第11話 教会からの訪問者
連続投稿の三話目です。
第二章では主人公のチート能力が大きなカギを握ります、ご期待下さい。
一ヶ月が四十五日あるこの世界に来て初めて月が変わり、秋の季節に当たる黄月になった。アージンの街にも農場があり、そこの収穫が始まれば収納持ちができる仕事も増えるらしく、十分なお金が手に入ったら妹の手がかりを探しに、別の街に行ってみるも良いかもしれないと思っている。
本格的にお金を稼ぐなら、ダンジョンに入って魔物を狩るのが一番だが、武器の扱いに慣れていないのに加え、ライムを連れてパーティーに参加するわけにはいかないので、まだ経験していない。今は普通の仕事ばかりしているが、収納魔法を持ってるおかげで、暮らしていくだけなら十分の報酬がある。宿屋も緑の疾風亭でずっとお世話になっているが、手持ちの資金がわずかに増えているのが現在の経済状況だ。
ライムは物覚えがとても良く、乾いた砂が水を吸っていくように、様々な知識を吸収していっている。文字もある程度覚えてしまって、ギルドに依頼を受けに来る子どもたちを驚かせていた。ギルドでもすっかりアイドル状態で、冒険者や受付嬢に可愛がってもらっている姿がいつもの光景になった。クラリネさんも俺たちを見かけたときは必ず挨拶に来てくれるが、ライムの頭を撫でる時の表情は少し危険だ。
◇◆◇
その日、冒険者ギルドに入ると普段の雰囲気と違っていた。受付フロアの奥にある飲食スペースに人だかりができていて、いつもライムに挨拶をしてくれる冒険者たちも、そちらに意識を取られている。
「とーさん、いつもとちょっと違うね」
「誰か有名な人でも来たのかもしれないな」
「おはようリュウセイ、ライムちゃんもおはよう」
「おはようございます」
「おはようシンバ、今日は一体どうしたんだ?」
「俺も来たばかりで詳しくは知らんが、なんでも教会から白の魔法を持ったやつが来たらしい」
「白って癒しの使い手か、かなり珍しんだろ?」
「この街にもあまりいないが、今日来たのは女の子ですごく可愛いらしくてな」
「それで男性冒険者が集まってるのか」
冒険者には女性も多いが、彼女たちは飲食スペースの椅子に座って、冷めた目で盛り上がる男性たちを見ている。
「とーさんも興味ある?」
「癒しが使えるメンバーがパーティーにいるとすごく助かると思うが、父さんはダンジョンなんかに行く予定はないから、あまり興味はないかな」
「さっき誰かが言ってたが、胸が結構大きいらしいぜ」
シンバからセクハラになりそうな発言が飛び出したが、この世界でも胸の大きな女性は人気があるのか。人が集まっている方に意識を向けると、交わされている会話が耳に入ってくる。
「ねぇ、今日は何の用事だったの?」
「えっと、教会からここに来るように言われたんです」
「冒険者になるなら俺たちのパーティーに入らないか?」
「あの、私まだここの事よく知らなくて……」
「それなら僕たちが教えてあげるよ」
「それに探してる人がいるんです」
「それなら俺に任せな、こう見えて人探しは得意なんだぜ!」
矢継ぎ早に話しかけられ、自分の目的を果たせないようで少し可哀想だ。それに喧騒の中なので確認しづらいが、聞き覚えのある声に胸がざわついた。
「とーさん、あの人ちょっとかわいそう」
「そうだな、助けに行ってみるか」
「行くのかリュウセイ」
「このままだと可哀想だし、気になることもあるから確かめに行くよ」
「ライムちゃんが元気に挨拶したら連中も反応するだろうし、まぁ頑張ってみな」
周りを取り囲まれているので中にいる女の子は確認できないが、集団に近づくに連れて声もはっきり聞こえてくる。
「みんな、おはようございます!」
ライムが大きな声で挨拶をすると、騒いでいた集団の意識が一斉にこちらに向いた。
「ライムちゃん来てたのか、おはよう」
「今日も可愛いな」
「相変わらずリュウセイと仲良しで羨ましいぜ」
「俺もこんな可愛い娘がいたらなぁ」
「てめえはまだ結婚してねぇじゃないか」
「リュウセイも結婚してないのに子供がいるんだぞ、俺にだってそんな奇跡が起こってもいいだろ」
ライムのおかげで質問攻めも止まり、話題の矛先がこちらに向けられる、これなら中にいる女の子に話しかけることが出来るだろう。
「りゅうせい……龍青って、もしかしてお兄ちゃん!?」
「やっぱり真白か!!」
「お兄ちゃんっ!!!」
集団をかき分けるように女の子が出てくると、俺の胸に飛び込んで抱きしめてくる。服は教会で支給してもらったのかこの世界のものだが、間違いなく妹の真白だ。一緒に転移させられたかもしれないとずっと心配していたが、運よくこの街に飛ばされたみたいで良かった。
「とーさん、この人だれ?」
「この子は父さんの妹で名前は真白だ」
「お兄ちゃん、このすっごく可愛い子供どうしたの?
父さんって言われてるし、まさか結婚したの!?」
「いや結婚はしていないぞ」
「なら誰との子供なの!? お兄ちゃんの子供は私が産むって決めてたのに!」
「少し落ち着いてくれ真白、ちゃんと説明するからどこかに座ろう」
「あっ、うん、ごめんね……」
「とにかく会えて嬉しいよ」
「お兄ちゃん以前より優しい顔になってるね、それにすごく嬉しそう」
俺の顔をじっと見つめていた真白が少し頬を染めながら、いつもの安心できる笑顔を浮かべてくれる。その手を引いて、空いていたテーブルの椅子に腰掛けた。
「リュウセイのあの顔って嬉しそうな表情なのか?」
「俺にはいつもの顔と見分けがつかんぞ」
「俺もだ、さっぱりわからん」
「さすがは妹ってことなのか……」
「ライムちゃんといい、さっきの女の子といい、リュウセイばっかり羨ましいぜ」
「俺も可愛い女の子とパーティー組みたい」
「はぁ……今日も依頼をこなしに行くか」
集まっていた男性冒険者たちは、少し恨めしそうな表情を浮かべながら、ぞろぞろと掲示板の方に移動していく。男性たちを見つめていた女性冒険者の顔が、冷めた表情から厳しいものに変化していた。
みんないい連中なので真白のことも本当に力になってくれようとしてたと思うから、ちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。
「お兄ちゃんの事をみんな知ってたけど、もしかして私より前にここに来てたの?」
「ここには四十日くらい前に来たんだ」
「私は昨日、近くにある教会の裏で倒れてたんだって」
確かこの世界にある教会は、神を崇めたり教えを説いたりという活動はせず、困っている人に手を差し伸べる存在だったはずだ。信じられている神が博愛と潔白を司っている女神なので、それがこの国の治安の良さに繋がっているという話を聞いたことがある。
そこに飛ばされてきた真白は、女の人に保護されて一晩眠っていたそうだ。そして目が覚めてから魔法の色を調べてもらい、白が出たので神が遣わせてくれた人かもなんて言われたらしい。その後に着替えを手渡されて、冒険者ギルドに行って手続きをしてくるように言われ、今朝の騒動に巻き込まれた。
「行けばわかるから、受け付けの女の人に相談するといいわよって言われたんだけど、何をすればいいかさっぱりわからなかったから、あちこちキョロキョロしてたら声をかけられて囲まれちゃったんだ」
「あそこのシスターは肝心なことを伝えてないじゃないか、いつもそうだがちと呑気すぎだぜ」
いつの間にか近くに来ていたシンバが、俺たちの会話に参加してきた。確かに行けばわかると行って放り出されたら、何をすればいいかさっぱりだろう。そのシスターも悪気があったわけではないだろうが、確かにのんびりしすぎだな。
「お兄ちゃん、この人は?」
「俺の名前はシンバっていうんだ、このギルドにたむろしてる、ただのおっさんだ」
「シンバはこの街のことをよく知ってて、依頼を受ける時も相談に乗ってくれたりするんだ」
「そうだったんだ……
私の名前は真白って言います、兄がいつもお世話になってありがとうございます」
「ライムちゃんといい、マシロちゃんといい、リュウセイの周りにいる子は言葉遣いが丁寧だな」
「あっそうだった、お兄ちゃんの膝の上に座ってるその子のことだよ!
……えっと、ライムちゃんって名前なの?」
「うん、ライムっていいます。名前はとーさんがつけてくれたんだよ」
「私は真白っていうの、よろしくねライムちゃん」
「よろしくおねがいします、マシロおねーちゃん」
「それでお兄ちゃん、なんでライムちゃんに父さんって呼ばれてるか説明してくれる?」
ちょっとジト目気味にこちらを見つめる真白に、この世界に来た時に生まれたばかりのライムが見つけてくれ、最初に見た人間が俺だったので父と慕ってくれるようになったと、経緯を説明していく。
「はぁ……良かった。
お兄ちゃんの子供は私が産むって決めてたからビックリしたよ」
「いつの間にそんな事が決まってたんだ?」
「私が幼稚園に通ってた頃から決めてたよ」
「なぁリュウセイ、お前のいた世界では兄妹で結婚できたのか?」
「いや、少なくとも俺のいた国で結婚するのは無理だったぞ」
「ここは異世界なんだから、兄妹で結婚して子供を作ったって何の問題もないよ!」
「なぁシンバ、この世界でそれは可能なのか?」
「俺は聞いたこと無いなぁ……」
「とーさんと結婚するんだったら、マシロおねーちゃんがかーさんになるの?」
「そう! そうだよライムちゃん! 私のことはお母さんって呼んでいいからね」
「わかった、じゃぁ、かーさんって呼ぶ」
「あー、もう、すっごく可愛い……! 抱っこしてあげるからこっちにおいで」
ライムが俺の膝から降りて真白の方に走っていくと、その胸に飛び込んだ。それを優しく抱き上げて頬ずりをする真白はすごく幸せそうで、ライムも嬉しそうな顔をしている。
「かーさんフカフカですごく柔らかい」
「まだおっぱいは出ないけど、お兄ちゃんにお願いしてすぐ出せるようになるから待っててね」
「お前の妹、なんか凄いな」
「元の世界ではここまで羽目を外したりしなかったんだが、違う世界に来て少し興奮してるのかもしれない」
俺とシンバは、仲良く抱き合って言葉を交わす二人を、少し遠い目で見つめていた……
「ただし二次元に限る」という、筆者の性癖を詰め込んだ妹の登場です(笑)




