第132話 青の精霊王
誤字報告いつもありがとうございます。
それを作者が間違えたらアカンやろって取り違えが頻発していますが、『まったくしょうがねーな、報告しといてやんよ』という生暖かいお心で決定ボタンを押していただければ幸甚に存じます。
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途中に出てくる768という数字は、16進数の300です(笑)
(スファレの年齢が512歳なのも、16進数で200だから)
青竜のタムに体を使って滝の流れを変えてもらい、裏側にあった洞窟に入ることができた。滝の外に転移魔法のポイントが設定できたのを確認してるので、帰りはそれで戻ることにする。
それにしても、あの激流の中に突っ込んで平然としているのは、さすがに竜族だ。彼が来てくれなかったら、バンジオが一時的に封印を交代するつもりだったらしく、時間のかかる作業をしなくて済んだのが助かった。
洞窟はかなり奥の方に続いているようで、照明魔法の届かない場所が暗闇に包まれている。洞窟の床は高さが二段になっていて、下の段は水が流れていた。
「ちょっとヒンヤリするね、お兄ちゃん」
「わずかに風も感じるし水の流れもあるから、どこかと繋がってるのかもしれないな」
『間違いなく他の精霊王の気配がするぞ』
「奥の方に青くて光ってるものがあるよー」
「あれは水面に浮かんでるんでしょうか」
夜目の効くクリムとアズルが、獣人族の視力で青の精霊王を捉えたみたいだ。
照明魔法の明かりを頼りにしながら進んでいくと、二人の言ったとおり青く光るクリオネ型の人物が、水面ギリギリの場所に立っていた。
そこは浅い池のようになっていて、壁に空いた穴から水がチョロチョロと湧き出している。穴は外に繋がっているようで、空気の流れも発生していた。
『大勢の気配が近づいていると思いましたが、珍しい人が来ましたわね』
『久しいなモジュレ、以前会ったのは千年ほど前か?』
『正確には七百六十八年前ですわ』
『そうであったか』
王というから男性かと思っていたが、話し方と頭に響くように聞こえる声は女性を感じさせる。しかし、こうして自分たちにも見ることが出来て、形や大きさもバンジオと瓜二つなので、間違いなく青の精霊王なんだろう。
『それよりそんなに大勢引き連れて一体どうされましたの? ここには危険なものがありますから、引き返した方がよろしくてよ』
「その下、危険な魔力反応ある、邪魔玉だと思う」
『小人族のあなた、わたくしが封印しているものが見えてますの?』
『ソラの使う魔法は、儂らの結界内にあるものを感知できる特別な力がある』
『人の使う魔法もそこまで進化したのですね』
『この者たちでないと不可能だ、その力で儂も助けられたのでな』
『精霊王のあなたを助ける力があるなんて、どういうことですの?』
バンジオから森で起こったことを聞いたモジュレが、ここで封印することになった経緯を話してくれた。やはり去年の夏に禍々しい瘴気を放つ玉がこの場所に現れ、周囲の環境や水に悪影響を及ぼし始めたらしい。精霊たちに相談されたモジュレが排除を試みたものの失敗に終わり、仕方がないのでこの場で封印を続けていたそうだ。
『取り込んで浄化しようとしたのですけど、危うく存在が消えてしまうところでしたわ』
『儂も同じことをして焦ったからな』
「モジュレおねーちゃんも、危ないことしないでね」
『とても優しい竜人族の子供ですわね』
「俺と真白の自慢の娘だ」
『何だか面白い子たちですわ……
それで、この環境に悪さをする玉を、どのようにするおつもりですの?』
「私とお兄ちゃんの力で浄化しますから、封印を解いてもらってもいいですか?」
『わたくし達を消すほどの力があるものを浄化なんて、あなたに危険はないのかしら』
『マシロはその玉をすでに二つ浄化しておる、任せても大丈夫だ』
モジュレにも俺の近くに来てもらい、真白に強化魔法をかけてスタンバイする。封印を解除してもらうと、透明で澄んだ水の一部が濁ったような黒色に変わった。
「何度体験してもこの感覚は嫌になるわね」
『リュウセイがおらなんだら、もっと辛いだろうな』
『わたくしも近づくのに勇気が必要でしたわ』
「僕は初めて邪魔玉っていうのを見たけど、体の芯から震えが来る感じだね」
「なぅぅぅぅぅー」
「マラクスさんも辛かったら俺の近くに来てくれ、少しはマシになると思う」
「精霊たちも辛そうにしておるのじゃ、早く浄化してやって欲しいのじゃ」
「うん、それじゃぁ、始めるね」
《キュア》
真白が水の中に手を入れて呪文を唱えると、黒く濁っていた部分が徐々に薄くなってくる。やはり封印の影響で邪気が濃縮されているようで、なかなか透明な状態にはならないようだ。
「私は前回森の外で待機してましたけど、バニラさんを助けたときより嫌な感じが強いですね」
「なんかしっぽもゾワゾワってするよー」
「これは絶対にこの世界に存在してはいけないものです」
バンジオが封印していた邪魔玉を浄化した時に、森の外で馬の面倒を見てくれていたコールとクリムとアズルも、二度目の体験になるこの嫌な雰囲気に顔をしかめている。
やがて浄化も終わり真白が水中から腕を抜くと、その手には虹色に輝く透明な玉が握られていた。収納から手ぬぐいを取り出して近くに行き、頭を撫でてから浄化された玉を受け取る。
「お疲れ様、真白」
「かーさん、おつかれさま」
「えへへ、ありがとうお兄ちゃん、ライムちゃん」
真白は俺にギュッと抱きついた後、ライムを抱っこして頭を撫でてもらっている。水を拭き取った玉を照明魔法の光にかざしてみるが、シャボン玉のように輝く表面はいつ見ても不思議だ。
「今度はどうするのじゃ?」
「バンジオが持って聖魔玉化、挑戦する?」
『儂が持っても構わんのだが、これはモジュレが預かってみんか?』
『何か意味があるのかしら』
モジュレに以前これが霊魔玉に変化したことや、今バンジオが一つ預かって何に変化するか確かめていることなどを説明していく。
『それは面白そうね、わたくしが預からせていただくわ』
『この者たちの家は聖域でとても居心地が良くてな、何に変化するかわかるまで儂と一緒に住んでみてはどうだ』
『そんな場所に住んでいるなんて、ずるいですわよバンジオ。わたくしもこれの封印で疲れてしまいましたし、お邪魔してもよろしいかしら?』
「自由に使える部屋もあるし、好きなだけいてくれて大丈夫だ」
「王都に聖域が生まれただけでも大事件なのに、精霊王が二人も暮らすなんて、お母様にどう報告したらいいんだろう……」
「きっと三人目の精霊王、同じようになる、諦め肝心」
「怖いこと言わないでよ、ソラちゃん」
「そうと決まれば洞窟の外に出よう、タムも心配してるだろうしな」
虹色の玉をモジュレに取り込んでもらった後、転移門を開いて洞窟の外へ移動すると、そこには寝そべっているタムがいた。地面が湿っているので、濡れた体を乾かしていたみたいだ。
転移で戻ってきた俺たちに気づくと、寝ていた顔を上げてくれる。
『みんなお帰り。転移魔法って凄いね、急に気配が現れるからびっくりしたよ』
「驚かせてすまない。
タムのおかげで青の精霊王に会うことが出来たよ」
『君の頭の上にいるのが青の精霊王だね、大丈夫だった?』
『竜族のあなたにも心配かけてしまいましたわね、こうして動けるようになりましたから、もう大丈夫ですわよ』
『それは良かったね! 他の竜族にはボクの方から伝えておくよ』
「よろしくおねがいします、タムにーちゃん」
『任せてよ!
あっ、それから姉貴に聞いたんだけど、キミたち竜の鱗を集めてるんだって?』
「渡すととても喜んでくれる人がいるから、もし抜けかけの鱗があったらもらっても構わないか?」
『さっき滝で水浴びしてた時に抜けた鱗があるから、それあげるね』
タムが起き上がると、足元にあった青い鱗をつまんで俺の前に置いてくれた。それにしてもこの勢いで流れる滝が、ただの水浴びになるというのは竜族の強靭さを思い知らされる。
「ありがとう、嬉しいよ」
『一度見てみたかった精霊王に二人も会えたし、お礼なんてかまわないさ』
『お主にも世話になったな、感謝するぞ』
『赤の精霊王に出会うことがありましたら、わたくしたちは王都にいると伝えてもらえるかしら』
『必ず伝えるようにするよ、それじゃぁボクはそろそろ行くね』
そう言うとタムは一気に上空に駆け上がり、大きく旋回してから瞬く間に遠ざかっていった。自慢するだけあって本当にスピードが速い。
「なかなか忙しないやつじゃな」
「すごく元気な竜だったよねー」
「もっとゆっくりお話したかったですが、あっという間に行ってしまいました」
「私はまだ四人しか会ったことありませんが、竜族も性格や話し方が様々なんですね」
「まだ四人って、普通は竜族になんて会えないからね、コールちゃん」
「あと三枚鱗を集めたら、全種制覇だね」
「竜の鱗って一枚見つかるだけでも大騒ぎになるんだけど!?」
「せっかくここまで来たんだから、全員に会ってみたいな」
「流れ人の感覚が僕たちと違いすぎてついていけない……」
俺たちの会話に、いちいちツッコミを入れてくれるマラクスさんは、ちょっと可愛い。微妙に心労を増やしている気もするが、海水浴にでも一緒に行ってストレス解消してもらおう。
「モジュレに聞きたいことがあるんだが、構わないか?」
『何でも聞いてくれて構いませんわよ』
「海に泳ぎに行きたいと思ってるんだが、事情があって誰かに見られるわけにはいかないんだ。一定範囲に結界を張って、人目につかないようにとか出来ないか?」
『先程のような強力な結界でなく、人の目に映らないような弱いものでしたら、水さえあれば小さな街の規模で張れますわ』
「今度それをお願いしても構わないだろうか」
『あなた達には大きな恩がございますし、それくらいお安いご用ですわよ』
さすが精霊王だ、桁違いの大規模結界を張れるようだ。しかもそれを弱い結界と言ってしまう辺りスケールが違う、あれだけの邪気を封印し続ける力は伊達じゃないな。
「マラクスおにーちゃんよかったね、いっしょに泳ぎにいけるよ」
「なんか僕一人のためにそんな事をしてもらうのは、凄く申し訳ない気がするよ」
「遠慮してはダメよマラクスちゃん、こんな機会は滅多に来ないんだから、思う存分楽しまないとね」
『わたくしは結界が得意ですのよ、頼りにしていただけると嬉しいですわ』
「うん、ありがとうございます、その時はよろしくお願いします」
『儂は広範囲の結界が苦手だからな、モジュレが来てくれて助かった』
『その代わりバンジオは細かい行使が得意ではありませんか』
「道の悪くなった部分や、ひび割れた崖とか器用に直してくれたな」
『ああいった事は、わたくし苦手ですの』
精霊王といっても、それぞれ個性や得手不得手があるのか。そんな部分は人間味みたいなものが感じられて、とても親近感が湧く。きっと赤の精霊王もこの二人とは違うだろうし、ぜひ会ってみたい。
モジュレの言葉遣いはお嬢様ミームのような「てよだわ言葉」ですが、かなり雑なので軽く読み流して下さいですわ!(杜撰




