第212話 竜人族の話
誤字報告ありがとうございます。
神になってた(笑)
今回は竜人族に関わる色々な説明回です。
ケーナさんとリコを職場まで送り届け、経営者のお婆さんに少し冷やかされてから、隠れ里まで戻ってきた。三人は既にお風呂から上がっていて、収納から出しておいた日よけ小屋に座って話をしている。
「みんなただいま」
「とーさん、おかえりなさい」
「お帰り、お兄ちゃん」
真白の隣りに座っていたディストが席を譲ってくれたので、そのまま膝の上に乗せて椅子に腰掛けた。温泉に入っていた三人からいい匂いが漂っているので、石鹸もちゃんと使ってくれたみたいだ。
女性の方は穢の影響でかなり調子が悪そうにしていたけど、こうして見る限り後遺症のようなものは感じられない。顔色も健康的なものに変わっているし、この回復力の高さも竜人族の強さなんだろう。
「どんな話をしてたんだ?」
「竜人族の暮らし方について、簡単に教えてもらってたんだ。ボクは神子の世話しかしたことないから、やっぱり普通の育て方とはズレてるんだよ」
「子供を強く育てることに関しては、獣人族と似た部分があるよー」
「私たちを育ててくれたおじいちゃんにも、同じようなことを言われました」
「森の中で暮らす知識は、エルフ族に通じるものがあるのじゃ」
「独自の文化、教えてもらった。リュウセイ神になった、マシロは女神」
「どういうことなんだ?」
竜人族に伝わる神は、地上神と天上神の二種類あった。地上にいる神とは、竜を冠する者の最上位に君臨し人の姿になれる竜の神、つまりはディストだ。そして天上には、生きとし生けるもの全ての頂点に立つ、昼を司る男性の神と夜を司る女性の神が存在する。
俺がディストをこうして膝に乗せたり頭を撫でているので、上位存在として見られたらしい。神が遣わせたというライムに親認定されていることも、拍車をかけていた。
しかし、他の種族には女神の存在しか伝わっていない点が興味深い。なんとなく、他種族とのハーフを生み出したという女性の存在が大きく影響していそうだ。
「一応、私とお兄ちゃんは流れ人だって納得してもらえたよ」
「ライムのとーさんとかーさんだって、ちゃんとわかってくれたからね」
「リュウセイとマシロが兄妹でこの世界に呼ばれて、同じ意志で誕生したライムの両親に選ばれたんだから、そう感じてしまうのは仕方ないと思うよ」
「オレたちの種族で生まれる姉弟は、ツノの模様が同じになる。そうした者同士で番になることは禁忌に触れるんだが、お前たちの世界では違うのか?」
「私とお兄ちゃんがいた世界だと、兄妹で結婚して子供を作ることに、なんの障害もないよ!」
「コラ真白、嘘を教えたらダメだろ」
真白がお兄ちゃん呼びをやめたら誰にも気づかれないと思うけど、本人曰くそのポジションだけは絶対に譲れないと言っていた。以前に名前呼びされてドキドキした経験があるので、正直なところ助かっている。
最近なんとなく感じているのは、真白はそうやって一線を引いてるんじゃないかということだ。お兄ちゃん呼びは最後の安全装置みたいなものかもしれない。
「とーたん、かーたん、おはなしまだすゆ?」
「ハモナちゃん、ライムとあっちで遊ぼ」
「いっていい?」
「構わんぞ」
「遊んでもらってきな」
「あいっ!」
じっと座って話を聞いていることに、耐えられなくなったんだろう。ライムは出会った時からずっと聞き分けが良くて手がかからなかったけど、ハモナは見た目相応の子供という感じがする。それに話し方もかなり幼い。
真白の膝から降りたライムに布ボールをいくつか渡すと、ハモナの手を取り広場へ走っていった。しっかりお姉さんしてる辺り、周りに良いお手本が大勢いるおかげだろうな。
『儂らは子どもたちを見ておいてやろう』
『ライムさんがいれば大丈夫だと思いますけれど、危険な場所に行かないように見守って差し上げますわ』
『俺様たちに任せときな』
「ありがとう、助かるよ」
ここで危険なことといえば、川に落ちたり森に迷い込むくらいだから、精霊王たちが見ていてくれるなら安心だ。大陸各地でバラバラに暮らしている竜人族の子供が、こうして一緒に遊ぶ機会なんて滅多に無いだろうし、ライムにとっていい経験になる。
「種族の王があのように協力的とは、やはりお前たちは神ではないのか?」
「花の妖精女王の私もそうだけど、みんなリュウセイ君たちのことが好きなだけよ」
「私や精霊王たちに居心地の良い場所を、提供してくれているしな」
完全に納得したわけじゃなかったのか、また神疑惑を蒸し返されてしまった。王になれと言われたり神と間違われたり、どうしてこんな事になってしまったんだろう……
「あたいの子供よりしっかりしてるのは、やっぱり神子だからなのかい?」
「神子であることも多少影響してるだろうけど、やっぱり人に囲まれて暮らしていることが大きいと思うよ」
「大人と変わらない話し方なのは驚いた、オレたちだともっと時間がかかる」
「あの子が生まれた時は、どんな感じだったんだい?」
「最初に出会った頃と比べて語彙は大幅に増えてるけど、喋り方はあまり変わってないな」
「ライムちゃんって、話をするのが好きだしねー」
「お友達を作るのも上手です」
ハモナは生まれてから、ひと月程度の子供らしい。確かにちゃんと話ができるし、一般的な赤ちゃんに比べて遥かに知能は高いけど、呂律なんかは言葉を覚えたての子供のようだ。その点だけ見ても、ライムが特別な存在だというのがわかる。
それに生まれて半年程度でツノが大きくなって、マナの量が増えたり魔法が発現したのも、普通はありえないそうだ。
以前ディストに聞いたときも今まで無かったと答えが返ってきているし、竜人族の夫婦もそんな話は知らないと言っているから、やはり特殊な環境で育てられた影響だろうという結論で落ち着いた。
一般的な竜人族は、ツノが大きくなって魔法が発現すると、独り立ちの準備ができたとみなされる。発現する竜魔法も戦闘に特化したものなので、体や精神が成熟してからというのは理にかなった成長の仕方だ。
「ライムが今までの神子と異なっていても、他の竜人族と違う成長をしていたとしても、この先永遠に俺と真白の子供であることだけは変わらない」
「例え血が繋がってなくても、ライムちゃんを大切に思う気持ちは、誰にも負けてないつもりだよ」
「さすがはリュウセイとマシロなのじゃ」
「だから種族の違う私たちが、家族としてやっていけるんです」
「ピピッ!」
「お前たちが家族を大切にする気持ち、オレたちと同じかもしれない」
「あたいらが親から教わったこと、あんたたちに全て伝えたげるよ」
竜人族の子育てや生活様式などを更に詳しく教えてもらったが、基本的に彼らが子供に伝えるのは、サバイバル術みたいなものだ。限られた資源や不便な環境でどう生きていくのか、戦い方や休む場所の確保にはじまり、水や食料の調達といった手段が優先される。
ハイエルフに聞いた使命について聞いてみると、特にそんなものは無いらしい。ただ、ハグレは忌むべき存在として、見つけたら必ず討伐するそうだ。
魔物の生まれるダンジョンは、不浄な世界として竜人族には認識されている。そこから彷徨いでたハグレを倒すことで、己をより高い次元に昇華して天上を目指す。
要は寿命が尽きた後に天国へ行けるよう徳を積む、そういった感覚に近いみたいだ。
「竜人族には背中に出し入れできる羽があるけど、あれはどういった時に使うんだ?」
「オレたちのツノはマナを集めるためにある、そして羽は体の中に溜まった熱や悪いものを外に出す」
「ライムが発熱した時に羽を出していたのは、そういうことだったのか」
「あたいたちはツノが折れるとマナの量が減って回復しづらくなる、そして羽を失うと体が弱くなっちまうのさ」
「だからツノと羽は大切にしてやれ」
竜人族のツノや羽が薬になると、集団で襲って切り取った事件も過去にあったらしい。そのため彼らは他の種族を異様に警戒する。人の多い場所に出てこないことや、最初の遭遇で敵視されていたのは、それが理由だった。
今はそんな事は起こらないだろうし、非人道的なことが書かれた本は禁書扱いになってるはずだ。しかし伝承として伝えられている可能性もある、ライムがそんな目に合わないよう気に留めておこう。
ちなみに、大人になっても尻尾は生えないそうだ。
「顎の下に固くなってる場所があるだろ、竜人族なら誰でも持ってるんだよな?」
「大きさはどのくらいだ?」
「ライムだとこれくらいの大きさかな」
「さすが真竜様の血をひく娘だ、オレやトレモもそこまで大きくはない」
やはり固くなった部分は、竜の逆鱗だった。そこが大きいほど竜の血が濃く、強靭な肉体や力を持っているそうだ。
「普通は触らせてくれない場所だから、ボクも逆鱗のことはよく知らなかったんだ。そんな特徴があったなんて、長く生きてても新しい知見は尽きないものだね」
「ライムちゃんは普通に触らせてくれるし、お兄ちゃんが逆鱗を撫でたら寝ちゃうもんね」
「生まれたての子供でも、そこを触ると嫌がるんだけど、あんた凄いね」
「あるじさまに耳やしっぽを触ってもらうと気持ちいいしねー」
「すごく大切にされている感じがして、とても好きです」
「私もツノを撫でてもらうと、落ち着きすぎて寝ちゃいそうになりますよ」
うちの家族は基本的に、撫でられるのが好きだからな。抱っこや肩車、それに手を繋いだり腕を組んだり、スキンシップがとても多い。その最たるものが一つのベッドだろう。
その後も色々な話を聞かせてもらい、お互いの文化や習慣の違いを確認しあった。一番驚いたのは、竜人族は必ず女の子から生まれることだ。
二人目は必ず男の子で、三人目が生まれるかはわからない。これはディストが以前言っていた、種族全体の個体数が一定になるように調整されているという部分らしく、彼らが天上神と呼ぶ上位存在を信じる根拠にもなっている。
そして会話が一段落した所で、いよいよ穢れに関する情報の番になった。
ここから山沿いに数日歩いた場所に洞窟があり、そこで休もうと中にはいると異様な気配がしたそうだ。奥には黒く揺れる炎のような、人とも動物とも違う何かがいた。
ハグレかと思って攻撃したが、殴っても蹴っても形が多少崩れるだけで、効いている様子はまったくない。
黒い物体はその場から動こうとせず、触手のようなものを伸ばす。それに触れると一方的にダメージを受け、ブースは右手を絡み取られて黒いシミが浮き出てしまい、トレモは子供を守ろうと背中に攻撃を受けてしまった。
そうして変色した部分には痺れが発生して動きが鈍るので、討伐は諦めたそうだ。
「オレたちの種族に伝わる薬や治療法でも治らなかった、仕方がないのでここに来て体を休めようと思ったんだ」
「洞窟に入ると重苦しい空気に包まれてたんだよな?」
「体が重くなるような息苦しいような感じは、あたいも初めてだったよ」
「たぶん邪魔玉の影響、だけど黒い物体気になる」
「それが悪意のあるものなら、ライムの使う息吹で祓えると思うよ」
「ディストは無理なのか?」
「ライムの息吹は浄めの力、ボクの息吹は滅びの力なんだ。邪魔玉をボクの力で滅することが出来なかったのは実証ずみだし、ライムがその黒い塊を消し飛ばしてから、マシロが玉の浄化をするのが確実だね」
「お兄ちゃん、私はやるよ」
「ご主人さま、私の障壁が有効かもしれません」
「われの付与魔法も試してみるのじゃ」
大陸が二つ沈んだ大地殻変動の時も環境の激変が原因になり、負の思念みたいなものが大量に発生したそうだ。それが一か所に集まると形になり、人々に悪影響を与えた。そうした実体を持たない相手には、神子の使う息吹が特に効果的らしい。
みんなも何とかしたいと言ってくれているし、ライムも助けたいと言うのは確実だ。
竜人族の家族を苦しめた正体不明の何かを、取り除く旅に出よう。
次回は旅の前の準備回。
初の組み合わせになります(ヒント)




