第120話 緑の精霊王
誤字報告ありがとうございます。
精霊が妖精にクラスチェンジしすぎてる(汁;
(もう一か所ご指摘いただいた部分は、意味が伝わりにくくなっていたので、少し表現を変えています)
精霊の案内で森の奥まで来たが、そこにはクリオネのような形をした、緑色の不思議な物体が浮かんでいて、スファレの説明だと精霊王という存在らしい。名前からして精霊たちの頂点に立つ存在なのは間違いないが、俺たちの目にもはっきりとその姿を捉えられるのは、特別な力を持っているからなんだろう。
『精霊に導かれたようだが、ここは危険な場所だ、立ち去るがいい』
直接頭の中に響いてくるような不思議な声が聞こえたが、いきなり帰れと言われてしまった。しかし意思疎通が出来るなら、こちらの言葉も届くだろう。
「俺たちの仲間が精霊に助けを求められてここまで来たんだが、感知魔法で危険な魔力の存在を見つけてるんだ、それの排除に協力できないだろうか」
『儂の結界内にある存在を感知したというのか』
「その下、見えないけど何かある」
『これは驚いた、一体どんな魔道具で発見したのだ?』
「三色の彩色石、同時に使ってるだけ、見つけられるのリュウセイのおかげ」
ソラが自分の手を差し出し、握っていた三個の彩色石を見せると、精霊王がこちらに近づいてきて、それをじっと見つめるような姿勢になる。
『長年、王として精霊たちを導いてきたが、まだまだ儂の知らん理が存在するとは面白い』
「精霊王さん、その下って何があるんですか?」
「もしかして邪魔玉じゃないかしら」
『そこの妖精は悪しき玉の正体を知っておるのか?』
「ソラちゃんが感知してくれた反応と同じものが聖域のある泉に突然現れて、周りの環境に悪さをしていたのよ」
『この場以外にも同じようなものが現れておったのか……』
異変の正体に心当たりがあるとわかり、精霊王は自己紹介と経緯を説明してくれた。
彼の名前はバンジオといい、三人いる精霊王のうち“緑の精霊王”と呼ばれる人物だ。他には赤の精霊王のエレギー、青の精霊王のモジュレがいるらしい。
去年の暑くなってくる時期に、禍々しい瘴気を放つ玉が空から突然この森に落ちてきた。それが邪気を振りまいて、森や精霊たちに影響し始めたため、助けを求められたバンジオが結界で封印し続けていたらしい。精霊の使う力は自然そのものを拠り所にしているので、周りにある植物の生育が悪いのは、その影響みたいだ。
『儂もどこか影響のない場所に移動させようと思ったのだが、うかつに触ると存在が消されかねん程の力を感じたので、封印して邪気が漏れ出さないようにしていたのだ』
「どうして竜族に頼まなかったんですか?」
『こいつの正体がわからなんだからな、数百年封印し続ければ邪気も消えるかと思ったのだ』
寿命の概念がない種族だからか、気の長いことを考えていたみたいだ。封印中は常に力を使い続けないといけないし、こんな場所で何百年も足止めされていたら、他の精霊たちも不安だろう。
「他の精霊たちもバンジオのことが心配で、スファレに助けを求めてきてるんだし、邪魔玉は俺たちが浄化してしまうよ」
「聖域にあったものも、この子たちに浄化してもらったから、任せて大丈夫よ」
『人の身でそのような事ができるのとは、驚きという感情しか出て来ぬな。他の者達に心配はかけたくないので、手を貸してもらっても構わんか?』
「はい、私とお兄ちゃんの力で浄化しますから、安心してください」
「バンジオはヴィオレと一緒に俺の頭の上にでもいて欲しい、邪気の影響が軽くなると思う」
『お主にはそのような力も備わっておるのか』
「とーさんは凄いんだよ」
「流れ人の力、侮ったらダメ」
「われもリュウセイにくっついておくことにするのじゃ」
みんなが近くに固まったのを確認して、真白にノーマルの強化魔法をかける。バンジオが封印を解くと、辺り一帯に聖域で感じた時の同じ、寒気のする空気があふれ出した。
「またこの感覚を味わう事になるとは、思ってなかったわ。リュウセイ君がいなかったら、すぐ逃げ出したいくらいよ」
『近くの精霊たちもこの場に避難しておるな』
「リュウセイの周りに精霊が集まっとるのじゃ、大人気じゃな」
「俺には見えないからどうなってるかわからないけど、早く浄化してしまった方がいいな」
「それじゃぁ、始めるね」
封印が解除されて見えるようになった邪魔玉は、あの黒くて禍々しいオーラを放っている。その横に真白が座り込んで、手を当てると呪文を唱えた。
《キュア》
浄化用の新しい呪文を作った真白の魔法で、黒いマーブル模様が徐々に薄くなっていく。封印のせいで邪気が濃縮されていたのか、以前より時間がかかっているみたいだ。
「ふぅー、楽になってきたわ、ありがとう真白ちゃん」
『儂らですら手に負えん邪気を浄化してしまうとは、感謝するぞマシロとやら』
「透明な虹色の玉になったので、もう大丈夫だと思いますよ」
「これをリュウセイが持っておったら、霊魔玉に変わったのじゃな」
「ずっと腰のカバンに入れっぱなしだったから、どう変化したのかわからないんだが、いつの間にか真っ白の玉になっていたよ」
『リュウセイとやらは、その身で霊魔玉を生み出したのか』
その時の経緯をバンジオに説明したが、流れ人はとんでもないことをすると呆れられてしまった。
「われの里にあった無魔玉は、ここまできれいな透明にはならなんだのじゃ」
「確か灰色の玉が徐々に透明に近づいていって、それから白に変化したんだったな」
「透明になった時にこのような輝きを放っておらなんだし、無魔玉とは別の存在なのかもしれんのじゃ」
「短時間で霊魔玉になったり、霊木が元気だったりするのは、その辺りの違いが影響しているかもしれないのか……」
スファレは無魔玉に力を貯めるために三百年近く、そして霊木が安定するまで精霊に協力してもらいながら百年近くの時間を費やしている。それがたった数ヶ月で力を蓄え、特に何もしていないのに霊木が安定している訳は、素材の違いにあると考えるのが自然だろう。
「この世界、まだまだ謎多い、これどう変化するか楽しみ」
「また霊魔玉になっても対処に困るし、これはどうする?」
「そうやってポンポン聖域を生み出されては、われの立つ瀬が無くなってしまうのじゃ」
「スファレおねーちゃん、泣かないでね」
「ライムはリュウセイとマシロに似て、優しい子じゃな」
「自慢の娘だからね!」
「ライム自慢の家族、可愛い妹」
「うふふ、あなた達は何が起こっても変わらないわね」
この大陸に三人しかいない精霊王という希少な存在がここにいるが、竜族や妖精と次々出会ったりしているうちに、すっかり慣れてしまった気がする。しかし、よくよく考えれば、これでこの世界に存在する全ての種族と会話をしたことになるのか。
『その玉は儂に預けてもらっても構わんか?』
「えぇ構いませんよ」
「バンジオが何かに作り変えてくれるのか?」
『これが霊魔玉に変化したのなら、聖魔玉にも変わる可能性があるのでな、それは儂がやってみよう』
バンジオが真白の近くに飛んでいき、虹色に輝く透明な玉の横に浮かぶと、その体を大きく広げて包み込んでしまった。それが一瞬で元の大きさに戻ると、手の上にあった玉は消えていた。
「ちょっとびっくりしました、玉を食べちゃったんですか?」
『驚かせてすまぬ。儂の体は特別でな、こうして自分より大きなものを取り込んで浄化することができるのだ』
「精霊王凄い、こんなのどの本にも書いてなかった」
『この力で邪魔玉を取り込もうとして、危うく消えそうになったので過信は禁物だがな』
そんな力を感じるとさっき言ってたが、実際に試してみたのか。王の使命もあったのだろうが、もっと自分の体は大切にして欲しい。
「バンジオおじーちゃん、危ないことはやめてね」
『ライムとやらは本当に優しい子だな』
「自慢の娘だから当然だ」
『精霊の王である儂とこうして気軽に話ができるとは、本当に面白い連中だ』
「われとも分け隔てなく付き合えるような家族じゃ、精霊王といえども同じなのじゃ」
精霊王といっても見た目はクリオネだし、呼び捨てを許してくれるような人だから、気さくに付き合えそうな感じはする。ただ表情が全く読めず、頭の中に響いてくる言葉でしか感情を判断できないので、コミュニケーションがちょっと取りづらい。
『これが聖魔玉に変化すれば、今回のお礼にお主たちに贈ることにしよう』
「聖魔玉を近くに置けるなら嬉しいわね」
「聖域の環境もっと良くなる、すごく大歓迎」
『しばらく時間がかかるのだが、聖域化した自宅にも興味があるし、お主たちについて行っても構わんか?』
「俺たちはいま北の街に向かってる途中で、家に帰るのはそれからになるが、それでも良かったら歓迎するよ」
百年単位でこの場に留まることを覚悟していたからか、それくらい全然構わないみたいなので、一緒に旅を続けることになった。精霊王まで加わってしまったが、にぎやかになるのは大歓迎だ。
◇◆◇
森から抜け出すと日がだいぶ傾いていた、中でかなり時間を取ってしまったし、今日はこの場に泊まってしまおう。
「あっ、みんなおかえりー」
「ご主人さま、皆さん、おかえりなさい」
「おかえりなさい皆さん。
あの……リュウセイさんの頭の上に、緑色に光るものが乗ってますが、どうしたんですか?」
「ただいま、みんな。この人は緑の精霊王でバンジオという名前なんだ、森の中で知り合ったんだよ」
「ピピピッピピー」
『お主は守護獣だな、このような者までおるとは、実に面白い』
「ピピーッ」
『挨拶が遅れたな、儂は緑の精霊王バンジオという者だ。森を汚していた悪しき玉を、ここにおる皆に浄化してもらってな、しばらく付き合わせてもらうことになった、よろしく頼む』
森の外で待機してくれていたクリムとアズルとコールに森の中の出来事を話し、今日はそのままここに泊まっていこうと野営の準備も始めた。
「精霊たちが集まって、この場が凄いことになっとるのじゃ」
『スファレは精霊との親和性が非常に高いようだな』
「何度も霊山に通ったり、常に霊魔玉と過ごしとったからじゃな」
『ならば、お主に儂の祝福を授けてやろう』
「それはありがたいのじゃが、簡単に授けて良いものでは無いじゃろう?」
馬の世話をしている横でスファレとバンジオが話をしているが、人生の半分をお役目に捧げてきた彼女には、祝福を受ける資格は十分ある気がする。責任感の強い性格なので、どんな力でも間違った使い方はしないだろう。
「バンジオおじーちゃん、しゅくふくをもらったら、どんなことが出来るようになるの?」
『精霊に願いを伝えやすくなる。例えば危険なものが近づくと教えてくれるよう頼めば、こうした野営の時に安心できるぞ』
「家族が安心して過ごせるようになるのじゃったら、是非お願いしたいのじゃ」
『精霊たちもお礼がしたいと言っとるのでな、過去の責務がこれで少しでも報われるよう祈っておるよ』
森の奥から帰る時、スファレのお役目についても話していたが、やはりバンジオにも色々と思うところがあったみたいだ。
スファレの顔前にバンジオが移動し、彼女のこめかみに手を当てて静止した。バンジオの体が明るく光ると緑の膜のようなものがスファレの全身を包み込み、それが吸い込まれるように体の中へ浸透していった。
「これは凄いのじゃ、意識すれば精霊たちの感情が流れ込んでくるのじゃ」
「スファレさん、精霊たちは今どんな気持ちなんですか?」
「全員がとても嬉しそうにしとるのがわかるのじゃ、それに皆にも感謝の気持を伝えたいようじゃな」
「精霊の役に立ったのなら嬉しいよ、それに祝福をもらえてよかったなスファレ」
「つらい過去にしかならんと思っとったが、お役目を全うして良かったのじゃ」
瞳をうるませてこちらに近づいてきたスファレの涙がこぼれる前に、そっと抱きしめて頭を撫でる。みんなも俺の近くに来て、スファレの頭を撫でたり祝福してくれた。
『儂も長くこの大陸で王として存在してきたが、種族を問わず支え合う姿はなかなか良いものだ』
そう語りかけてくれたバンジオからは、全てのものを包み込むような優しくて大きな想いが、あふれ出ている気がした……
スファレのやってきたことが、精霊王にも認められました。
この世界の精霊は、一般的な属性精霊とは異なっています。
緑の精霊王が大地を、青の精霊王が水を、赤の精霊王が大気をそれぞれ管理。
その辺の事情も含めて、資料集のサブキャラ項目の竜族の下に、精霊王を追加しています。
(光の三原色なので、集まると白に……なりませんw)
 




