第157話 神樹祭の準備
0話の資料集を更新して、コール・クリム&アズル・ソラ・スファレに各王たちからの祝福効果を追記。サブキャラに竜族のチェレンと妖精王、セミの街からリコとケーナ、それに街の説明文も加えました。
いよいよ神樹祭パートの始まりです。
神樹祭当日、先発組の九人でエルフの里にやってきた。
早朝の時間にも関わらず広場に机や椅子を並べたり、屋台のようなものを組み立てている人がいる。ちょっと縁日っぽくてワクワクするな。
「凄いねー、あちこちに木が生えてるから、街とは雰囲気が全く違うよ」
「空気もきれいな感じがします」
『儂らは準備があるから先に行っておるぞ』
『宴には必ず間に合いますので、ご期待くださいな』
『俺様たちの本気を見せてやるから、目ん玉かっぽじって刮目しやがれってんだ』
「宴が始まった後に霊木のある場所に来るといい、私からも里の者たちに一時の夢を授けよう」
何やら王たちがやる気をみなぎらせている。三人の精霊王はそれぞれ別の場所へ移動し、妖精王は霊木のある方向へ飛んでいった。
「マシロとコールは男どもに目を奪われたりせんか?」
「私はお兄ちゃん以外、眼中にないからね」
「私もリュウセイさんより背の低い方には魅力を感じません」
「われの思ったとおりじゃな、さすがリュウセイの家族なのじゃ」
「それってどういうことなんだ?」
実は俺もエルフの男性を目の前にした時の反応を少し警戒していた。真白の答えはまぁ予想通りだが、種族を問わず異性を虜にするエルフを見て、何かしら感じるものがあると思ったからだ。
「それはね、基準がお兄ちゃんてことなの」
「ライムにはまだそんな感情は芽生えておらんじゃろうし、そもそも普段から父さんと結婚すると言っとるのじゃ」
「クリムちゃんとアズルちゃんは、主従関係のない人に興味は示さないはずだよ」
「ソラさんはリュウセイさんの抱っこや肩車じゃないと、心動かされたりしないと思います」
「イコちゃんとライザちゃんは私と同じ妖精だから、リュウセイ君が家族や仲間と認めている人物以外に関心を示すことはありえないわ」
「ケーナさんは旦那さんだった人が強敵だし、最近の様子を見てると例えエルフの男性だとしても、せいぜい三番目以下なのは確実だね」
「つまりうちの家族に関しては、エルフの男性に不快な思いをさせることは無いと考えていいんだな」
それを聞いて安心した。ベルさんがどちらの性別でここに来るかわからないが、そっちはシェイキアさんに任せておけば大丈夫だろう。
里にくる前から心配して肝心の祭りを楽しめなかったら本末転倒なので、何かあっても臨機応変に対応しようと思っていたが、杞憂に終わりそうで良かった。
「よく来てくれたな」
「いらっしゃい、皆さん」
俺たちの前に里長でもあるスファレの父親アウロスさんと、母親のナーイさんが来てくれた。
「私は龍青の妹で真白といいます、本日はお招きいただきありがとうございます」
「私はリュウセイさんたちの家族でコールといいます、頑張ってお手伝いしますのでよろしくお願いします」
「マシロとコールは料理が得意だと聞いているから楽しみにしているよ、こちらこそよろしく頼む」
「お二人は私が案内してあげるわね、ついて来てもらえる?」
真白とコールは笑顔で迎えてくれたナーイさんと一緒に、集落のある方へ歩いていった。ちょっと失礼だが、アウロスさんも普通に挨拶ができるんだな。あの時暴走してたのは、やっぱり娘絡みで俺のことが許せなかったからだろう。
「俺たちはチェトレの街に向かおうか」
「はやく奉納の儀式を済ませんと、料理が始められんのじゃ」
「聖なるお魚の買い出しよ」
「よろしく頼むぞ、リュウセイ」
チェトレへの転移門を開き、アウロスさんと一緒に移動を開始した。まずは手に入れた魚介類を里の守り神に奉納し、それから料理を始める流れになっていて、追加の食材もその時に提供する。
神器に入れたものを供える必要があるので、アウロスさんの収納にそれが入っているはずだ。
◇◆◇
転移門をくぐって浜辺にやってきたが、黄月に入って海岸に人影は全く無い。もともと夏でもほとんど人が来ない穴場スポットで、リコと来た時もプライベートビーチのように海水浴を楽しめた。
「一瞬で海まで来られるとは、まったく流れ人の魔法はとんでもないな」
「だから言ったじゃろ、リュウセイは凄いやつなのじゃ」
「朝市はもう始まってる時間だから、売り切れる前に急ぐわよ」
両手を伸ばしてきたスファレを抱き上げ街へ向かって歩いていくが、隣から「親の前でイチャイチャしおって……」というつぶやきが聞こえてきた。
「今まではどこで魚や貝を手に入れていたんだ?」
「小さな漁村でワシらの里の物と交換していた」
「エルフの里の物は珍しいのじゃ、結構高値で売れたりするんじゃぞ」
「スファレもそれで路銀を手に入れていたんだったな」
「全部王都で落としてしまったんじゃがな」
まぁ、あのトラブルがなかったらスファレとは出会えなかったし、例えどこかで見知ったとしても家に泊まりに来ることはなかっただろうな。
「いま病気の母娘を預かっていると聞いたが、金は大丈夫なのか?」
「リュウセイの開発した新商品が飛ぶように売れておるのじゃ、心配無用なのじゃ」
「まだ売ってない竜の鱗もあるし、今回は祭りに招待してくれたお礼に、全てこちらで出させてくれ」
「能力、経済力、包容力か……悔しいが認めざるをえんな、実に腹立たしい」
認めてもらえるのは嬉しいが、時々言葉に毒が交じるなこの人は……
「今日も賑わってるみたいだな」
「大量に買って里の者たちを喜ばせてやるのじゃ」
「収納は私に任せなさい」
「まずは神器に入れる魚と貝だ」
話をしながら歩いていると、港の方から威勢のいい声が聞こえてくる。突然朝市に二人のエルフ族が現れ、その一人が人族の異性に抱っこされているというのは、かなり目立ってしまう。しかし、遠巻きに見てくるだけなので、周りの混雑が解消されて買い物がしやすくなった。
アウロスさんは綺麗に飾り付けられ、下に足状の支えがある壺の形をした神器に食材を収めていき、俺たちの分はヴィオレにどんどんしまってもらう。果物も大量に買い込んで、エルフの里に戻ることにした。
◇◆◇
奉納の儀式が終わるまでしばらく時間がかかるらしく、スファレの案内で川まで連れて行ってもらえる事になった。森の中には人の手で整備された道が続いていて、そこを進んでいくと開けた場所に到着する。
川幅はあまり広くないが、水量は多くて透明度も高い。水に手を入れてみると寒い時期の水道水のように冷たく、確かにここで泳ぐのは難しそうだ。
「静かで景色も良くて、落ち着く場所だな」
「水のきれいな場所にしか咲かない花もあるわ」
「リュウセイに一度見せてやりたいと言った約束が果たせたのじゃ」
「ありがとうスファレ、嬉しいよ」
「少し上流に広くなった場所があるから行ってみるのじゃ」
スファレと手を繋いで川沿いの道を歩いていくが、周囲には大きく枝を張り出した木も多く、木漏れ日が当たる水面は光を乱反射してキラキラしている。
隣を歩いているのは、耳が長く誰が見ても美しいと感じる少女。頭の上には薄く透けた蝶のような羽を持つ、花の妖精女王がいる。改めて考えると、本当にファンタジーの世界に来たんだという実感が湧いてきた。
「どうしたんじゃリュウセイ、われの顔をそんなにじっと見おって、あまり熱い視線を向けられると照れてしまうのじゃ」
「森の中にいるスファレは、いつもより生き生きしている感じがして、少し見とれてしまった」
「エルフは森で暮らしてこそ輝く種族じゃからな、折角じゃからわれに惚れ直すとよいのじゃ」
「ねぇねぇリュウセイ君、私も自然が似合うと思うのだけど、どうかしら」
「ヴィオレも豊かな自然の中にいると、より幻想的に見えてきれいだよ」
「うふふふふふ、この気持をどう表現したらいいのかしら、嬉しいだけじゃなくて心が暖かくなるわ」
俺の目の前に移動して話をしていたヴィオレが、嬉しそうに周りをクルクルと飛び始める。恐らく無意識に出してしまっているんだろう、魔法を行使する時と同じ淡い燐光が羽からキラキラと舞い散り、幻想的な雰囲気をより一層強くしていた。
◇◆◇
上流の方には大きな淵になった部分があり、周りに岩場も存在した。大きな岩に背中を預け、両膝を立てて座ると、その間にスファレが腰を下ろす。ヴィオレも膝の上に座って流れる川をじっと見つめながら、背中の羽をゆっくり動かしている。
サラサラと水が流れる音と小鳥のさえずりくらいしか耳に入らず、この世界に俺たち三人しかいないと思うほど静かだ。
「なぁ、スファレ……」
「どうしたんじゃ?」
「さっき“エルフは森で暮らしてこそ輝く”と言ってたけど、この里に戻りたくなったりしないか?」
「そうじゃなぁ……
百年、二百年先は正直わからんのじゃ。
じゃが今のわれは、ここにおるのが一番落ち着くのじゃ」
スファレはそう言って俺の両腕を挟み込むように抱きしめ、背中を一層預けてくれる。
「私もそうよ、リュウセイ君。
今こうして触れ合っている時間は、私にとって一番大切なものよ」
膝の上でくるりと反転したヴィオレも、そう言いながら優しくて安心できる笑顔を浮かべてくれた。
「今までの俺には、手放したくないものといえば妹と自分の両親くらいしか無かったけど、この世界に来てたくさん増えてしまったよ」
「その調子で、われの事もしっかり掴まえておくんじゃぞ」
「私のことも離さないでね」
こうして慕って頼りにしてくれる人が身近にいるというのは、とても幸せなことだ。そんな存在は今まで真白しかいなかったが、娘を授かって仲間たちが何人も集まり、知り合いもたくさんできた。
――この世界に来て本当によかった。
この世界に来て1年と1ヶ月ほど経ち、当時から漠然と感じていた気持ちが固まりました。
家族や知人に対する気持ちも少しづつ変化していますが、なにげに年上スキーの徴候が(笑)




