第169話 メイド無双
最後の部分に、ちょっとお遊び的な文章を書いています。
本編にはあまり関係ないので、軽く流してください(笑)
俺たちのパーティー九人と王たち四人、そしてシェイキアさんと四人の隠密にギルド長を加えた総勢十九人で臨時パーティーを組み、王都にある超巨大ダンジョンまでやってきた。今はダンジョン特有の地形になっている入り口にある広場に陣取り、装備や備品の最終チェックをやっている。
メイド集団に執事という服装は目立つが、ギルド長や隠密の四人が周囲に睨みを効かせてくれるので、誰も話しかけてくる冒険者はいない。
「今すぐ必要な忘れ物はないな?」
「食べるものに関しては、この人数だったら半月くらい賄えるから、安心してね」
「冷たい果実水やアイスクリームも大量にあるから、砂漠の階層でもへっちゃらよ」
『暑くてやってらんねぇとか、凍えそうってときゃぁ俺様に言いな、ちぃとばかし力を貸してやるぜ』
「水は私に任せて下さい、進化したヴェルデと一緒なら、どれだけ人数が増えても大丈夫です」
「ピルルルー」
『夜の見張りは儂が担当しよう、安心して眠るといい』
ダンジョンに季節はないが、時間に合わせて明るくなったり暗くなったりする。外の明るさと、ダンジョンにある壁や天井の明るさが同期しているため、擬似的な昼夜が生み出されるからだ。まだダンジョン内で夜を明かしたことはないが、真っ暗になるわけでなく月明かり程度の明るさがあるらしい。
『水の多い場所なら、わたくしの結界である程度お守りできますわ』
「索敵も怠らない、任せて」
「瘴気の漂うような場所は、私の方で対応しよう」
「指揮官のシェイキアさんと王たち四人、それに真白の安全を最優先で頼む。真白には常に三倍強化で待機してもらうから、大抵の事態は乗り越えられるはずだ」
「私の障壁魔法で必ずお守りします」
「ポーションも支給してもらってるから、自分の身はなるべく自分で守るよー」
「家にも在庫があるし、召喚魔法で呼び寄せた分はイコとライザに補充するようにお願いしてるから、遠慮なく使ってくれ」
強化された治癒魔法とポーションがあれば、怪我や状態異常の心配はかなり低くなる。それに使った分のポーションを家から召喚できるというのは、大きなアドバンテージだ。
「あの、リュウセイ君?」
「何か質問があるのか、シェイキアさん」
「複数パーティーで挑む大規模集団戦より支援体制が充実してる気がするんだけど……」
「今から捜索するパーティーは黒階なんだろ? 階位の最上位に位置する人たちが対処できない事態が起きてるかもしれないんだ、準備を怠ることは出来ないと思うぞ」
「あー、うん、それは最もな意見だね。やっぱりリュウセイ君たちに話を持ちかけて良かったよ」
捜索対象がエルフ族ということで、国としてもデリケートな対応をとらざるを得ないと言っていた。参加できる人員も限られているし、ベースキャンプを確保しながら徐々に捜索範囲を広げていくような、時間のかかることをやる余裕もない。
それなら自分たちの持つ能力を最大限に活用して、一気に攻略するのが一番だ。そのための安全対策は、過剰なくらいがいい。
「オレの方からここの構造を説明しよう。まず、この層は普通のダンジョンだが、二層目は迷路型になる。三層目が沼の多い地形で四層目は砂漠だ。そして五層目に目的の森がある」
「砂漠の遺跡、下に行く場所変わるって聞いた、今どこかわかる?」
「それはギルドで常に把握している、任せておけ」
「最短経路が記載された地図をもらってるから、三層目までは俺が案内するよ」
「五層目がわれとシェイキアの出番じゃな」
「上層の弱い魔物は私とクリムさんで片付けますので」
「ピルルルー」
「あるじさまは道案内、ソラちゃんは索敵に集中してねー」
ギルド長から階層の説明と、一定周期で変化する次の層へ行く遺跡の位置について情報をもらう。それぞれの役割分担も確認し終え、いよいよ超大型ダンジョンへ進行を開始した。
◇◆◇
第一層はどこのダンジョンでも見られるような、土がむき出しになった通路が網の目のように伸びるタイプだ。ここは全部で五階あり、魔物もそれほど強くない。
「そこの脇道、大きなネズミ型、数は二」
「了解だよー、行ってくるねー」
《硬いおしおきハンマー!》
狭いダンジョン内なので、土で出来たハンマーより小さくなる、二倍強化のストーンハンマーを具現化させ、クリムが脇道の方に走っていく。あっという間に戻ってきた手には、黒と青の魔晶が握られていた。
「ソラちゃんの感知が優秀すぎるわ」
「位置と数も正確だし、種類までわかるなんてとんでもないな」
「抱っこで集中できる、強化で形わかる、全部リュウセイのおかげ」
「そこの分かれ道は真ん中を行ってくれ、すぐ次の分かれ道があるから、今度は右だ」
「リュウセイさんの道案内も、相変わらず地図いらずで凄いです」
「ここに入ってから、リュウセイ君が地図を見たのって、まだ三回くらいよね」
「とーさんの、とくいぶんやだからね」
「ライムちゃんはどんどん新しい言葉を覚えていくから、お母さん嬉しいよ」
「のんびり話をしながら進んでいるようで、もう四階まで来ちまってる、信じられん……」
進行方向と襲われそうな距離にいる魔物しか倒してないし、それもソラの感知とクリムの機動力で事前に全て潰しているから、歩みを止める必要がない。最短ルートは比較的単純で道も平坦だから、探索を目的にしてなければかなり楽に進める。
普段の活動でも、下の階を目指すときはこんな感じだけど、ギルド長の口ぶりを見ると、他のパーティーよりスピードが速いみたいだ。強化魔法と、バランスよく全ての魔法が揃っているおかげだろうな。
「みんな、少し止まって」
「あらあら、なにか見つけたのかしら、ソラちゃん」
「よく見つけたなソラ、私も危うく見逃すところだったぞ」
「クリム、そこの壁、削ってみて」
「了解だよー」
クリムが具現化したハンマーでダンジョンの壁を軽く削ると、黒い石の塊が露出した。金属のような光沢があって、大きさと形は卵に似ている。
「それ黒玉丸ね」
「磨くと光反射してきれい、宝石の一種」
「こりゃまた珍しいもんが見つかったな、帰ったら競売にかけるといいぞ」
「さすがソラおねーちゃんだね」
「普通は埋まってるもんを見つけるなんて無理だからな、出来るのはお前らだけだ」
「やっぱりソラの観察眼と祝福の相性はいいな、見つけてくれてありがとう」
抱っこしたソラの頭を撫でると、嬉しそうに頬を擦り寄せて甘えてくれる。いくら違和感を感じる力がついても、周りの状況をしっかり見ていないと見落とすことだってありえる。感知魔法を使いつつ周囲の観察も怠らない集中力は、きっとソラだから出来ることだと思う。
「こんなのが見つかるなんて、なんだか幸先がいいね」
「かえってこない人、みつかる?」
「大丈夫だ、ライム。みんながいれば絶対に見つけられる」
「うん! がんばってさがそうね」
人より多くの経験を積めるエルフ族のベテラン冒険者だから、例え想定外のトラブルに遭遇しても冷静な対処ができるはずだ。国からも、未知の状態異常やメンバーが負傷した等の理由で、どこかに身を隠して救助を待っている可能性が高いと伝えられている。
エルフ族のパーティーにも収納魔法持ちが一人いるから、ある程度の備蓄を持ってダンジョンに入ったのは間違いない。このことが心の支えになり、気持ちに余裕を生んでいた。
◇◆◇
通常ダンジョン形態の層を抜け、次は迷路型の層に入った。ここは全部で三階あり、通路もあまり広くない。この階層では、ピャチで購入した籠手を装備し、短剣も手にしたコールが大活躍している。ハンマーを思う存分振れないクリムは、飛翔系の弾丸で魔物を釣ったりするサポート担当だ。
「そこの角を右、オオカミ型の魔物、動き速い気をつけて」
「わかりました、行ってきますね。ヴェルデお願い」
「ピルルルルルー」
ヴェルデの身体補助と支援を受けたコールが、一気に加速して角を曲がっていく。前衛のクリムとアズル、それにコールは、スカート姿でダンジョンに入ることはないので、なんだかとても新鮮な光景に見える。
「お館様」
「なーに?」
「あの御方は近衛隊長といい勝負が出来るんじゃないでしょうか」
「コールちゃんは彼みたいな戦闘狂じゃないけど、面白い勝負になりそうな予感はするわね」
「鬼人族の頑丈な体に獣人族の身体能力なんざ、相手にとっちゃ悪夢だろ」
「一対一だとコールちゃんに押し負けるんだよー」
「ご主人さまの強化とヴェルデさんの支援を受けると、私がスキを作ってクリムちゃんが攻撃するくらいでないと、有効打が入らなくなってきました」
同じようなことは以前ビブラさんも言っていたし、この依頼中にギルド長から受けている戦術指南が身についていけば、国内最強の武人にどれだけ近づけるんだろう。
そんな評価を受けているコールは無事討伐を終え、曲がり角の先で手を振っている。その姿は電気街で通行人にチラシを配っている、元気なメイドさんにしか見えない。
しかも背が低くて胸がまろやかという、人目を引く要素も満載だ。シェイキアさんを見慣れているはずの隠密四人もコールに見とれてるから、この世界でもきっと人気者になれる気がする。その時の露払いは俺がしっかり務めよう。
「リュウセイさーん、見て下さい水色の魔晶です」
「やったな、コール」
「あらあら、コールちゃん嬉しそうね」
「はい、この服って結構動きやすいですし、精霊王さんたちのおかげで、安心して戦えるのが嬉しいです」
『そうやって喜んでもらえると、力を貸した甲斐がある』
『その笑顔を見られただけで良かったと思いますわ』
『魔物を蹴散らすおめぇらの姿を見てっと、俺様もワクワクするぜ』
「この服、みんなに好評、作ってよかった」
上層で討伐を担当していたクリムも同じような評価だったし、デザインと機能性の素晴らしさが後押ししてくれるおかげで、時々遭遇する他の冒険者の目も気にならなくなってきたみたいだ。
しかし、戦うメイドさんというのは、とても絵になるな。
この世界にはないけど、日本刀を振り回す姿も見てみたい……
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その日、王都の冒険者ギルドでは、とある話で持ちきりだった。
それはギルド長が使用人や執事服を着た集団と一緒に行動している姿を、ダンジョン内にいた冒険者に目撃されたことが原因だ。
もちろん使用人姿の女性が、ダンジョン内で魔物相手に無双しているという情報も伝わっており、事情を知らない者たちは自分の冒険者適性に疑問を感じてしまう事態に発展した。
その出来ごと以降、無茶な活動をする冒険者が減り、ダンジョンに挑むには使用人に勝てるようになってからという、暗黙のルールが出来上がる。
そのことにヒントを得た各地の冒険者ギルドが、戦闘の適性試験を担当する訓練員に制服を導入したのは、それから暫く経ってからの事であった。
もちろん、そんな事を龍青たちは知る由もない――
老後の資金を貯める感じに、地味に収入も増やします(笑)




