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第193話 真竜の祝福

 ディストが邪魔玉を封印していた洞窟の中から外に出て、地脈の源泉とだという池の近くまでやってきた。そこに布のレジャーシートを広げ、お菓子をつまみながらくつろいでいると、まるでピクニックに来たような気分になる。


 山に囲まれた場所ということを除けば天気もいいし、水のように見える地脈と(かたわ)らに立つ立派な木、そして周囲には緑の絨毯が敷き詰められた、素晴らしい景観だ。



「へー、これが焼き菓子っていう食べ物なのか、美味しいね」


「ディスト君って、普通に食べられるんだねー」


「竜族は地脈の力で生きてるんじゃないんですか?」


「この姿だと普通に物を食べられるし、味だってちゃんとわかるよ。竜の姿の時に地脈の力を使うのは、食べ物から栄養を取れないって理由だから、何かを飲み込んだりするのが精々なんだ」


「あなたもそうやって邪魔玉(じゃまぎょく)を飲み込んでいたものね」


「まさかあんな取り出し方をされるとは思わなかったよ……」



 こちらをジト目で見上げてきたディストの頭を撫でると、すぐ嬉しそうな顔になった。なんだか弟ができたみたいで、ちょっと楽しい。家族や友人の女性率が高すぎるので、ライムとは別なベクトルを持つ癒しだな。



「さっき竜人族の隠れ里って言ってた、ライム連れて行きたい」


「隠れ里に行く方法はいくつかあるんだけど、一番時間のかからない手段を使いたいんだ。それなら家族全員で行くことができるし、もう少し力が戻るまで待ってくれないかな」


「どうやったら早くげんきになるの?」


神子(みこ)のライムが近くにいてくれたら力を取り戻しやすくなるし、聖域にお邪魔させてもらうのが最善だね」


「それなら一緒に王都まで帰りましょう」


「ここを留守にするのは、大丈夫なんじゃな?」


「君たちが邪魔玉って呼んでる物を浄化してもらったから問題ないんだけど、転移に使った装置って一度起動すると次に使えるのは数日後なんだ」


「それなら俺の転移魔法が使えるから問題ない、外の遺跡にも行けるしここにも戻ってこられるぞ」



 この神域についた時に確認したら、転移装置の近くにポイントが登録されていた。結界内とはいえこうして太陽や空も見えているから、完全に外と切り離されているわけではなんだろう。それなら空間同士を直接結ぶ転移魔法で、移動できるというわけだ。



「結界内に直接来られるなんて、リュウセイの魔法は無茶苦茶だね」


「リュウセイさん、それならすぐ王都に帰りますか?」


「いや、今日はここに泊まらせてもらおうと思うんだけど、構わないか?」


「ここなら危険な動物はこないし、ハグレも発生しないから、ゆっくりしていっていいよ」


「俺たちは今、遺跡の調査でここに来てるんだ。その成果を持ち帰らないといけないし、帰還の判断はシエナさんに任せるよ」



 いったん王都に戻ってそこから通うという手もあるけど、せっかくこんな場所に来たんだから一夜くらい明かしてみたい。今から帰ってもディストの服を買いに行く時間は無いし、俺のちょっとしたワガママだ。



「外の遺跡と違ってぇ、あんなに綺麗な状態で残ってる柱の模様をぉ、ちょっと調べてもいいですかぁ~?」


「柱の模様って古代竜言語(こだい・りゅうげんご)のことだね、よければ教えてあげようか?」


「えぇっ~!? いいのぉ~?」



 ディストに対してちょっと気後れしていたシエナさんだが、古代竜言語を教えてもらえると聞いて思いっきり食いついている。こんなところはさすが研究者だ。


 ソラとスファレも一緒に聞いてみると意気込んでるから、本格的な勉強会を王都の家でやってもらい、シエナさんにはしばらく滞在してもらおう。



◇◆◇



 話がまとまった所でさっそく野営の準備を始め、真白とコールの作った食事をディストにも堪能してもらった。かなり気に入ってくれたようなので、食事でも力の回復を目指して欲しい。


 なんでも、今までこうして食事をしたのは竜人族とだけで、彼らは塩と香草くらいしか使わないそうだ。仮にライムが竜人族と暮らすことになっても、食事が合わずに彼らの元を飛び出すのは確実だな。


 絶対に手放したくない理由が、また一つ増えた。


 清浄魔法の後にブラッシングも終わらせ、今はみんなベッドでくつろぎながら窓の外の風景を眺めている。地脈源泉の近くに設置させてもらった野営小屋から見える夜景は、青い月明かりに照らされてとても神秘的だ。



神子(みこ)(つか)わされるのは世の中が荒れる時なんだけど、こうして一緒にのんびり景色を眺められるって、不思議な感じがするよ」


「前はどんな時に神子が生まれたんだ?」


「その時はいつくかの大陸が海に沈んで、世界中が荒れた時期だったんだ――」



 この星には、かつて大きな大陸が三つ存在し、そのうち小さい方を(オーガ)族が、中くらいの方を獣族が支配していた。人の姿に近い者は一番大きなこのリューシエ大陸に集まって、いくつかの国に分かれて暮らしていたそうだ。


 ところがある日、一夜にして鬼族と獣族の住んでいた大陸が沈没するという、大規模な地殻変動が発生する。気候もそれまでとは大きく変わってしまい、この大陸にわずかに残っていた鬼族と獣族は、その変化に対応できず絶滅してしまう。


 唯一沈没を免れたこの大陸も地脈がズタズタに寸断されて、土地の持つ活力も失われてしまった。その危機を乗り越えるために神子が誕生し、八人の竜たちと協力しながら地脈の修復をしたそうだ。



「ライムに地脈をなおす力とかないよ?」


「それはボクや竜族でやるんだけど、神子には旅の最中の連絡役や調査をお願いしてたんだ」


「まえの人は、ひとりで旅をしてたの?」


「まだ小さかった頃は一緒に旅をして、大きくなってからは一人で旅をしたんだよ」


「ひとりで旅をしても、だいじょうぶだったのかな……」


「ボクは神子の竜人族に力を授けることが出来るから、それを使えば安全に旅ができたのさ」


「すごいねディストにーちゃん!」


「ここにいる王たちの言葉を借りると、真竜の祝福といった感じになるのかな。遠い場所にいる竜族と話をしたり、誰かを守る力も渡してあげられるけど、ライムも受け入れてみないかい?」


「家族をまもる力だったら、ライムも欲しい」


「それならボクの正面に座ってくれる?」



 目の前に座ったライムにディストが手を伸ばすと、指先から銀色の光が発生して胸の辺りへ吸い込まれていった。



「これでライムも飛べるようになる?」


「ごめんね、飛べるようするのは無理なんだよ。ボクだってこの姿の時は飛べないしね」


「ちょっと残念だけど、なにが出来るようになったの?」


「魔法を見てごらん」



《力が見たいの》



 ライムの呪文で左手の甲に浮かび上がったのは、元々あったものに加えて一気に五つも増えていた。そこには[同化|遠話|転移|息吹|防衛|感取]と書かれている。


 飛翔や飛行といった飛べそうなものは無いけど、見たことのない魔法ばかりだ。



「いっぱいふえたよ、とーさん!」


「六つは凄いな、神話級じゃないか」


「ライム、神になった」


「同化は元々ライムが持っていた竜魔法だね。残りの五つは地脈を通して、離れた場所にいる竜族やボクと会話できる遠話。竜族の使う攻撃方法とよく似た、マナを直接相手にぶつける息吹――」



 ディストの説明によると、新しく増えた五つの竜魔法はこんな感じだ。


  遠話:地脈を利用した遠距離通話

  転移:地脈を利用した瞬間移動

  息吹:マナの塊を飛ばす遠距離攻撃

  防衛:物理・魔法・状態異常ダメージを大幅軽減するパッシブスキル

  感取:意識すれば地脈を知覚できるアクティブスキル


 遠話や転移は、地脈の繋がってない場所だと利用できない制約がある。通話相手は竜族だけに限定されるし、転移は自分だけしか移動できない。俺と同化したら二人で移動できるかもしれないけど、それは何かの機会があったら試してみよう。


 それより嬉しいのは、アズルの持つ完全防御障壁に匹敵する守りを、常時発動状態で使えることだ。これでライムの身の安全が大幅に向上する。



「ライムちゃんが怪我しにくくなって、お母さんすごく嬉しいよ」


「みんなをまもるために、息吹っていうのもちゃんと使えるようになるね」


「ゆっくりでいいから、上手に使えるようになろうな」


「ライムちゃん凄いねー」


「さすが私たちの妹ですー、お姉さんとして凄く誇らしいですよー」


「私を超える魔法枠を持った人ができて、ちょっと嬉しいです」


「ピピー」


「ライムならその力、正しく使える」


「リュウセイとマシロの娘じゃから、当然なのじゃ」


「精霊や妖精の知らなかったことが次々起こるなんて、やっぱりあなた達と一緒は楽しいわ」


「お姉さんはぁ、もうお腹いっぱいですぅぅぅ~」



 状況について来れてない人が約一名いるけど、王たちにすらその存在が知られていなかった場所に、神子以外の人間が初めて足を踏み入れたのだから、諦めてもらおう。



『しかし、儂らより(なが)い時を生きておるからこそ、神の竜と呼ばれるのだな』


『わたくし達はこの大陸のことしか知りませんものね』


『鬼族や獣族も見た記憶がねぇな』


「私とて同じようなものだ、他にも大陸があったなど知らなかったよ」


「二つの大陸が海に沈んだ時に、精霊や妖精たちも大きく数を減らしてしまったからさ。王たる器を持った存在が再び現れるまで、長い時間が必要だったみたいだよ」


「この大陸の歴史が次々明らかになってるけどぉ、こんなの発表したら国中大騒ぎになっちゃうよぉ~」


「物的証拠や現存する資料もないだろうし、信じてもらないかもしれないな」


「学会で発表するのは無しにしてもぉ、所長にだけは一応報告してもいいかなぁ~?」


「ボクの存在自体が全く知られてないし、その記憶だけじゃ証拠や根拠にならないと思うけど、誰かに伝えるのは構わないよ」


「所長はすご~く信頼できる人だからぁ、迷惑かけないようにちゃんと対処してくれるからねぇ~」



 眠くなるまでディストと色々な話をしたけど、普段はこの神域からほとんど出ないだけあって、世の中の流れについてはかなり(うと)かった。この大陸が統一国家になったのも、知らなかったそうだ。


 それでも人の記録に残っていない太古の話は面白く、歴史のロマンを感じてしまう。


 この世界に生きる者の最上位に位置する存在と、直接話ができるというのは本当に貴重な体験だ。


大規模な地殻変動とは自転軸の変化(ポールシフト)です。

星に四季が生まれ、寒さに弱い鬼族と暑さに弱い獣族は、環境変化に適応できませんでした。

(という設定を一応考えています(笑))


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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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