第115話 緑の疾風亭で食事会
一つ前の114話ですが、最後の部分を大きく書き換えました。
内容は変わってないんですが、より伝わりやすくなってるかなと思います。
後書きに履歴を付けてますので、宜しければ見比べてみてください。
それと、誤字報告いつもありがとうございます。
また主人公がお星さまに……w
治療室を出て受付フロアに行くと、捜索に参加していた冒険者たちが集まっていた。シンバがなにか確認しているようだが、全員戻ってきたんだろうか。
「シンバ、お疲れさま、みんな戻ってきてるのか?」
「おう、リュウセイたちにも世話になったな、さっき点呼をとったが全員揃ってるから心配するな」
「子供も無事だったし、みんなも怪我がなくて良かったよ」
「リュウセイたちが見つけてくれたんだってな」
「やっぱり森の中はエルフには敵わねぇ」
「小人族の女の子は感知魔法を使えるって言ってたわよ」
「ここを旅立っていった時は三人だったが、いい仲間が増えたじゃないか」
「しかもみんな可愛い子だなんて、やるわねリュウセイくん」
俺たちのことを知ってる人は口々に声をかけてくれるが、スファレにソラとコールはちょっと気後れしている。だが、こうして声をかけてもらえるのは、とても嬉しい。
「お前ら一旦散れ! それから、リュウセイたちは一度受付けに行ってこい」
「素材の買い取りだけ頼もうかと思ってるんだが、受付けに行く必要があるのか?」
「今回は住民の捜索だっただろ、その場合は街が俺たちに依頼をした形になるんだ、発見者のお前たちには特別手当も出るから受け取ってこい」
ただの手伝いのつもりだったが、正式な依頼になってるとは知らなかった。メンバー全員にだいぶ頑張ってもらっているし、そういうことならありがたく受け取っておこう。
◇◆◇
久しぶりにライムの頭を撫でられてご満悦の受付嬢によると、今回は森の奥という特別な技能が必要だったことや、野生化したハグレを倒した功績もあるので査定に時間がかかるみたいだ。迷子になった子供からもう一度詳しい話を聞いて、買取依頼に出した鱗やドロップした魔晶と合わせて、明日の昼以降に報酬を決めるということになった。
王都に帰るのは明日の夕方くらいにして、ひとまず緑の疾風亭に顔を出そう。
「どうだった?」
「査定に時間がかかるみたいだし、明日の午前中に詳しい報告をしに、俺たちもギルドに顔を出すことになった」
「なら今日はどうするんだ?」
「今から緑の疾風亭に顔を出そうと思ってる、みんなあそこの料理を楽しみにしてるんだ」
なにせ真白がこの世界で最初に料理を習った人だ、いま作ってくれている料理の基礎を学んだ師匠と呼べる存在だから、みんなの期待値はものすごく高い。
「俺も付き合っていいか? 今日はおごってやる」
「それはありがたいけど、俺たちは人数が多いぞ?」
「俺にもそれくらいの甲斐性はあるから心配すんな、遠慮なくごちそうになっとけ」
「わかったよ、みんなもそれでいいか?」
「シンバおじちゃんとご飯たべるの、はじめてだから楽しみ」
「そういえばシンバさんとご飯食べたことなかったですね、私も楽しみです」
「私が出会う前のリュウセイさんやマシロさんの話を聞いてみたいです」
「シンバおじちゃん面白そうだから、私もいいよー」
「私もご主人さまがこの世界に来た時の話は興味があります」
「リュウセイやライムの過去、赤裸々に語ってもらう」
「マシロちゃんやライムちゃん以外から見たリュウセイ君っていうのも面白そうね」
「知らぬものとの食事も、たまには良いじゃろう」
みんなは俺たちがこの街にいた頃の話に興味があるみたいだし、反対意見も無いようだからシンバと一緒に緑の疾風亭に行くことにしよう。
「俺たちも顔を出していいか?」
「私もちょっとだけ参加したいわ」
「あそこの揚げ料理はうまいから、俺も行くぜ!」
「僕も久しぶりにシロフちゃんの顔を見に行こうかな」
「お前らの分はおごらないから自分で払えよ」
「「「「「「甲斐性はどこに行った!!!!!!」」」」」」
相変わらずみんなノリノリだな。スファレの言葉じゃないが、たまにはこうしてワイワイやるのもいいだろう。そうと決まればさっそく移動開始だ。
◇◆◇
雨の中をみんなで歩いていくと、緑の疾風亭はすぐ見えてくる。もうお酒を出す時間になっているらしく、建物の中からは陽気な声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ、緑の疾風亭へようこそ!」
「シロフおねーちゃん、こんにちは!」
「あっ、ライムちゃん久しぶりだね! それにリュウセイ君とマシロちゃんも」
カウンターの前に立っていたシロフは、以前と変わらない元気な声で出迎えてくれた。そして、ライムの挨拶を聞いてこちらに駆け寄ってくれる。
「お久しぶりです、シロフさん」
「久しぶりだな、シロフ」
「今日はどうしたの、またこの街で活動するの?」
「今日は用事があってこの街に寄ったんだが、それが終わったからみんなでご飯を食べに来たんだ」
「そうだったんだ、来てくれてありがとう!
後ろの人たちはこの街の冒険者だけど、他の子は一体どうしたの? 可愛い子ばかりじゃない」
パーティーメンバーのことを紹介して、大きなテーブルの席に案内してもらう。
泊まる場所を相談してみたが、この建物にある離れを貸してくれることになった。ベッドしか置いてない部屋だが、十人泊まれるようなので俺たちだと少し広すぎるくらいだ。
厨房からこちらを覗いていたシロフの母親が、小さくガッツポーズをして裏口から外に出ていったのは、きっと掃除をしてくれるからだろう。
「リュウセイたちとの再会と、子供が無事見つかったことを祝して乾杯!」
「「「「「「「「「「乾杯!!!!!」」」」」」」」」」
飲み物と料理が次々とテーブルに並べられ、シンバの音頭で乾杯をする。いくつか見たことのない料理があるのは、親父さんが新しく開発したんだろう。
「白いスープ美味しい、さすが元祖」
「白いスープは、季節の野菜によって微妙に味を変えてるみたい、さすがおじさんだね」
「コロッケにかかってる黒いソースも、更に味の深みが増してるな」
「ソースは多めに作っておいて継ぎ足しながら使うから、時間が経つとどんどん熟成されていくんだよ」
秘伝のタレとか言われているものみたいに、ここのソースも時間とともに味が進化していってるのか。同じ場所で営業を続けているお店ならではのテクニックだ。
「ソラおねーちゃん、白いスープちょっと食べてもいい?」
「いいよ、私もライムのハンバーグ、食べてみたい」
「はい、ソラおねーちゃん」
「ありがとう、ライムもあーんして」
ライムとソラはお互いの料理を食べさせあっていて、相変わらず仲良しさんだ。家だと全員が同じおかずなので、こうして外で食べる時ならではの光景だな。
「われもリュウセイのコロッケを食べてみたいのじゃ」
「あぁ、構わないぞ」
ナイフで切ったコロッケをフォークに乗せてスファレに差し出すと、そのまま小さな口でぱくりと食べてしまった。このままだと間接キスになってしまうが、モキュモキュと咀嚼する姿が可愛いので、深く考えないようにしよう。
「コールちゃんの揚げ物、食べてみていいー?」
「私も一切れもらっていいでしょうか」
「好きなだけ取ってもらっていいですよ」
「代わりに私の卵あげるねー」
「私からはこのお肉を進呈します」
みんなに触発されたのか、コールを挟んで座っているクリムとアズルも、お互いのおかず交換を始めている。ヴィオレの収納のおかげで、出来たてをいつでも食べられるから外食の機会は少ないが、たまにはこういった気軽に食べられる食堂に行くのもいいな。
「お兄ちゃんにはこの煮込み料理をあげるね、はい、あ~ん」
「ありがとう、真白」
真白が差し出してくれたスプーンには、ビーフシチューのような茶色い煮込み料理が乗っていて、食べると口いっぱいに濃厚な味が広がる。パンとの相性がとても良さそうな料理だ。
「お前ら三人とも仲が良かったが、他も全員同じだな」
「この子たちに種族の壁はないから、私も楽しく暮らしているわ」
シンバのつぶやきにヴィオレが答えているが、彼女はイコとライザが作ってくれた小さな椅子をテーブルの上に置いて、そこに座ってハチミツを食べている。
家の妖精が作っただけあって、高級家具をそのまま縮小したような作りだ。同じ素材を利用したテーブルもセットなっており、ヴィオレがとても気に入っている。自分の収納に納めてあるので、食事の時はいつも取り出して使っていた。
「そういえば緑の小さな鳥はどうしたの?」
「ヴェルデはお店の中で呼び出さないようにしてるんです」
「そうなんだ、可愛かったのになぁ」
ヴェルデは人懐っこいから、近づいたりちょっと触ったりするくらいは誰でも許してくれる。同じ守護獣でも、近寄るとスッと離れていくネロと、全く違う性格なのは面白い。
「しかし、良くこれだけ短い間に、パーティーメンバーが揃ったな」
「やっぱり旅をしたのが良かったのか?」
「ちょっと詳しく聞かせてくれ」
みんなの質問に答えながら、アージンを出てからのことをダイジェスト気味に伝えていったが、いくら何でもそれはありえないだろうとツッコミが入る。これでも竜族のことに家の聖域化や、二人の家妖精のことも省いてるんだが……
「お前たち北の方に行くんだろ」
「温泉も行ってみたいし、食べ物にも興味があるしな」
「北の方は煮込み料理がおいしいぜ」
「あとは麺を使った料理だな、この辺りとは比べもにならないくらい種類が多い」
「お菓子も変わったものがあるわよ」
「酒はキツイのが多いからやめとけ、俺は土産でもらったのを飲んでぶっ倒れた」
「ギルドにいる背の低い色白の子が北部出身だから、明日にでも話をしてみたらどうかな」
みんなが名物料理や観光できる場所を教えてくれたが、知らなかったことばかりでありがたい。目指しているのは北部にある最大の街シェスチーだが、ここには王都にあるものより大きな山タイプのダンジョンがある。
「シェスチーには家族や商隊で貸し切れる温泉付きの宿があるって、ここに泊まりに来てた冒険者の人が言ってたよ」
後ろから声をかけられて振り返ると、シロフが料理とお酒のお代わりを運んできたところだった。当然その言葉に真白が食いつき、他のメンバーもシロフに熱い視線を注いでいる。
「シロフさん、それどんな名前の宿なんですか!? 紹介状がなくても泊まれるような場所?」
「うん、普通に家族で行っても泊まれるみたいだから、お父さんやお母さんと一度行ってみたいねって話てたんだ」
意外な場所から援護射撃を受けた状態の真白は大興奮だ、俺との混浴はどうあっても実現したいらしい。出来る限りの情報を聞き出そうと、シロフを質問攻めにしていた。
あまり仕事の邪魔はしないようにな。
「あー、なんだ、マシロちゃんは相変わらずお前一筋だな」
「よく出来た妹ではあるんだが、こんなところがちょっと残念だ」
「マシロちゃんだけじゃなく、他のメンバーにも愛されてるようで何よりじゃないか」
「まぁ、みんな家族だしな」
「それだけじゃない気もするがな……」
北へ旅立つ前にスファレの水着を買いに行かないとダメだな、一人だけ水着なしを許容すると他のメンバーが黙ってない気がする。イコとライザも連れて行ってやりたいし、バニラは聖域からどれくらいの時間離れても大丈夫なんだろう。その辺りを白竜のフィドにちゃんと聞いておけばよかったな。
とにかく北へ向かうモチベーションも思いっきり上昇し、楽しい食事の時間を過ごすことが出来て、みんなが満足していた。
結局、全員分の支払いをする事になったシンバは、やはり優しくて面倒見の良い人だ。
財布を取り出した時に、ちょっと涙目になっていたが……
 




