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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第12章 夏だ! 海だ! テンプレだ!

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第141話 競泳

 シェイキアさんと一緒に沖から戻ってくると、クリムとアズルたちがこちらに走り寄ってきた。お昼を食べてからは砂遊びで体力回復と言っていたので、十分休めたんだろう。



「あるじさまー、競争しよー」


「十分回復したのでもう大丈夫です」


「とーさん、ライムもじゅんびばんたん、だよ」


「ライムはどんどん難しい言葉を覚えていくな、偉いぞ」



 駆け寄ってきたライムを抱き上げ、クリムとアズルの頭を撫でる。その後ろからコールと大きくなっているヴェルデが来て、なぜかヴァイオリさんまで近寄ってきた。



「リュウセイさん、ヴェルデに強化魔法をお願いします」


(わたくし)も参加してよろしいですかな」


「人数は多いほうが楽しいし、大歓迎だ」


「皆様を見ていると血が(たぎ)ってまいりましてな、老骨の我が身に鞭でも打ってみようかと思った次第です」


「こんなこと言ってるけど、油断してるとリュウセイ君でも負けちゃうわよ」


「それは楽しみだ、全力でいかせてもらうよ」



 なにせ俺より体つきが逞しい人だ、年齢のハンデがあるとはいえ勝負するからには手加減はしない。



「私が出発地点で合図してあげるわね」


「じゃぁ、私が終着地点で審判やってあげるよ」



 ベルさんがスタート地点に、シェイキアさんがゴール地点に泳いでいき、俺たちも全員が横並びに整列する。順番は俺、ライム、クリム、アズル、コール、ヴァイオリさんの順だ。



「お兄ちゃん頑張れー」


「われとバニラが応援しておるのじゃ、ライム」


「キュイーーーッ!」


「コールとヴェルデの絆、今こそ見せる時」


「ピルルルルーッ!」


「クリム様、アズル様、頑張ってくださいなのです」


「双子の力を皆さまに思い知らせる時ですよ」


『儂はヴァイオリとやらを応援してやろう』


『わたくしが見ておりますが、無茶はだめですわよ』



 みんなの応援に手を振って応え、スタートの合図を待つ。ベルさんが周りを見渡し、それぞれが準備できたのを確認して、手を上に伸ばす。



「それじゃあ、みんな準備はいいわね、用意……始めっ!!」



 一斉にスタートを切りクロールで泳ぎだしたが、ライムもなかなか速い。小さな体のハンデをものともせず、グングン速度を上げていく様子は、とても今日泳ぎを覚えた子供とは思えない。


 だが、更に速いのがクリムとアズルだ。手と足をダイナミックに動かして進んでいく様子は、水車型の()推進器を()使った船()を思い出してしまう。だが、ああして水しぶきを盛大に上げているのは、まだまだ無駄な部分が大きい。もう少し他人の泳ぎを見る時間が多ければ、持ち前のセンスで洗練された動きになったと思うが、少し時間が足りなかったな。


 その上を行くのは、進化したヴェルデの二倍強化版身体補助がかかったコールだ。勢いよく水をかき分ける姿は感動すら覚えるが、まだまだ力任せの感は否めない。こちらも経験不足の弱い面が出てしまっている。


 そしてやはり俺のライバルはヴァイオリさんだった。フォームがきれいなシェイキアさんを彷彿とさせるそのクロールは、見事の一言に尽きる。無駄な動きも少なく、水の中を滑るように進んでいるという表現がぴったりだろう。


 俺はただ進むことだけに意識を向けて、神経を研ぎ澄ませていく。ただ前に、もっと前に手をのばすことだけ考えていると、長年続けてきた体の動かし方を自然にトレースしている感じがする。そのまま無心で泳いでいたら、シェイキアさんのゴールを告げる言葉が耳に入ってきた。



「一着リュウセイ君! 二着はヴァイオリね。

 三着がコールちゃんで、四着はクリムちゃんと僅差で五着のアズルちゃん。

 六着はライムちゃんよ、みんなよく頑張ったわね」


「よしっ!」


「いやはや、やはりリュウセイ殿には勝てませんでしたな」


「ヴァイオリさんも凄かったよ。泳ぎ方はきれいだし、年齢を感じさせない力強さがあった」


「泳ぎ方はお館様に、みっちり鍛えていただきましたので」



 なるほど、あの泳ぎ方はシェイキアさん仕込なのか。フォームが似ているのは当然だな。



「ヴェルデの力を借りても勝てませんでした」


「わーん、残念だったよー」


「せめてクリムちゃんには勝ちたかったです」


「三人とも泳ぎを覚えたのが今日なんだから仕方ない、もっと経験を積んだら俺を超えられると思うぞ」


「ライム、いちばん最後だった……」


「ライムが一番凄かったぞ。父さんが泳ぎを覚えたのは、もっと大きくなってからだし、泳げるようになるまで三十回くらい練習したからな」


「ライムももっと練習したら、とーさんみたいになれる?」


「父さんの娘なんだ、もちろんなれるさ。また泳ぎに来ような」


「うん! 今度の海水浴も楽しみ」



 しかし、久しぶりに全力で泳ぐことが出来て楽しかった。意外なライバルも出現したし、これから伸びてきそうな仲間がいるのは、とても心が躍る。



「一着だったね、おめでとうお兄ちゃん」


「まさかヴァイオリさんに、あそこまで肉薄されるとは思ってなかったよ」


「お兄ちゃんとヴァイオリさんは、水泳選手みたいな泳ぎ方だったからね」


「シェイキアさんがすごくきれいなフォームで泳ぐんだ、その教えを受けていたらしい」



 俺が砂浜に体育座りをすると、真白もその横に並んで同じように腰を下ろす。シェイキアさんとベルさんはヴァイオリさんと日よけ小屋に行き、ライムたちは精霊王の二人やヴィオレとともに、水面にプカプカ浮かんで漂っている。霊獣や元の大きさに戻った守護獣たちは、砂浜の上に寝そべってお休み中だ。



「ヴァイオリさんにも色々お話聞かせてもらったんだけど、かなり多彩な人みたいだよ」


「確かにそんなイメージはあるな」


「お兄ちゃんと同じ収納魔法持ちだから、若い頃はあちこち出張して色んな事をやってたんだって」


「身体補助じゃなかったのか……」



 年齢の割に動きにキレがあるから、緑の身体系で(筋力)(俊敏)属性だと思っていた。魔法なしであれだけ動けるということは、全盛期のヴァイオリさんには絶対に勝てそうもないな。


 二人でとりとめのない話をしていたら、少し体を寄せてきた真白が俺の肩に自分の頭を乗せる。今日はあまり一緒にいられなかったので、甘えたくなったんだろう。そんな可愛い妹の頭をゆっくり撫でた。



「海水浴ってやっぱり楽しいね」


「真白は泳がなくてもいいのか?」


「う~ん、水に入ってだいぶ遊んだけど、どうしようかなぁ……」


「せっかくだしみんなと泳いできたらどうだ?」


「お兄ちゃんも一緒に行ってくれる?」


「あぁ、もちろん構わないぞ」


「水着が脱げちゃったら、ベルさんと同じように隠してね」


「……あれは人命救助だぞ」



 緊急時でもないのにあんな事をされたら、素数を使っても冷静でいられる自信はない。


 真白は「わかってるよー」と言って笑いながら、俺の手を引っ張ってみんなのもとに走っていく。目の前には家族だけしかいないし、この格好で走っても大丈夫だろう、そう考えながら視線をそっと外す。



「ライムちゃーん、お母さんも仲間に入れて」


「かーさんもいっしょに浮かぼー、たのしいよー」


「マシロちゃんは泳げるのー?」


「ご主人さまの妹なんですから、泳げるんじゃないでしょうか」


「泳ぐのは苦手だけど、浮かぶのは得意なんだ」



 小さい頃は一緒に泳いだりもしたが、成長してから水の中に入る機会は減ってきたな。フロートに掴まって浮かんだり、俺が引っ張るのを楽しんだりはしていたが。



「人に無いもの持ってる、絶対浮きやすい」


「コールも同じなのじゃ」


「えっ!? そんなの気にしたことなかったですけど……」


「私もそうなのかしら」


「ヴィオレは水面に寝られるから、あまり影響しないんじゃないか?」



 まろやかさんの比重は水より軽いらしいし、多少は浮きやすくなると思うが実際はどうなんだろう。男の俺としては、肉体の神秘であり永遠の謎としか言いようがない。



「成長しない私たちにはわからない世界なのです」


「ヴィオレ様のようにお綺麗だと、旦那様は一緒にお風呂に入ってくれないと思うですよ」


「成長しなくて良かったのです」


「でも、マシロ様やコール様のように、旦那様を挟んであげられないのは、少し残念ですよ」



 本当に二人はお風呂で何をやってるんだ?



◇◆◇



 そろそろ日も傾きだす時間になり、撤収の準備をする。日除け小屋のシャワーを全員が浴びてから着替えを終わらせ、ゴミを残していないか入念にチェックした。



「リュウセイ君、今日はごめんね。でも、すごく楽しかったわ」


「あれは気にしないでくれ。ベルさんに楽しんでもらえて良かったよ」


「また誘ってね、お姉さんとの約束だよ!」


「海水浴は何度かやりたいと思ってるし、その時は必ず声をかけるよ」


「本日は(わたくし)も楽しませていただき、誠にありがとうございました」


「今度は少し離れた場所に遠泳してみたいから、付き合ってもらえると嬉しい」



 次の海水浴は何をしようかみんなで話をしていると、結界を解除してくれていたバンジオとモジュレが戻ってきて、頭の上に行かずに目の前に移動してきた。



『リュウセイさん、少しお時間を頂いても構わないでしょうか』


「何かあったのか?」


『赤の精霊王の手がかりを聞くことが出来ましたの』


「詳しく聞かせてくれ」


『スファレは霊山をよく知っておるな?』


「もちろんじゃ、なにせ三百年間通い続けたのじゃからな」


『そこに風穴(ふうけつ)があるのをご存知かしら』


「いつも涼しい風が吹き出しとる穴があると聞いたことがあるのじゃ、恐らくそれのことじゃろう」


『一年ほど前、そこへ入っていく姿を最後に、足取りが途絶えておりますの』



 一年前の今の時期ということは、ほぼ確定だろう。赤の精霊王は大気を司っているらしいから、風の吹き出る場所でなにか異変があったら、真っ先に情報が伝わる可能性は高い。



「霊山とはちと困ったのじゃ」


「何か問題があるのか?」


「この大陸は全て王家が統治してるんだけど、一部エルフの管轄地があるんだよ」


「霊山もそうだってことか」


「勝手に入って無用な揉め事が起こると面倒なのじゃ」


「別に黙っておけば、バレないと思うんだけどねー」


「シェイキアはいい加減すぎなのじゃ、自治が認められとるエルフと(いさか)いになって困るのは王家じゃろ?」



 エルフの住んでいる場所は国家として認められていないものの、特別行政区のように独自に管理する権限が与えられている。普通の種族は容易に入っていけない場所なので、特例として許容された権利らしい。


 霊山もその場所にあたり、許可のないものが勝手に入ると、エルフと結んだ誓約に違反するので、国として責任問題が発生する。トラブルを避けるためには、スファレの住んでいた里に行って、許しを得るのが無難だろう。



「エルフの許可を取るとして、スファレは里に戻って平気なのか?」


「それは別に構わんのじゃが、よそ者を霊山へ入れるとなると、ゴネられそうなのが鬱陶しいのじゃ」


「あまり効果は無いかもしれないけど、うちの家からも親書を出してあげるわ」


「ありがとうシェイキアさん、よろしく頼む」


『儂らもついておるし、そうそう難色は示さぬだろう』


『一緒にお願いして差しあげますわよ』


「バンジオとモジュレもありがとう、心強いよ」



 とにかくまずはスファレの里に行って許可を取り、そこから霊山へ向かうことにしよう。かなりの長旅になるし、準備はしっかりしておかないといけないな。


次の目的地が決まりましたが、やはり一筋縄ではいきません。


[裏話]

資料集の方に記載していないのですが、今は“()()()384年”です。

大陸を統一して単一国家になったのが現在の王国で、それまでは多数の国がありました。

その名残でエルフの自治権が認められています。

(シェイキアが統一される前の王国に来たのは偶然ですが、国に重用(ちょうよう)されたのは大使としての役割も期待されたから。その流れで王国御三家の一つになりました)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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