第133話 青の精霊王の祝福
青の精霊王モジュレが封印していた邪魔玉を浄化し、青竜のタムと別れてから徒歩で街まで戻ってきた。転移魔法の座標は巨石を取り出した場所にあるが、今は職人たちが作業をしているので使えない。
あの大きな岩が解体されるのにどの程度かかるかわからないが、街の門からも死角になる場所だし再びここを訪れる時に利用する予定だ。
当初の目的も果たせたし、明日竜人族の目撃情報を冒険者ギルドに聞きに行った後に王都まで帰ることにして、今夜も国の宿泊施設に泊まることになった。
『あなた達は種族を問わず、とても仲がよろしいのですね』
「一緒に暮らして、一緒に寝て、一緒にお風呂も入るから当然です」
「同じ家に住む家族だしな」
「僕だけは部外者なんだけどね」
「ライムはマラクスおにーちゃんのこと大好きだよ」
「僕も大好きだよ、ライムちゃん」
ライムはマラクスさんに抱きついて、胸に顔をうずめながら気持ちよさそうになでなでを堪能している。マラクスさんが胸の締め付けを外した時は、よくああしてもらっているが、やっぱり子供の本能なんだろうか……
『守護獣ともとてもいい関係を結べてらっしゃいますし、マラクスさんとコールさんはわたくしの祝福を受けてみませんこと?』
「スファレさんは精霊との結びつきが強くなりましたけど、モジュレさんの祝福は守護獣に関することなんですか?」
『わたくしの祝福を受けると守護獣が進化しますのよ、コールさん』
「進化というのはどんなものなのです?」
『見た目が変化して守護の力が強くなりますわ。
元の姿にも自由に戻れますから心配はいりませんわよ、マラクスさん』
ブラッシングを始める前のゆったりとした時間を過ごしていた俺たちに、モジュレから祝福を受けないかと提案があった。ちょうどバンジオがスファレに祝福を与えたと話題にしていたので、その気になってくれたみたいだ。
守護獣は精霊に近い存在と言われているが、精霊王の祝福で進化するというのは興味がある。ソラもワクワクとして目で二人を見ているが、一体どんな姿に変わるんだろう。
「ヴェルデは“暴食の守護獣”と呼ばれて、私一人のマナだと支えきれないくらい力が強いんですが、そんな子が進化しても大丈夫なんでしょうか?」
「ピピィー」
『暴食の守護獣というのは、あなた達が思っているような存在ではありませんのよ――』
遥か昔、守護獣とはもっと身近な存在として、この世界に生まれていた。その当時の守護獣は、契約者と更に深いつながりを得ようとする存在だったらしい。それは守護対象のマナを求める行為であり、当時の人たちはそれをうまく制御する術を知っていた。
時代が進むにつれて守護獣と契約者の関係は、対等なものから主従に重きに置いたものになり、繋がりも希薄なものに変化していく。守護獣の方も契約者と距離を取り、必要以上に関係を深めようとしなくなってしまう。
やがて守護獣を制御する知識が失われ、昔のように契約者との深い繋がりを得ようとする存在を、“暴食の守護獣”と呼ぶようになったそうだ。
「じゃあヴェルデは、私ともっともっと仲良くなりたいと思ってくれてたんだね」
「ピピーピピピピーピピッ!」
「僕とネロの関係はどうなんでしょうか」
『この子は求めるマナを抑える術を、自然に身につけてしまったようね』
「なーう、なーなー、なーぅ」
守護獣に関する意外な話を聞けて、ソラも大興奮している。そして繋がりが深いと言われたコールとマラクスさんは嬉しそうな顔で、ヴェルデとネロを抱きしめて頬ずりをしていた。
『わたくしの祝福を受けたあなた達なら、守護獣ともっと深い関係を築けますわ』
「モジュレさん、お願いします。私はもっとヴェルデと仲良くなりたいです」
「ピピッ!」
「僕もネロとの関係を更に深めたいよ、お願いしても構わないですか」
「なう!」
『それでは、守護獣を下におろして頭に手を当ててくださるかしら』
コールとマラクスさんが抱きしめていたヴェルデとネロをベッドの上におろし、頭を撫でるように手をそっと乗せた。俺の頭の上にいたモジュレがコールの前に浮かび、こめかみに手を当てると青色の膜のようなものが体を包んで、それが吸収されるように消えていく。
そこまではスファレの時と同じだったが、コールが手を当てていたヴェルデが光りに包まれ、それが大きく膨れ上がる。その光が収まると、ヴェルデの姿が文鳥サイズから、鷹くらいの大きさに変化していた。体の色は緑のままで精悍な顔つきになり、くちばしも鉤爪型に変化していて、かなりかっこいい。
「ピルルルルルー」
「ヴェルデが大きくなりました! なんだか感動します」
「ふぉぉぉぉー、これが青の精霊王の祝福、凄い奇跡が目の前で起こった」
「これは凄いのじゃ、我らの持つ文献にもこんな事は載っておらんのじゃ」
「ヴェルデちゃん、かっこよくなったね!」
「ピルルーッ!」
大きく鳴いて飛び上がったヴェルデは、部屋の中をぐるぐる飛び回り俺の肩に止まってくれる。その頭をそっと撫でると、嬉しそうに顔を擦り付けてくれた後、再び飛び上がってコールの肩に移動した。
「大きくなってもリュウセイさんと仲良しなんですね」
「ピルー」
ヴェルデの変化に気を取られていた時、マラクスさんも祝福の付与が終わり、ネロの体が光って大きくなる。光が収まった後には、黒豹と良く似た姿に変化したネロが立っていた。
「にゃーう」
「凄いよネロ、こんなに凛々しい姿になるなんて、僕とても嬉しいよ」
「うわー、ネロちゃんの姿ホレボレするねー」
「ちょっとこれは、ときめいてしまいますね」
猫人族として思うところや前世の記憶の影響があるのか、クリムとアズルはキラキラとした目で、大きく成長したネロを見つめている。そんな二人の元へネロは近づき、自分から頭をこすり付けていった。
「ネロちゃんもその大きさになると普通に触らせてくれるんだ、私も撫でていい?」
「ライムもなでなでしたい!」
「にゃうっ」
大きくなったネロは触られることに抵抗が薄くなったらしく、真白やライムに撫でられたり抱きつかれても平然としている。
「あらあら、ヴェルデちゃんもネロちゃんも凄いわね」
「ありがとうモジュレ、家族がこうして楽しそうにしている姿を見られて嬉しいよ」
『どういたしましてですわ。あなた方はわたくしの祝福を受けるに値する心の持ち主なのですから、誇ってよろしいですわよ』
『こうして手を取り合っていける者たちなら、儂らの祝福も大いに役立つだろう』
精霊王の祝福を受けて進化した守護獣は、契約者と互いの力を高め合う効果がある。魔法の効率化や消費マナ削減の恩恵は、生活魔法の効果増大や攻撃魔法の威力に影響するそうだ。お互いが強く結ばれることで、契約者から守護獣に渡す時に発生するマナの損失も減り、より少ない量で存在を維持できるという効果まである。
むやみに施すことのない祝福だけあり、バンジオとモジュレからは破格の力を与えてもらった。その信頼を裏切ることのないようにしよう。
◇◆◇
「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛こ゛」
「大きくなっても、リュウセイ君にブラッシングされる時に震えるのは、変わらないんだね」
「ごろごろごろごろ」
大きくなったネロは、仰向けになった状態でマラクスさんに膝枕をしてもらい、俺がブラッシングをすると震えながら鳴き声を上げ、顎の下を撫でられると気持ち良さそうに喉を鳴らす。
「みんなでブラッシングできる、楽しい」
「ネロちゃん気持ちいい?」
「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛う゛」
「お兄ちゃん、後でブラッシング交代してね」
「われもやってみたいのじゃ」
「私もやってみていいでしょうか」
「体が大きくなってるし、みんなで少しずつやろうか」
「ごろごろごろ」
ヴェルデはすでに元の大きさに戻って俺の頭の上でくつろいでいるが、大きな体のままでブラッシングをしてみたいという希望を、ネロは聞き入れてくれた。おかげで今までブラッシングをやらせてもらえなかったメンバーが、こぞって参加していた。
「ネロがこうしてみんなにかわいがってもらってる姿は、とても新鮮だよ」
「あるじさまのブラッシング中でなくても、触らせてくれるようになったのは嬉しいよねー」
「ご主人さまたちと一緒の旅ならー、この姿で歩いても大丈夫ですしー、どこか別の街にも行きましょうー」
「みんなの目的地と同じ街に出張があったら、お願いしてもいいかな?」
「もちろん大歓迎だが、まずは近いうちに海水浴だな」
「マラクスさんも水着を買っておいてくださいね」
「う、うん、そうだね、ちょっと恥ずかしいけど、必ず用意しておくよ」
マラクスさんは女性の格好をすると雰囲気が一変するし、水着姿もちょっと楽しみだ。買いに行く時に色々問題がありそうだが、その辺りはシェイキアさんがうまくやってくれるだろう。
「買うの難しい時、私が作ってもいい」
「ソラちゃんは私の水着も作ってくれたから、任せて安心よ」
「じっくり採寸して、完璧なの作る、ちょっと時間かかるけど」
「えっと、お手柔らかにお願いするね」
ソラの本音が少し漏れてしまっているが、オーダーメイドの水着というのも良いかもしれない。普段の格好とは違う魅力を引き出すデザインを考えてくれそうなソラの手腕なら期待できる。
「あるじさまー、泳ぎ方教えてねー」
「私もお願いしますー、ご主人さまー」
「二人は運動神経がいいから、すぐ習得できると思うぞ」
「リュウセイさん、私もヴェルデの強化魔法を使って泳いでみたいです」
「ピピッ」
「それは面白そうだな、泳げるようになったら競争してみるか」
今までヴェルデに二倍強化の魔法をかけると、コールの身体能力は獣人族並みに上昇している。進化後に同じことをすれば、どこまで体を動かせるようになるのか、模擬戦もいいが泳ぎでも競ってみたい。
「マラクスおにーちゃんは泳げるの?」
「水に浮かぶ訓練はしたことあるけど、本格的に泳いだことはないんだ」
「もし泳げなかったら、お兄ちゃん先生の水泳教室で指導を受けましょうね」
「ライムもとーさん先生に、おしえてもらうんだよ」
「なんだか面白そうだし、僕もお願いしてみようかな」
「われもお兄ちゃん先生とやらにお願いするのじゃ」
「私、浮かぶだけやってみたい」
アージンにいた頃に出た懐かしい肩書が出てきたが、全員が楽しめるようにしっかり水泳をマスターしてもらおう。
……おや!?
守護獣たちの様子が……!
ロプ○スとロ○ムが増えましたから、あとはポセ○ドンが加われば完璧です(笑)




