第196話 シェイキアとの話し合い
新章の開始です。
章の名前はノケモノはいないアレ。
(マジカル・スクールの方ではないw)
日常中心の章になりますが、個別デート回やドキドキエピソードも(笑)
ゆる~くお楽しみ下さい!
ディストから古代竜言語を十分に教えてもらった後、シエナさんは自分の寮へと帰っていった。かなり抵抗されたが、部屋の掃除はバッチリだ。片付いたベッドには、ぬいぐるみや抱き枕を所せましと置いてみたので、夜も寝られるんじゃないかと思う。
穴が空いたり古すぎる服はすべて処分し、外出着を中心に買い揃えている。新しい服を着たシエナさんを見た時、俺と真白は小学校の卒業式に参列した保護者気分を味わうことが出来た。もちろんそんな事は、口が裂けても言えないが……
いつもの暮らしに戻った後も、ディストの体力回復のため街の中や周辺で出来る依頼のみにして、まったりとした日々を過ごしていた。そんな時、シェイキアさんから折り入って話したいことがあると連絡を受ける。このタイミングだから、まず間違いなく真竜であるディストのことだろう。
―――――・―――――・―――――
「遺跡調査から帰ってきたばかりなのにごめんね、リュウセイ君」
「帰ってからだいぶ経ったし、十分休めてるから気にしないでくれ。それよりベルさんの方こそ、ずっと出張で飛び回ってたんだろ?」
「心配してくれてありがとう、リュウセイ君。今回は表の仕事だけだったの、少し気疲れしたくらいで、何も問題なかったわ」
ベルさんは表の仕事、つまり冒険者ギルドの査察で、いくつかの街を回っていたらしい。最後に会ったのは神樹祭のときだけど、その後も色々あったから随分久しぶりの気がする。
「行き先や日程がうまく合えば一緒に行けたのに、残念だよ」
「それは気にしないで。リュウセイ君たちが王都にいて、お母様を手伝ってくれたのだけでも、すごく助かってるんだから」
「転移でヴォーセの街に行けるようになったし、そっち方面で用事があるときも頼ってくれ」
「ふふっ、行ける場所がどんどん増えてるわね」
女性の姿で軽く化粧をしたベルさんが微笑むと、ついつい目を奪われてしまう。男性の格好をしている時とのギャップが大きすぎて、本当に同一人物なのか疑問を持ってしまうほどだ。
「もー、ベルちゃんとばっかりイチャイチャしてないで、私ともお話してよー」
「おっ、お母様! 私は別にリュウセイ君とイチャイチャしてたわけじゃ……」
「リュウセイって、いつもそんな感じなのかい?」
「とーさんは、みんなと仲良しだよ」
「俺としては一般的な世間話のつもりだったんだが……」
「ボクたちとは別の価値観や常識があるだろうに、こうして異なる世界の人たちと仲良くできるのは、やっぱり何度見ても凄いと思うよ」
「リュウセイ君とマシロちゃんに初めて会った時、二人はこの世界にすごく馴染んでるって言ったけど、世界そのものと相性いいのかなぁ」
「元の世界のことを完全に忘れることは出来ないけど、俺はこの世界に来て良かったと思ってる」
「私もお父さんやお母さん、それに友だちに会いたいって思うけど、こうしてお兄ちゃんと夫婦になれたし、娘も出来て幸せだよ」
「リュウセイは種族の王たちにも好かれてるし、ボクもこうしてると落ち着くくらいだから、世界と相性がいいのは確かかな」
ライムを抱っこして隣りに座っている真白は嬉しそうにこちらを見上げ、俺の膝に座っているディストは甘えるように後頭部をこすりつけてくる。
最近はあまり意識してなかったけど、ライムが名実ともに俺たちの娘になったから、もう正式な夫婦と言ってしまってもいいんだろうか? 確か事実婚とかいうものが、あった気がする……
それにしても世界と相性がいいか。
地球と違って様々な人類、それに妖精や精霊という存在が身近にいる恩恵は大きい。戦いを生業にしていたり自由な生き方を標榜している人も多く、顔つきや喋り方で不利益を受けることが無いというだけでも、俺にとっては何ものにも代えがたい価値がある。
「えっと、真竜様でよろしいでしょうか」
「そんなに畏まらなくてもいいよ、シェイキア。ボクなんて死ねない体で生まれてきただけの存在だし、今は肉体に精神が引っ張られてるから、威厳も何もあったものじゃないしね」
「では、ディスト様とお呼びします」
「う~ん、リュウセイみたいに呼び捨てでもいいんだけどなぁ……」
「シェイキアは国を代表する者の一人じゃから、ディストをそう呼んでしまうのは仕方ないのじゃ」
「お母様だけじゃなくて、この大陸に住む者は全員同じだと思うんだけど、リュウセイ君たちの家族みたいに馴染んでてちょっと怖い」
そういえばシエナさんも、最初はかなり怖がってたな。付き合ってるうちに慣れてきたのか、帰る前にはすっかり君呼びが定着していたけど。
「この家にいるディスト、リュウセイに甘える普通の男の子」
「あるじさまとは特に仲がいいもんねー」
「毎日ご主人さまとお風呂に入って、ちょっと羨ましいです」
「今の姿だとライムちゃんのお兄さんみたいな存在だから、実質リュウセイ君の子供ね」
「ボクもリュウセイ父さんって呼んだ方がいいかい?」
「自分がどれくらいの年月を生きてるか覚えてない人に、父親と言われるのはちょっと複雑な気分だよ」
ディストの頭を撫でていると、弟ができたみたいな気持ちになる事はある。しかしいくら見た目が小さくなってるとはいえ、遥かに年上の彼を自分の子供と思えるかと言われたら微妙だ。
シエナさんは……何かに付けて言動が幼くなるからな。あの人なら自分の子供と言われても、受け入れられそうな気がする。
「リュウセイさんは誰に対してもそうやって優しくしてくれますから、この世界を作った神様にも同じような事ができそうな気がします」
「ピピー」
「キューイ」
「なぁぁーぅ」
『世界の神が本当に存在するなら、撫でられる姿を見てみたいものだな』
『わたくし達も撫でてもらった事がありますしね』
『ありゃー、結構気持ちよかったぜ』
「私はリュウセイに頭を洗われたが、確かに悪くなかった」
そういえばお風呂場でエコォウの頭を洗ってみたり、精霊王たちの頭を撫でてみたりしたな。確かリコと一緒にお風呂に入って、誰のなでなでが一番好きかって話をした時だったか。
俺はリコにとって三番目だったけど、それは仕方ないことだろう。それでも両親と同じくらい好きだと言われて、とても嬉しかった。
まぁ、本当に神が存在するとして、それが許されるなら撫でてみよう。
「じゃぁ、この中で撫でられたこと無いのって、ベルちゃんだけ?」
「えっ!? 私はほら、あの、えっと、う、海に行った時……」
「あれは緊急時だったから数に入れちゃダメよ」
「それなら今から、お兄ちゃんになでなでしてもらいましょう!」
「抱っこしてなでてもらうの、気もちいいよベルおねーちゃん」
「旦那様の胸に抱き寄せられながら、なでなでされるのが好きなのです」
「膝枕されながらも捨てがたいですよ」
「さぁベルちゃん、好きなのを選んでちょうだい」
「あの、どうしてこうなってるの?」
シェイキアさんはディストになにか聞きたいことがあったんだろうけど、話が脱線しまくっている。本当にどうしてこうなったんだろうな。
俺とベルさんの身長差は理想だと、真白が以前言っていた。つまり百六十三センチ位あるはずだ。膝抱きしたら顔が真横に来るから、お互いに意識してしまうのは確実だと思われる。
そもそも年上女性の抱っこを考えた時に、リプレイ付きのノックアウトシーンが流れ、思考をキャンセルしたのはつい最近だ。お互いに気まずくなるのは避けたいし、この流れを断ち切るのは無理そうだから、次善の策というのを提案してみよう。
「そうだな、まずは膝枕からやってみるのはどうだ?」
「あの……えっと、それくらいなら」
「まずは難易度の低いものから慣れさせて行く作戦ね!」
「さすがお兄ちゃんだね!」
シェイキアさんと真白は何を意気投合してるんだ。俺としてはこの場を乗り切る意図しか無かったが、どこか言い方を間違えたのか?
「あの、本当にごめんね。お母様があんな風に言い出したら、なかなか諦めてくれないの」
「ウチの家族も同じようなものだから、ある意味お互い様だ。肩車はあれだけ楽しんでくれたんだから、膝枕も同じようにしてもらえると嬉しいよ」
「うん、ありがとう、リュウセイ君」
「くっ……ベルちゃんじゃなくて、私がお願いすればよかったわっ」
シェイキアさんは会うたびに抱っこや膝枕してるんだから、今回は諦めてくれ。
ディストが膝から降りて俺と真白の間に座り、反対側にいたソラとスファレが別の場所に移動してくれた。少し離れた場所にベルさんが腰を下ろし、ゆっくりと体を倒しながら恐る恐るといった感じで、足の上に頭を乗せてくる。
耳まで赤く染まっているから、相当恥ずかしいんだろう。
膝の空いた部分に移動してきたネロと一緒に頭をゆっくり撫でていると、こわばっていた体から力が抜けて足に感じる重さが増してきた。香水のせいなのか使っている石鹸の違いなのか、ウチの家族とは違うとてもいい匂いがする。
「リュウセイの膝枕はどうだい?」
「高さがちょうど良くて暖かくて、なんだかすごく落ち着きます」
「ベルちゃんはそのままでいいからね」
「……はい、お母様」
ベルさんの顔を覗き込んでみると、安心しきった表情で目を閉じていた。こうして身を委ねてもらえるのは嬉しいので、そのまま頭を撫で続けることにしよう。
「王立考古学研究所からも少し話を聞いたのですが、ディスト様に詳しいことをお伺いしてもよろしいですか?」
「ボクからシエナに色々教えたことだよね。何か問題があったのかな?」
「その件に関しては問題ありません、所長も古代史の謎が一気に紐解かれたと喜んでおりました。差し当たっては情報を厳格に管理し、この家族やディスト様に迷惑がかからないよう、国を挙げて取り組むことになっています」
「シエナもそう言ってくれたけど、ここでゆっくりと体を癒やしたいから助かるよ」
シェイキアさんの聞きたかったのは、主に邪魔玉に関することだった。なぜ神域という強力な結界内に発生したのか、なにか前兆や手がかりになるものは無かったか、そんな質問をディストに投げかけている。
手がかりは特に無いし、神域に現れた原因も謎だ。前兆といえば神子であるライムが、竜人族として生まれてきたことだろう。
ディストと出会わなければ目覚めないはずのライムが、俺の転移とともに覚醒して自ら父親認定したこと。流れ人の来訪を察知できる精霊王に気づかれること無く、この世界に転移してきた俺と真白。
恐らく今回の異変は人為的に引き起こされたもので、それの対抗手段としてか何か特別な力で異世界召喚が行われた可能性がある。ディストと出会うまでは憶測だったことも、ある程度の確度で話せるようになった。
そうなってくると俺たち家族が出会ったことは、何かしらの力が影響しているという推測も成り立つ。しかし、それは気にしてもしょうがないし、こうして家族になったことは幸せしかもたらしていない。
そもそも、そこまでこの世界に干渉できるなら、邪魔玉の除去だってもっと効率のいい方法があるはずだ。それこそ地元民の夢枕に立ったり、教会関係者にお告げをするなりして、人や竜族を動かした方が解決は早い。
以前ベスが言っていたように、深海に沈める方法もあるのだから。
「国ですら手に負えない事態だったのは明らかね」
「ボクや他の代表者たち、それに力の強い聖域をほぼ同時に機能停止させようとしたんだから、かなり用意周到に事を進めてたんだと思うよ」
「王都のダンジョンで起こった異変は、魔物との融合とか邪気を溜め込む実験だったんじゃないか、そんな風にも考えられるんだ」
「王都を混乱させるのが目的だって線もありえるわね。あんな場所で邪魔玉が発見されたら、私の家でも対処できないもん」
「どんな意図があるにせよ、その場で足止めされるはずだったボクや王たちは開放されて、聖域やダンジョンも無事なんだ。たとえ何か企んでいる人がいたとしても、これ以上思い通りにはならないと思うよ」
「引き続き私たちの家で情報を集めますので」
「人の多い場所で起こる異変はシェイキアさんが頼りだから、よろしく頼むよ」
精霊たちは大きな流れに身を任せている存在なので、情報収集という点では不確定要素が多い。ヴォーセにあった竜神殿の遺跡みたいに、流れを別の力で迂回させて印象に残りにくくすることも可能だ。
現時点で大陸に住む有力者のほとんどが、この王都に集まっていると言っていい。ディストの言った通り、最悪の事態は確実に回避されていると思う。
「あらら、大人しいと思ったらベルちゃん寝ちゃってるね」
「なぁー」
「ベルおねーちゃん、気持ちよさそう」
「お兄ちゃんの膝枕だし、寝ちゃうのは仕方ないよね」
「疲れてたんだろうし、このまま寝かせておこう」
収納からブランケットを取り出してベルさんにかけてもらい、そのまま頭を優しく撫でながら眠ってもらうことにした。起きたら恥ずかしがるかもしれないけど、いい夢を見て欲しい。
普通に手を伸ばして撫でるという選択肢を思いつかなかったお兄ちゃん先生(笑)
◇◆◇
ベルの身長も確定したので、資料集のサブキャラ欄の最後に、サブヒロイン(+1)の身長対比画像を付けています。
(登場人物一覧にも身長を追加)
それから、作中に登場する種族の大体の身長も記載しました。
↓以下転載
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◆種族について
[人型種]
・人族 :平凡な種族だが補助魔法が発現しやすく、生活基盤を支える種族
(男性の身長が平均で160cm代、女性が150cm代)
・獣人族 :獣族とのハーフと言われ、身体強化の種族スキルを持っている
(種によって大きく異なり男性は190cm代~160cm代
女性が170cm代~140cm代で耳の高さは含まない)
・鬼人族 :オーガとのハーフと言われ、肉体強度がとても高い
(男性が平均で2m前後、女性は140cm代)
・エルフ族:精霊とのハーフと言われ、マナの量が多くレア魔法が発現しやすい
(古代エルフ:男150cm代、女140cm前後
ハイエルフ:男170cm代、女160cm代/無冠エルフは人族と同じ)
・小人族 :妖精とのハーフと言われ、小柄で器用だが力は弱い
(男女とも110cm代)
・竜人族 :竜族とのハーフと言われ、各地を転々としており数が少ない
(男性が180cm代~170cm代、女性が170cm代~160cm代)
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身長163cmのベルが男としてやっていけるのは、男性人族の平均に近いからです。
この世界では現代の日本人より、平均身長が数センチ低い。




