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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 湯けむり創製事件、乳白色の湯殿でメイド妖精は見た!
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第130話 ピャチの街

 最後の山越えをして、ピャチの街が見える場所まで進んできた。途中の山道や峡谷(きょうこく)は、バンジオと精霊の力で補修と補強をやってきたため、今後百年単位で大規模な落石や路肩の崩落が発生しないはずだ。



「とーさん、街がみえてきたね」


「あんまり大きな街じゃないんだね」


「近くにダンジョン無いから冒険者少ない、でも職人の数おおい」



 標高の高い位置から見下ろしているが、最初に訪れたアージンの街より小さいようだ。俺たちのパーティーだとコールの使う防具が一番重要なので、なにか良いものがあれば買っていこう。



「この街では何が美味しいかなー」


「ここでしか食べられない料理とかあるんでしょうか」


「この街は辛い料理が有名だよ。僕は食べたことないんだけど、完食したら無料になる激辛料理を出すお店もあるね」


「ちょっと興味ある、食べてみたい」


「激辛は無理そうだが、ちょっと辛い料理を注文して二人で食べてみようか」



 イコとライザも割と辛いものは大丈夫だが、今のメンバーだと俺とソラに一番耐性がある。次点はクリムと真白で、特にライムとアズルとスファレは辛いものが苦手だ。



「私も少しだけ挑戦してみるよー」


「私は遠慮しておきます」


「われは普通の料理で良いのじゃ」


「ライムも普通のにする」


「私は味付けの参考に一口だけ食べてみるね」


「マシロさんのカレーならギリギリ大丈夫ですが、それ以上の辛さは遠慮しておきます」



 まず食べ物の話になってしまうのは、このパーティーらしいところだな。他の街にない激辛料理があるということは、ここでしか手に入らない香辛料があるはずだ。それを手に入れれば、真白がうまく料理に生かしてくれるだろう。



「珍しいハチミツも売ってるといいわね」


『儂も食べられようになれば良いのだが、実に残念だ』


「みんなの食にかける情熱が、精霊王にまで影響し始めてるよ……」



 旅のゴールが見えてきて、いつも以上に明るいムードになったメンバーと山道を下っていく。俺の腕につかまっているアズルも旅の間に少しずつ慣れてきたらしく、遠景なら高い場所でも恐怖心が薄れてきたようだ。


 まずは冒険者ギルドに報告に行き、それから街の外で取り除いた巨岩を引き渡す手はずになっている。国からの指名依頼だと全員の通行税が免除されるので、街にはすんなり入ることが出来るだろう。



◇◆◇



 やはりここでもマラクスさんは受付嬢たちに熱烈な歓迎を受け、そこで今回の依頼達成を報告するのかと思ったが、直接ギルド長に会うからと部屋に向かっている。



「おう、マラクスか、よく来たな」


「ご無沙汰してますフランジさん」



 ギルドの奥にあるドアをノックして中に入ると、小柄でがっしりした体格の老人が出迎えてくれた。この世界にはいない種族だが、ヒゲのないドワーフっぽい第一印象を受けてしまったのは、やはり鍛冶の盛んな街だからだろう。何となくお酒も好きそうだ。



「ところで、こいつらはお前の家の関係者じゃないよな? 一体どうしたんだ」


「このパーティーに、山岳路の落石を撤去してもらったんですよ」


「やっと国の連中が動いてくれたのか、助かったぞ。詳しい話を聞かせてくれ」



 パーティーメンバーの構成に驚かれたりしながら道中の話を進めていくと、徐々にギルド長の顔が深刻な表情に変わっていった。色々とやりすぎてしまった感はあるが、自分たちを含めた旅の安全につながるし、意義のあることだと思う。



「こいつはただの指名依頼達成で終わらせるもんじゃないだろ」


「僕もそう思うから、こうして相談に来たんです」


「こいつらの資料はさっき受け取ったが、特別依頼達成者が三人もいるのか……」



 ギルド長は机の上に広げた資料に目を通していたが、すぐに顔を上げて俺たちの方に鋭い視線を向けてくる。



「よし、全員を黄段(きのだん)に昇格して、特別依頼達成の称号も付与する、それでどうだ?」


「いいんですか? フランジさん」


「いいも何も、落石の撤去と運搬に道路の補修を成し遂げて、更に原因究明までやってくれてるんだぞ、こいつら以外に誰が出来るっていうんだ?」


「確かに街道全域の補強なんて、国でも手を付けられませんね」


「俺がそう決めたんだから王都の連中にも文句は言わせねえ、お前らもそれでいいな?」


「俺たちはこの国の色々な場所に行ってみたいと思ってるから、特別依頼達成の称号がもらえると凄く助かるよ」


「なら決まりだ、さっそく手続きするぞ、ついて来い」



 さっき資料を見ていた時もそう思ったが、このギルド長は即決即断の出来る人みたいだ。それに全員が段位のトップに並び、特別依頼達成の称号がもらえるのはありがたい。これでどんな街に行くときでも通行税がかからずに、入場審査も簡単なものになる。



◇◆◇



 受付けに行き更新手続きをしてもらうと、全員が模様付きの黄色いカードになった。このランクに一年未満で上がったのは俺たちが初めてみたいで、ギルド長の話を聞いた受付嬢が何度も確認していた。


 最高ランクの階位は国や要人の指名依頼を受けられる関係上、活動実績が必要で身元審査も厳しく簡単には上がれない。ここのギルド長は実績や身元保証も乏しい俺たちに、可能な限り高い評価を与えてくれたことになる。



「シンバおじちゃんと同じになったね、とーさん」


「父さんもまさか一年も経たずに黄段になれるとは思ってなかったよ」


「われなど冒険者登録して二ヶ月経ってないのじゃ」



 模様のついた黄色いカードを眺めながら全員でギルドを出て、今はまた街の外へ向かっている。この後、鍛冶組合の会長が職人を連れてくるらしいので、そこで道を塞いでいた巨岩の鑑定をしてもらう。



「流れ人の話はギルドを通じては伝わってきていたが、まさかそいつらを連れてくるとは思わなんだぞ」


「みんなこの街に用事があったから、僕のほうが便乗させてもらった感じです」


「竜人族の目撃情報は俺の方でも聞いておくが、でかい滝のある場所に行きたいんだったな?」


「はい、そこで確かめたいことがあるんです」


「そこを流れる川の上流に滝がある、あそこに見えとる山だ」


「人の通れる道はあるのかしら?」


「たまに見に行くやつもいるから道はあるが、ほとんど整備はされてないな。まぁ、お前らなら大丈夫だろ」



 ギルド長は俺の頭の上に視線を向けてニカッと笑っている、さっきの話を聞いてちょっと期待しているのかもしれない。



『崩れたり傷んだ部分は儂に任せておくがいい』


「今日は時間が遅いからもう無理だねー」


「明日の朝に出発ですね」


「今夜は国が借り上げてる宿泊施設に泊まれるようにしてるよ、お風呂もあるからゆっくり休もうか」


「久しぶりのお風呂、とても楽しみ」


「リュウセイさん、入浴剤は持ってきてるんですか?」


「任せてくれ、その辺は抜かりがない」



 宿泊施設にあるお風呂の話題で盛り上がっていると、街につながる門から数人の集団が出てきた。先頭を歩いているのは、ギルド長と同じように小柄でがっしりした体型の人だ。



「待たせたな兄貴」


「来たかフェイザ、こいつらが落石を運んできてくれたらしいから、鑑定を頼むぞ」


「若い連中に現場を見に行かせて、とても人の手に負えるもんじゃないって話を聞いていたが、それを運んじまうとは凄いもんだな」


「かなり長さがあるから、倒れても大丈夫な場所で出そうと思う」


「それならあっちの広い場所で出してくれ」



 ギルド長の弟らしいフェイザさんに巨岩を出す場所を聞き、みんなは離れた場所で待ってもらうことにした。



「ご主人さま、私が魔法で守らなくてもいいですか?」


「危ない時は瞬間移動で逃げるし、バンジオがついてくれるから心配しなくても大丈夫だ」


『もしもの時は儂が何とかしてやるから、安心するがいいアズルよ』



 最後まで心配そうにしていたアズルの頭を撫でて、全員が安全な場所まで移動した後に呪文を唱える。



ストレージ・アウト(荷物取出し)



 目の前にビルを思い出させるほどの巨大な岩が出現し、それがゆっくりと奥へ向かって倒れていく。かなりの衝撃と土煙が上がりそうなので、急いで反対側に走って逃げる。


 後ろを振り返ると徐々に加速していった岩が地面と衝突し、大きな音が辺り一面に響き渡り視界も悪くなる。ちょっとした地震と同じ揺れを感じるほどの衝撃だったが、倒れた岩は途中で折れたりもせず原型をとどめていた。事前に聞いていたとおり、かなり硬い岩だったようだ。



「こいつはすげーな」

「あの青年はこんな巨大なものを収納できるのか」

「あいつと一緒に山にこもって、倒れるまで採掘してぇ」


「オメェら無駄口叩いてねぇで、さっさと鑑定に行きやがれ!」


「「「ヘィ、わかりやした親方!!!」」」



 当然だが音と振動は街の方にも伝わっていて、野次馬が遠巻きに集まりだしてちょっとした騒ぎになりかけている。そっちの方はギルド長が対応してくれてるので任せよう。



「岩の場所はこの位置でもいいか?」


「ちょうどいい方向に倒れたんで、問題ないぞ」


「かなり硬い岩だと思うが、これは何で出来てるんだ?」


「落石現場で拾ったかけらを溶かしてみたが、アダマス鋼が含まれとるんだ」


「アダマス鋼?」


「アダマス鋼、とても硬くて魔晶と相性いい、純度高いの高級品」


「良くしっとるな嬢ちゃん、アダマス鋼は魔晶の効果が高くなる金属で、高級な剣や鋼材に使われとる」



 アダマス鋼の混じった鉱石はこの辺りでも採掘できるようだが、かなり標高の高い場所にいかないと見つからないらしい。この岩にどれだけ含まれているかはまだわからないものの、ここまで運んで欲しいと言っていたのはこれが理由だった。



「俺の収納魔法が役に立ってよかったよ」


「これだけのものが運べるとは、さすが国の雇った冒険者だな」


「収納量でリュウセイ君に敵う人はいないだろうね」


「さすがとーさんだね!」



 まぁ、真白とフィドのおかげではあるが、頼りにしてもらえるのは素直に嬉しい。抱きついてきたライムの頭を撫でながら、鍛冶職人たちが巨岩に群がって作業している姿をしばらく見学させてもらった。


登場人物の名前の由来になっているフェイザーとフランジャーは、共に空間系と言われるサウンドエフェクトです。

フェイザー:原音+変位相音

フランジャー:原音+遅延音

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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