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第18話 真白の初依頼

話の途中で、真白視点に切り替わります。

 今日から真白もギルドで依頼を受けることになり、三人そろって建物のドアをくぐる。今日はライムに加えて真白もいるので、中にいた冒険者の顔がいつも以上に緩んでいる気がする。



「おう、おはようリュウセイ」


「おはよう、シンバ」


「ライムちゃんと……マシロちゃんだったな、二人もおはよう」


「「おはようございます」」


「息もぴったりで、すっかり母娘になってるな」

「ライムちゃんとマシロちゃんが並んでると絵になるぜ」

「ライムちゃんも母親が出来ていつもより嬉しそうだ」

「マシロちゃんは今日も美しい」

「あのおっぱいを俺のものにしたい」



 また聞き捨てならない言葉が聞こえてきたが、真白と交際したかったら、まず俺を倒してからだ。


 ……まぁ実際に闘ったら緑の強化系持ちや、赤の攻撃魔法持ちには簡単に倒されてしまうのが現実だが。とはいえ、魔法を使って他人に危害を加えたら、死ぬまで強制労働という重罰が待っているので、この街にそんな事する者はいないだろう。


 でも剣の訓練は、もう少し頑張っておこう。



「お兄ちゃん、顔がちょっと怖いよ?」


「そうか?」



 考えが少し顔に出てしまったのかもしれないが、やはり真白は俺自身が気づかない表情の変化を見抜いてくるな。



「とーさん、よしよし」


「私のおっぱいはお兄ちゃんとライムちゃんのものだから、安心してね」



 真白に抱っこされていたライムが、手を一生懸命伸ばして俺の頭を撫でてくれる。しかし、真白もさっきのセクハラ冒険者も、あまりおっぱいおっぱいと言わないで欲しい。封印していた先日の光景を、思い出してしまいそうになる。



「今日はマシロちゃんも依頼を受けるのか?」


「はい、ギルドで冒険者さんの治療をする依頼が受けられると聞いたので、それをやってみようかなって思います」


「なにっ!? 俺、今日はちょっと難易度の高い依頼を受けるぞ!」

「てめぇ、抜け駆けすんじゃねぇ!!」

「僕たちも今日はダンジョンに行ってみよう」



 座って雑談をしていた冒険者達が、真白の言葉を聞いて一斉に立ち上がり、依頼掲示板に殺到する。無理な難易度の依頼は受付嬢に受理されないらしいが、わざと怪我をするような真似だけは、しないもらえると助かるんだが。



「みんな、むりしないでね」


「「「「「わかってるよ、ライムちゃん!!」」」」」



 ライムに向かって揃ってサムズ・アップしてるが、みんなノリノリだな……

 パーティーや種族もバラバラなのに団結力が高いのは、この世界に生きる冒険者の特徴なのか、あるいはこの街ならではのものなのか。ひとまず俺たちも依頼を探しに、掲示板の方に移動した。



「私の受けられる依頼はこれだね」


「俺はこの荷運びの依頼にするよ」


「ギルドで治療を担当してるのは、年寄りの婆さんと怪我は筋肉で治せとか言う筋力至上主義の男でな、マシロちゃんみたいな可愛い子が参加してくれると喜ばれるぜ」



 切り傷を筋力でふさぐ様なマンガがあった気がするが、現実に可能なんだろうか。シンバの話を聞いていると、その男性自身もかなりのマッチョで、治癒師より剣で魔物と戦ってる方が似合いそうな体つきをしているらしい。外見や性格と発現する魔法は無関係なんだな……



「頑張ってみますね」


「ライムはどうする? 母さんの治療のお手伝いをしてみるか?」


「ライムは体をうごかすほうが好きだから、とーさんの手伝いする」


「ライムちゃんも気をつけて頑張ってきてね」


「あとでお話きかせてね」



 受付で手続きを済ませ、真白は建物の奥の方に、俺とライムは外に出て依頼主のもとに向かう。初めての仕事で不安があるかもしれないが、治療には必ず一人以上のベテラン職員がついてくれるらしいので、真白なら大丈夫だろう。



○○○



 初めての仕事で緊張するけど、ギルドの人がサポートしてくれるらしいので、精一杯頑張ってみよう。それにしても、やっぱりライムちゃんはお兄ちゃんと一緒の方がいいみたいで、ちょっとだけ寂しい。でも出会ってまだ数日なんだし、生まれて初めて目にした人がお兄ちゃんだと言ってたから、ああして懐いてるのはしょうがないか。


 ライムちゃんは可愛いし行儀が良くて手がかからないので、子育て経験のない私とお兄ちゃんでも、親子としてやっていけてる。お兄ちゃんとの子供にはずっと憧れてたけど、こうした形で現実になるとは思ってなかった。これからもっともっと仲良くしていけば、お兄ちゃんと本当の夫婦のようになれるかもしれない、そんな想像をしてニヤけそうになる顔を引き締め、案内されたドアをノックして中に入る。



「おはようございます、今日はよろしくお願いします」


「あんたが今日の担当だな、噂には聞いてたが本当にべっぴんさんだ。初めてでどれくらいの人数を治療できるかわからんし、様子を見ながらやっていこう」


「はい、精一杯がんばります」



 中にいたのは中年の男性で、恰幅が良くて話し方もかなりフランクだ。この世界の人はこうした口調の人が多いみたいだから、お兄ちゃんも凄く話しやすそうにしている。日本にいた頃より確実に口数も多くなってるので、この世界に来たのはお兄ちゃんのためにも良かったのかもしれない、そんな事をちょっと考えてしまった。


 その人から「肩の力を抜いて楽にしたほうがいい」と言われたので、少し体の力を抜きながら仕事の説明を受ける。ここで治療するのは基本的に、依頼で怪我をした人だけだそうだ。それ以外の人はお布施や食べ物を寄付して教会で治療を受けたり、お金はかかるが確実な処置を受けられる治療院に行くらしい。そういえば目が覚めてから魔法の色を調べてもらった教会のシスターも、怪我の治療がどうとか言って私を神が遣わせてくれたみたいに話していたっけ。



「午前中は比較的患者も少ないが、午後からは少し多くなる」


「ここに来た人を全員、治療していけばいいんですか?」


「中にはかすり傷や、トゲが指に刺さったくらいで来る奴もいるからな。まずは俺が診察して、状態のひどい患者だけマシロにお願いする」


「わかりました」



 どんな状態の人が来るかわからないけど、ひどい怪我とか血を見ても大丈夫かちょっと心配になる。お兄ちゃんも大怪我をした冒険者を数回見たことがあると言ってたけど、この世界の人はそういう状態の人を見ても、取り乱したり気分を悪くしたりすることは無いみたいだと話してくれた。ライムちゃんも心配はするけど平然としてるし、お兄ちゃん自身もご飯が食べられなくなったりは無かったらしい。


 この世界に来た時に、こちらの人に合わせて感情にリミッターがかかるようになったんじゃないか、治療の依頼を受けると決めた後、お兄ちゃんがそんな風に教えてくれた。本当にそんな事があるかわからないけど、まずは今日一日頑張ってみよう。



◇◆◇



「こんなもん、軟膏を塗って一晩寝れば治る!」


「すげー水がしみるんだよー、お昼からも依頼を受けたいから治してくれよぉ」


「バカ言うな、こんなのいちいち治してたら、いくらマナがあっても足りん」


「そんなぁー、新しい治癒師の姉ちゃんが来たって聞いたから期待してたのに……」



 小学校高学年くらいの子供の右腕は血こそ出てないけど、肘から手の方にかけて大きく擦りむいて真っ赤になっている。確かにこれは水とかしみてしまう、地味に痛いんだよねあれ。



「あの、それも治療しますよ」


「ホントか、姉ちゃん!!」


「もう何回か魔法を使ってるが大丈夫なのか?」


「はい、だるくなったり気分が悪くなったりしてませんし、まだまだいけると思います」



 そう答えておくけど、私には今のマナの量がわかっている。この前に発現した“マナ計器(メーター)”のおかげで、少し意識すれば目の前にゲージが浮かんでくるからだ。治療を始めてから何度も確認しているけど、ヒール(治療)で消費するマナより、お兄ちゃんが大きな荷物を入れて減る量の方が多い。


 それに減ったマナも、目に見えるスピードで回復している。お兄ちゃんの読んだ本には、マナの回復は落ち着いて体を休めるか寝るかしないとダメと書いてたから、これはきっとライムちゃんの持つ竜人族の力なんだろう。



「ならやっても構わんが、くれぐれも無理はするなよ」


「はい、任せてください。それじゃぁ、右腕をこっちに出してくれる?」



 怪我をしている右腕に手を当てて呪文を唱えると、真っ赤になっていた皮膚が元の色に戻り、少し腫れていたのも治っていく。ゲームみたいに効果音が鳴ったり光ったりはしないので地味だけど、こうして傷が消えていくのはとても不思議な光景だ。それを自分の力でやっているというのは、ちょっと嬉しくなってしまう。



「はい、終わったよ」


「すげー、一瞬できれいに治った。ありがとう姉ちゃん、お昼からも頑張ってくるよ!」


「怪我しないように気をつけてね」



 子供は手を振りながら、元気に部屋から走って出ていった。



「マシロはかなりマナの量が多いみたいだな、さすがは流れ人ってところか」


「普通の人はどれくらいの回数使えるんですか?」


「怪我の程度にもよるから一概には言えんが、多いやつでも二・三十回ほどで限界だな」


「他にもここで治療を担当してる人がいるって聞きましたけど、その人たちもそれくらいですか?」


「婆さんはマナの量が少なくて、大きな怪我だと数人で息切れしちまう。もう一人の男は人並みのマナ量だが、あいつは何でも筋肉で治せと言うからな」



 こうして話をしている間に、さっきの治療で減ったマナはほぼ回復してしまっている。あれくらいの傷なら、何人来ても大丈夫ということだろう。でも、そんな事を言ったらびっくりされるだろうし、チートな能力はどんな影響を及ぼすかわからないってお兄ちゃんが心配してたから、緊急の時以外は黙っておこう。



◇◆◇



 午後からは部屋を訪れる人も増えて、魔物の爪で斬られたり歯型が付いてしまった人も運び込まれてきた。軽い傷も全部治してあげたいけど、午前中の治療は子供だったから特例で、私が大丈夫だからって全てやると、それが標準になってしまうからダメだと言われた。


 私やお兄ちゃんは、いずれライムちゃんの仲間を探す旅でこの街を離れるんだし、言われたことはもっともなので、治療の判断はすべて任せることにした。それでも今日治療した人は、そろそろ二十人くらいになろうとしている。



「すまない! こいつを診てやってくれ!!」



 突然入口の扉が勢いよく開き、男性に抱えられた女の人が入ってきた。その人はぐったりとしていて、廊下にも点々と血の跡がついているので、かなりの大怪我みたいだ。ベッドに寝かされてた背中を見ると、爪のようなもので切られた四本の大きな筋が見える。そこから大量の血が出ていて、服や防具を真っ赤に染めていた。


 こんな大怪我をもし日本で見ていたら、気分が悪くなるか気を失いそうになってだろうけど、お兄ちゃんの言っていたリミッターが働いたんだろうか、何とか冷静でいられる。



「こいつは……体の大事な部分は傷ついていないようだが、傷が広範囲すぎる」


「俺の婚約者なんだ、何とかならないかっ!?」


「今日の治療を担当してる子は、もう二十人ほどに魔法を使ってるんだ、これだけ広範囲の怪我は相当のマナを消費してしまう」


「婆さんと筋肉はいないのか?」


「婆さんはもうマナ切れで帰ってるし、筋肉は修行に出ていて暫く帰ってこない」



 治療院はここから離れた西区の方だし、教会で大怪我の治療は無理だと聞いてる。結婚を控えてる女の人だから、今ここで綺麗に治してあげたい。大きな怪我の治療は時間が経つと跡が残ったりするらしいので、やるなら早いほうがいいと思う。



「大丈夫ですよ、やれます」


「この傷だと婆さんが全力でやっても塞がるかどうかだぞ、今日一日やってきた後だから無理はするな」


「時間が経つと跡が残ってしまいますし、やるなら今ここでやったほうがいいですから、やらせてください」


「無理を承知で頼む! こいつを治してやってくれ」



 女性を運んできた男性が、こちらに大きく頭を下げてくれる。必ず治してあげるからと言ってサポートの人に傷口を消毒してもらい、そこに手を当てて呪文を唱える。



ヒール(治療)



 これだけ大きな傷の治療は初めてだけど、体から何かが抜けていくような感覚がある。これがマナの消費なんだろうと目の前に集中したら、やっぱりゲージが徐々に減っている。でもさすがに三人分、しかもライムちゃんの膨大なマナがあるので、これくらいなら全然余裕だ。


 いつもより少し時間がかかったけど、傷口は完全にふさがったみたいだから確認してもらう。濡れた布で拭かれた背中は、きれいな状態に治っていて安心した。



「ふぅ……良かった」


「ありがとう、こんなにきれいに治るなんて奇跡のようだ」



 男性は両目に涙を浮かべながら、何度もお礼を言ってくれた。血が流れすぎたので女性の意識はまだ戻らないけど、呼吸は安定しているから、しばらく安静にしていれば大丈夫だろうと言われていた。


 ギルドではそれぞれの冒険者の実績に合わせて、受けられる難易度の依頼を決めているので、こうした大怪我を負うことは滅多に無いそうだけど、この二人は結婚資金を稼ぐために無茶をしてしまったみたい。様子を見に来たギルドの人にこってりと絞られていて、ちょっと可哀想だった。



「大丈夫か、マシロ」


「最後の治療は何かが抜けていく感じがしましたけど、大丈夫です」


「あれは相当のマナをもって行かれたんだろう、そろそろ兄貴も戻ってくる頃だし、今日は上がってゆっくり休め」


「わかりました、今日は色々教えてもらってありがとうございました」


「こちらこそ世話になった、今日はマシロがいてくれて助かったよ」



 初めての依頼だったけど、無事終わって良かった。色々なことも教えてもらえたし、マナや自分の魔法についてもわかったことがある。お兄ちゃんとライムちゃんにたくさん話したいことも出来たし、またベッドの上でイチャイチャしよう。


竜人族は、その存在自体がチートですね(笑)


夜にもう一話投稿するかもしれません。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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