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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 湯けむり創製事件、乳白色の湯殿でメイド妖精は見た!
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第135話 帰還と報告

この章の最終話になります。


序盤に少しだけ帰還シーンを挟んだ後、視点はシェイキアの家に変わります。

 フェイザさんの工房を出た後は、真白の欲しがっていた香辛料や珍しい食材を買い集め、お昼を食べてから転移で王都の家へ戻ってきた。



「お帰りなさいませなのです、旦那様、皆さま」


「お帰りですよ、旦那様、皆さま」


「キュキューッ!」


『聖域とは聞いていましたが、とても力に満ちた場所ですわね』


『ここにおれば封印で疲れた体もすぐ回復するぞ』


「精霊王様が増えてるのです」


「お名前教えて欲しいですよ」


『そうでしたわね、大変失礼いたしました。わたくしは青の精霊王モジュレといいますの、よろしくお願いいたしますわ、妖精さん、霊獣さん』


「ようこそいらっしゃいませなのです、モジュレ様」


「こちらこそよろしくお願いしますですよ、モジュレ様」


「キュイー」


『儂の使わせてもらっておる部屋に案内してやろう』


『あなた自分の部屋まで頂いてらしたのね』


『精霊の集会場みたいになっておるぞ』



 二人は挨拶もそこそこに、多目的ルームの方に飛んでいった。精霊の集会場というのも面白そうだが、スファレ以外見られないのが残念だ。



「精霊王が普通に馴染んで生活してる家って……

 今回の旅は驚くことばかりで、僕はもうどう反応したらいいか、わからなくなってるんだけど」


「考えるのやめる、感じるまま受け入れるの肝要」


「うん、そうだね、僕もそれが一番いい気がしてきたよ、ソラちゃん」



 なにかの境地に至ってしまった感じのマラクスさんを連れてリビングに行き、夕方まではくつろいでもらうことにした。一晩くらい泊まって行ってくれても良いのだが、シェイキアさんを通じて出された指名依頼の報告もあるので、無理強いはできない。


 とりあえずみんなで海水浴の計画を練ることにしよう。




―――――*―――――*―――――




 自宅に戻ったベルは、シェイキアのいる執務室のドアをノックして中に入る。椅子に座ったシェイキアは後ろに執事の男性を立たせ、いつものように書類に目を通していた。



「ただいま戻りました、お館様」


「お帰りベルちゃん、お仕事ご苦労さま」


「今回、私は彼らに同行しただけで、何もやっていませんので」


「もー、ベルちゃんは真面目だなぁ……」



 完全な仕事モードで、自分のことも“お館様”と呼ばれ、シェイキアは少し困った顔をしている。



「落石はリュウセイ君の手によって除去され、ピャチの街で鍛冶組合に引き渡しが完了しました。それに加え山岳道全域の整備と補強、並びに落石現場の補修と原因究明も終了しています。詳しいことはここに纏めてありますので、査収をお願いします」


「ちょ、ちょっと待ってベルちゃん、道路の整備ってリュウセイ君たちがやったの?」


「正確には同行していた緑の精霊王バンジオさんに、精霊魔法を行使しながら移動してもらっています」



 旅に出る前に龍青とスファレがこの家に来ているが、その時に精霊王のことは一切話していないので、シェイキアも全くの初耳だった。ベルから受け取った報告書に目を通し、やがて大きなため息をついて机に突っ伏す。


 エルフにとって精霊とは良き隣人であり、敬うべき存在である。その(おさ)である精霊王が人と行動を共にするなど、英雄譚の中に出てくるくらいだ。



「精霊王なんて伝説の存在と、どうして知り合ったり出来るのよ……この大陸の歴史を安易に塗り替えないで欲しいわ」


「その経緯は私も簡単にしか聞いていませんが、精霊たちがスファレさんに助けを求め、それに応じた結果知り合ったようです」


「そういえばスファレちゃんって、精霊の姿が見えるんだったわね……

 とりあえず今回の件には関係ないから、続きを聞かせてちょうだい」



 シェイキア自身も精霊の存在は感じられるが、スファレはその姿を認識できるという驚くべき事実を、泊まりに行った時に聞いている。色々とツッコミどころ満載で問い詰めたい気持ちをグッと抑え、報告書以外の細かな出来事をベルから聞いていった。



「依頼の件は以上ですが、その結果ピャチのギルド長権限で全員黄段(きのだん)に昇格、特別依頼達成の称号を与えられました」


「やってくれたわね、あの爺さん……でも、この実績を突きつけられたら仕方ないか。その件に関しては、私の方でもギルド幹部に手を回しておくわ」


「それから別件でご報告が」


「まだ何かやらかしたの!?」



 個人パーティーが国家事業を単独で遂行し、しかも百年単位で安全確保が出来るという報告だけでも頭痛がしてくるのに、これ以上一体何があるのか。シェイキアは半眼になりながら、ベルに続きを(そく)す。



「ピャチの近くにある大滝で邪魔玉の浄化を行い、封印を続けていた青の精霊王を開放しています。その際、青竜タムさんの協力を得ることができました」


「竜族って、ベルちゃんも会ったの?」


「私も少しだけ話をしましたが、二百歳位の若い竜でちょっとやんちゃな感じでしたよ」


「確かに私やスファレちゃんより年下だけど、竜族ってそう簡単に会える存在じゃないんだけどなぁ。ましてや、この世界に三人しかいない精霊王のうち二人に会ってるなんて、一体何をどうすればそんな事態になっちゃうの……」


「今回の旅の目的は、精霊王を探して邪魔玉を浄化することでしたから、ある意味当然ですね」


「邪魔玉って一度にいくつも生まれるものなの?」


「緑の精霊王も同じように封印を続けていたようですが、去年の夏に同時多発的な発生があった模様です」



 ベルは龍青たちから聞いた聖域の汚染や、悪魔の呪いの発生が全て一年ほど前に集中していると告げる。そして赤の精霊王の気配も絶たれているので、その捜索を続けていることも報告した。


 情報収集がお家芸の自分たちですら知らなかった事実がいくつもあって驚くが、普通の魔法しか使えない者には手出しの出来る事件ではない。家の力を使ってサポートに徹しよう、シェイキアはそのための指示を執事の男性に出した。



「ここからは私の個人的なことなのですが、青の精霊王モジュレさんから祝福をいただきました」


「えっ!? あれって実在するの?」


「大きくなってもらっていい、ネロ」


「なぁーーーーっ!」



 鳴き声とともにネロの体が光りに包まれ、それが大きくなって収まると、黒豹のように凛々しい姿に変化する。さすがにこれはシェイキアだけでなく、ずっとポーカーフェイスで立っていた執事の男性も動揺させた。


 精霊王の祝福をもらうと守護獣との結びつきが大きくなり、お互いの魔法効果が上がること。これまでより少ないマナで、ネロの存在を維持できるようになったことをベルは語っていくが、シェイキアは目の間の状況を処理するので精一杯だ。


 何しろ誰かが精霊王の祝福を受けたなんて記録は、王家の所蔵している資料にすら存在しない。精霊を身近に感じられるエルフ族でさえ、神話と同じ扱いをしていたくらいだ。



「……私の娘が伝説の人物になっちゃったよ」


「これは驚きました、まさか目の前でこのような事が起きるとは……」


「この状態のネロは、お母様でも触らせてくれるわよ」


「ホントなの、ベルちゃん!」



 ネロが誰かに触られるのを嫌がるのは、シェイキアに原因があった。ベルがまだ赤ん坊の頃に、彼女がネロを構いすぎたからだ。契約者が幼い頃は守護獣の力も弱いので、撫で回されても抵抗できずにされるがままだったことが、ネロのトラウマになっていた。


 龍青のブラッシングを受けている最中でさえ触れなかったのは、まさに身から出た錆ということだ。



「みんなに撫でられたり抱きつかれても平気だったから大丈夫よ」


「それじゃぁ、触ってみるね……噛み付いたり引っ掻いたりしないでよ、ネロちゃん」


「にゃーぅ」



 シェイキアは恐る恐るネロの頭に手を伸ばし、そっと触れたとたん笑顔になる。そのまましゃがんでギュッと抱きつくと、首や背中をワシャワシャと撫で始めた。



「うわー、嬉しいわネロちゃん、またこうやって撫でられる日が来るなんて」


「にゃう」


「良かったわね、お母様」


「リュウセイ君たちがこの世界に来てくれて本当によかったなぁ、またお礼しないとね」



 喜びのあまりシェイキアの手付きが乱暴になっていき、たまりかねたネロがスッと体を引いて腕から抜け出すと、その手にカプリと噛み付いた。



「ネロちゃん痛い、痛いって、甘噛みでも痛いから許して」


「そんなに激しく撫で回すから嫌がられるのよ……

 ネロ、お母様の手を離してあげて」


「にゃふん」


「ふー、ふー……ちょっと赤くなっちゃったじゃない」


「自業自得ですよ、お母様」


「これからはそっと触るようにするし、また撫でさせてね」


「にゃーう」



 噛みつかれた手に息を吹きかけていたシェイキアが立ち上がり、少しだけネロの頭を撫でてから椅子に戻る。立て続けに信じられない報告を聞いて、とどめは精霊王の祝福ときた。ベルが淡々と話しているのは、驚きすぎて達観してしまっただけだが、そんな事情を知らないシェイキアは、娘が少し遠い場所に行ってしまった気がして寂しくなった。



「それから、リュウセイ君たちと海水浴に行く約束をしてるの。お母様も来てくださいとのことだから、予定を開けておいてね」


「ベルちゃんも泳ぐの?」


「チェトレにある大きな岬の裏が湾になっていて、そこにリュウセイ君が転移できるらしいのよ。その場所に青の精霊王が結界を張ってくれるから、人目につかずに泳げるんだって」


「精霊王の力をそんなことに使うなんて、怖っ、流れ人って怖すぎ」



 山岳道の整備は公共性が高いので、精霊王が力を貸してくれたのはギリギリわからなくもない。しかし個人のために力を振るうというのは、例え邪魔玉の浄化で恩があるといっても、あっていい話ではない。一つだけ可能性があるとすれば、龍青たちがそれだけ気に入られているということだろう、そう結論づけたシェイキアは難しく考えるのをやめた。


 それより、娘とはもう出来ないと思っていた海水浴に行けることになって先程の寂しさなど吹き飛んでしまい、水着を用意する算段や予定を空けるための計画を練り始めるのだった……


次章はいよいよ海水浴!

新年の特別ボーナスみたいにイチャコラしますので、ご期待下さい。

(ポロリもあるよ(小声))

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
― 新着の感想 ―
[一言] ポロリした龍青をシェイキアがまじまじと見て論評し、指の隙間から見てたベルが必死に止めるんですね わかります
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