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第140話 沖合デート

前半はベル視点でお送りします。

 浜辺に戻りながらさっきのことを思い出すと、顔の温度が上がってしまうのを自覚できる。


 あの時は体勢を崩して水の中に沈んでいき、驚きのあまり体が固まって動けなかった……


 リュウセイ君が助けに来てくれているのがわかって無意識にしがみついてしまい、直接肌と肌が触れ合う感触に頭が沸騰寸前になっていた。軽く抱き寄せて頭や背中を優しく撫でながら波の音に耳を傾けろと言われ、それに従っていたら緊張も抜けて徐々に落ち着いてきたけど、心が穏やかになったのは波の音を聞いたからじゃない。


 彼の大きくて温かい手と、(たくま)しい胸板から聞こえてくる少し速い鼓動の音が、私を落ち着かせてくれた。


 お母様が()()()()()()()()()()()()()()で接しているし、リュウセイ君の近くにいる女の子たちは、みんな彼に抱っこされるのが好きだ。異性に甘えるのってどんな気持ちなんだろう、そうずっと疑問に思ってた。でもあんな風に抱き寄せられて、それを理解できた気がする。


 私には父親の記憶がないし、隠密たちは妹のような感じで接してくれる。お母様もどちらかというと姉っぽい付き合いを望んでるみたいだし、執事のヴァイオリは孫のように思ってるだろう。そんな私の前に現れたリュウセイ君を、ずっと弟のように見ていたけど、さっきの出来事で大きく変化した。


 父親って、こんな感じに頼れる存在なの?

 近くにいるだけで安心できるのが、父の持つ包容力というもの?

 ずっとこのまま抱きしめていて欲しいと思ったのは、親に甘える子供の気持ち?


 それとも、何かもっと別の……?



「ベルおねーちゃん、だいじょうぶだった?」


「にゃーーーう?」


「キューン?」


「ピルルー?」



 そんな思考の迷路を進みながら波打ち際まで戻ると、砂で建物や動物を作っていたライムちゃんやみんなが近くに来てくれる。ネロが大きくなってから、よくバニラちゃんを背中に乗せて歩くようになったが、母猫みたいでとても可愛らしい。



「心配かけてごめんねみんな、ちょっと失敗して沈んじゃったけど、リュウセイ君やモジュレさんが助けてくれたから平気よ」


「水着が脱げちゃってたみたいだけど、大変だったねー」


「これはあまり激しい運動に向いてない形なんですね」



 クリムちゃんとアズルちゃんはさすが獣人族だ、結構距離が離れてたと思うけどしっかり見えていたみたい。



「水着はお母様がすぐ拾ってきてくれたし、リュウセイ君がすごく気を使ってくれたから、なんとも無いわ」


「お兄ちゃんに抱きしめてもらえるなんて、役得でしたね」


「コールもやってた、ちょっとずるい」


「あっ、あれは魚にお尻を触られて、びっくりしてしまったから……」



 マシロちゃんがちょっと冗談めかして場の空気を温めてくれたが、みんな本当にリュウセイ君のことが好きなんだな……


 でも、その気持は私も理解できるようになってしまった。彼の周りには、こんなに素直な気持ちをぶつけてくる女の子が大勢いるけど、そんな想いを全て包み込んでくれる優しくて大きな包容力を持っている。だから様々な種族がいるにも関わらず、誰からも不満が出ていないんだ。



「われも一度水に沈んでしまったのじゃが、あれはちと怖いものじゃった、ベルも落ち着くまでゆっくり休むと良いのじゃ」


「冷たい飲み物はいつでも出すから、遠慮なく言って構わないわよ」


「必要なものがあれば、ご用命下さいなのです」


「野営小屋の中にも色々用意してるですよ」


「みんなありがとう、ちょっとヴァイオリの所に行ってくるわね」



 みんなと別れてから日除け小屋に行って椅子に座ると、机に両肘をついて顔を乗せる。お母様とリュウセイ君は、沖にいるバンジオさんとモジュレさんの所まで行ってしまい、ここからだとよく見えなくなっていた。



「ベルお嬢様、大丈夫でしたか?」


「えぇ、問題ないわ」



 ヴァイオリが自分の収納魔法でしまっていた果実水を取り出して、そっと机の上に置いてくれた。収納魔法の中は外気温の影響を受けないので、この暑さだと体に優しい温度になっている。



「殿方の胸に抱かれた感想はいかがでしたか?」


「……ぶはぁっ!」


「ベルお嬢様、少々はしたないですぞ」


「ごほっ……だって、あなたが変なことを言うから」



 何の前触れもなく放たれたヴァイオリの言葉で、飲んでいた果実水が変なところに入り込み、思わずむせてしまった。さっきも同じように咳き込んでいるので、立て続けはちょっと辛い。


 こうして空気を読まずに変な発言をするのは、絶対にお母様の影響だ。



「お気づきでないかもしれませんが、ベルお嬢様は先程からリュウセイ殿をずっと目で追っておられます」


「うっ……」


「家業のことは気になさらず、ご自身の気持ちに素直になることが肝要だと、老婆心ながら具申(ぐしん)いたします」


「私にはまだ良くわからないのよ。そもそも身内以外とこうして遊んだ経験もないし、身近な男性ってあなたや隠密たちだけなんだもん」


「リュウセイ殿は、これまで我らの周りには居なかった種類(タイプ)の殿方ですからな」


「不思議な子よねー、やっぱり異世界人だからかしら」


「確かに我らとは異なる感性をお持ちですが、同性の(わたくし)から見ても魅力のある方でございます」


「お母様があんなに甘えてるんだもん、それは間違いないと思うんだけど、私の気持ちはしばらく保留にしておくわ」


「左様でございますか……」



 今は家の仕事が楽しいし、外で男として振る舞うのも気が楽でいい。いずれこうした生活を送れなくなる日が来るとしても、それからの事はその時考えよう。


 浜辺で楽しそうに遊ぶ彼の仲間たちや、二人で一緒に泳ぎ始めたお母様とリュウセイ君を見ながら、私はそんな風に考えていた。




―――――*―――――*―――――




 シェイキアさんと並んで泳ぎながら沖の方にいくと、バンジオとモジュレが頭の部分だけ上に出して海に浮かんでいた。お風呂でもこうして水面に浮かんでいるが、二人ともこの姿勢が大好きみたいだ。



「さっきはありがとうモジュレ、おかげで楽にベルさんを救助できたよ」


「娘のためにありがとうございました、青の精霊王様」


『まさかあのまま沈んでいくとは思わなかったので、力を使うのが少し遅れてしまいましたの。申し訳なかったですわ』


「あれは俺がもっと速くベルさんに知らせていれば防げた事故だったんだ、モジュレが謝る必要はないよ」



 俺が変な所に気を回して、水着が脱げてしまった事を伝えられなかったのが大きな原因だ。彼女のことを考えて行動していたつもりが、かえって危ない目に合わせる結果になった。



「私が作らせた水着にも問題があったんだし、お互い責任を感じるのは無しにしてね。とにかく大事には至らなかったんだもん、それにベルちゃんの可愛い姿が見られたし、ちょっと得しちゃった気分かな」


「可愛いって……

 溺れて苦しそうにしてただけじゃないのか?」


「もー、リュウセイ君は女心がわかってないなぁー

 その辺りは置いておくとしても、年頃の男女が裸で抱き合ってたんだよ? 娘のそんなあられもない姿を見ちゃうと、お母さんもときめいちゃうじゃない」


「普通はそんな場面を見て、ときめいたりしないと思うんだが……」



 あの時はとにかく必死で、そんな事は意識してなかったし、何かを感じる余裕すらなかった。だが、スファレの時といい、この世界に来て同じことを何度もやらかしてしまってるのは、運命の悪戯みたいなものなんだろうか。



「ベルちゃんの乙女な姿を見られただけで、お母さんは大興奮なんだよ」


「ベルさんは普通にしてても、十分魅力的な女性だと思うぞ」


「私の娘だから当然だね!

 そうだなぁ、リュウセイ君にはどうしてベルちゃんが、外では男のふりをしてるか教えてあげるよ」


「勝手に話していいことなのか?」


「あれは私が原因になってるし、リュウセイ君になら構わないわよ」


『儂らも聞いてしまって良いのか?』


「ベルちゃんを助けていただいたり、祝福まで授けてくださってますから、問題ありませんよ」



 そうしてシェイキアさんは昔のことを話してくれたが、幼い頃のベルさんは普通に女の子として過ごしていた。その頃のシェイキアさんは、まだ前線で指揮していたこともあり、当然のように人目に触れる機会が多い。


 そうなると出てくるのは、色目を向けてくる他種族の男性たちだ。


 それまでは実力で黙らせることもあったが、子供ができたのを理由にして無視するようになった。そうすると、そんな行為も徐々にエスカレートしていったそうだ。



「もうそれが鬱陶しくて鬱陶しくて、ベルちゃんにもついつい愚痴っちゃうことがあったんだ」


「もしかして、そんな行為からシェイキアさんを守ろうとしたのか?」


「そう、そうんなんだよ!

 ベルちゃんが“外では僕が男の子になって、お母様を守ってあげる!”って言ってくれてね。あの時のベルちゃんは、すっごくかっこよかったなぁ……」



 以前聞いた一人旅や仕事の時に男の方が有利というのも理由としてあるんだろうけど、一番大きな動機は母親を守ろうとする気持ちだったのか。男として振る舞っている時の顔もそうだけど、精神的にもイケメンだ。



「ただ、そんな話を聞かせちゃったから、ベルちゃん自身も男性と距離を取るようになっちゃってね、お母さんとしてはちょっと心配だったんだ」


「隠密の男性やヴァイオリさんとは、普通に付き合ってる感じがしたんだが」


「うちの子たちは雇用関係で縛ってる部分が大きいから、それが大前提の付き合い方になっちゃうんだよ。私が異性の露払いに隠密たちを使わないのも、その事が理由なの」


「そこに現れたのが、流れ人である俺と真白か」


「一緒に冒険者パーティーと旅をしたって楽しそうにしてたから、一体どうしたんだろうって話を聞いてびっくりしちゃった」



 ライムがひと目で性別を見抜いてしまったし、真白たちに押し切られる形で胸を締め付けずに寝てもらっていたが、それ自体がベルさん的に大事件だったわけだ。



「ベルさんみたいな人に気を許してもらえたのは光栄に思うよ」


「リュウセイ君って私やスファレちゃんとも普通に接してくれるでしょ?

 ベルちゃんもそんな部分を感じ取ってるのは間違いないはずなの、だからリュウセイ君たちと一緒の時はすごく乙女してるんだ」


「そうやって気を抜いて楽しんでもらえるなら、またこんな機会を作る時は誘うようにする、楽しみにしていてくれ」


『わたくしの祝福を受けられる子ですから、協力は惜しみませんわ』


『確か肩車だったか、旅の途中でリュウセイにやってもらうほど仲が良い娘であるし、儂も力になれる時は協力しよう』


「なになに、ベルちゃんってリュウセイ君にそんなことしてもらってたの? ずるいよ、私もやってよー」


「ここでは無理だから陸に上がってからな」



 こちらに掴みかからん勢いで詰め寄ってきたシェイキアさんから距離を取る。下手に抱きつかれたりしたら二人まとめて沈んでしまう。


 その後は少しだけ一緒に泳いて、浜辺へ戻ることにした。


ベルはちょっと変な方向に突き抜けてしまいましたね(笑)

やはり最初に出会った時に見たライムとの接し方や、母親がベタベタに甘えている姿を見ているので、異性より父性に反応してしまっています。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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