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第202話 王宮の夜

今回は視点を変えてお送りします。

 王城のさらに奥にある王族たちが暮らす宮殿、その一室で一人の中年男性が本を読んでいた。家具や調度類は上品で質の高いものが揃えられ、長く使い込まれたその表面は飴色に輝いている。


 魔道具が放つ淡い光で照らされた部屋にノックの音が響き、入室を告げる声とともに入ってきたのは幼い子供を連れた男女だった。



「遅くなりました、父上」


「わざわざ呼びて立ててすまんな、サンザ」


「失礼いたします、お義父(とう)様」


「……こんばんは、おじい様」


「ラメラもカリンもよく来てくれた、まあ座りなさい」



 部屋の主はサンザの父、つまりリューシエ大陸を治める国王である。彼が二十歳の時にサンザが生まれ、現在の年齢は四十三歳。王族ながら派手なものを好まず、美食や華奢(かしゃ)とは縁遠い生活を送るストイックな人物だ。


 今の年齢になっても、スラリとした体型を維持しており、まだまだ衰えを感じさせない。



「まずはカリンが連れている者たちを、紹介してもらえるかな?」


「……はい、おじい様。

 ……あたまのうえにいるのは、ほんのようせい女王ポーニャです」


「初めまして……ポーニャ…です。本のたくさん置いてある……倉庫で……暮らしています」


「……おひざのうえにいるのは、せいいきをまもってくれてる、れいじゅうのミルクです」


「みゃーぅ」



 事前に報告を受けていたとはいえ、自分の孫が妖精や霊獣を伴って現れたことに、国王は驚きを隠せない。


 現在の王都がある場所は、元々聖域のある森だった。近くにダンジョンが密集していたため、その森を開拓して街の規模を拡張した歴史がある。


 聖域を勝手に切り開き人が住むようになったため、この場所を守っていた霊獣は怒って出て来なくなった、人々の間ではそんな話が信じられていた。実際は人目につかないよう出歩いていたのだが、はっきりその姿を確認してコミュニケーションを取ったのは、龍青が初めてだ。



「名前はカリンがつけたのかな?」


「……ポーニャは、さいしょからなまえが、ありました。

 ……でも、ミルクはわたしが、なまえをつけました」


「ふむ……今日のカリンは、受け答えがしっかりしているね」


「……たいせつなおともだち、まもるちからがほしいから、おはなしもちゃんとできるように、なりたいのです」



 祖父と話す時はよそ行きの言葉遣いになるカリンだが、今日はおどおどした感じが鳴りを潜め、相手の目をしっかり見て話をしている。その瞳に強い意志が宿っていることに気づき、国王は更に驚いた。



「王族として他人を守りたいという気持ちは大切だ、その決意を忘れないように頑張りなさい」


「……はい、おじい様」



 ミルクとポーニャを胸に抱いて頭を撫でるカリンの姿を、国王たちは温かい眼差しで見守っている。


 この小さな少女がのちに、妖精や霊獣に愛された優しく美しい女王として、国民から絶大な支持を得ることになるのだが、それはまだまだ先の話だ。



◇◆◇



 本日執り行われた禁書庫の開放に関して事務的な報告を受けたあと、国王たちは家族モードになって雑談を始めた。



「流れ人に実際あってみてどうだった?」


「リュウセイという青年は、不思議な魅力を持った人物ですね」


「カリンが自分から声をかけたので、驚きましたわ」


「それは本当か!?」


「霊獣や守護獣と仲良くしている姿に、カリンは興味を持ったようです。ラメラから離れて一人で話をしに行く姿を見て、私も自分の目を疑いました」


「お昼を食べた後、リュウセイさんの膝に座って眠ってしまったほどなんですよ、お義父(とう)様」


「なっ、なんだと……」


「……お兄ちゃんのおひざ、あたたかかったです」


「うぬぬ……祖父として負けるわけにはいかん、どうすればいいと思うサンザ」


「私だって聞きたいくらいですよ父上」


「強敵が現れてしまったな」


「全くです」



 乳母や側付きの侍女にも人見知りを発動してしまう子が自ら進んで話しかけ、あまつさえ他人の膝で眠ってしまったことは、それほどの大事件だったのだ。


 しかもカリンは王族に相応しい振る舞いや礼儀を、物心ついた頃から教え込まれている。ある意味二重にありえないことが発生したのだから、彼らが驚くのも無理はない。


 カリンの膝抱っこがきっかけで、国王と王子からライバル視されることになったなど、龍青は知る(よし)もなかった。



「……お兄ちゃんから、これもいただきました、わたしのたからものです」



 カリンは()()()()()からブラシと猫じゃらしを取り出し、そのままミルクのブラッシングを始めた。



「みゃぁぁぁぅ」


「霊獣も毛並みを整えると、気持ち良さそうにするのだな」


「彼らの家に住んでいる霊獣も、喜んでいましたよ」


「強力な結界で守られている聖域で、シェイキアでも手が出せんと聞いておるが」


「二人の妖精が守っている家ですから、どんな手段で近づいても即座に把握されるそうです」


「二人の力が……共鳴しているから、……すごく強い……です」


「今日は掃除担当で参加されてましたけど、禁書庫だけでなく警備兵の詰め所まで、綺麗にしてくれたようですわ」


「……おそらをとべるので、たかいところもだいじょうぶと、いっていました」


「空を飛べる使用人が欲しいと陳情が届いていたのは、その影響だったのだな」



 一体何を言っているのかと正気を疑っていた国王も、妖精が参加していたことを知り納得顔になる。王城や宮殿は天井が高く、空を飛べることの利点は嫌というほどわかるからだ。


 家妖精の二人がどんな活躍をしていたのか聞いているとミルクのブラッシングも終わり、待ってましたとばかりにラメラが猫じゃらしを手にする。



「こちらの遊具をリュウセイさんたちは“猫じゃらし”と呼んでおりましたが、コンガーも(とりこ)にしていましたの」


「細い棒の先に毛玉をつけたような何の変哲もない道具に、あの男の心を奪う力があると?」


「見て下さいお義父(とう)様、こうして動かすと(じゃ)れてくれるのですよ」


「みゃぅっ! みゃみゃっ!」


「……母上さま、とてもじょうずです」


「私もこれをやってみたかったの、今度はコンガーにもやってあげようかしら」



 昼間は遠慮していたラメラだったが、家族しかいないこの場でちょっとハメを外していた。まるで少女のようにはしゃぐ姿は、夫のサンザですら見る機会の少ない貴重な光景だ。



「ラメラが霊獣を操っているようにも見えるな」


「猫人族の少女や守護獣もこの魅力には(あらが)えない様子でしたし、その光景を見ていた獣人族から問い合わせが殺到しています」


「眼の前で動くものがあると、ついつい体が反応してしまうと言ってましたわ」


「儂もやらせてもらって構わんか?」


「お義父(とう)様もやってみて下さい、とても面白いのですよ」



 ラメラから猫じゃらしを受け取った国王は、ミルクの前にそっと毛玉の部分を差し出す。その動きは恐る恐るといった様子で、簡単に前足でパシンと叩かれた。それを見て慌てて別の場所に動かすが、両足で挟み込むように踏みつけられる。



「ミルクの動きが素早すぎて、なかなか難しいものだ」


「棒のしなりを利用して、逆方向に気を逸らせたりするのがおすすめです」


「むっ……こうか?」


「……おじい様、すごいです」


「カリンに褒められるとやる気が(みなぎ)ってくるな、これについて来られるかミルクよ!」


「みゃみゃ! みゃぅっ!」



 サンザのアドバイスを受けた国王が、王国の暴れん坊と言われていた全盛期を彷彿とさせる動きで、ミルクを翻弄している。そんな二人の戦いは、カリンがウトウトし出すまで続いた。



「はぁっ、はぁっ……年甲斐もなく夢中になってしまったぞ」


「今の動きは昔の父上を思い出しました」


「これは素晴らしい遊具だ、王家の特別支出で猫じゃらし生産予算を組むことにする、書類は明日の朝までに用意しておこう」



 猫じゃらしを振りながらミルクと遊んでいた国王は、普及に向けてすぐさま動き出した。こうして王都を発信源とした猫じゃらしは一気に知名度を上げ、全国へ広がる事となる。



◇◆◇



 眠ってしまったカリンを連れて、ラメラは寝室に戻っていった。国王の私室にあるテーブルの上には、琥珀色の蒸留酒が入った二つのグラスと、小さな正方形に切ってピンで止めた真白直伝のサンドイッチが並べられている。


 具はマヨネーズで和えたゆで卵や魚、それに生野菜やハムを挟んだものだ。侍女たちにお昼のお裾分けをもらった王家の料理人たちが、真白から伝えられた調理法と自分たちの持つ知識や経験を組み合わせ、試行錯誤を繰り返しながら再現した力作である。



「これが異世界の味なのか」


「我々とは食材の利用法や概念が全く異なるので、かなり苦労したようです」


「卵で作ったソースを茹でた卵と混ぜるなど、思いつく者などいなくて当然だ。それにこちらの魚は、香辛料と一緒に()()()()というではないか」


「作り方を聞いた料理人たちも驚いていましたね」


「彼女らから昼食を受け取った者たちは全員が絶賛していたと聞くし、王家に迎え入れたいくらいだ」


「我々が率先して流れ人に干渉すると、三家が黙っていませんよ」


「シェイキアは男の方に入れ込んでいて、コンガーも彼らと交誼(こうぎ)を結んだと言っておったな」


「トニックも恩があると言っていますし、ビブラやマリンからの糺弾(きゅうだん)も覚悟しないといけません」


「王家が束になっても勝てる気がしないんだが?」


「これでカリンがリュウセイに嫁ぐなど言い出したら、私は一体どうすればいいのか……」


「ならん! 可愛い孫は絶対に嫁になど出さんぞ!」


「当たり前です! カリンが嫁に行くなど、私が許しません!」



 ――酔いが回りはじめた二人は、夜が更けるまでカリンの可愛さについて語り合うのだった。


 第0章の資料集やキャラクター一覧も更新しています。

(現時点では本筋に関係ないですが、かなり重要なことも書いている上に、量が多くて追うのが大変なので、今回は以下に転載します)


―――――・―――――・―――――


 ポーニャ【サンポーニャ:インカ帝国の笛】

  ヴィオレを超えるまろやかさを持つ本の妖精女王

  物静かな恥ずかしがり屋で、話し方もとぎれとぎれ

  毛先に向かって黒から緑になっていくセミショート

  カリン王女と友だちになり部屋を訪れるようになる


 ミルク

  王城の聖域を守る尻尾が二股の白猫

  バニラと同じく人の言葉をある程度理解している

  主人公を迷い猫のいる場所に連れて行った

  カリンに懐き、一緒にいる事が多くなる


 アコーデ【アコーディオン】

  ポーニャと本を作った人物

  後天的な原因で声を失った思想家

  統一国家の礎となった書物を書き残す

  そこには為政者としての心得が綴られていた

  サンザ王子の目指す開かれた王室もその一つ



◎王族

 サンザ【アフリカの親指ピアノ】(23歳)

  現国王の長男で王位継承順第一位

  (リコの[はとこ]に当たる)

  開かれた王室を目指し、様々な試みをしている

  幼い頃のコンガーに強くなって家臣になれと告げた

  それがきっかけになり主従契約を結ぶ


 ラメラ【ラメラフォーン:親指ピアノ】(21歳)

  現国王に仕える側近の家からサンザに嫁いできた

  幼い頃から王城によく来ており、コンガーとも知己

  粗暴になったコンガーをよく庇っていた

  恩義に報いたいと願ったコンガーと主従契約を結ぶ

  カリンの発達が少し遅く、二人目の子供はいない

  主人公達と出会って娘が成長した事に感謝している


 カリン【カリンバ:親指ピアノ】(5歳)

  妖精や霊獣に好かれる清い心の持ち主

  王城にある聖域の霊獣にミルクという名前をつける

  同じ恥ずかしがり屋同士でポーニャと意気投合

  やがて妖精や霊獣に愛された王女として知られる様に

  国民から絶大な支持を得た女王として歴史に名を残す


 国王(43歳)

  派手なものを好まない質実剛健な美中年

  (ケーナとは[いとこ])

  昔は王国の暴れん坊と言われる程やんちゃだった

  原因は姉のように思っていた叔母(ケーナ母)の影響


 ケーナの母

  先々代国王が41歳の時、側室との間に生まれた

  マリンを乳母として育ち、母のように信頼していた

  こっそりお城を抜け出して街に出るようなお転婆

  その時知り合った男性と結婚し、王都から引っ越す


 王族家系図

挿絵(By みてみん)


 関係者年齢表

挿絵(By みてみん)


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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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