第136話 白い砂浜と青い海
今日から新章の開始です。
2020年もよろしくお願いします。
ここから6話に渡って海水浴編をお送りします。
最初の予定では長くて3話だったんですが、書いてるうちに倍になりました(笑)
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資料集の方に前の章の情報を反映させています。
サブキャラの竜族に青竜タムを、精霊王にモジュレを、ピャチの街にフランジ&フェイザをそれぞれ追加。
ピャチから帰ってきて十日ほど経過し、赤月を目前に控えた今日、いよいよ海水浴の決行日が来た。参加メンバーは俺たち家族全員に精霊王の二人を加えた十五人と、シェイキアさん母娘にネロと執事の男性を入れた総勢十九人だ。
「海なのです!」
「白い砂浜ですよ!」
「キュキューイ!」
転移門をくぐると、目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。やはりこの場所はあまり人が訪れないらしく、こんないい天気にも関わらず誰も泳いでいる人はいない。
『水が多い場所は落ち着きますわ』
『儂は内陸部でばかり活動しておったから、海や砂浜とは新鮮な気分だ』
『結界はすぐ完成しますから、皆さんは安心して着替えてくださいな』
『儂も付き合おう』
バンジオとモジュレは俺の頭から飛び立って、少し沖の方へ移動していった。精霊王がこうして一緒に行動するということは今まで無かったらしく、王都で暮らし始めてから二人の仲はとても良くなっている。
「野営用の小屋を取り出すから、みんな着替えはそっちでやってくれ」
「私は服の下に水着を着てきたから、準備万端だよ!」
そう言いながらシェイキアさんが、着ていた服を次々脱ぎだした。執事の男性、特別にこの人だけ名前を教えてもらったが、ヴァイオリさんがそれを回収して丁寧に畳んでいる。下に水着を着込んで来るとか小学生か、なんてツッコミはやめておこう、この世界だと通じないだろうし。
「リュウセイ君、どうどう私の水着姿、興奮する?」
「柄のついた水着って売ってたんだな、濃いめの色だからきれいな髪の毛が映えて素敵だ」
「興奮してもらえないのは残念だけど、素敵って言われたのは嬉しいな、特注品を頼んだだけあるよ」
店売りで見たことがないと思っていたが、オーダーメイドで作っていたのか。黒いワンピースタイプの水着に薄い黄色の線で模様が描かれていて、葉っぱや花をあしらっているみたいだ。プラチナブロンドの髪とのコントラストがとてもいい。
シェイキアさんがこちらに近寄って両手を伸ばしてきたので抱き上げる。嬉しそうな顔で抱きついてくるシェイキアさんに、ヴァイオリさんが優しい視線を送っているが、何となく孫を見守るおじいちゃんといった感じがする。彼の方が年下なのは間違いないが……
「ヴェルデとネロも、大きくなって大丈夫だぞ」
「ピピーーーッ!」
「なぁーーーっ!」
二人の体が白く光り、ヴェルデは鷹のような姿に、ネロはヒョウのような姿に変化した。それを見たバニラがネロの背中に飛び乗って、楽しそうに鳴き声を上げる。
最初は大きくなった姿に戸惑っていたバニラだが、元々仲が良かったこともあって、すっかりこの体勢が気に入ってしまったらしい。
抱き上げていたシェイキアさんを下ろした後、俺とヴァイオリさんで砂浜の一部を平らにならし、そこに二十人くらいで使える備え付けのテーブルと椅子がついた、壁のない小屋を取り出した。屋根は細い木を格子状に並べてあるので、日光は完全に遮断できないが風通しはバッチリだ。
「凄いねこれー、誰が作ったの?」
「これはイコとライザが作ってくれたんだ、二人で力を合わせるとかなり大きなものでも作れるからな」
「素晴らしい力をお持ちの家妖精ですな」
「こんな事が出来るのも、聖域の力のおかげだ」
「キューイ!」
シェイキアさんがバニラとネロの頭を撫でてくれる。大きくなって誰でも触らせてくれるようになったので、ブラッシングの時ですら拒否していたネロも、シェイキアさんのなでなでを受け入れていた。ずっとこうやって可愛がってあげたかったのだろう、すごくいい笑顔で撫で回している。
「お兄ちゃーん、着替え終わったよ」
「とーさぁーん」
白いビキニタイプの水着を身にまとい腰にパレオをつけた真白と、ピンクのワンピースタイプの水着を身につけて、緑色の羽を出したライムが手を繋いでこちらにやってきた。
「二人ともよく似合ってる、パレオをつけてると大人っぽい感じがするし、羽を出したライムも可愛いよ」
「凶器よ! 凶器が二つも付いてるわ!!」
シェイキアさんが真白のまろやかさんを指差してなにか言ってるが、どうもこの世界に来てからも成長しているらしい。水着を買いに行ったのは三ヶ月前だが、若干サイズが合わなくなったらしく、ソラに調整してもらっていた。
本人は「お兄ちゃんのおかげだよ」とか言っていたが、俺は何もやった覚えがない。それより、サイズ調整を頼まれたソラが落ち込んでしまって、それを慰めるのが大変だった。
「あるじさまー、みてみてー」
「買った時に一度着ただけですが、似合ってるでしょうか、ご主人さま」
「水着というのは変わった服なのです」
「スカートがないと物が仕舞えないですよ」
姉妹同士で仲良く手をつなぎながら出てきたのは、クリムとアズルそれにイコとライザだった。鮮やかな赤のチューブトップタイプを身につけたクリム、深めの青色でタンプトップタイプを着たアズル、二人ともしっぽがピンと伸びてテンション上昇中なのがわかる。
イコとライザは紺色のワンピースタイプを身に着けていて、色や身長が相乗効果を生み出すその姿は、どうしてもスクール水着に見えてしまう。胸に白い布で名札を取り付けたい……
「クリムとアズルの元気な印象と一致してる感じが、やっぱりいいな。イコとライザも普段とは全く違う格好で、とても新鮮に見えるよ」
駆け寄ってきた四人の頭を撫でると、嬉しそうにこちらを見上げてくれる。イコとライザの水着は王都で買ったものだが、色はメイド服の印象に近づけたみたいだ。夏場は、お風呂上がりにショートパンツ姿で過ごすメンバーも多いが、イコとライザは短い丈の服を着ることがないので、かなり新鮮に感じる。
「われの水着はどうじゃ? シェイキアにも負けておらんじゃろ?」
「ちょっと着るの手間取った」
ソラは明るい水色でスファレは森を意識した緑、二人ともワンピースタイプの水着だ。ソラの水着はスカート付きだし、スファレは腰の両サイドに布が無い少し大胆なデザインになっている。
「スファレちゃんがそんな形のを選ぶなんて意外ねー」
「ソラの水着は動くとスカートがひらひらして余計に可愛く見える、スファレもすごく目を引く姿が眩しいよ」
二人一緒に手を伸ばしてきたので、両方抱き上げるとギュッとしがみついてくる。いつもと違う感触が顔に触れるが、きっと生地が違うせいだな。
「みんな、遅くなってごめんなさいね。
ほら二人とも、あまり恥ずかしがっていてはダメよ」
「一度着たことはあるんですが、本番だと緊張してしまって……」
「私もリュウセイ君やヴァイオリに見られるのは恥ずかしいわ」
「ベルお嬢様、よくお似合いですよ」
「うんうん、やっぱりベルちゃんにはよく似合ってるわー、お母さんの見立てどおりね!」
コールは短い袖のついた黒いセパレートタイプの水着で、胸や腰の部分にあしらわれたフリルが可愛らしい。ベルさんはシェイキアさんと同じ生地を使ったビキニタイプで、この世界のものより布面積が少ない大胆なものだ。オーダーメイド水着だけあって、シェイキアさんの趣味もふんだんに盛り込まれているんだろう。
「コールは可愛さと女性らしさが同居してる感じが素敵だし、ベルさんは普段隠してるのがもったいないくらい魅力的だと思う」
「やっぱりリュウセイ君はよくわかってるわね! さすが私が見込んだ男の子よ」
二人とも顔を赤くしてうつむいてしまったが、さっきの感想を覆したり取り消すつもりはない。今日一日海で遊んでいれば、恥ずかしさも無くなっていくだろう。
「リュウセイ君、私はどうかしら?」
「旅の途中で何度もその姿になってるから見慣れてると思ったけど、やっぱりこうして天気の良い海で見ると新鮮でいいな」
「くっ……油断していたわ、こんなところに伏兵が潜んでいたなんてっ!」
紫の生地でできたソラ手作りのビキニを身に着けたヴィオレが、目の前に浮かんで胸を反らすようなポーズをとっている。体のサイズは小さいとはいえ、スタイルに関しては真白に匹敵するだけあって、かなりセクシーだ。
女性陣の着替えも終わったので、俺とヴァイオリさんが小屋に入るが、男は一瞬で終わってしまう。
しかしヴァイオリさんの体つきは、年齢を感じさせないたくましさがある。俺もそれなりに筋肉はついてきたが、ちょっと自信を無くしそうだ。
◇◆◇
「海に入る人はまず準備運動をするぞ」
「とーさん、さきに運動するの?」
「体をしっかり動かしてからじゃないと、水に入った時に負担がかかるんだ、お風呂のかけ湯と同じだな」
「にゃーう!」
「キュイー!」
一度に全員は見られないので、まずは体を動かすのが好きなクリムとアズルに、ライムやネロとバニラを伴って波打ち際まで行く。腕や足を伸ばしたり、肩や首の関節も十分ほぐしてから水の中にゆっくり入っていくと、波が足元に当たるのを感じて懐かしさと嬉しさがこみ上げてくる。
「あるじさま、冷たいくて気持ちいいねー」
「波で動いてる砂が当たって、ちょっとくすぐったいです」
「ライムの腰が海水に浸かる深さまで来たら、水を胸にかけて冷たさに慣れていくといいぞ」
「波がバシャバシャ当たっておもしろいね、とーさん」
「冷たさに慣れてきたら、水に顔をつける練習と、息継ぎの練習をしような」
バニラはネロの背中に乗ったまま、浅めの場所で波を受けてはしゃいでいる。猫は水を怖がるようなイメージがあったがネロも平気そうだし、川に落ちかけたクリムとアズルも大丈夫みたいだ。
「ライムに泳ぎ方を教えていくから、クリムとアズルはまずそれを見てもらえるか?」
「見て覚えるのは得意だから任せてー」
「おじいちゃんにもそうやって教わりましたから、腕が鳴ります」
「いっしょにがんばろうね、クリムおねーちゃん、アズルおねーちゃん」
まずは水に顔をつけることから始め、水中で息を吐くことに慣れてもらう。その後はしゃがんだ状態で体全体を水に沈め、ゆっくり息を吐き出した後に体を伸ばし、水面に出た瞬間に大きく吸う息継ぎの仕方にも練習していく。それが出来るようになったら、波打ち際に座ってバタ足の練習だ。
「バタ足のコツは足を途中で曲げずに、付け根だけ動かすとうまくいくぞ」
「とーさん、こんな感じ?」
「おっ、ライムは上手だな、足の先を伸ばすようにして繰り返すと、すぐ習得できるぞ」
「あるじさまー、私のはどうー?」
「走る時と全然違う動かし方が面白いです」
「みんなバタ足が上手だな、これならすぐ泳げるようになると思うから、一度実際の動きも見てもらえるか」
俺は少し深い場所に行って、わかりやすいようにゆっくりしたスピードでクロールを見せてみる。邪魔玉を探した時は素潜りしかやってなかったので、こうやって泳ぐのはやはり気持ちいい。
途中からちょっと本気でスピードを出してしまったが、泳ぎ終わって三人のもとに向かうとキラキラした目で見つめられてしまった。
「とーさんすごい! 速くてかっこよかった」
「水の中をあんな速度で進めるんだねー」
「ご主人さまは、まるで魚みたいでした」
「クリムとアズルの身体能力なら、すぐ出来るようになると思うぞ」
「頑張ってみるよー」
「あんなに気持ち良さそうに泳げるようになりたいです」
「ライムは父さんが手を持ってるから、バタ足で進む練習をしてみようか」
「ライムもがんばるね!」
クリムとアズルは見様見真似でクロールの型を練習しだし、俺はライムの両手を持って支えながら、バタ足と息継ぎのコツを教えていった。
こうした定番のイベントは筆が進みますね!
※19人の内訳。
龍青、真白、ライム、バニラ
コール&ヴェルデ、クリム&アズル
ソラ、ヴィオレ、スファレ
イコ&ライザ、バンジオ&モジュレ
シェイキア、ベル&ネロ、ヴァイオリ
多すぎて管理がすごく大変でした(汁;




