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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第13章 ソーレソレソレ、お祭りだー

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第151話 ケーナ

 悪夢を見続けているという子供は、やはり悪魔の呪いだった。それを真白に解呪してもらったが、暴れる子供を抱きしめていた母親もかなりひどい状態だ。


 体のあちこちに引っかき傷や噛まれた跡が残り、心労でかなりやつれてしまっている。



「ヴィオレ、呪いの気配は感じないか?」


「マシロちゃんのおかげで、すっかり消えているわよ」


「もう大丈夫ですから、安心してくださいね」


「うっ……うぅっ、ありがとうございます……ひっく、ありがとうございます女神様。このご恩は……ひぐっ、一生かけてでも……お返しします」


「あなたもかなり傷跡が残っていますから、私が再生魔法で治療しますね」



 真白にまた強化魔法をかけ治療してもらうと、赤く腫れ上がったり黒ずんでしまった部分もきれいに治っていく。こんなになってまで自分の子供を守り、支えていこうとした姿を見ると、母親の強さを思い知らされる。



「あなたもあまり寝てないのでしょ? 私が力を貸してあげるから、少し休むといいわ」


「あの……あなたは一体」


「彼女は花の妖精なんだが、俺たちも今日はここに泊めてもらうことになったから、起きて落ち着いてから話をするよ」


「わっ、わかりました。本当にありがとうございました、詳しいお話はその時……あっ」



 ベッドに向かおうとした女性は足に力が入らず、その場に崩れ落ちそうになった。慌ててその体を支えると、体を固くして目をそらされてしまう。


 初対面の男に抱きしめられたのだから当然の反応なのはわかっていても、顔つきだけで怖がられていた元の世界のことを思い出して、心に(とげ)が刺さるような痛みが走った。


 安心して気が抜けてしまった体は全く力が入らず、俺が女性を完全に抱きかかえている状態だ。夫のいる女性にすることではないとわかっているが、このままベッドに運んでしまおうと軽い体をお姫様抱っこする。



「すまない、少しだけ我慢してくれ」


「あっ、あの……こちらこそ、ごめんなさい」



 目の下に隈ができて顔は涙で濡れてしまっているけど、間近で見ると目鼻立ちが整っていてとてもきれいな人だ。子供がいるとは思えないほど若く、元の世界だと大学生でも十分通じると思う。


 子供の横にそっと横たえてから布団をかけ、ヴィオレが優しい燐光を羽から生み出すと、女性の顔が穏やかな表情に変わっていく。マリンさんに頭を撫でられながら少しだけ話をした後、女性から静かな寝息が聞こえ始めた。



◇◆◇



 リビングに移動して一息ついたが、呪いが解けたとしてもこれからが大変だ。リハビリをしてある程度動けるようになるまで誰かが見ていないといけないし、なるべくなら近くで解呪後の経過観察をしてあげたい。


 そのことを二人に相談したら、とんでもない話を聞かされることになった。


 母親の名前はケーナさんといって、兄弟もおらず一人っ子だったらしい。問題がケーナさんの母親で、なんと王家の血筋だそうだ。


 その女性は王位継承順位も低く、庶民的でとても明るく気さくな人だった。マリンさんはその人のお世話を担当していて、親同然に慕ってもらっていたらしい。その後一般男性と恋に落ちて結婚したため、王族から離れてしまっている。


 この国では女性王族が男性に嫁いだ場合、王位継承権を失う。そんな事例はいくつもあるが、婚姻相手は貴族や権力者がほとんどで、一般男性と結婚したのはその女性だけだった。そうした特殊なケースだったので、国の関係者でもごく一部しか知らず、ケーナさんも母親から王家のことは聞いてなかったそうだ。


 自分の母親が王家に仕えていた人と知り合いだったことに疑問を感じたケーナさんが理由を聞き、ビブラさんとマリンさんがそれを伝えた時には、かなり驚かれてしまったと苦笑気味に話してくれた。


 ケーナさんの夫は、三年前に事故で他界している。ずっと女手一つで育ててきたたが、悪魔の呪いによって窮地に立たされてしまう。娘の症状が全く改善しない月日を過ごすうちに心身ともに困憊(こんぱい)し、母の遺言にあったマリンさんを頼ることにした。二人がここに来た経緯は以上だ。


 血筋のことを無関係な俺たちに話していいのか気になったが、眠る前に少しだけ話をしたマリンさんが許可をもらっていた。旅の途中で出会ってしばらく一緒に生活したが、そこまで信頼してくれていたのはとても嬉しい。



「二人には一時的にでも、王都に来てもらうつもりだったんだよ」


「リコちゃんのことが落ち着くまで王都で暮らしてもらって、それからどうするか決めようと思っていたの」


「それならいつでも様子を見に行けるし、こちらとしてもありがたいな」


「もし良かったらリコちゃんが回復するまで、うちで暮らしてもらっても構わないですよ」


「ライムもリコおねーちゃんが心配だから、いっしょにいる方がいい」



 男の俺がいる場所に未亡人を預かるのは世間的に問題がありそうだけど、部屋も余ってるしリコを近くで見てあげるのに最適な場所ではある。



「あの家、王都で一番安全、高貴な血筋でも大丈夫」


「家事全般をイコとライザに任せられる家じゃし、ケーナも子供の世話に専念できるのじゃ」


「なんだか凄いところに住んでいるんだね」


「可愛らしいパーティーメンバーが増えて、家を購入して使用人が二人もいるなんて、冒険者として成功したのね」



 使用人ではなく家妖精なんだが、これは後で説明しよう。王都まで一時的に来てもらうのは確定事項としても、まずは本人に聞いてみないとダメだし、目覚めたリコの状態を確かめてからだ。



◇◆◇



 街で出会ったビブラさんとマリンさんが食料品を買う前に家へ戻っているので、こちらにあるものを提供して夕食の準備に取り掛かっている。厨房からはマリンさんや真白たちの楽しそうな声が聞こえていた。



「何だかとても信じられないような話ばかりだね」


「家族やお友だちがいっぱい増えて、ライムしあわせ」


「エルフ族の歴史にすら語られぬことが次々と目の前で起こるのじゃ、誰が聞いても驚くのは仕方ないのじゃ」


『俺様たちが三人揃ってるだけでも、いちでーじ(一大事)だから無理ねぇな』


『もしかするとここに妖精王まで加わるかもしれんからな、少し楽しみだ』


『わたくし達もお話したことのない方ですし、明日が楽しみですわ』



 俺たちがこの街に来た目的を話すと、ビブラさんの知り合いに小さな船を貸してもらえるよう、お願いしてみると言ってくれた。水上の移動はモジュレが水流操作で運んでくれるので、湖に浮かぶ小島に行く算段が思わぬ形で整いそうだ。



「妖精王というのは、どんな方なのだね?」


「ちょっと真面目すぎるところはあるけれど、父親のように慕ってる妖精も多いわよ」


「妖精で唯一の男性、きっとモテる」


「あるじさまも一緒だねー」


「ご主人さまは、私たち家族みんなを包み込んでくれる大きな存在です」


「われの父よりリュウセイの方が、よっぽど父親らしいのじゃ」


「リュウセイ、みんなのお父さん」


「ライムのとーさんだからね!」



 トーリの街でもその場のノリで父親みたいに扱われたことがあったが、それ以降に出会ったソラやスファレも同様の印象を持っていたのには少し驚いた。娘として接しているライムの存在が大きいから仕方がないと思いつつ、俺の希望としては兄くらいにしておいて欲しい。



「今はバンジオとエレギーもいてくれるけどな」


『俺様はリュウセイの兄貴で頼むぜ』


『儂は祖父の立場に収まろう』


『わたくしが長女かしら』


「私もリュウセイ君のお姉さんがいいわね」



 少しだけ抵抗してみたが、父親の立場は分かち合えず、兄弟と祖父が増えてしまった。何だかすごく負けたような気分になるのはどうしてだろう……


 そんな話をしていたら、ケーナさんがリビングに現れた。少し寝てスッキリしたのか顔色も若干良くなり、しっかり歩けるようになっている。



「ケーナおねーちゃん、もうだいじょうぶなの?」


「無理せずゆっくり休んでいて構わないよ」


「私はもう大丈夫です、ビブラ様、小さなお嬢ちゃん。それより穏やかに眠っている娘の姿を見て、どうしても皆さんにお礼がしたくて……」



 薬で眠っている時のリコは、うなされて汗をかいたり、ずっと苦しそうな顔だったらしい。そして薬が切れて目が覚めると、この家に来た時に見た状態と同じように暴れたそうだ。


 完全に目が覚めて落ち着くとほとんど無反応の状態になり、食事や着替えも全てケーナさんが介助していた。



「もう悪夢みなくなる、安心していい」


「あとは目が覚めて回復するのを待つだけなのじゃ」


「ビブラ様やマリン様とお知り合いの皆さんは、貴族の方なのですか?」


「ライムたちは普通のぼうけんしゃだよ」



 ケーナさんから小声で「普通とは違う気がする」と軽くツッコミが入ったが、様々な種族が揃っているだけで貴族でもなければ名家の出身でもない。強いて言えば俺と真白が流れ人で、スファレが里長(さとおさ)の娘というくらいだろうか。


 ……流れ人の時点で普通じゃなかったな。


 魔法のことに関してだけ秘密にしてほしいと断って、自分たちの素性や能力についてある程度のことを伝えた。有無を言わさずリコの治療をしたので、何をしたかをしっかり説明することは重要だ。



「何かの魔道具だと思っていたんですが、あれは治癒魔法だったんですか」


「今まで副作用とかはなかったし、大きな怪我があっても治っているはずだから、安心して欲しい」


「ハグレに潰されてしまった私の足も、こうして元通りに治してもらったんです」


「ハグレに噛まれて真っ黒になってた手を、マシロちゃんが治してくれたこともあったよー」



 アズルが真白に再生治療してもらった左足を動かしながら、ケーナさんに笑いかけている。一体何をされたかわからないままだと不安だろうし、これで少しでも安心してもらえるといいんだが。



◇◆◇



 色々な街で仕入れた食材を使った料理は、旅行好きのビブラさんとマリンさんにとても好評だった。心労で体調が万全ではないケーナさんには、少し軽めのものを食べてもらったが、そっちもかなり喜んでもらっている。


 リコには高カロリーで栄養満点の流動食を作ってくれたが、まだ起きてこないのでヴィオレに収納してもらった。いつでも温かい状態で食べられるので、夜中に起きてしまっても大丈夫だ。



「本当に何から何までありがとうございます」


「リコちゃんが目を覚ましてお腹が空いているようなら、いつでも声をかけてくれて構いませんから」


「私が二人の部屋に行ってもいいのよ」


「そこまでしていただかなくても大丈夫です、この街まで旅をされて疲れてると思いますし、どうぞゆっくりと休んで下さい」



 ケーナさんになぜ見ず知らずの自分たちにここまでしてくれるのか聞かれたが、目の前で困っている人がいるからという理由しか無い。それにお世話になったビブラさんとマリンさんの知り合いだ、出来る限り力を貸すという選択肢以外存在しない。



「この街にはいつでも戻ってこられるから、王都に滞在する件は前向きに検討して欲しい」


「リコちゃんが起きてきたら、二人で相談しようと思います」



 この街の転送ポイントに、この別荘の近くが登録された。目の前は湖で周囲には緑も多く目立たない場所だから、いつでも転移魔法で戻ってこられる。妖精王の問題が片付いたら、エルフの里で秋に開かれる神樹祭(しんじゅさい)まで大きな予定はないので、しばらくこの街に滞在しても構わない。


 リコの健康状態を見ながら、海に行くのもいいし、温泉に行くのもありだろう。



「リュウセイ君たちに出会えてよかったよ」


「本当にそうね、あなた」


「ビブラおじーちゃんとマリンおばーちゃんもゆっくり寝てね」


「そうさせてもらうよ、ありがとうライムちゃん」


「お休みなさい、ライムちゃん、皆さん」



 この別荘にあるお風呂は残念ながら故障中だったので、全員コールの清浄魔法できれいにしてもらい、その日は寝ることにした。


 明日は妖精王がいるかもしれない湖の小島に出発だ。


王家の血筋についてはちょっとした秘密があるんですが、いずれ作中で明らかになります。


◇◆◇


※時系列はこんな感じになります。

母親 ケーナ リコ マリン

15(一般人と結婚)  35

20   0      40

    ↓

    19  0   59

    ↓  ↓

    25  6   65

マリンの年齢はもう少し若くてもいいかもと思ってるので、一応(仮)としておいて下さい。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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