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第180話 強制連行

せっかく4年に一度の閏日なので投稿します!

休校やイベント中止が相次いでいますが、皆さまもお気をつけください。

 王立図書館の中で出会った研究員の女性と話し込んでいたら、閉館ギリギリの時間になってしまった。元の棚に本を返却し終えて全員で外に出ると、こちらに近づいてきたシエナさんにじっと見つめられる。何となく真剣な雰囲気が出ている気もするが、目元が髪の毛で隠れているから表情は見えない。



「あのぉ~、さっき言ってたポーニャの話ってぇ、私も聞きに行ったらだめぇ~?」


「俺たちは今から家に帰ろうと思ってるんだけど、ここからだと結構距離があるぞ?」


「頑張って歩くしぃ、帰りも一人で大丈夫だよぉ、なんたってお姉さんだからねぇ~」


「家に来てもらうのは問題ないんだが……」


「会ったばかりなのにそんな事言われたら迷惑かなぁ~」



 館内でも話が途中になっていたし、遺跡のことをもっと詳しく聞いてみたいと思っていたのは確かだ。しかし、今の時間から俺たちの家に来たら、帰る頃には真っ暗になる。王都の治安はかなり良いといっても、家の近くまで送る必要があるだろう。



「シエナさんはどこに住んでるんだ?」


「私が住んでるのはぁ、この近くにある寮だよぉ~」


「今から家に来ると辻馬車の運行時間内に帰れないかもしれないから、明日伝えるってわけにはいかないか?」


「うぅ~、だって私も気になるんだもん~。こんなんじゃ今夜眠れなくなっちゃうよぉ~」



 研究者の(さが)なんだろうか、好奇心を抑えられずに暴走気味なところは、ちょっとソラに似ている。どうしたら良いだろうかと真白を見たら、うなずいてから近くに来てくれた。元の世界ではいつも助けられていた、妹の交渉力に期待しよう。



「えっと、今日のお仕事はもういいんですか?」


「私ってここが半分職場みたいなものだからぁ、もう帰っても大丈夫だよぉ~」


「いったん寮に戻ってもらって、かまいませんか?」


「それは問題ないけどぉ、やっぱり家に行くのはだめぇ~?」



 なんだか泣きそうな声になっていて罪悪感をヒシヒシ感じるが、ここはグッと我慢だ。頑張れ真白、兄はお前のことを応援しているぞ。



「それなら寮に戻って着替えを取ってきましょう、今夜はお泊り会です!」


「えっ~!? いいのぉ、やったぁ~!!」



 あれ? 断る流れかと思っていたのに、彼女を家に泊める話になっている。シエナさんも喜んでいるし、これでいいんだろうか。一応丸く収まっていはいるが……



「ここで待ってますから、着替えを取って来てもらってもいいですか?」


「うん、わかったぁ、すぐ取ってくるからねぇ~


 ――――――ふみゃぁっ!!」



 あ、また何もない所でコケた。

 もしかして走るのが苦手なんだろうか。


 石畳の上で転んだのでどこか怪我をしてしまったらしく、真白が慌てて駆け寄ると治癒魔法を発動している。本人は立派な大人だと言っているが、ちょっと放っておけない感じの人だ。



◇◆◇



 結局、全員でシエナさんの寮に行くことになった。ここは国の職員が借りられるアパートで、独身寮として使われているらしい。


 今は着替えを取りに行った彼女を、門の前で待っている。



「泊まりに来ていいと言ったのは、ちょっと驚いたよ」


「だってお兄ちゃんも、もっと話したかったでしょ?」


「確かにもう少し遺跡の詳細を聞きたかったけど、明日でも良かったんじゃないか?」



 この世界に来てからどんどん察しが良くなっている真白には、隠し事が一切出来ない気がしてくる。何でもかんでも暴かれるわけではないけど、俺のプライバシーがちょっと心配だ。



「えっとねシエナさんって、間違いなく私生活がダメダメな人だから、ちょっとおせっかい焼きたくなったの」


「着ていた白衣とかシワがひどかったけど、そんなにか?」


「あの白衣、確実に一ヶ月は洗ってないよ!」


「お風呂とかもちゃんと入ってないんじゃないかなー」


「この住宅にお風呂があるかわかりませんが、体も適当にしか拭いてないと思います」


「食事ちゃんとしてない、肌が昔の私と同じ」


「私が野宿していた頃と同じ空気を感じるので、何とかしてあげたいです」


「髪の毛も綺麗に整えてやりたいのじゃ」


「ライムもシエナおねーちゃんのこと、ちょっとしんぱい」


「みんなであの子を生まれ変わらせてあげましょうね」



 何やら女性陣が一致団結して、やたら張り切っている。相手は大人の女性なんだから、程々にしておいた方がいいと思いつつ、声をかけると思わぬ反撃を受けそうなので黙っておいた。



「だからね、お兄ちゃんは転移で先に戻って、お風呂の用意しておいてくれる?」


「それは構わないが、女性だけで大丈夫か?」


「途中まで辻馬車で移動するし、まだ明るいから心配しなくても大丈夫だよ」


「私たちが付いてるから平気だよー」


「もしご心配でしたら、ヴェルデさんを強化してあげて下さい」


「わかったよ。ヴェルデを呼んでもらっていいか?」



 呼び出してもらったヴェルデに三倍強化をかけて、一足先に家に戻ることにした。心配なのはナンパの方なんだが、集団で移動していたら大丈夫か……



◇◆◇



 家に帰って玄関の扉を開けると、いつものようにイコとライザが出迎えてくれる。一緒に来ていたバニラが、ジャンプして胸に飛び込んできた。



「ただいま、イコ、ライザ、バニラ」


「キュイーン」


「お帰りなさいませなのです、旦那様。お一人で帰ってこられたのですか?」


「お帰りなさいですよ、旦那様。他の皆さまはどうされたです?」


「他のみんなは辻馬車で帰ってくるんだけど、お客さんが一人来るからお風呂の準備をしておいて欲しいんだ」


「了解なのです」


「お任せくださいですよ」



 二人がお風呂の準備に向かったのを見届けて、バニラを抱いたままリビングへと移動した。ちょうど多目的ルームの方から四人の王たちが移動してきたので、ただいまの挨拶をしてソファーへ座る。



『図書館は楽しかったか?』


「古いものや珍しい書物が置いてあって、しばらく通いたくなったよ」


『精霊に関する本などございましたか?』


「全ての本は確認できてないけど、エルフ族以外に馴染みが薄いせいか、専門書みたいなのは無い感じだったな。でも、ヴィオレが妖精語の本を見つけてくれた」


「ほう、それはどういった本なのだ?」


「妖精の使う言葉を音にした本だけど、挨拶とか日常会話が書かれていて、その内容を訳した本も別にあった。その関係でこの後お客さんが一人来るから、エコォウに教えてもらいたい事があるんだ」


「私にわかることなら協力しよう」


「研究者の女性なんだけど、本の内容にすごく興味があったみたいだし、よろしく頼むよ」


『おいおい、研究者たぁどういうことでぃ。まさか俺様たちを調べに来るんじゃねぇだろうな』


「古代文明の研究者だから、多分大丈夫だと思う」



 興味くらいは示すと思うが、何かを根掘り葉掘り聞き出すような人ではないだろう。もしそんな性格だったら、図書館で会った時にヴィオレやライムが質問攻めにされてたはずだ。


 謎の名前についてはみんながいる時に聞くほうがいいだろうと黙っておき、それ以外の話をしていたら玄関の扉が開く音と、イコとライザの声が聞こえてきた。



「みんなお帰り」


「あっ、あのぉ、お邪魔しますぅ~」


「さぁ、シエナさん、まずはお風呂だよ!」


「えっ? えっ!? どうしてそんな話にぃ~?」


「なんだ、帰ってくる途中で説明してなかったのか?」


「この手のめんどくさがり屋さんは、下手に説得しようとしても無駄だからね。問答無用で連れて行くのが一番なんだよ。イコちゃんとライザちゃんは結界で捕縛後、脱衣場まで連行して」


「神妙にしてくださいなのです、シエナ様」


「大人しくお縄を頂戴するですよ、シエナ様」


「三日くらいお風呂に入らなくたって平気だよぉ、誰か助けてぇ~」


「この家ではマシロ様が法なのです」


「マシロ様に逆らうと、ご飯が食べられなくなるですよ」


「あれぇ、体が動かないんだけどぉ、それに宙に浮いてるぅぅぅ~」



 イコとライザの結界に捕まったシエナさんは、「あぁ~れぇぇぇ~」と言いながら真白と一緒にお風呂場へ消えていった。三人とも結構ノリノリだったけど、シエナさんもちょっと楽しそうな声だったな。


 残っているメンバーに聞いてみると、真白の予想通りかなりズボラな人のようだ。ここまで話をしながら帰ってきたみんなの印象は、お風呂に入らない日は体を拭くことすらサボっていそう、というものだった。さすがに三日もお風呂に入らないというのは看過できないので、この機会に入浴剤の素晴らしさをじっくり体験してもらおう。



◇◆◇



 お風呂から上がったシエナさんが、うつむいたままリビングに戻ってきた。服は身長の近いイコかライザに借りたらしく、見覚えのある部屋着だ。ボサボサだった髪もきれいに整えられていて、色艶がかなり増している。少しくすんだ色だったのは、単に汚れていただけか。



「うっ、うぅぅぅぅ、もうお嫁に行けないぃ~」


「その時はお兄ちゃんが責任とってくれるから大丈夫ですよ」


「一体お風呂で何があったんだ……」


「私はご飯の準備に行くから、あとはよろしくね、お兄ちゃん」



 そう言い残すと、真白はイコとライザを連れてリビングから離れ、コールの待つ厨房へと向かっていった。こんな状態の女性を放置して、一体俺にどうしろというのか。



「妹が暴走してしまったみたいで申し訳ない、ウチのお風呂はどうだった?」


「すっごく柔らかかったぁ……」



 本当にお風呂で何をやったんだ俺の妹様は、これ以上のことを聞くのが怖い。



「とりあえずソファーに座ってくれ」


「うん、ありがとぉ~」


「シエナおねーちゃん、すごくきれいになったよ」


「いつまでもうつむいとらんで顔を上げるのじゃ」


「恥ずかしいよぉ~」


「そんな事ない、自信持っていい」



 身長差があるので俺からは頭頂しか見えていないが、下から覗き込んでいるライムやソラは、シエナさんのことをやたら褒めている。後ろに立ったクリムとアズルは、励ますようにシエナさんの肩へ手を置いていた。


 みんなに気を使われているうちに決心がついたのか、うつむいていた顔がゆっくりと持ち上がる。細いヘアピンでまとめられた前髪から覗く顔を見た瞬間、俺は言葉を失ってしまった……



「初めて見た素顔はどう? リュウセイ君」


「……正直驚いた、本当にエルフ族じゃないんだよな?」


「昼間も言ったけどぉ、正真正銘ぇ人族だよぉ~」



 この容姿を隠すために、前髪を伸ばして野暮ったい格好をしてるんじゃなか、そう納得してしまえるものが目の前にある。スファレやシェイキアさんを見慣れている俺ですら、思わず息を呑んでしまう程だ。


 人は見かけによらないというか、完全に意表を突かれてしまった。真白があれだけ強引な態度に出て、それを誰一人として止めなかったのが良くわかる。これを隠しておくのは、はっきり言って勿体ない。




 晩ご飯の呼び出しがかかるまで、リビングはその話題で持ちきりになった。


メカクレキャラや瓶底メガネのお約束です(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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