癒師に診てもらったが原因がわからず、様々な薬を試してみても改善しなかった。やがて杖なしでは歩けなったので、そろそろ潮時だと店じまいの決意をして治療に専念。


 その後、複数の治癒師に相談した結果、師事していた人が持っていた古い医学書の中に、良く似た症例が載っていたはずだと教えてもらう。


 その人の師匠は王都で仕事をしているらしく、杖がないと歩けなくなった状態で長距離の旅は難しい。今の所は足以外に異常ないので、既存の治療法で様子を見ようと考えていた。



「まさか、シロフが来ちまうなんて思ってなかったけどね」


「だって心配だったんだもん」


「おばあちゃん、それ痛くないの?」


「張った感じは不快だけど痛くはないね。腫れたとこが熱くなってるから、冬の季節には丁度いい病気だよ」



 ズボンの裾を持ち上げて見せてくれた足は普通の腫れとは異なり、赤くなって盛り上がった部分が何か所もある。最初は赤い斑点だったので虫にでも刺されたんだろうと放っておいたら、その部分が腫れてきたそうだ。


 こんな状態にも関わらず、リコの頭を撫でながら笑うサラスさんに、落ち込んだり悲観する様子は見られない。治療法が不明で薬も効かない状態なのに、これだけポジティブに振る舞えるというのは、なかなか出来ることじゃないと思う。



「まずは王都にいる治癒師の名前を教えてもらいに行こう」


「いくらなんでも、そこまでしてもらうのは申し訳ないよ。こんな腫れそのうち治っちまうから、気にしないでおくれ」


「治療法がわからないままだと病気が長引くかもしれないし、そんな事になったらシロフの失敗がますます増えてしまう」


「リュ、リュウセイ君、恥ずかしいから言わないでよ!」


「そんな事になってたのかい……」


「俺の妹が冒険者ギルドで治癒の手伝いをしてるから、その手の関係者に顔が広いんだ。名前さえ教えてもらえれば探し出せると思うし、とにかくどんな病気か調べてみるよ」



 真白の知らない人物でも、シェイキアさんに聞けばわかるはずだ。まずはこの街にいる治癒師に会って師匠の名前を教えてもらい、サラスさんと一緒にアージンへ戻ろう。


 歩行が困難になった老人を一人で置いておくわけにはいかないし、一緒にいればシロフの家族だって安心できる。



◇◆◇



 ケーナさんの案内で治癒師を訪ね、王都にいる師匠の名前を教えてもらった。その人は民間の治癒師だと言ってたので、真白なら知ってる可能性が高い。


 そしてサラスさんの使う身の回り品をシロフとケーナさんが用意している間に、俺とリコは店内に残っていた商品を見せてもらい、とある見慣れたものを発見する。


 それは王都の小さな雑貨屋で買った猫じゃらしだった。


 なんとそれを開発したのは、亡くなったサラスさんの旦那さんだ。この辺りで栽培している植物の穂先が、風に揺れる様子を見て思いついたらしい。広大な農地を持つ街なので、ここが発祥の地と言われるのは納得だ。


 猫じゃらしは風通しのいい場所に飾って、揺れる様子を楽しむインテリアとして販売していた。風情があっていいとは思うけど、見慣れた光景を再現するために金を出すのは難しい。


 もちろん全くと言っていいほど売れず、唯一の販売は珍しい物好きな行商人が、いくつか買っていっただけ。それが回り回って王都に置かれていたんだろう。


 最近、王都では猫じゃらしが急速に普及しつつある。どうして急に出回りだしたか不明だが、もし入浴剤のようにライセンス料を得られる手続きをしておけば、サラスさんの新たな収入源になったかもしれないのに残念だ。


 とはいえ、そのおかげでクリムとアズルは充実した毎日を送れている。感謝の意味も込めて、できるだけサラスさんのために動こう。



「聞いたときにはおとぎ話みたいに思ったけど、本当に一瞬でアージンに来ちまったね」


「リュウセイお兄ちゃんは、いろんなところに連れていってくれるよ!」


「こんな移動手段があるんだったら、冒険者なんてやらなくたっていくらでも稼げるだろうに」


「今は生活に困らない程度の安定した収入があるから、冒険者としてこの世界を色々見て回りたいっていう、家族の願いを最優先にしたいんだ」


「なんだい、若いのに欲がないねぇ。そんな覇気のないことで、本当にやってけるのかい?」



 自分でお店をやっていただけあり、サラスさんはお金に対してシビアなところがあるみたいだ。俺に背負われながら、将来の心配してくれている。


 まぁ、いずれ真白の夢でもあるお店を持つ事になるのは確実だし、その時は転移や収納魔法が仕入れで活躍するだろう。冒険者を引退するのは、その時しかないな。



「リュウセイさんたちがお金に困ってないのは本当ですよ。今日もアージンで大きなお買い物をしてますし」


「今日はリュウセイお兄ちゃんといっしょに、おっきなべっそうを買いにここまできたんだ」


「なんだいそりゃ! 王都に家を買って更に別荘なんて、玉の輿じゃないか。いいかいシロフ、絶対に手放すんじゃないよ」


「お婆ちゃーん、そろそろその話題から離れてよ。お父さんやお母さんの前で、言ったらダメだからね」



 そんな話をしながら歩いていたら、緑の疾風亭が見える場所まで来た。しかし、なにやらいつもの様子と違う。もうお昼の時間をだいぶ過ぎてるのに、建物の前には長蛇の列が……



「いらっしゃいませー、何名様ですかー?」


「ただいま食堂は満席ですので、そちらでおかけになってお待ち下さい」


「お釣りこれ、ありがとうございました」


「かーさん、ちゅうもんとってきたよー」



 クリムとアズルは入ってきたお客さんの人数を確認し、壁に並べた椅子に座ってもらっている。ソラはカウンターで精算を担当しているし、ライムは伝票を持って厨房に入っていった。


 ここまでお客さんが多いのは、やっぱりメイド服効果なのか?

 凄いぞメイド服、異世界でも大人気だ。



「この子たちは一体誰なんだい?」


「私がいない間、お店のことをお願いしてた人なんだけど、なんかすごくお客さんが多いよ!?」


「見慣れない服を着た店員がいるから、珍しがって押し寄せてるみたいだな」


「ソラさんが作った服は可愛いですからね」


「もうじき私とお母さんのぶんも出来るんだって」



 家族全員分を揃えるのに半年かかってるけど、今度は二着だけだからかなり早いな。二人のメイド服姿はとても楽しみだ、その時は必ずご主人さま呼びをしてもらおう。




 接客で忙しい家族に軽く挨拶をし、サラスさんを背負ったままひとまず中へ入ることにした。


いわゆる〝猫じゃらし〟は〝エノコログサ〟という(アワ)の原種です。

ちゃんと食べられるらしいですね。


◇◆◇


祖母の名前は〝サラスワティ・ヴィーナ〟というインドの弦楽器から来ています。

(女神サラスワティが持っている、ギターのような楽器)


余談ですが、名前を〝スワティ〟にすると、「きゃる~ん☆」が口癖になりそうなので却下。

前半部分を採用しました(笑)


登場人物等の更新は222話と同時に行います。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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