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第145話 最後の試練

エルフの里訪問編、最終話になります。

 転移魔法で古代エルフの里からチェトレに行き、商店街を周りながら魚や貝を買い集め、ついでに果物もいくつか見繕っておいた。珍しい南国フルーツなら、子どもたちも喜んでくれるだろう。


 (おけ)に魚介類を満載し、果物は別の入れ物に入れて魔法で収納した後、転移門を開いてエルフの里にある催事用広場へ戻ってきた。



「ただいま、スファレ」


「お帰りリュウセイ、つまらんことに手を(わずら)わせて申し訳ないのじゃ」


「チェトレは何度も買い物に行ってるから、大したことはないよ。

 それより魚や貝に果物も買ってきたから、みんなでわけて食べてくれ」


「「「「「きゃぁーーーーー」」」」」


「すごいわ、海の魚よ!」

「貝もこんなに沢山」

「見たことのない果物もいっぱいあるわ」


「足りなかったらヴィオレにも出してもらえるし、遠慮なく持っていって構わないからな」


「「「「「ありがとうございます、リュウセイさん!!!!!」」」」」



 ずっと遠巻きに見ていたエルフの女性たちが桶の周りに群がって、魚や貝を手にしては歓喜の声をあげている。百年に一度しか食べられないものが、こうして目の前に積まれているせいか、女性たちのテンションが無茶苦茶高い。



「ほれ、どうした。里長(さとおさ)の出した条件を完璧にこなした上に、果物までおまけしてくれとるのじゃ、もう合格でいいじゃろ」


「ぐぬぬぬぬぬ……まだ、まだだ! この里には霊獣様がいる、その方にも認めてもらわんと納得はできん」


「往生際の悪いやつじゃな、ならばとっとと霊木のある場所に行くのじゃ」


「白狼には会ってみたかったから楽しみだよ」


「あの御方が人に心を開くとは思わないほうがいい、スファレも含めて里の者には誰一人として懐かなかったのだからな」


「バニラやヴェルデにも懐かれとるリュウセイなら大丈夫じゃろ。それより霊木までは少し距離があるのじゃ、いつものやつを頼むのじゃ」



 スファレが両手を伸ばしてこちらに差し出してきたので、そのまま持ち上げて抱っこする。俺の首に手を回して抱きつきながら甘えだすと、里長や野次馬たちの視線が一斉に突き刺さってきた。女性たちは何やらキラキラとした目でこちらを見ているが、他種族の異性に抱っこされるとか嫌だったりしないんだろうか。



◇◆◇



 霊木のある場所についたが、さすがに樹齢百年ともなると、大きく成長していた。(みき)も太く、葉を青々と茂らせた枝が大きく張り出していて、とても威風堂々としている。



「これがスファレの育てた霊木なんだな」


「われの半生を費やした成果じゃよ」


「こんな立派なものに育て上げたなんて、やっぱりスファレは凄いな」


「リュウセイにそう言ってもらえるのが一番嬉しいのじゃ」



 頭をそっと下げてくれたので撫で始めると、周りから受ける視線の密度が一気に上昇する。里長は明らかに敵を見るような視線だが、他の男性たちの目には羨望が混じっている気がする。もしかしてスファレって、里の男性から人気が高いんじゃないだろうか。



「ちっ……

 いつまでもイチャイチャしてないで、早く霊獣様に認められてみろ」



 いま思いっきり舌打ちされたが、まぁ聞かなかったことにしておこう。

 ちょうどその時、木の後ろから中型犬くらいの大きさをした、真っ白の狼が出てきた。ぱっと見は犬とあまり変わらない感じで、尻尾はかなりフサフサとしている。あれはちょっとブラッシングしてみたい。



「久しぶりじゃな、元気じゃったか?」


「ワゥ」



 スファレを下ろして一緒にしゃがみ込むと、霊獣は俺たちの周りをぐるぐると回りながら、しきりに鼻を鳴らしている。



「始めまして、俺の名前は龍青。ここの里長に霊獣と仲良くなるように言われたんだが、良ければブラッシングをさせてもらえないか?」



 収納から日用雑貨を入れている袋を取り出し、予備のブラシを持って霊獣に差し出してみる。それに興味が湧いたのか近づいてしきりに匂いを嗅ぎだしたが、やがて俺の足元に近づくと、お腹を出して寝転がった。



「さすがリュウセイなのじゃ」


「おー、お前の毛もフサフサで立派だな。どうだ、ブラッシングは気持ちいいか?」


「クゥ~ン」


「なっ……なぜなんだーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」



 視界の横では里長が膝から崩れ落ち、両腕を地面に叩きつけていた。



「だから言ったじゃろ、リュウセイは我らエルフより優れた人物じゃと」


「納得がいかん、どうして霊獣様までこうなってしまうんだ!」


「リュウセイは聖域化した家の(あるじ)なのじゃ。そこにおる霊獣にも好かれとるし、大陸最古の霊獣である白蛇にも懐かれたと聞いておるのじゃ。ここの霊獣がこうなってしまうのも、当たり前なのじゃ」


「聖域化した家だと……」


「たった数ヶ月で聖域化を果たしたのも驚いたのじゃが、まだ鉢植え状態の幼い霊木はここより大きな力を秘めておるのじゃ」



 失意の体前屈状態で膝をついていた里長の口から、何か抜けてはいけないものが飛び出してる気がする。


 そんな姿を横目に霊獣のブラッシングを続けていたら、俺の周りに女性たちが集まりだした。全員が十代から二十代くらいの整った容姿で、さすがにこの人数で囲まれると気恥ずかしい。



「あっ、あの……リュウセイ様、よろしければ私の家でお昼を食べていかれませんか?」

「わたし料理が得意なんです、良かったら一緒にお昼を!」

「昨日とれたばかりの新鮮な野菜がありますから、ぜひウチでご飯を……」

「心を込めてお作りしますので、なにとぞ我が家にお越し下さい」

「お兄ちゃん、一緒に果物食べよ」



 近くに集まってきた女性たちが俺をお昼に誘い出したけど、どうしてこんな事になってるんだ。他種族の異性に警戒するという話は、嘘や冗談だったとは思えないんだが……



「お前たち他種族の男に(こび)を売りおって、エルフの誇りはどうした!」


「「「「「リュウセイさんと仲良くなれば、いつでも魚や果物が食べられるんです、そんなつまらないものは必要ありません」」」」」



 復活した里長の言葉をすげなく叩き伏せているが、思っていたイメージと違って、なかなか(したた)かな人ばかりだ、エルフの女性は。



「リュウセイはわれのものじゃ、お主たちには渡さんのじゃ」


「スファレさんだけずるいですよ」

「横暴です」

「お兄ちゃん、わたしも抱っこして」


「そもそもリュウセイにはもう子供がおるのじゃ、お主たちの入り込む隙間などないのじゃ」


「それくらい問題ありません」

「元より私たちだと子供が出来ないですから」

「人族の奥方様とも仲良く出来る自信があります」

「おにーちゃん、わたしもだっこ」



 エルフの子供を両腕に抱っこして、スファレと女性たちの言い争いを静観していたら、野次馬で集まっていた若い男性が、次々と失意の体前屈で崩れ落ちていく。


 このカオスな状況を一体どうすればいいんだ……



◇◆◇



「これでは話が全く前に進まんのじゃ。それでどうなのじゃ、ここまで来てリュウセイのことを認めんとは言わさんのじゃ」


「誠に遺憾だが、約束を(たが)えたとあってはエルフ族の恥、身を切る思いで入山は認めてやる」


「言い方は非常にあれじゃが、やっと折れおったのじゃ」


「だが一つだけ教えろ、霊獣様はおろか初対面の女子供にまでこうも好かれるお前は、一体何者なんだ」


「そういえばまだ言ってなかったな、俺は異世界から来た流れ人だ」


「そっ、それを先に言わんか!」


「言ったら何か対応が変わったのか?」


「岩の大きさが一割程度小さくなったり、買い出しの桶がひと回り小さくなるくらいなら、考えたかもしれん」


「あまり変わらないな……」



 本当にめんどくさい人だな、よくこれで謀反が起きたりしないものだ。



「だがな、いくら流れ人といっても娘はやれん!」


「娘って誰なんだ?」


「われじゃよ」


「スファレって、里長の子供だったのか」


「恥ずかしながら、その通りなのじゃ」


「親に向かって恥ずかしいとは何事だ!」


「無理難題をふっかけたり駄々をこねたり、恥ずかしいにも程があるのじゃ」


「それは流れ人だと聞いてなかったからだ」



 なるほど、何となく納得できた。

 大事な娘が里を出ていって、帰ってきたと思ったら他種族の異性と一緒だった、なんて事になると穏やかではいられないだろう。


 少々やり方があれだったが、同じ娘を持つ身としては、ちょっと共感できる部分もある、と思う。ライムがもし同じことをすれば、俺も冷静な対応ができるか怪しいしな。



「大体お前はお役目が終わった瞬間に家を飛び出して、どれだけ里の男たちが気落ちしたと思ってるんだ」


「お役目中にあれだけ冷たい態度をとっておきながら、今さら何を言っておるのじゃ」


「お役目中は甘やかしたり、他のことにうつつを抜かさぬよう、そう接する(おきて)だったのから仕方ないだろ」



 やっぱりスファレは里の男性たちに人気があったみたいだ。

 だが、周囲の人間を掟で縛って、彼女に寂しい思いをさせていたのは、さすがに思う所が多すぎる。



「われはもう外の世界を知ってしまったのじゃ、リュウセイのそばを離れる気はこれっぽちも無いのじゃ」


「俺はそもそもこの世界の人間じゃないし、この里のやり方に口を挟む権利はないが、これだけははっきり言っておく。スファレは俺たちの大切な家族なんだ、もう手放すつもりはない」


「さすがリュウセイなのじゃ、お主と出会えてよかったのじゃ」



 嬉しそうな顔で首に手を回してきたスファレを、そのまま抱き上げて頭を撫でる。



「流れ人のお前に、娘を幸せにできるというのか?」


「寂しい思いをさせたり、悲しませるようなことをしないと約束する。そして、お役目に捧げた時間が報われるように、様々なことを見て感じて体験してもらうつもりだ。俺に任せられるかは、いまスファレが浮かべている表情を見て判断して欲しい」


「あなたの負けですよ、スファレちゃんの顔を見ればわかるでしょ。あの子はリュウセイさんに任せましょう」


「わかった……里を出て暮らすこと、霊山への立ち入り、どちらも許可しよう。ただし、時々顔を見せに帰ってこい。それから今年の秋には神樹祭(しんじゅさい)がある、その時の食材調達をリュウセイに任せてもいいか?」


「もちろん協力させてもらうよ」



 霊山へ入る許可も出たし、神樹祭へ家族で来ていいとも言ってくれた。目尻に涙をにじませて微笑むスファレの頭を撫でながら、秋に向けての計画を少しだけ思い浮かべた。


神樹祭の参加は次章になります、お楽しみに。


資料集のサブキャラ欄に赤竜のオーボ、王都の登場人物に執事のヴァイオリ、エルフの里の登場人物にスファレの両親を追加しています。

エルフに関してはちょっとした説明も記載していますので、ご興味ありましたらご一読下さい。

(作中で女性がやたら強気だったり、里長があっさり引き下がったのは、主人公によって男性側に負け犬根性が植え付けられたから(笑))

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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