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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第16章 ようこそコートヤードへ

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第205話 状態異常

 俺の手を握ったまま眠ってしまったケーナさんの看病を続けていたら、小さなノックのあと客室のドアがそっと開いた。部屋の中を覗き込んできたのは、真白とライムにリコだ。一人用の部屋なので、代表して見に来てくれたんだろう。



「お兄ちゃん、ケーナさんの様子はどう?」


「ケーナおねーちゃん大丈夫?」


「お母さんおきた?」


「少し前に起きて、また眠ってしまったよ」



 三人は部屋に入ってくると、ベッドの近くまで来て寝ているケーナさんの顔を覗き込む。今の状況を確認してから眠りについたおかげで、寝顔も穏やかで少し微笑んでいる様にも見える。その姿を確認した三人は、ホッと息を吐いて緊張を解いてくれた。



「お母さんうれしそうに寝てる、よかった」


「とーさんはケーナおねーちゃんと、手をつないでるの?」


「一人になるのが不安だったみたいで、お願いされたんだ」


「病気の時は心細くなるから、その気持はすっごく良くわかるよ。私も風邪をひいた時には、お兄ちゃんにずっと手を握ってもらってたもん」


「ライムもねつが出たとき、とーさんが近くにいてくれたから、あんしんできたよ」


「あの時ライムちゃんは、お父さんに一晩中抱っこされてたもんね」


「私もリュウセイ兄ちゃんに、だっこされたまま寝たいよー」


「今夜は隣で寝ような」


「やったー! お母さんもいっしょに寝られるかな?」


「次に起きてきて調子が良さそうだったら誘ってみようか」


「うんっ!」



 膝の上にいるリコは、隣りに座ったライムと手を取り合いながら喜んでいる。みんな帰ってきて気も紛れたのか、いつもの明るい調子が戻ってきてるし、もう大丈夫だろう。



「お兄ちゃんは夕飯までどうするの?」


「それが手を離そうとすると、すごく抵抗されるんだ。可哀想だから、目を覚ますまでここにいるよ。ご飯は先に食べておいてくれても構わないぞ」


「それならケーナさんの分はパン(がゆ)を作っておくし、お兄ちゃんの分はヴィオレさんに保管しといてもらうね」


「それで構わないからよろしく頼む。あと頭に乗せてる手ぬぐいを、取り替えてもらえないか?」



 真白たちは手ぬぐいを濡らし直したあと、氷が溶けてしまった桶を持って部屋から出ていった。部屋の中には再び静寂が訪れ、何もすることが無くなってしまう。


 この家で過ごす時は、頭や膝の上に誰かいたり話し声の絶えない家族と一緒なので、とても不思議な気分だ。


 元の世界に住んでいた頃、こんな時どうしていたんだろうと考えてみて、もうあまり思い出せないことに気がついた。きっとこの世界にいることが、俺にとっての日常に変わってきたからだろう。


 大切なものや手放したくないものが増えて、元の世界に帰りたいという気持ちは、ほとんどなく無くなっている。いずれ自分の子供を作って老いていく姿を想像してみたけど、幸せなビジョンしか浮かんでこない。


 今の状況を考えると、隣には大勢の人がいてくれそうだ。

 その時、目の前で眠るこの女性も一緒だろうか……


 とにかく今は手の届く範囲にいる人を、しっかり守っていける男を目指そう。



◇◆◇



「ふぅ、ふぅ……

 お母さん、もう冷めたから大丈夫だよ。はい、あ~んして」


「あーん……

 ん~、甘くて美味しい、ありがとうリコちゃん」



 俺の膝に座っているリコが、スプーンに乗せたパン粥を冷ましながら、ケーナさんに給仕中だ。パンの白い部分だけ使ったお粥は、ミルクとハチミツで柔らかくなるまで煮込まれていて、こちらにも甘い香りが漂ってくる。


 幸せそうに頬張るケーナさんは、なんだか子供っぽくて可愛い。ちょっと幼児退行し過ぎな気もするけど、俺のなでなでが原因じゃないだろうな……


 こんな無防備な姿も素敵だけど、ちゃんと元に戻ってくれることを祈ろう。



「リュウセイお兄ちゃんも、食べさせてあげて」


「俺も食べさせてあげないといけないのか?」


「ほら、お母さんもやってほしそうな目をしてるよ」



 母親の気持ちを察するのが得意なリコだけあって、こちらをじっと見つめる表情から何かを感じ取っている。もっと甘えていいと言った手前、無碍(むげ)には出来ないな。



「もう冷めたと思うけど、ゆっくり食べてくれ」


「・・・・・」


「リュウセイお兄ちゃん、あ~んを忘れてるよ」


「それもやらないといけないのか……わかった。

 ケーナさん、あ~ん」


「あ~ん……ふふふ、甘くて幸せ」



 ケーナさんはベッドのヘッドボードに大きなクッションを置いて、それにもたれ掛かりながら食事をとっている。微熱で少し上気した顔を(とろ)けさせている姿は可愛すぎて危険だ。自分だけのものにしておきたい。



「ケーナさんの雰囲気が変わりすぎてて、思考が追いつきません。でも、リュウセイさんにおねだりする時は、こんな風にやればいいんですね」


「母娘の連携が見事すぎるけど、学ぶべき部分は多いよ!」


「私にはヴェルデがついてますから、絶対にモノにしてみせます」


「ピピーッ」


「ケーナちゃんのこんな姿を見ていると、リュウセイ君にまた娘が増えたみたいに感じるわね」



 食事を運んできてくれたヴィオレ、それに着替えと清浄の準備をしてくれてる真白とコールは、普段とは違うケーナさんの姿を興味深そうに観察していた。家族になら普通におねだりされても、ちゃんとやってあげるからな。


 しかしどうしてヴィオレは、すぐ俺の娘にしたがるのだろう。

 ここ最近、年上の娘が増え過ぎなんだが……



「ケーナさんは今夜どこで寝るつもりなんだ?」


「みんなと一緒がいい」


「お母さん、立ってあるけそう?」


「リュウセイさんに運んでもらうから大丈夫だよ」


「それならあんしんだね!」


「お風呂に入った後に迎えに来るから、それまでに着替えておいてもらえるか」


「早く帰ってきて……ね」


「すぐ戻ってくるから、少しだけ我慢してくれ」



 ケーナさんの頭を撫でてから席を立ち、急いでお風呂場に向かった。


 ああやって不安そうに上目遣いで言われたら、できるだけ手早くお風呂をすませるしかない。

 タイプは全く違うけど、俺の庇護欲(ひごよく)を全力でくすぐってくる仕草は、シエナさんに匹敵するな。もしかしたら今回の件は、彼女の中に眠っていた危険な(ケモノ)を目覚めさせてしまったのかもしれない。



◇◆◇



 いつもより湯船に浸かる時間を短縮して客室に戻ると、着替えを済ませたケーナさんがリコと話をしていた。部屋には二人だけしかいないので、みんな寝室で待っていてくれてるんだろう。



「また背負って運ぼうか?」


「初めて会った時にしてもらった運び方がいい」


「お姫様抱っこだな、了解だ」



 横になっているケーナさんの背中と膝裏に腕を差し込んで持ち上げると、首に腕を回して抱きついてきた。最初に同じことをした時は、体を固くして目を逸らされたけど、今はこうして受け入れてもらえる。


 あれからまだ二ヶ月(90日)と少ししか経っていないのに、なんだか不思議な気持ちになってしまう。人間関係というのは、何がきっかけで変わってしまうのか、わからないものだ……



「お母さんいいなぁー。あとで私もやってね、リュウセイお兄ちゃん」


「リコには扉を開ける係をお願いするから、見事に役目を終えたらお姫様抱っこでも普通のでも、好きなだけやってあげるぞ」


「やくそくだよ、リュウセイお兄ちゃん」


「それではリコ隊員、寝室までよろしく頼む」


「りょうかいしました、たいちょう! それじゃぁ、しゅっぱつしんこー」



 リコが開けてくれたドアを出て廊下を進んで寝室に入ると、みんなはベッドの上でブラッシングをしてるところだった。



「顔色良くなったねー」


「倒れたと聞いた時は心配しましたがー、元気になられたみたいで良かったですー」


「リコおねーちゃんも、いっしょにブラッシングしよ」


「うん、ライムちゃん、すぐ行くね!」



 走ってベッドまで行ったリコが、ソラから受け取ったブラシで、クリムのしっぽをブラッシングし始めた。アズルはもう終わったらしく、語尾を伸ばしながらスファレの膝枕を堪能している。



「リュウセイも早くこっちに来て、ケーナを寝かせてやるのじゃ」


「背もたれをご用意しているのです」


「体を冷やさないように、こちらの毛布をお使いくださいですよ」


「えへへ、すごく大切にしてもらって嬉しい」



 熱はもうだいぶ下がってると思うけど、幼児退行が進行してる気がするぞ。

 でも、ふにゃっとした笑顔が可愛いから、難しいことを考えるのはやめよう。可愛いは正義だ。



「マシロとコール言った通り、今日のケーナ一味(ひとあじ)違う」


「私もお母さんのこんなすがた、見るのはじめてだよ」


「娘も知らなかった姿を引き出すなんて、リュウセイはやっぱり凄いね」


『儂らに疲労という概念はないが、心にも影響するものなのか?』


『明確な肉体を持たないわたくし達にあるのは、存在を維持する力だけですものね』


『俺様たちが感じるのは、めんどくせぇとか、やってらんねぇとかだな』


「私の見立てでは、そのような異常は感じられんぞ」


「お兄ちゃんから(あふ)れる父性で引き起こされた状態異常ですから、エコォウさんやヴィオレさんにも判別は不可能ですよ」



 ちょっと待て真白、状態異常ってなんだ。

 周りのみんなもウンウンとうなずいているし、やっぱり俺が原因だったのか?



「なんだか良くわからないけど、スマン」


「あやまらなくてもいいよリュウセイお兄ちゃん、お母さんの楽しそうなとこ見られて私もうれしいから」


「リュウセイさんは悪くないから大丈夫。それよりベルさんに膝枕やってあげたって聞いた、私もして欲しい」


「それは構わないけど、今あぐらをかいてるから、ちょっと高すぎると思う」


「こうすれば大丈夫だから……よいしょっ」



 毛布を引きずりながら這い寄ってきたケーナさんが、足の付根に頭を置いて寝転んだ。しかも横向きになった体は、俺の方を向いている。秘匿領域が近いので、あまりスンスンと匂いを嗅がないで欲しい……



「そんな姿勢だと苦しくないか?」


「お風呂上がりのいい匂いがするから平気、それより頭なでて」



 なんだろう、この可愛い生き物は。

 ベルさんの時にも感じたこれを言語化すると、ギャップ萌えというやつか。普段が控えめだったり凛々しかったりする分、この変化は年頃の男にとって危険すぎる存在だ。



「ケーナちゃんまでこうなってるのを見ると、今こうして頭の上で感じている心地よさの理由って、やっぱりリュウセイ君の父性なのかもね」


「リュウセイお兄ちゃん、おひめさまだっこして」


「私も前みたいに倒れて甘えてみたい……」



 みんなが次々と甘えたい宣言をする中、俺はあぐらをかいた足で膝枕したまま、リコをお姫様抱っこするという謎の姿勢を強いられることになった。


 俺を枕にしている可愛い生き物は、撫でるのを中断するやいなや、抗議するように顔をグリグリ押し付けてくる。マーキングでもしているのだろうか、この人は。


 それから、無茶な冒険者活動は禁止だからな、コール。変なことを言うから、あの時の光景を思い出してしまったではないか。




 ケーナさんが過労で倒れてから始まった混沌の夜は、こうして過ぎていくのだった――


現在のところケーナは身長(151cm)と年齢(25歳)しか明確な設定がありません。

(他には髪は短め、容姿は大学生くらい)


そろそろ髪や瞳の色を含め、魔法もちゃんと決めていおいたほうが良さそうですね(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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