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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 湯けむり創製事件、乳白色の湯殿でメイド妖精は見た!

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第126話 入浴剤

誤字報告ありがとうございます。

名前の取り違いが多すぎる(うっかり八兵衛

 途中で声をかけられたのは少し驚いたが、地元の人に守護獣と一緒に入っていいと言われたのはラッキーだった。排水口の近くに陣取り、かけ湯をして全身をお湯に沈める。



「何度入っても温泉はいいよー」


「天気もいいし気温も暑くもなく寒くもない、露天風呂に入るには最高の環境だな」


「途中で声をかけられて少しびっくりしましたけど、人も少なくて落ち着いて入れるのがいいです」


「とーさん、おひざの上にすわっていい?」


「リュウセイ、ここ宿の温泉より深い、私も座りたい」


「二人とも構わないぞ、底が見えないから気をつけて座ってくれ」



 ライムとソラが手探りであぐらをかいた俺の足を探し、上にちょこんと座って体を預けてくる。ずり落ちないように軽く抱き寄せ、自分も湯船の壁に背中を預けてくつろぐ。



「水の流れる音のする場所でお風呂に入ってるって、なんか不思議だねー」


「温泉に入りながら聞く川の音は、いつもと違う特別な感じがします」


「キューイ」



 クリムとアズルそれにバニラは、川の流れる音に耳を傾けて少しうっとりしている感じだ。三人とも耳がいいので、何か特別な音が聞こえているんだろうか。



「日の光を浴びながら入る温泉というのは、なんとも贅沢な感じがするのじゃ」


「この温泉は流れが速くて楽しいわ」


「ピピーピピー」


『所々、渦を巻くような流れができておるな』



 スファレは湯船のふちに頭を乗せて全身の力を抜いてくつろぎ、ヴィオレとヴェルデとバンジオは広い湯船をゆらゆら漂っている。



「私たちも水面に浮かんでみるのです」


「ヴィオレ様と同じ妖精の力を発揮するですよ」



 イコとライザも飛べる力を使って水面に浮かび始めたが、制御を間違えたようでクルリと反転してうつ伏せになってしまう。水死体(どざえもん)に見えてしまうから、慌てて救助に向かった。



◇◆◇



 しばらくみんなで、ゆったりした会話を楽しんでいたが、俺は一人でさっき声をかけてくれた老人のもとへ向かう。ちょっと気になることがあって、地元の人に聞いてみたいことが出来たからだ。



「すまない、少し話を聞かせてもらってもいいだろうか」


「どうしたんじゃ、兄さん」

「あんなべっぴんさんに囲まれとるのに、わざわざジジイの近くに来るとは酔狂なやつじゃな」

「聞きたいことがあるんだったら、なんでも言ってみろ」


「温泉のお湯が触れる部分に白い結晶がこびりつくだろ、あれは勝手に持ち帰ってもいいのか?」


「あんなゴミ、いくら持ち帰っても構わんぞ」


「これはゴミなのか?」


「何度取り除いてもこびりつく厄介な汚れじゃ、時々街の住人の手を借りて掃除するんじゃ」

「毎回大量に出るんじゃが、全部街の外に埋めとるよ」

「冒険者ギルドにも依頼を出すから、兄さんもやってみるか?」



 この街のお店を何ヶ所も回ってみたが、入浴剤は販売していなかった。湯の花を何か別の目的で使ってるのかと思ったが、ゴミとして捨ててしまっているのか。


「それはもったいないな」


「もったいないとはどういう事だ?」


「これはお湯の中に含まれている成分が固まったものなんだ、これを乾燥させてから粉末にして普通のお湯に混ぜると、家の風呂でも温泉気分が味わえる」


「何だそれは! ちょっと詳しく話を聞かせてくれ!!」



 三人ともすごい勢いで食いついてきたので、湯の花のことや入浴剤のことを説明していく。普通のお湯に混ぜるだけで、ここの温泉と同じになるのはまずいという話も出たが、湯の花は温泉成分の一部だけしか入っていないことも説明した。


 どうしてそんな事を知っているのか当然の疑問が出たので、自分が流れ人で元の世界には天然の温泉が何千ヶ所もあったと告げた。



「これは凄い発見じゃぞ……」

「兄さん、この事を(おおやけ)にする気はあるか?」


「俺は商売をする気はないから、自由に公開して商品化して構わないぞ、家にも買って帰りたいしな」


「そんな訳にはいかん、これは街の一大産業になる発想じゃぞ、まずは商業組合で手続きじゃ!」



 髪の毛が全て旅立っている老人が、商業ギルドに案内してくれるというので、全員で向かうことになってしまった。急な展開にちょっとついていけないが、温泉は十分堪能した後だし、素直についていくことにしよう。



◇◆◇



 露天風呂からそんなに離れていない場所に商業組合があり、中で待っているように言われたので、全員で扉をくぐる。物流拠点だったトーリの街より規模は小さいが中の作りはほとんど同じで、細長いカウンターの後ろに事務机が並んでいる、役所のようなレイアウトだった。



「商業組合へようこそ、本日はどういったご用件ですか?」


「温泉で知り合った老人に、ゴミとして捨てている白い結晶を売り出す話をしたら、ここで手続きするから待つように言われたんだ」


「結晶って何度掃除しても発生する、白い汚れですよね」


「それを粉末にして売りたいんだ」


「えっと、確かに元手はほとんどかかりませんが、あんなゴミを買う人はいませんよ?」



 カウンターに来てくれた若い女性は、俺たちの方にちょっと残念なものを見るような視線を向けてくる。まぁ、入浴剤や温泉成分の話をしていないので当然だが、そんな目を向けられると心にダメージを受けてしまいそうだ。



「あれはゴミなどではないぞ、この街の新たな産業になる宝じゃ」


「あっ、会長。

 一体どうされたんですか、今日は午後からこちらに来る予定だったのでは」


「おう、待たせたな」


「さっそく話をすすめるぞ、これから忙しくなるんじゃからな」


「温泉組合の会長さんと商店連合の会長さんまで、一体どうされたんですか?」



 扉を開けて入ってきたのは、同じく温泉で知り合った二人だった。

 禿頭(とくとう)の人が商業組合の会長、痩せた人が温泉組合の会長、そしてお腹がちょっとふくよかな人が商店連合の会長だった。今までゴミとして廃棄していたものに商品価値があると知って食いついてきたのは、そうした立場の人たちだったからか。



「まずは兄さんたちへの一時金の支払いや、利益分配について話じゃな」

「一年を通して素材が回収できるように、規制も作らんといかんぞ」

「試作品を売り出してみるのも大切じゃ、顧客の評価を聞かんと商売にならんからな」

「すまんが会議室を借りるぞ」


「あっ、はい、大会議室が空いていますので、そちらをお使いください」



 自分たちがここにいる意味があるのかと思ってしまうが、会議室で打ち合わせをする事になった……



◇◆◇



 話し合いの結果、まずはアイデア料として一時金を支払ってもらえる事になった。その後はしばらくテスト販売で小売価格の調整をしたり購入者の反応を見て、商売として成り立つようなら本格的に事業として立ち上げる。


 そこで正式な契約をして、事業規模に応じた金額を受け取ることが出来る。そこから先は権利使用料として、売上の一部を定期的に振り込んでくれるそうだ。


 この辺の知識はさっぱり無いので、金額や配当の割合は全て三人に任せてある。悪いようにはしないと言ってくれたので、大丈夫だろう。



「まさかここまで話が大きくなるとは思ってなかったよ」


「今日受け取った金額もちょっとびっくりしちゃった」



 なにせ今まで捨てていたものを、乾燥させて粉末にするだけという元手がほぼかからない商品なので、失敗してもリスクはほぼ無いとアイデア料を弾んでくれている。



「マシロの料理、リュウセイの知識、どっちも凄い」


「もらってきた結晶をさっそく使ってみましょう」


「粉末にするのはお任せ下さいですよ」


マシロ様の手伝い(スパイス挽き)で習得した技術を披露するのです」



 温泉組合の会長に、宿屋の掃除で回収され保管していた湯の花を少しわけてもらい、それを家で使ってみることにしている。どれだけ温泉に近づけるか、ちょっと楽しみだ。



「今日はとーさんといっしょに温泉する」


「家のお風呂で温泉気分を満喫しような」


「家のお湯も白くなるのかなー」


「あの真っ白のお湯はきれいでしたからね」


「温泉の素を入れると同じように白くなるはずだよ」


「それは楽しみなのじゃ」


「お風呂の時間がますます楽しみになってしまったわね」


『儂も入らせてもらって構わんか?』


「もちろんバンジオも、これから毎日お風呂に入ろう」



 他の精霊と違ってバンジオは実体を持てるんだから、お風呂は存分に楽しんで欲しい。


 王都に拠点を持ってから初めて行った家族旅行は、とても楽しいものになった。もし入浴剤の売上が好調なら、邪魔玉(じゃまぎょく)探しでどうしても落ちてしまう収入を、ある程度まかなえるかもしれない。



◇◆◇



 湯の花から作った温泉の素を入れたお風呂は、とても素晴らしかった。濃度は元の湯にかなわないが、乳白色に変化した湯船に浸かると、温泉の雰囲気を十分味わえる。



「入浴剤、思った以上の効果ある、これは大発見」


「王様とかー、貴族の人もー、喜んでくれるんじゃないでしょうかー」


「そのうち王都の雑貨屋でも、売られるようになるかもしれないねー」



 元の世界だと入浴剤は、コンビニで買えるほどの定番商品だ。富裕層の話題になれば、お土産としてでなく生活雑貨として、石鹸と同じように売られる日が来るかもしれない。



「温泉地に行ってよかったね、お兄ちゃん」


「バンジオおじーちゃんにも会えたしね」


『儂も貴重な体験をさせてもらっとるからの、感謝するぞ』


「はふぅぅー、他の精霊王さんたちの行方が、早くわかるといいですね」


「必ずどこかにいるんだよな?」


『精霊王の身に何かあれば儂らも感知できるのでな、恐らく大丈夫だろう』


「無理に浄化しようとしたりしなければいいんだが……」



 足の上に座ったコールの頭やツノを撫でながら、これからどうしようか話し合いをしているが、情報不足の今は具体的な案も出てこない。



「今の時点であれこれ考えても仕方がないのじゃ、それよりわれも抱っこして欲しいのじゃ」


「はふぅ……そうでした、ついつい堪能しすぎていました。交代しましょう、スファレさん」


『儂の見立てが正しいなら、リュウセイはシェスチーに革新をもたらせたはずだが、全く動じておらんのは肝が座っておるのか、思考を放棄しておるのかわからぬな』


「こんな部分がリュウセイ君たちの良い所なのよ」



 新規事業の立ち上げなんて経験は初めてのことだし、まだ結果が出ていないので実感がわかない、というのが正しいと思う。内政や異世界の知識で革命を起こそうという気はないし、勇者のように世界を救おうなんて壮大な(こころざし)もない。目の前にある小さな幸せを守りながら、誰か困っている人の役に立てればいい。


 そんな事を伝えながら、抱っこやなでなでで夜のまったりした時間を過ごし、眠りに就いた。


出会い系チート+知識チートの融合。

日本の温泉地は約3,000か所、源泉の数は27,000以上あるそうです。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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