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第183話 父性無双

 部屋が片付きすぎていて落ち着かないというシエナさんが、一緒に寝たいと部屋まで来た。ライムが俺に登って空いたスペースに、すっぽり収まったシエナさんの顔からは、不安げな表情がすっかり消えている。


 寝るときも小さな髪留めを付けっぱなしにしているのは、この家族になら素顔を見せても大丈夫と思ってくれたからだろうか。



「やっぱり何かに埋もれて寝るのは落ち着くよぉ~」


「こんど部屋の掃除に行ってもいいか?」


「やめてぇ~、寮で暮らせなくなっちゃうぅぅぅ~」



 嫌がられるとわかってるのに、やっぱりついつい言ってしまう。意識して誰かにツッコミを入れることはあっても、こうして自然に出てくることは今まで無かった。ちょっと不思議な感覚だ。



「リュウセイ君とシエナちゃんの会話って、とても面白いわ」


「お姉さんはぁ、いじられ過ぎだと思うんだけどぉ~」


「頭いっぱい撫でてもらえる、シエナ羨ましい」


「今も撫でられてるんだけどぉ~。大人の女性の髪なんだからぁ、もっと丁寧に扱ってよぉ~」


「その大人の髪は、ウチでお風呂に入るまでボサボサだったし、色もちょっとくすんでたぞ?」


「うぅっ……」


「シエナ様の頭は、三回お洗いしているのです」


「洗うたびにツヤツヤになるので、ちょっと楽しかったですよ」


「最初は指通りも悪かったんだよ」



 手入れを疎かにすると、そこまで傷んでしまうものなのか……

 家にはお風呂があるし、旅の途中はコールが毎日清浄魔法をかけてくれるから、何をすればそんな状態になるのか、想像ができない。



「今はこんなにサラサラで綺麗だから、もう大丈夫だな」


「綺麗って言ってもらえるのは嬉しいんだけどぉ、なんだか複雑な気分だよぉ~」


「嬉しいんだったら、諦めて受け入れてくれ」


「お姉さん、リュウセイくんに勝てる気しないよぉ~」


「なんだか、今日のリュウセイさんは父性が無双状態なので、私も勝てる気がしません」


「コールの言うとおりなのじゃ」



 父性はともかくとして、こうして遠慮なく付き合えるというのは、やはり新鮮だ。もちろん本気で嫌がることをするつもりはないが、こちらをジト目で見つめるシエナさんから、そんな気配は感じられない。



「もういいよぉ、きっとされるがままに(もてあそ)ばれてぇ、飽きたら捨てられるんだぁ~」


「俺はそこまでひどい人間じゃないぞ」


「お姉さんはそんな人いっぱい見てきたもん、今は珍しいから構ってくれてるだけだもん」


「あれ? シエナさんってそんなに珍しい人なのか?」


「リュウセイくんはそう思ってないのぉ~?」


「この国にある研究機関の内情を知らないけど、シエナさんみたいに若い人が主席研究員というのは凄いと感じてるくらいで、ありえない話とは思ってない」


「じゃぁじゃぁ、この歳でこんなに小さいのはどう思うぅ~?」


「小人族のソラがいるし、古代エルフのスファレもいるから、別に変だとは思えないな」



 元の世界でも、若くして特定分野のトップに上り詰めた人は数多くいる。それに、創作物やゲームなら見た目も含めて、こうしたキャラが出てくるのは、もはやお約束だ。俺からすれば、十分ファンタジーなこの世界にシエナさんのような人がいても、何ら不思議には感じない。



「ふ~ん、初めて会った時ぃ、特に態度が変わらなかったのはぁ、そのせいなのかなぁ~?」


「私とお兄ちゃんがいた世界には、様々な登場人物がでてくる物語や遊び(ゲーム)があったんですよ。そんな創作物に触れていたから、シェイキアさんにもこの世界にすごく馴染んでるって、言ってもらえました」


「なになにぃ~、それってすごく興味あるぅ、お姉さんにも教えてほしいなぁ~」



 シエナさんがキラキラとした目でこちらを見てくるので、俺たちの世界にあったファンタジー小説やゲームのことを語っていく。一人、また一人と眠っていき、最後は二人だけになってしまったが、意識を手放すまで話を続けた。




―――――・―――――・―――――




 目が覚めると、いつもより明るい気がする。

 昨夜は請われるままに話を続け、どちらからともなく眠ってしまった。寝るのが遅くなってしまったので、いつもの時間に起きられなかったんだろう。


 そういえばシエナさんの仕事は、何時から始まるのか聞いてなかった。そう考えて隣を見ると、いつの間にか抱きつかれるような姿勢になっている。


 起こさないように少しだけ腕を動かし、前髪をそっと左右に分けてみると、気持ちよさそうな寝顔が見えた。何かに囲まれてないと落ち着かないと言っていたけど、俺と真白に挟まれてよく眠れたようだ。



「お兄ちゃん、おはよう」


「おはよう真白」


「シエナさんの様子はどう?」


「とても良く眠ってるみたいだ」


「こうしてると、本当に私たちの娘が増えたみたいだね」


「すぐお姉さんぶる可愛い娘だな」



 そう言って真白と笑い合う。

 シエナさんの身長は、元の世界だと小学生くらいだ。俺や真白の年齢で、そんな歳の子供がいるのは無理がある。しかし、ライムという存在のおかげで、違和感なく受け入れられるのは、良いことなのか悪いことなのか……



「今日の仕事、大丈夫なのかな」


「俺もそれが気になってた。この家は職場からも遠いし、いつもより早く出かけないとダメだから、可哀想だけど起きてもらおう」



 縋り付くように眠っているシエナさんの肩を軽く揺すってみたが、全く起きる気配はなかった。頬をツンツン突いてみても、「うにゅ~」とわずかに声を出すくらいで可愛い、いや手強い。



「シエナさん、朝ですよ、起きてください」


「……うぅ~、まだ眠いよぉ、もうちょっと寝かせてぇ~」


「仕事に間に合わなくなるかもしれないから、一度起きて確認してくれ」


「……代わりに行っておいてぇ~」



 いや、ダメだろそれは。

 起きられない原因は夜ふかしかもしれないが、こんな寝起きの悪さで一人暮らしして、本当に大丈夫なんだろうか。



「このままだと無理やり起こすことになるから、その前に自分で行動してくれ」


「……お姉さんが魅力的だからってぇ、無理矢理はダメだよぉ~」


「本当は目が覚めてるんじゃないか?」


「・・・・・」


「完全に寝てるみたいだよ、お兄ちゃん」



 あぁ、もうこれは実力行使しか無いな。

 ちょっと手荒になるかもしれないが、自業自得と思って諦めてもらおう。



◇◆◇



「うわぁ~ん、なんでもっと早く起こしてくれなかったのぉ~」


「何度も起こそうとしたぞ」


「でもでもぉ、あんな起こし方って無いよぉ、私お姉さんなんだぞぉ~」


「最後まで目を覚まさなかったシエナさんが悪い、諦めてくれ」


「うぅ~、お父さんにもあんなのされたこと無いのにぃ~」


「そのおかげで起きることが出来たんだから、いいじゃないか」


「お姉さん、(けが)されちゃったよぉぉぉ~」


「人聞きの悪いことを言うのは、やめてもらえないか」



 軽く叩いてみたり、上半身を持ち上げてみても、シエナさんは全く目を覚まさなかった。最終手段ということで、起きてきたメンバー全員でくすぐった。息が出来なくなるまでやってしまったのは反省点だが、目覚めてもらう方法はこれしか残されていなかったんだ。



「これ以上遅刻したらぁ、お給料減らされちゃうぅ~」


「とりあえず着替えて朝ごはんだ」


「そんな時間無いよぉ~」


「朝ごはんはしっかり食べないとダメです」


「マシロちゃんもぉ、お母さんより厳しいよぉ~」



 辻馬車の運行時間まで、まだ少し余裕がある。朝ごはんをしっかり()らないと一日の活力が得られないから、この家にいる以上それは守ってもらおう。



◇◆◇



 洗いたての服に着替え、朝ごはんをしっかり食べた後、出勤の準備をする。イコとライザが洗ってくれた白衣は、昨日までと違ってシワひとつない仕上がりだ。ちょっと反則だが、洗った後にモジュレに脱水してもらい、エレギーが乾燥を担当してくれた。


 精霊王の力をこんなことに使うのは申し訳ないけど、そうでもしないと一晩で乾燥は無理だ。同じようなことはスファレも可能なので、遠征中の衣類乾燥は任せている。今回は二人が面白がっていたのと、ここに来る精霊たちは王の役に立つと喜ぶらしく、たまに何かやらせる方が良いということでお願いした。



「それじゃぁ、行ってくるねぇ~」


「いってらっしゃい、シエナおねーちゃん」



 みんなの見送りを受けながら家を飛び出したシエナさんだったが、玄関にあるポーチの上で転んだ。



「俺が職場まで送ってくるよ」


「怪我は治療しておくから、お願いね、お兄ちゃん」


「手を繋ぐから、一緒に行こう」


「うぅ~、お姉さんなのに迷惑かけてばっかりだよぉ~」


「迷惑だなんて思ってないから大丈夫だ、とりあえず大通りまで急ごう」



 手を繋いだまま速度を合わせて走り出し、路地を二つくらい越えた辺りでシエナさんに限界が訪れた。



「……お姉さん、もうらめぇ~」


「何を言ってるんだ、まだ始まったばかりじゃないか」


「……二人は引き裂かれる運命だったのよぉ、お姉さんに構わず先に行ってぇ~」


「バカなことを言うんじゃない、志半(こころざしなか)ばで諦めてどうするんだ、目的地(ゴール)はすぐそこにある、あと少し頑張ってくれ」


「……もう、もういいのよぉ、これ以上苦しむくらいならぁ、私は減給を選ぶわぁ~」



 本当に体力がないなこの人は、百メートルも走って無いんじゃないか?


 こうなっては仕方がない、出来ることなら使いたくなかったが、もうアレしか無いだろう。非情の選択を突きつけることになるのは心苦しいけど、背に腹は代えられないというやつだ。




 俺はシエナさんの顔を見ながら、ある提案をした――


シエナ相手だとツッコミ系主人公に変わる、お兄ちゃん先生(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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