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第204話 二人きりの時間

誤字報告ありがとうございました!


ここからしばらく、フィーバータイムの始まり。

あるいは、ずっとケーナ(オレ)のターン。

 ケーナさんが仕事中に熱を出して倒れ、お店で在庫補充中だった俺は近くにいる治癒師のもとに走った。


 診察の結果は病気ではなく、慣れない環境で頑張りすぎて熱が出ただけなので、ゆっくり寝て休めば大丈夫とのことだ。



「今日は家に来てゆっくり休んでもらおうな」


「うん、ありがとうリュウセイ……お兄ちゃん、……ひっく……お母さんびょうきじゃなぐて、よがった」


「しっかり寝て真白の美味しいご飯を食べたら、すぐ良くなるぞ」



 ずっと不安そうにしていたリコを抱きしめて頭を撫でていると、安心して気が緩んだのか泣き出してしまった。唯一の肉親がこうなってしまったのだから、まだ幼い子供が耐えられないのは良く分かる。家に帰ったらライムやバニラたちに、リコの心を癒してもらおう。



「店に来るのは元気になってからで構わないから、明日は必ず休ませておあげ」


「ありがとう。ケーナさんが目を覚ましたら伝えておくよ」


「おばあちゃん、ありがとう」


「いいんだよリコちゃん、二人とも頑張り過ぎだから、兄さんの家でゆっくり休みなよ」


「うん、わかった」


「それから兄さん、依頼票に署名しといたから、ギルドに報告しといで」


「大事なことを忘れてたよ、今から行ってくる。リコも一緒に行くか?」


「私はお母さんのそばにいる」


「わかった、すぐ戻ってくるからな」


「今日はもう上がっていいから、終わったら家に帰るんだよ」



 縋り付いていたリコの頭を撫でて椅子に座らせ、タオルをもう一度濡らしてからケーナさんの額に乗せる。そしてそのまま店を出て、今度は冒険者ギルドに向かって走った。


 今日はみんなで待ち合わせする予定にしてたけど、真白に伝言を頼んで先に帰らせてもらおう。



◇◆◇



 まだ目が覚めないケーナさんを背負って、リコと一緒に店から転移魔法で家まで帰ってきた。緊急事態ということもあったし、あのお婆さんなら特殊な魔法を知られても大丈夫な気がする。



「みんな、ただいま」


「こんにちは、イコちゃん、ライザちゃん、バニラちゃん」


「キュキューイ?」


「お帰りなさいませなのです、旦那様、リコ様。旦那様が背負われているのは、ケーナ様なのです?」


「お帰りなさいませですよ、旦那様、リコ様。ケーナ様の顔色、お悪いのですよ」


「ケーナさんは過労で熱を出してしまったんだ、客室のベッドに寝かせるから手伝いと冷たい水を頼む。それからバニラはリコのそばに居てやってくれ」


「キュイッ!」


「私が客室でお手伝いするのです」


「私は氷水を持っていくですよ」



 リコのそばに来てくれたバニラが抱き上げられるのを確認して、イコと一緒に客室に向かう。首筋にかかる息は荒くて熱い、早く楽な姿勢で寝かせて冷やしてあげよう。



「こうやって氷水で冷やすと熱を奪って楽になるから、もう大丈夫だ」


「ありがとう、リュウセイお兄ちゃん」


「ここで眠っていれば安心なのです」


「私たちもついてるですよ」


「キューイ」


「イコちゃんとライザちゃんとバニラちゃんも、ありがとう」



 バニラを抱いて俺の膝に座っているリコの頭を撫でていたら、開いていた客室のドアからディストと王たちが入ってきた。



「ケーナの様子はどうだい?」


「呼吸も安定してきたし、熱も下がってきてると思う」


「どれ、私も少し診てやろう」


「すまないけどお願いするよ」



 エコォウが飛んできて、眠っているケーナさんの枕元に降り立つ。妖精王に診てもらえば、どんな小さな異常も見落とさないはずだ。



「病気のたぐいではないから安心するといい、おそらく少し疲れているだけだろう」


「エコォウのお墨付きをもらえたら、あとは目が覚めるのを待つだけだな」


「はぁ、よかったぁー」


「ケーナさんは俺が()てるから、リコはリビングでおやつを食べておいで」



 ずっと緊張した様子だったリコが大きく息を吐いて、体の力を抜くと俺にもたれかかってくる。しばらくなでなでを堪能したあと、膝からピョンと飛び降りてディストと手をつなぎながら一階へ下りていった。



◇◆◇



 ケーナさんと二人きりになった部屋は、お互いの呼吸音しか聞こえないほど静かだ。規則正しく吐き出される息は、背負っていた時に感じたような熱さはない。


 (ひたい)に当てていた手を離し、冷やしたタオルを乗せてから頭をそっと撫でる。


 旦那さんを亡くしたあと、実入りのいい農作業を手伝うために短くした髪を、最近になってまた伸ばし始めたらしい。そうした変化もあるからだろうか、ケーナさんはどんどん魅力的になっている。こうして間近で見ていると、思わず吸い寄せられそうになるくらいだ。



「……う……うぅ………ん……

 あ……れ? 私……どうしてベッドに……」


「調子はどうだ?」


「リュウセイさん……私どうしたんですか?」


「急に熱が上がって、お店の中で意識を失ってしまったんだ」


「あっ、今日の売上計算しないと……」


「今日はもう帰ってゆっくりしていいと言われているし、明日は休みをもらってるから、このまま横になっていてくれ」



 起き上がろうとしたケーナさんをそっと押し留め、落ち着かせるように頭を撫でる。まだ状況がよく飲み込めず不安そうにしているので、これまでの経緯と治癒師やエコォウの診断結果を伝えていく。



「リュウセイさんにも迷惑かけてしまって、申し訳ありません」


「こうやって病気でつらい時は、どれだけ迷惑をかけてもいいし、もっと甘えてくれたって構わない」


「でも……リコのことや王都に移住するときにも、色々手を貸してもらってますから……」


「リコとケーナさんは、もう家族と同じくらい大切な人だから、そんな事で心を痛めなくてもいいんだ」


「……リュウセイさん」



 こちらを見つめる目が潤んできたので、少しでも心が軽くなるよう頭を再び撫でることにする。気持ち良さそうに閉じたケーナさんの目から、涙がこぼれ落ちることはなかった。



「何かして欲しいことはないか?」


「このまま頭を撫でて欲しいです、それから手を握って下さい」


「それなら布団から手を出してくれ」



 布団の端からそっと差し出された手を掴むと、それを自分の胸元に持っていって両手で握りしめられた。背負った時にも感じたけど、ケーナさんは結構着痩せするタイプみたいだ。


 病気になると不安が増すと言われているし、少しでも落ち着けるようにこのまま好きにやらせてあげよう。



「なんだか、お父さんに撫でてもらってるみたい」


「父親のように安心できるなら嬉しいよ」


「ふふふ……ちょっと不思議な気分。お父さんに撫でられたことなんて、ほとんど憶えてないはずなのに」


「ケーナさんの父親って、厳しい人だったのか?」


「ううん、そうじゃなくて、私って人に甘えるのがあまり上手じゃないの。物心ついた頃から、お父さんやお母さんが抱っこしたり撫でようとしても、嫌がってたんだって」


「何が嫌だったんだ?」


「お父さんは真面目で普通の人だったんだけど、お母さんはちょっと構い過ぎなところがあったの。それが恥ずかしかったのと、大人ぶりたかったのが原因じゃないかな」



 ケーナさんの母親はかなりお茶目で、少し子供っぽいところもあったみたいだ。どうやら母親のそんな態度に、ついつい反発してしまったらしい。


 手を握りながら頭を撫で続けたせいか、ケーナさんの話し方がとても砕けたものに変化している。もしかしたら夢うつつの状態かもしれないけど、距離が縮まったようでちょっと嬉しい。



「ケーナさんはきっと、自立心が強いんだと思う」


「なんでも一人で出来るようになりたいって心がけてたから、そうなのかもしれないね……」


「だからって倒れるまで頑張るのはダメだぞ」


「みんなに迷惑かけちゃったし、反省してる」


「仕事中に倒れたケーナさんを見てリコが泣き出してしまったから、絶対にもうこれっきりにしてくれ」


「うん、本当にごめんなさい。リコちゃんには後でちゃんと謝っておくね」



 ちょっと卑怯かと思ったが、リコのことを伝えて念を押すことにした。今回はたまたま俺が近くにいたけど、いつもそばにいられるとは限らない。リコのあんな顔は、もう見たくないからな。



「リコを呼んでこようか?」


「リコちゃんは今どこにいるの?」


「リビングでディストたちと一緒に、おやつを食べているはずだ」


「それなら呼ばなくてもいいかな、もうちょっとこうして二人で話もしたいし」



 そんなことを言われて、胸がドクンと高鳴ってしまった。喋り方が変化したせいだろうか、柔らかい笑顔を浮かべるケーナさんの顔は、大人っぽさが抜けてとても可愛らしい。


 寝ぼけて俺を父親と呼んだ時の、ベルさんみたいな感じだ。



「まだ熱があるみたいだし、頭に乗せてる手ぬぐいを取り替えるよ」


「それじゃぁ名残惜しいけど手を離すね」



 いつものように表情筋は仕事をしていないと思うけど、今の気持ちを(さと)られないよう、冷たい水に手を入れて気持ちを落ち着ける。今までこうして二人きりになることは無かったから、意識すると急に恥ずかしくなってきた。



「氷水で濡らしてるから、びっくりしないようにな」


「んっ……冷たくて気持ちいい」


「かなり熱は下がってきてるから、明日の朝には回復すると思うよ」


「もうちょっとお話したいけど、眠くなってきちゃった」


「また様子を見に来るから、このまま眠ってしまうか?」


「一人は嫌、眠るまでそばに居て欲しい」



 布団の中から差し出された手を握ると、また自分の胸元に引き込んで両手で包み込まれる。そのまま頭をゆっくり撫でていたら、やがて規則正しい寝息が聞こえてきた。


 いつもより幼い感じだったのは、やっぱり病気で不安だったからだろうか。

 でも、こうして甘えてもらえるのは、とても嬉しい。


 とりあえず夕食の時間までは、このままそばに居てあげよう。


ケーナの症状は徐々に悪化していきます(笑)

次回「第205話 状態異常」をお楽しみに!


ちなみに、夏に海水浴へ行ってますが、水着になったのはリコだけです。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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