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第203話 荷運びと配達依頼

 今日は指名依頼扱いになっていた、禁書庫での作業を冒険者ギルドに達成報告してから、それぞれ分かれて行動することになった。真白はいつものようにギルド内で治療、スファレはクリムとアズルを連れて森に採集へ。


 ライムは新しく覚えた遠距離攻撃( 息 吹 )の練習をするため、コールやソラと一緒にダンジョンへ行っている。ヴィオレは傷みやすい薬草を時空収納に入れるため、スファレたちと一緒に行動中だ。


 俺は船へ荷物を積み込んだり持ち帰ったりしながら、倉庫と港を何度も往復した。やろうと思えば一度に全部運んでしまえるが、搬入出の際に必ず中身をチェックするので、そのペースで作業した方がやりやすい。


 大きな商会なので複数の収納使いを従業員として雇っており、一人で全て片付けるわけにはいかないという事情もある。



「ありがとよ兄さん、助かったぜ!」


「ここの商会には知り合いがお世話になってるから、役に立てて良かったよ」



 依頼を受けたのは王都に来る途中で船酔いを介抱した人が会長を務め、ケーナさんとリコが働いている店を傘下に持つ【紫晶(ししょう)商会】だ。この国で大手と言われるだけあり、大きな運搬船をチャーターしている。


 紫の収納魔法を持っていた人物が、この世界では珍しい紫色の水晶を発見して財を成したらしい。それを元手に立ち上げた商会なので、この名前がついたと教えてもらった。


 そのため傘下に持つ商店も、名前の一部に必ず“紫”の文字が入っている。



「リュウセイは荷物を取り出すのが上手いんだよな」

「ほとんど動かす必要がないから仕事がはかどるぜ」

「何かコツでもあるのか?」


「コツというか、普段から遠征で大きな荷物の出し入れが多かったし、慣れの問題じゃないか?」


「それを言うなら俺たちだって、ここで何度も荷運びしてるぜ」

「でもいまいちピッタリ出せねぇんだよな」



 関係していそうなのは、空間認識能力だろうな。この世界にそういった概念があるかわからないけど、俺はその能力が優れているみたいだ。ダンジョンや迷路を迷わず歩けるのも、これが関係している。


 昔から物体の大きさや方向、それに角度や距離を把握するのが得意だった。多分これは水泳を続けていたおかげだろう。


 自分がどの方向に進んでいるのか、プールのどの位置にいるかを常に意識していないと、真っ直ぐ泳げなかったり障害物にぶつかってしまうことがあるからだ。



「ほぉー、泳ぐことにそんな効果があるのか」

「王都にはチェトレみたいな浜辺が無いしなぁ」


「投げられたものを受け取ったり、立体物を組み立てたりしても、鍛えられると思う」


「流れ人の知識はやっぱり面白いな」

「それで鍛えられるんなら、家を建てたり鍛冶をやってる奴が得意そうな気がするぜ」

「それはそうと、これからどうする?」

「予定よりかなり早く終わっちまったしな」

「ちっと時間は早いが、配達もいくつか片付けちまうか……」


「それなら俺も手伝うよ」


「おっ、いいのか? 助かるぜ」

「今から納品しても構わねぇ所はこれだが、どれにする?」



 広げられた納品先のリストを見ていると、一軒だけ離れた場所にある店を見つけた。冒険者ギルドにも近いし、顔も出しておきたいからこれにしよう。



「俺は花紫(はなむらさき)雑貨店に納品して、そのままギルドに報告して帰ろうと思うけど、それでもいいか?」


「ここだけ離れてるし、俺たちは商会に近い場所のほうが助かるから構わねぇぞ」

「しかしお前もやっぱり男だな、美人の未亡人狙いか?」

「店員やってる彼女の子供も可愛いんだよなぁ」


「いや、別に狙ってるわけじゃないんだが……」



 花紫雑貨店は、リコとケーナさんが働いているお店だ。

 王家の血筋というだけあってかなり美人なので、商会で働く人に注目されるのは当然か。



「まぁ若いんだし思いの丈をぶつけるのもアリだけどよ、彼女は諦めたほうがいいと思うぜ」

「あー、確か恋人がいるとかいう噂だったな」

「命の恩人を追って王都まで来たんだったか?」

「暴漢に襲われたところを助けたとか、身を(てい)してハグレから守ってなんて話もあったな」

「そいつは国の要職に就いてるって話だぞ」

「リュウセイは何か知らねぇか?」


「いや、俺はその手に噂に(うと)いんだ」



 確かに王都に定住したのはリコの病気が治ったのがきっかけだし、国の要職というのはビブラさんとマリンさんのことだろう。根も葉もない話だけでなく、断片的に真実が混じっている辺り、噂の信憑性を高めてる気がする。



「あんな美人は高嶺の花すぎて、気後れしちまう」

「ちょっと高貴な感じもするんだよなぁ」

「相手の理想も高いだろうよ」

「そこいらの男じゃ釣り合わねぇからな」

「俺は応援してるから頑張れよ!」



 ケーナさんに関する噂話は初めて聞いたけど、声をかけづらい雰囲気になっているのは幸いだ。困ったことがあれば俺を利用しても構わないと言っているから、何かあればフォローできるようにしておこう。



◇◆◇



 大通りから枝道(えだみち)に入り、目的の店の扉を開く。今日もリコが明るい笑顔で迎えてくれた。



「いらっしゃいませ、リュウセイお兄ちゃん」


「こんにちは、リコ」


「今日はなにを、おかいもとめですか?」


「今日はお店の商品を運んできたから、奥に入らせてもらってもいいか?」


「いらっしゃいませ、リュウセイさん」



 両手を伸ばしてきたリコを抱き上げ、挨拶をしてくれたケーナさんの方を見たが、どうも様子が変だ。照れたり恥ずかしがった時とは違う頬の赤みがあって、表情も少し生気が足りていない感じがする。



「こんにちは、ケーナさん。少し顔色が悪いみたいだけど、大丈夫か?」


「お母さん今日は、ちょっと体がだるいんだって。お店のおばあちゃんも休んでいいよって言ってくれたけど、ムリして働いてるんだよ」


「在庫補充の予定日だったので、お休みしづらくて……」


「それなら俺が倉庫の整理もしておくから、ここで椅子に座っていてくれ」


「リュウセイさんもお仕事中なのに、それは出来ません」


「今日はここの納品で終わりだから問題ないし、やらせてもらえないか?」


「お母さん、リュウセイお兄ちゃんにお願いしよ?」


「……わかりました、申し訳ありませんけど、お願いします」


「あぁ、任せておいてくれ」



 責任感の強そうなケーナさんがこうして頼ってくるくらいだから、体調はかなり悪いんだろう。仕事終わりまで付き合って、家まで送るほうが良さそうだ。


 それよりも泊まりに来てもらったほうがいいな。

 帰る時に相談して、(つら)そうなら転移で移動しよう。



◇◆◇



 バックヤードの奥にある扉を開けて中に入ると、棚や木箱がいくつも並んだ倉庫になっている。靴はサイズや種類ごとにきちんと整理され、小物類も小さな箱に分けて並べられていた。


 とりあえず運んできた物を取り出したが、どうやって整理すればいいか良くわからない。

 ひとまず納品伝票と照らし合わせて、数に間違いないかチェックしておこう。



「すまないね、手伝ってもらっちまって」


「あぁ、こんにちは。今日は荷運びの仕事が早く終わったから、これからどうしようかと思ってたし、ちょうど良かったんだ」


「あの子たちのこと、いつも気にしてもらってありがとね」


「俺が王都につれてきたようなものだし、力になれることなら何でもするよ」


「ケーナちゃんもいい人を見つけたねぇ、幸せにしておやり」


「いや、俺とケーナさんはそういう関係じゃないんだが……」



 部屋に入ってきたのは、この商店を営んでいる老夫婦の一人だった。確か旦那さんの方は、先日から腰を悪くしてるはずだ。ケーナさんが無理してでも出勤した理由は、お婆さん一人に荷物整理をやらせたくなかったからだろう。


 その人に突然そんな事を言われて、どう反応していいのか困ってしまった。こちらを見ながら笑っているので、俺の反応を見て楽しんでいるっぽい。



「あんな美人相手にこんな事を言われると、普通は舞い上がっちまうもんだけど、あんたは平然としてるね」


「これでも動揺してるよ、表情に出ないのは体質なんだ」


「変に下心が見えるよりはいいさね、そんな目をした日にゃリコちゃんに追い返されちまう」


「やっぱりケーナさん目当てのお客さんとか来るのか?」


「たまに来るけど、そん時はあたしかリコちゃんが、ちゃんと恋人がいるって言ってやってるよ」



 噂の発信源の一つはこの店自体だったようだ。今のところうまくいっているみたいだし、俺がそれに関してとやかく言うことはないな。



「変な人に絡まれる可能性が減るし、いい撃退法だと思う」


「無理に迫るようなやつが来たら、ウチの常連たちも黙っちゃいないから安心おし」


「困ったことが起きたら俺も協力するよ。

 とりあえず、在庫の整理をしてしまいたいから、やり方を教えてくれないか」



 運んできた荷物の中から商品を取り出し、お店の台帳に記入して在庫の棚に並べていく。この倉庫はケーナさんが勤めだしてから、一人で整理し直したそうだ。


 おかげで無駄な在庫が減って、仕入れや管理もしやすくなったらしい。お店のために一生懸命になってるんだろうけど、ケーナさんはちょっと頑張り過ぎだと思う。



「今日は休みなって言ったんだけど、荷物が届く日だからって無理しちゃってね」


「仕事が終わるまで様子を見て、体調が悪そうだったら俺の家まで連れて帰ろうと思ってる」


「そうしてもらえるなら、あたしも安心だよ」



 そんな話をしながら最後の商品を台帳に記入して棚に並べた終えた時、倉庫の扉が勢いよく開いた。



「リュウセイお兄ちゃん、おばあちゃん、お母さんがたおれたの!」


「なんだって!? あんたも来ておくれ」


「わかった! すぐ行く」



 倉庫を出てお店の中に行くと、ケーナさんはカウンターに突っ伏すように意識を失っていた。息は荒くなって、さっき見たときよりも顔が赤い。短時間で急に熱が上がってしまったみたいだ。


 店を訪れた時にもう少しちゃんと様子を見ておけばよかったと後悔するが、それよりも今はできることをしよう。



「部屋の空いたところを使わせてもらってもいいか?」


「あぁ、控室なら好きに使っていいよ」


「お母さんだいじょうぶ? しっかりして!」


「リコ、ベッドを出すから、それに寝かせてあげよう」


「リュウセイお兄ちゃん、お母さんをたすけて……」


「俺が絶対助けるから大丈夫だ、まずは寝かせてから治癒師の人に診てもらおう」



 縋り付いてきたリコの頭を撫でて落ち着かせ、バックヤードに行って収納からベッドを取り出す。そこにケーナさんをそっと横たえ、水と桶を机の上に置かせてもらう。


 固く絞ったタオルで顔や首筋の汗を拭いて、もう一度濡らしてから額の上に乗せた。



「今から治癒師を呼んでくる、少しだけケーナさんを見てもらっていいか?」


「ここはあたしに任せておきな」


「リュウセイお兄ちゃん、早く帰ってきてね」


「すぐ戻ってくるから、ケーナさんのことを頼む」



 もう一度リコの頭を撫で、裏口から外に出た。

 ここも人が密集した区画なので、町医者的な治癒師が住んでいる。冒険者ギルドに時々顔を出していたり、出張診察もやっている人だ。




 頭の中に地図を思い浮かべながら、最短距離を全速力で走った――


空間認識能力は絵描きさんや外科医も優れているそうです。


余談ですが、予定外の配達業務をやった主人公には、ちゃんと追加の報酬が支払われます。

(基本、ホワイトな世界なので(笑))

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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