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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第12章 夏だ! 海だ! テンプレだ!

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第139話 ハプニング

中盤に視点がシェイキアと執事のヴァイオリになります。

 午前中は真白やシェイキアさんと浅い部分で遊んでいたベルさんにも、泳ぎを教える約束をしているので一緒に沖の方に来た。男の格好をしている時は俺の肩車にも耐えた彼女の羞恥心は、水着だと表に出やすくなっているらしく、見つめるとスッと視線をそらされることが多い。



「ベルさんって運動は何でもできそうな感じがしていたから、泳いだことがないのは意外だったよ」


「普段からあの格好で生活してるし、どうしてもそんな機会が作れなかったの」


「誰かに見られたら仕事に影響が出るから仕方ないのか」


「まさかこの歳になって水着姿になるなんて、思ってなかったわ」


「よく似合ってるのにもったいないな……」


「何か言った? リュウセイ君」


「いや、何でも無い。せっかく人目を気にしなくていいんだから、思う存分楽しんでくれ」


「そうね、少し恥ずかしいけどそうさせてもらうわ」



 俺のつぶやきは波音で聞こえなかったようだが、ベルさんの体型はスレンダーで全体のバランスが凄くいい。アスリートのようなしなやかさと、モデルのようなプロポーションが同居した感じだ。


 そんな彼女の手を取りに行くと、やはり恥ずかしそうにされてしまう。



「真白やシェイキアさんには習わなかったのか?」


「マシロちゃんは“お兄ちゃんじゃないと正しい泳ぎ方を教えられないから”って言ってたわ。お母様には“ベルちゃんも少しは男に人の視線に慣れなさい”と言われてしまったわね」


「あまり変な目で見ないように努力するよ」


「リュウセイ君はお母様のこともそんな目で見ないし、信頼してるから大丈夫よ。私がちょっと慣れてないだけだしね」



 そう言って恥ずかしそうに微笑むベルさんの顔は、年齢より幼く見えてちょっと可愛い。こうした機会はなかなか訪れないだろうし、そんな事が気にならなくなるくらい泳ぐ喜びを味わってもらおう。



「バタ足は教えることがないくらい上手だな」


「そうなの? 初めてだしコツがわからないから、見様見真似なんだけど」


「ベルさんもクリムやアズルと同類みたいだ」


「あの二人も見ただけで覚えていたわね」


「育ての親からもそういう教わり方をしていたみたいだし、動きの本質を見極める天賦の才があるんだと思う」


「獣人族は体を動かすのが上手な子ばかりだけど、あの二人は特に洗練されているわ」


「そうなのか、俺にはそこまでは見抜けないよ」


「とにかく動きに無駄がないの、それを自然にやってるから気づかれにくいと思うけど、あれだけ板についてるってことは、きっと幼い頃から身に付けたものだと思うわ」


「育ててくれた犬人族の男性は、山に入って狩りや採集をしたり畑を耕したりする、普通の老人だったらしいけどな」


「そのご老人がどんな(かた)だったかは謎だけど、あの二人をうちで少し鍛えたら、諜報も護衛もこなせる一流の隠密になれるわね」



 国の情報収集を一手に担う家で育った人がそう言うんだから、あの二人の実力は相当なものなんだろう。もし部外者が参加できるなら、稽古をつけてもらうのも良いかもしれないな。




―――――*―――――*―――――




 シェイキアと執事のヴァイオリは波打ち際に立って、龍青とベルが楽しそうに泳ぎの練習をしている姿を眺めていた。近くには大きくなったネロもいて、背中にバニラを乗せたまま並んで立ち、自分の契約者を見つめている。



「ベルお嬢様が外であのように楽しげにしている姿は何年ぶりでしょうか」


「ちゃんと女の子として楽しんでるみたいだし、連れてきてもらって良かったわ」


「精霊王の力というのは我々の理解を越えるものですな」


「朝からここにいるけど誰も来てないもんねー

 この規模の人よけ結界なんて、王家が所蔵してる魔道具でも無理よ」


「あれは単に人の侵入を防ぐだけだと記憶しておりますが」



 青の精霊王モジュレが現在展開中の結界は、内部に入ろうとしても無意識に別の方向に向かってしまう、干渉系の特性がある。しかも外側からは内部の様子は見えているのに認識できないという、隠蔽系の性質まで持った非常に高度なものだ。



「精霊王が人に力を貸すなんて一体どういうことなんだろうって思ったけど、リュウセイ君や周りにいる子たちのことを気に入っちゃったのね」


「祝福を与えてくださったくらいですから、ベルお嬢様もその一員として認識されておられるようですな」


「私の娘がそんな存在になったのは驚いちゃったし、スファレちゃんも緑の精霊王から祝福をもらってたなんて知らなかったよ」


「精霊王の祝福を受けた人物が同じ時代に三人とは、まるで物語の世界に紛れ込んでしまった気がして、興奮を禁じえません」


「そういえばあなた、英雄譚が好きだったわね」


「大好物でございます」



 ヴァイオリの好きな英雄譚に出てくる人物は、精霊や妖精を始め想像上の種族にも信頼されている勇者が出てくるような物語だ。龍青は英雄とは全く違う気性(きしょう)だが、様々な種族に囲まれている姿を見ていると、ついついそんな姿を重ねてしまっていた。



「あらら……ベルちゃんがちょっと大変なことになっちゃったわね」


「珍しくリュウセイ殿が慌てておられるご様子ですな」


「ちょっと二人を助けに行ってくるわ」


「お気をつけて行ってらっしゃいませ、お館様」



 シェイキアはネロの頭をひと撫でしてから走り出し、自分が行くから大丈夫と異変に気づいてベルたちの方を見つめるメンバーに声をかけた後、沖に向かって泳いでいった。




―――――*―――――*―――――




 息継ぎや体の動かし方を教えていくと、ベルさんもクロールで泳げるようになってきた。やはりうまく泳げるようになると楽しいようで、少し深い場所に行ったり浅い所に戻ってきたりしながら、時々休みを入れて楽しそうに手を振ってくれる。


 そして、何度か一緒に泳いだりしていた時、その事件は起こった――



◇◆◇



 視界の端に見慣れないものが写り込んだので速度を緩めると、海の上になにか色の濃いものが漂っていた。危険なものだといけないと思って確認しに行っている間に、隣を泳いでいたベルさんは先の方へと行ってしまう。


 沖の方に流されていくソレを手にとって水面に引き上げてみると、細い紐で縁取られた黒を基調とした二つの布だった。布には薄い黄色の線で模様が描かれていて、花や葉っぱの形になっている。この世界に売っているものより布面積の小さいソレは、どう考えてもベルさんが身に着けていたものだ。



「リュウセイくーん、そんな所で止まってどうしたの? もしかしてどこか調子悪くなった?」



 その声で思わずベルさんの方に顔を向けてしまったが、大丈夫ギリギリセーフだ。まだ本体は水の中にいる。



「どこか悪くなったわけではないから心配しないでくれ」



 本人は水着が脱げてしまったことに気づいていない。慌ててベルさんから目をそらして後ろを向き、どうするべきか必死で思考する。なるべくなら彼女の羞恥心を刺激しないよう穏便に事を進めたいが、全くそのアイデアが浮かんでこない。体は浮かんでいるというのに。



「リュウセイ君、本当に大丈夫? 私のために無理はしないでね」


「本当になんでも無いんだ、ここは少し深くなっていて危ないから、あまり近づかないでくれ」


「私は水に浮く訓練を受けてるから、深いところでも大丈夫よ。それより近づかないでって、もしかしてリュウセイ君の気に障るようなことしちゃった?」


「いや、ベルさんと泳ぐのはとても楽しいし、不満なんて一つもない」



 思考がまとまらない状態で無駄に話をしていたから、ベルさんがどんどんこちらに近づいてきてるのがわかる。このままではまずい、いっそ水着を後ろに投げてそのスキに離脱するか?



「ねぇ、どうして後ろを向いたままなの? それに手に持ってるのはなに?」


「いや……これは……」


「えっ!? それって私の……」



 至近距離まで詰め寄られ、とうとう俺が手にしているモノの存在に気づいてしまった。



「それ私の水……きゃ(がぼがぼがぼ)」

「ベルさん! そんな格好をしたら沈んでしま――」



 ベルさんは自分の水着が脱げてしまったことに気づき、両手で胸を押さえながら体を折り曲げて隠そうとする。当然そんなポーズになれば浮かんでいられる訳もなく、泡を吹き出しながら沈んでいった。


 慌ててその姿を追いかけて水中に潜りベルさんを胸に抱きかかえると、溺れる人は何かにしがみつくという言葉通り、両腕を背中に回してくる。その状態で岸に向かって泳ぐと、モジュレが力を貸してくれたおかげで、すぐ足の付く場所にたどり着けた。



「がはっ……ごほっ……」


「大丈夫か、ベルさん」



 抱きしめたまま背中をさすると、少しだけ水を吐いてから息を大きく吸い始めた。



「かはっ……ご、ごめんなさい、リュウセイ君。でも、わ、わた……み、水着……」


「こうしてれば見えないから心配いらない、それより落ち着いて呼吸を整えてくれ」


「だ、だけど、リュウセイ君にあた、当たって、私、私……」


「ベルちゃん、少し落ち着きなさい」


「おっ、お母様……」


「あまり激しく呼吸を続けていると過呼吸になってしまうから、力を抜いて目を閉じて波の音に意識を集中するんだ」



 流されていかないように体を支えながら、波のリズムに合わせて頭をゆっくり撫でていく。


 邪魔玉を回収するため泉へ潜る際にやったが、水中で長時間作業する時は意図的に過呼吸状態ハイパーベンチレーションになって血中の酸素濃度を上げる。しかし、陸上でそんな呼吸を続けていたら、手足にしびれが出たり意識障害が発生してしまう。


 シェイキアさんが水着を回収しに行ってくれたのを横目で見ながら、ベルさんの頭や背中を撫でていると次第に呼吸も安定してきた。



「ベルちゃん落ち着いた? はい、水着を持ってきたわよ」


「ありがとう、お母様」


「後ろを向いてるから、水着をつけてもらえるか」


「うん、ごめんねリュウセイ君」


「謝る必要はない、とにかく無事で良かったよ」



 俺が後ろを向くとベルさんがそっと離れていき、少し経ってから声がかかった。



「もう大丈夫だよ」


「水に対する恐怖心が生まれたりしてないか?」


「うん、それは平気。リュウセイ君がすぐ来てくれたし、落ち着かせてくれたから」



 顔を赤く染めたベルさんが、軽く水に潜ったり少し泳いだりしてくれる。溺れたことがトラウマになってないみたいで良かった。せっかくの楽しい思い出が台無しになってしまうからな。



「モジュレにも助けてもらってるから、ちょっとお礼をしてくるよ」


「あっリュウセイ君、私も行くよ。

 ベルちゃんは一度浜辺に戻って、果実水を飲んで休んできなさい」


「うん、わかったわ、お母様」



 ベルさんが浜辺に戻っていくのを見送ってから、シェイキアさんと二人で沖の方へ泳いでいく。

 しかし、無茶苦茶クロールが上手だな、シェイキアさんは。俺たちと一緒にいる時は少し残念な部分も目立つが、なにげにスペックの高い人だ。


ベルの戦闘力はB+


表面上は平静を取り戻した彼女の心がどう変化したのか、次回はそれが語られますのでお楽しみに。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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