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第10話 初依頼

連続投稿の二話目です。

これで第一章が終了になります。

 子どもたちも受けた依頼やお手伝いに出かけていき、たくさん話しが出来て満足そうなライムと一緒に、掲示板に貼ってある依頼を眺めていく。この世界にある学校は貴族や富裕層の一部が通っているだけで、一般家庭の子どもたちは家の手伝いをしたり、こうしてギルドに来て依頼を受けるのが普通みたいだ。


 そうした体験を続けているためか、とても行儀の良い子ばかりだった。そういえば自分の小さい頃はどうだっただろう。たった二歳しか歳が違わない妹のために、頼れる兄であり保護者であろうとして、一生懸命背伸びをしていた気がする。当時は自分でも、無理に大人ぶろうとしている生意気な子供に見られてるんじゃないかと考えたりしたが、出会ったばかりのライムを大事にしようとしてくれた子どもたちを見ていると、そういうのも悪くなかったかもしれないと思えてきた。



「まだなにが書いてるか全然わからないよ」


「文字は焦らずにゆっくり覚えていこうな」


「とーさんはどうやって覚えたの?」


「この世界の文字は、自然に読んだり書いたり出来るようになってたな」


「それちょっとずるいね」


「言葉がわからなかったら、こうしてライムと話せなかったかもしれないし、苦労しただろうな」


「とーさんと話せないのは嫌だから、やっぱりずるくない」


「俺もライムと話をするのが楽しいから、これで良かったと思ってるよ」



 嬉しそうにこちらを見上げるライムの頭を撫でながら、紫色のボードに貼り出された依頼票を見てみるが、そこには遠征の運搬人や、貴重品の護送に同行する依頼などが貼ってある。遠征はライムがいるから却下だし、貴重品は空間収納に入れて安全性を高めるんだろう。ここは統一国家の大陸で、治安も良いと説明を受けたが、どれだけ厳しい罰則や戒律(かいりつ)があっても、法を犯してしまう人が出るのは仕方のないことか。とりあえずリスクのある依頼に手を出すべきではないな。



「何か見つかった?」


「この在庫整理と運搬の依頼を受けてみようと思う」



 一枚の依頼票を留めてあるピンから外し、文字を指差しながらライムに説明していく。拘束時間も午後から夕方までで今からでも十分間に合うし、荷物も細かいものから大きなものまであるようなので、子供でも手伝えるかもしれない。



「良さそうな依頼は見つかったか?」


「あぁ、これを受けてみようと思う」


「これならリュウセイとライムちゃんにぴったりだな。店主は子ども好きの優しい婆さんだから、一緒に行ったら喜んでくれると思うぜ」


「これは大人が受けてもいい依頼なのか?」


「さっきいた子たちが受けるには、ちとでかすぎる荷物が多いから、お前さん向きだ」



 シンバは子どもたちの相談も受けていたが、本当にこの街のことをよく知っている、そんな彼が太鼓判を押してくれたなら大丈夫だろう。この依頼を受けると決めて、前回の訪問でライムの頭を凄く撫でたそうにしていた受付嬢の窓口に行くと、目を潤ませながら喜んでくれた。


 クラリネさんを彷彿とさせる頬の緩みっぷりに危機感を覚えたが、まったく気にせず頭を撫でられていたライムが可愛かったので良しとしよう。他の受付嬢の反応を見てみたが、前回同様に羨望の眼差しでこちらを見ていたから、ちゃんとローテーションを決めた方が良い気がした。幼女好きが多いんだろうか、このギルドは……



◇◆◇



 いつものように宿屋でお昼を食べた後に、街の案内板を見ながら指定された場所へと移動を開始した。初めて来る場所なのでライムもキョロキョロと視線をさまよわせているが、今から仕事に行くのがわかってるので、足を止めるような質問はしてこない。ちょっといい子すぎて、無理をしてないか心配になってしまう。



「なにか気になったものはあるか?」


「知らないものばっかりだから、どれも面白そう」


「この辺りは仕事で使うものを取り扱う店ばかりあると聞いてるが、変わったものが多いみたいだし依頼のない日にまた来ような」


「うん! 楽しみにだね」


「そうだ、ライムは何かやってみたい事はないのか?」


「ライムはとーさんと一緒にいろんなものを見て、いろんな依頼をやってみたい」


「だったら依頼もお散歩も両方頑張るようにしようか」


「とーさんと一緒にいるのが一番楽しいし、それがいい!」



 日本ではまだ高校生だったが、この世界だと十五歳で成人になるので、俺も立派な大人として扱われる。そういった意識や常識の差には戸惑うが、こうして頼りにされて懐いてもらえたら、生活を安定させてライムには不自由のない生活をしてもらいたいと強く思う。この世界に来て最初の仕事をこれからする事になるが、精一杯頑張っていいスタートを切ろうと気合が入った。


 そうやって新たな決意をしながら歩いていたら、今日の依頼先の商店が見えてくる。ここは服飾工房などに生地や糸などを販売している商店で、重量はないが長くて取り回しの悪い布のロールを取り扱っている。これがまだ体格の小さな子どもに、不向きとされている理由だった。糸などの細かい商品もあるので、ライムにも手伝えると言ってもらえたのは、こういった部分だろう。



「こんにちは、ギルドからの依頼で、き……ました」


「よく来てくれたね、あんたは冒険者だろ?

 無理に敬語を使わなくてもいいから楽に話な」


「すまない、敬語で話すのが昔から苦手で、そう言ってもらえると助かる」


「冒険者の兄さんに敬語で喋られる方が気持ち悪いからね、そんな事気にしなくていいよ。それより、あんたが抱いてる子も手伝ってくれるのかい?」


「おばあちゃん、こんにちは。とーさんのお手伝いで来たライムって言います、よろしくおねがいします」


「小さいのに、ずいぶんしっかりした子だね」


「ギルドでは問題ないと言っていたんだが、この子も一緒で構わないか?」


「こんな可愛い子が手伝いに来てくれるなんて、あたしゃ嬉しいよ」



 シンバの言っていた通り、この人は子ども好きみたいで、ライムの事をとても優しい表情で見てくれている。それに言葉遣いも気にした風でないのが、とても話しやすくて助かる。冒険者の言葉遣いに寛容なのは、この世界あるいはこの国の特徴なのかもしれない。



「俺は収納魔法が使えるから、役に立てると思う」


「こりゃまたウチみたいな普通の依頼に、収納魔法持ちが来ていいのかい?」


「この子がいるから、長期間のものや危険な依頼は受けられないから、やらせてもらえると助かる」


「ライムもがんばるから、やらせてください」


「そりゃこっちからお願いしたいくらいだよ、ギルドは本当にいい冒険者を派遣してくれたねぇ……」



 抱いていた腕から降りて、ペコリと下げたライムの頭を、おばあさんが優しく撫でてくれる。この世界で初めての仕事だが、とても良い所の依頼を受けられたのは幸運だ。こうして見ていると、二人はお婆ちゃんと孫みたいで、すごくほっこりする。



◇◆◇



 この商店には少し離れた場所に共同管理の倉庫があり、そこに納品されてた商品の整理と、その一部を店の中に補充するのが仕事内容だ。商隊の到着に合わせて年に何度か在庫や棚整理をするらしく、その時だけ冒険者ギルドに依頼を出すということだった。


 ライムを真ん中にして、三人で手をつないで倉庫に向かっているが、おばあさんとライムの歩く速度が同じくらいなので、全員が無理なく移動できている。こんな小さな部分でも、この依頼を受けてよかったと思ってしまう。



「じゃあ、あんたは別の世界から来たのかい」


「突然この世界に飛ばされて来て、最初に見つけてくれたのがライムなんだ」


「それでライムのとーさんになってもらったの」


「種族が違うから不思議な父娘だと思ってたけど、そんな事情があったんだね」


「この子のお陰でこうして街に来られたんだから、俺は凄く感謝してるよ」


「ライムも、とーさんに会えてすごくうれしい」


「流れ人や竜人族に会えるなんて、長生きはしてみるもんだねぇ……」



 この世界では太古に存在した獣族(じゅうぞく)と人の間に生まれた“獣人族(じゅうじんぞく)”、同じく絶滅してしまったオーガとの間に生まれた“鬼人族(きじんぞく)”、そして精霊との間に生まれたのが“エルフ族(もりびとぞく)”で、妖精との間に生まれたのが“小人族(こびとぞく)”と言われている。ライムの“竜人族(りゅうじんぞく)”は、もちろん竜族とのハーフだ。


 そんな時代が大昔にはあったが、今の世だと違う種族同士で子供は出来ないらしい。だから俺のことを父と呼んでいる竜人族のライムは、とても不思議な存在に映ったそうだ。だが俺としては人族(じんぞく)以外の種族は全てファンタジーな存在で、そんな過去や経緯は関係なく少し姿が違うだけの人と感じてしまうから、ライムに父と呼ばれるのに抵抗や違和感はない。


 自分に子育てができるのか不安はあるが、この数日付き合ってみて、ライムとならやっていける予感はしている。



「あのおっきな建物が倉庫?」


「あぁ、そうだよライムちゃん」


「共同で利用してると言ってたが、かなり大きな建物なんだな」


「ライム、あんなおっきなの見るの初めて」


「中はいくつも区切られてるんだけどね」



 通りの先に見えてきた建物は高さはないが横に長く、大きな入口がいくつも付いている。ここからだと全体は見えないが、敷地の面積は冒険者ギルドより大きいだろう。そんな建物が複数並んでいて、倉庫街のような場所になっていた。


 その一つの鍵を開けて中に入れてくれたが、横幅はあまりなく奥に長い作りになっていて、大小様々な木箱がいくつも並んでいる。



「この箱、ライムより背が高いね」


「一番大きな箱だと、立ったまま中に入れそうだな」


「いくつかの木箱が(から)になるから、中に入ってみてもいいよ」


「ホント!? やったー!」



 商隊の運んできた大きな木箱から、店の在庫を入れておく小さな木箱に詰め替えたり、店内に運び入れる分を仕分けしていく。ライムも運ぶのを手伝うと張り切っていたので、雑貨屋で購入した手提げカバンに糸を入れて用意しておいた。



「あんたの収納魔法は、どれくらいの大きさがあるんだい?」


「どこまで入るか限界を試したことは無いんだ」


「試してみたいなら、その辺の()いてる木箱をしまってみてもいいよ」


「じゃぁ、ちょっとやってみるよ」



 中身のない木箱に手を当てて呪文を唱えてみたが、一抱(ひとかか)えある大きさの物は問題なく収まってしまう。もう少し大きな物も試してみるが、どれも簡単に収納できてしまった。ならばと、商隊が使う大きな木箱に手を当てて呪文を唱える。



ストレージ・イン(倉庫保管)



 そう言葉にした瞬間、目の前に会った木箱が消え、これも問題なく収納できてしまった。



「あんた凄いね、この大きさのものが入れられる使い手は、なかなかいないと思うよ」


「とーさんすごい!」


「入れられる容量は、その人が持つマナの大きさで決まると本に書いてあったから、俺はマナの量が結構多いのか」


「これだけの容量があるなら仕事で食いっぱぐれる心配はないし、遠征に出かける冒険者でもやってけるよ」


「遠征に出るつもりは当面ないけど、自分の力を知ることが出来て良かったよ、ありがとう」


「よかったね、とーさん」


「ライムちゃんも、いいお父さんが出来て良かったじゃないか」


「うん!」



 ライムが立ったまますっぽり収まってしまう高さの木箱を複数個収納してみたが、何の問題もなくしまうことが出来て、かなり大きいマナの容量があるとわかった。それがわかったので、倉庫内の整理も一緒にやってしまい、おばあさんはかなり喜んでくれた。


 店内に運び入れる分も収納魔法で一度に運搬できるので時間に余裕が生まれ、ライムが箱の中に入って楽しんだり、店に戻ってからお菓子やお茶もごちそうになり、仕事は大成功のうちに終了した。



◇◆◇



「今日はありがとね、いつも自分で片付ける分までやってもらって助かったよ」


「自分の力を知ることが出来たし、報酬まで加算してくれてありがとう、この依頼を受けてよかったよ」


「お菓子すごくおいしかった、ありがとうございました」


「近くに来たら遊びにおいで」



 ニコニコ顔のおばあさんに見送られ、ライムを抱きかかえながら店を後にする。予定していた時間より早く終わったが、依頼内容に無かったことまでやったので、報酬は倍近く支払ってもらえた。依頼受注時に発行された伝票に業務達成の印がつけられ、これをギルドに提出したら初めてのクエストは無事終了だ。



「ライムは今日お昼寝してないけど大丈夫か?」


「今日は眠くないからへーきだよ」


「いい依頼主でよかったな」


「すごく優しかったし、おやつももらえたね」


「ライムも運ぶのを頑張ってくれたからだよ」


「とーさんの魔法もすごかったからね」



 今日は色々なものを収納してみたが、容量にはまだまだ余裕がありそうな気もする。おばあさんもこれだけの容量があったら仕事には困らないと言っていたので、このさき生活していく自信が少しついてきた。今日の依頼を受けて本当に良かった。


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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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