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第213話 三人でお出かけ

しばらくの間、毎日更新頑張ります。

今回は第165話で少しだけ言及した通り、イコ&ライザとのデート回。

 ブースとトレモのおかげで、竜人族のことをかなり知ることが出来た。ライムはずっと人の中で暮らしてきたので、彼らと同じ生活をするのは難しいだろう。本人がそれを望まない限り、今の関係を続けていこうと考えている。


 竜人族が人里に近づこうとしない理由も、森の中でハグレを狩る意義もわかったので、特に問題はないはずだ。


 ブースとトレモも人の中で幸せに暮らしているなら今のままでいいと言ってくれたし、神子(みこ)であるライムは竜人族の(ことわり)から外れている。将来結婚したいとか子供が欲しいと言った時に、また考えればいい。


 まぁ相手がどんな人物であれ、間違いなく俺は反対するがな!

 以前、スファレの父親から嫌がらせを受けたが、その気持はあの時以上に良くわかる。


 ライムとハモナはすっかり仲良しになり、別れ際に名残惜しそうな顔をされてしまった。せめて昼食を一緒に食べてからと誘ってみたけど、食生活の違いが大きすぎるからと辞退されている。


 真白もあっさり引き下がっていたので理由を聞いたら、気軽に街へ来ることが出来ない人に自分たちの食文化を押し付けるのは避けたいとのことだ。特にまだ幼いハモナが毎日の食事に不満を持つのは、非常によろしくない。


 エルフの里でも同じような配慮をしたらしく、俺の妹は本当によく気がつく。


 竜人族の食事事情は以前ディストに聞いたとおり、基本的な味付けは塩と香草のみだった。調理法もシンプルに焼くものが多く、串に挿して直火で焼いたり、大きな葉で包んで蒸し焼きにしたり、石で即席の窯を作って調理することもあるそうだ。


 竜人族のことも色々わかり考えさせられることも多かったけど、種族としてではなくライム個人を尊重して育てていきたいと思う。




―――――・―――――・―――――




 王都に帰って昼食を済ませてから、真白たちは遠征で必要になる作りおきの調理に取り掛かった。俺は足りない材料を買いに、イコとライザの二人を連れて街へ繰り出す。



「三人だけで出かけるのは初めてだな」


「言われてみればそうなのです」


「せっかくなので存分に楽しむですよ」



 よほど嬉しかったのか、メイド服の二人は左右からギュッとしがみついてきた。俺からだと後ろで二つ結びにしたオレンジの髪と、ピンク色の髪をポニーテールにした頭しか見られないけど、かなり嬉しそうなのがわかる。


 髪色がグラデーションになっているという妖精族の特徴を知らなければ、家人によく懐いている使用人にしか見えないだろう。


 家のことは任せっぱなしだし、こうして慕ってくれる彼女たちに、なにかプレゼントでもしたい。



「二人は仕事で使う道具以外に、欲しいものはないのか?」


「生活に必要なものは全て揃ってますし、それ以外だと思いつかないのです」


「本来必要のないものまで買って頂いてるですよ」


「やって欲しいことなら、一緒のお風呂に入るとか隣で眠ることなのです」


「私たちにとって最高のご褒美ですよ」



 何を贈れば喜ばれるか全く見当がつかないのでストレートに聞いてみたが、ヒントになりそうな答えは返ってこなかった。妖精は食事やお風呂も必要ないし、着替えなくてもいい。そもそも物欲というものが無いのかもしれないな。



「そうした精神的なものでなく、形に残るものを持っていて欲しいんだけど、買い物しながら考えてみるか」


「旦那様のぬいぐるみなら、ちょっと欲しいかもしれないのです」


「お出かけされている時に、旦那様の服を着せて添い寝するですよ」


「そんな大きなぬいぐるみは、自分で作るしかないだろうな……」



 自分の姿をした等身大リアル人形を思い浮かべ、慌てて頭から追いやった。せめて大きなクマのぬいぐるみくらいにしておこう。


 確か日本にいた頃に地元のイベントで見た、黒いクマの着ぐるみが俺と同じくらいの身長のはずだ。正直言って家の中にいると邪魔だな。大きなぬいぐるみは候補から外しておいた。



「それなら旦那様との子供が欲しいのです」


「ライムちゃんみたいな可愛い子がいいですよ」


「すぐには無理だから、今はその話題から離れようか」



 家が最優先の妖精に、そこまで言ってもらえるのは嬉しいけど、通行人の視線がとても痛い。使用人と雇用者が関係を持つことは特に珍しくないと、白銀(はくぎん)土地建物商会のトラペトさんに聞いているが、種族が違うという点で注目を浴びてしまう。


 ウチの家族で唯一の人族は血の繋がった妹だし、子供を作るという点においては障害だらけだ。


 とりあえず足早にその場を離れることにした。



◇◆◇



 もうじき中央広場につく場所まで来て、ずっと腕に抱きついたままの二人を見ながら、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。



「二人とも別の髪型にはしたりしないのか?」


「妖精として生まれた時からこの髪型なので、変えようなんて思ったことはないのです」


「他の髪型にすると落ち着かないですよ」


「お風呂に入ったり寝るときは髪を留めてないけど、やっぱり落ち着かなかったりするか?」


「髪をほどくのは大丈夫なのです」


「そのまま仕事をするのは絶対に嫌ですよ」



 プライベートタイムは良いけど、仕事のときは髪を留めてないと落ち着かないってことか。その辺りは勤務時間とそれ以外で、うまく意識を切り替えてるんだろうな。



「それなら、そこのお店に寄ってみようか」


「何を買われるのです?」


「小物がいっぱい置いてるですよ」


「二人の髪はひもで結んでるだけだから、髪留めを見てみようと思うんだ」



 二人を連れてヘアアクセサリーのコーナーに行くと、ピンやクリップなど色々な種類が置いている。服飾雑貨専門店だけあって、種類はかなり豊富だ。



「私たちにはよくわからないのです」


「見たことないものばかりですよ」


「俺も詳しいわけじゃないけど、イコはリボンみたいなもので結ぶと可愛いだろうし、ライザは挟んで使うものがあると楽に留められると思う」



 俺も真白の買い物に付き合ったくらいの知識しかないけど、お下げ髪のイコならリボンかヘアゴムだろう。ポニーテールのライザは、丸い形をしたクリップを探してみるのが良さそうだ。



「旦那様に選んで欲しいのです」


「お任せするですよ」


「似合いそうなものを見繕ってみるから、好きな色を自分たちで決めてくれるか」



 色々と探してみたが、ゴムのような伸縮性のある素材で出来たものは、おしゃれ要素のあるものが見つからない。散々悩んだ結果、イコにはリボンの飾りがついた小さなクリップを二つ、ライザには表面にきれいな模様が入った大きめのクリップを一つ買うことにした。


 どちらも弾力のある素材で出来たリングを、フックで留めて固定するタイプのクリップだ。内側についている突起のおかげで、簡単にずれたり落ちたりしない。


 私服の色に合わせたのか、二人が選んだのは白だった。



「似合うですか、旦那様」


「こんなのつけるなんて初めてですよ」


「二人ともよく似合ってて可愛いぞ」


「嬉しいのですっ!」


「装身具を買ってもらえるなんて、とても幸せですよっ!」



 なんか二人とも語尾が弾んで、とても喜んでくれている。サイズの関係でヴィオレのアクセサリーを買ったことがないけど、同じ妖精のイコとライザがこんなに喜んでくれるなら、今度は彼女でも身に付けられるものを探してみよう。



◇◆◇



 食材の買い出しをした後に中央広場まで行くと、四角い塔の正面にある扉が開いていた。机を並べて受付けを作っているし、どうやら年に数回ある上へ登れる日のようだ。


 開放日はかなり大雑把な範囲で決められていて、気象条件が良い日を選んで一日だけ行われるという、ゲリライベント的な要素がある。



「今日は塔の開放日みたいだな」


「あの扉が開いているのを見るのは、初めてなのです」


「今日はとてもツイてるですよ」


「二人はまだ塔に登ったことないんだったか……」



 俺たちはギルドへ依頼を受けに行く途中、たまたま開放日だったので登ってみたことがある。高い場所から見る王都の眺めは良かったから、イコとライザにも見せてあげよう。



「せっかくだし登ってみるか」


「よろしいのです? 旦那様」


「入場料が必要みたいですよ?」


「三人だけで出かけた記念に、これも体験しておこう」


「今日は初めてづくしなのです!」


「一生の思い出になるですよ!」



 左右から抱きついてきた二人を連れて受付けで入場料を払い、塔の内部に入っていく。内壁に沿って階段が作られていて、かなりの距離を歩かないといけない。


 真白も途中で音を上げるくらいの長い階段ということもあり、前回来た時に出会ったのは冒険者風の二人組だけだった。今も中に人はいないみたいだから、これならのんびり風景を楽しめそうだ。



「二人とも俺が抱っこして運んでいくよ。鍛錬になるから、少しくらい体重をかけて大丈夫だ」


「よろしくお願いしますのです」


「私たちだとヴィオレ様みたいに癒せないですが、疲れたら精一杯ご奉仕するですよ」



 人化状態でも浮かぶことが出来る二人だから多分問題ないと思うけど、筋肉痛になったら膝枕とマッサージでもしてもらおう。



「どんどん高くなっていくのです」


「入り口があんなに小さくなってるですよ」


「二人は飛べるんだから、高い所は平気だよな?」


「私たちは家より高い所にはあまり行かないですが、これくらいならへっちゃらなのです」


「アズル様は苦手そうですよ」


「以前ここに来た時、アズルは下で待ってたよ。まぁあれから山の上に登ったり、オーボ(赤竜)と空の散歩をしてるから、今なら登れるかもしれないな」



 俺に掴まったまま離れないとは思うけど、今度はディストや王たちも誘って家族全員で登ってみたい。下りた後に次回の開放スケジュールを聞いておこう。



◇◆◇



 二人を抱っこしたまま、一番上にある展望室まで登り終えた。近くにいると疲れにくくなるという、ヴィオレの有り難みがよくわかる。明日からの旅に影響が出ないよう、今夜はお風呂の中でよく揉んでおくのが良さそうだ。



「あそこに見えるのが、ミルク様のいる霊木なのです」


「王都が一望できるですよ」


「改めて見ると、王都はやっぱり広いな」


「あそこが私たちの家なのです」


「ケーナ様とリコ様が住んでいるのは、向こうに見える大きな建物ですよ」



 契約できる家を王都中探し回っただけあり、イコとライザは次々と知っている建物を見つけていく。俺も以前より脳内マップの情報量は増えてるけど、やっぱり上空からの視点では二人に敵わない。


 展望室には小さな窓がいくつも開けられていて、イコとライザは背伸びしながら覗き込んでいる。そんな微笑ましい二人に近づき、抱きかかえて外を眺めることにした。



「抱っこしてもらうと下の方がよく見えるのです」


「広場を歩く人が、ホコリのようですよ」


(ほうき)で一か所に集めたくなるのです」


「三つ数える間だけ待ってあげるですよ」


「二人はどこでそんな台詞(セリフ)を覚えてるんだ……」


「なんとなく頭に浮かんでくるのです」


「この服を最初に着た時と同じ感覚ですよ」



 出どころはやはり俺と真白の知識みたいだ。色々とネタにされている印象深いセリフだから、イコとライザの深層意識にでも刷り込まれてしまったんだろうか。目を焼くような閃光にだけは気をつけよう……



「そういえば旦那様、スファレ様と出会ったのは、どの辺りなのです?」


「商業区の入り組んだ場所としか、お聞きしたことがないですよ」


「あぁ、それなら向こうの窓から見えるぞ」



 二人を抱いたまま別の場所に移動して、王都で迷子になっていたスファレと出会った場所を説明する。そうやって展望室にある全ての窓から外を眺めていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。


 ケーナさんとリコが働いている雑貨屋、少し前に連れて行かれたコンガーたちの訓練場、王城も一度中に入っているので見覚えのある場所が増えている。


 こうして街全体を見ながら新しく憶えた場所を確認していると、この世界に根を下ろして暮らしているという実感が湧いてきた。


 俺はこの世界も、そこに住んでいる人たちも好きだ。

 それを守るために、(けが)れの排除に全力を尽くそう。


次回でこの章は終わりになります。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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