第112話 タンバリーとの約束
誤字報告ありがとうございます。
切り貼り・削除・追加・訂正を繰り返すので、余分な文字が増えたり必要な所が消えたり……してして
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いよいよ新章の開始です。
まずは路銀の確保(笑)
雨の多い季節も終盤に差し掛かり、晴れ間の覗く日や曇の日も徐々に増えてきた。水月中は天気の影響を受けないダンジョンにばかり行っていたが、山の中にある迷路型は全階層を攻略できた。ゲームみたいに隠し部屋があったり、袋小路に宝箱が置いてあったりといったギミックはないが、全てのマップを歩き尽くしたので、ソラがとても満足していた。
クリムも飛翔系の魔法をかなり使いこなせるようになり、スファレの付与魔法との連携も形になって、単体で動き回っている魔物なら、ほぼノーリスクで対処できる。
発現待ちの魔法はコールが[消臭]を覚えたが、本人が野営に便利な[着火]を希望していたので、一度消去して取り直すことにした。アズルは[状態異常]の障壁魔法が発現し、あらゆる攻撃を防御できる使い手に成長している。
スファレはギルドでも囲まれることが多く、エルフ族の人気の高さを改めて思い知った。本人はそれを鬱陶しがって常に寄り添っているため周りの視線が痛いが、すべての種族が勢揃いしているパーティーとして、ちょっとした有名人扱いになっている。
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昨日から天気が安定しているので、北部地域に遠征する費用確保のため、お昼ごはんの後にアージンへ向かうことにした。転移門を開いて人の有無を確認した後に全員で移動すると、そこは俺とライムの二人で強化魔法の検証をした、街から少し離れた場所にある大きな岩の影だ。
「ほほう、向こうに見えるのがアージンの街なのじゃな」
「とーさんとライムが初めていった街だよ」
「私はこの街の教会に飛ばされてきて、お兄ちゃんとライムちゃんに出会ったの」
「どんな特徴がある街なのじゃ?」
「ここは木材の生産が盛んで、森や山の一部を開拓して植林地にしてるんだ」
「それならお花畑も作って欲しいわね」
花の妖精らしい意見に、みんなが笑いながら同意する。この街に来た時はライムと二人きりだったが、そこに真白も転移してきて三人になり、一年も経たずに九人まで増えるとは思っていなかった。家にはイコとライザにバニラもいるし、ヴェルデも含めると十三人の大家族だ。
「マシロちゃんの言ってた食堂も楽しみだよー」
「マシロさんの作るソースの開発者でもありますしね」
「緑の疾風亭で料理を作ってたおじさんは、ソース作りの達人だったからね」
「コロッケの黒いソースとってもおいしい、ライム大好き」
「あの白いスープも、その食堂で教わったんですよね?」
「そうだよコールさん、おじさんが産み出した料理を教えてくれたんだ」
「元祖の味、食べるの楽しみ」
みんなでワイワイ話しながら街へ向かって歩いていると、あっという間に門のある場所に到着する。入場チェックをしてる人を見てみたが、最初に対応してくれた若い男性がいたので、挨拶がてらそちらに進む。
「アージンの街へようこそ……って、あんた確か流れ人の!」
「あの時はありがとう、久しぶりだな」
「おにーちゃん、こんにちは!」
「あんたが抱いてるのは小人族か、それにライムちゃんを抱っこしてるのは鬼人族だな、しかもエルフ族までいるなんて凄いな」
「旅の途中で知り合った、大切なパーティーメンバーだ」
「こんな天気の悪い時期に大変だったろ、手続きするからカードを見せてくれ」
全員のギルドカードを見せ、ヴィオレの存在に驚かれたりしたが、無事街に入ることが出来た。この辺りも天気がいいのは久しぶりなのか、以前いたときよりも人通りが多く活気がある。
「なんだか懐かしいね、お兄ちゃん」
「ここを離れて半年くらいなんだけど、本当にそんな感じがするな」
「みんな元気かな」
物流拠点のトーリや、南部最大の港街であるチェトレ、それに王都も見てきたので、改めてアージンに来るとこじんまりした印象を受けるが、やはり一番思い入れは深い。
冒険者ギルドの建物まで到着して扉を開けると、今日も近くにシンバが陣取っていた。
「久しぶりだな、シンバ」
「お前は、リュウセイか! どうしたんだ、またここで活動するのか?」
「いや、今日はタンバリーさんに用があって来たんだ」
「ギルド長に用事か。
おい! 誰かタンバリーのやつを呼んできてやれ!」
シンバが声をかけると、受付嬢の一人が奥の部屋へと入っていった。
相変わらずこの人は面倒見が良いので助かる。
「シンバおじちゃん、こんにちわ!」
「おー、ライムちゃんも相変わらず可愛いな!
しかしリュウセイが抱いてる小人族といい、隣のエルフ族や獣人族、それに鬼人族まで揃ってどうしたんだ一体」
「私もいるから、忘れないでね」
「ピピーッ!」
「……はぁっ!? あんた妖精か、それに緑の鳥は一体なんなんだ、おい」
「頭の上にいる女性は花の妖精で、小鳥は鬼人族の彼女が授かった守護獣だ」
「大陸中の珍しいもんが集合してやがるな……」
「おー、リュウセイ久しぶりだな」
「ライムちゃんはいつ見ても可愛いぜ!」
「マシロちゃん久しぶりね、お姉さんを癒やしに来てくれたの?」
「エルフの子かわいいわぁー」
「おいおい、可愛い子ばっかじゃねぇか!」
「久しぶりだなライム、また競争するか?」
「お兄ちゃん、頭なでてー」
ギルドで手続きしていた冒険者や、依頼ボードを見ていた子供たちも俺たちに気づき、みんな集まってきて挨拶をしてくれる。ちょっと人だかりができてしまって大変だ。
「よく来てくれたねリュウセイ君、久しぶりに会えて嬉しいよ」
「わざわざ呼び出してすまない、ギルド長。以前言っていた約束を果たしに来たんだ」
「ほほう、では応接室に行こうか」
人の輪を割って入ってきたギルド長の目がキラリと光り、俺たちは応接室へと通された。
◇◆◇
応接室にはクラリネさんがいて、お茶の準備をしてくれている。俺と真白の間にコールが座り、その左右にクリムとアズルが腰掛けた。スファレは俺の膝に、ソラは真白の膝にそれぞれ座り、ライムはクラリネさんの膝に収まっている。ものすごくいい笑顔で頭を撫でているが、はやり違和感に気づいたようだ。
「ライムさんのツノが大きくなっていますね」
「ライム、成長して魔法がつかえるようになったの!」
「竜人族の魔法は興味深いね、どんなものが発現したんだい?」
「とーさんといっしょになる魔法だよ」
「「???」」
疑問符を浮かべるギルド長とクラリネさんに、ライムに発現した魔法を説明していく。竜人族は人それぞれ異なるユニーク魔法が発現し、その詳細はほとんど伝わっていないが、ライムの持つ[同化]はとびきり珍しいはずだ。目の前の二人も驚きの表情を浮かべ、真剣に話を聞き入っていた。
「竜人族の魔法は驚くべきものだな」
「しかし、リュウセイさんを父と慕うライムさんらしい魔法です」
「とーさんといっしょに体を動かすと、すごくきもちいいの!」
「羨ましいです、私もライムさんと一つになりたい……」
クラリネさんの本音がポロリと漏れているが、聞かなかったことにしよう。
「その魔法はリュウセイ君以外と同化できないのかね?」
「私や他のメンバーも試してもらったんですが、ライムちゃんとは同化できませんでした」
「うぅ……残念でなりません」
本音が漏れ過ぎだ、クラリネさん。
「それで本題なんだが、この二つの買取をお願いしたい」
「……おぉっ! 水竜様と白竜様の鱗っ!!」
「一度に二つとは驚きました、一体どうされたのですか?」
「実は旅先で偶然出会って、本人にもらうことが出来たんだ」
「なにっ!? それはどこだね、私にも会える場所か? ギルド長を辞してでも会いに行くぞ!」
「落ち着いて下さい、ギルド長……
申し訳ありません皆さん、これは放っておいて話を聞かせて下さい」
以前よりギルド長の扱いがぞんざいになってる気がするが、俺たちが街を離れてから何かあったんだろうか?
とりあえずハァハァ言いながら鱗に頬ずりしているギルド長を放置して、二人の竜に出会った経緯や邪魔玉のことなどを説明していく。自宅の聖域化についてはとりあえず秘密だ。
クラリネさんは八人の竜の名前などメモしながら、真剣に話を聞いてくれた。ギルド長の顔はどんどんだらしのないものになっていくので、初めて会った女性陣がちょっとひいている。
「エルフの女性がそうして膝の上に座っていたり、妖精や守護獣が頭の上にいるだけでも信じられませんが、まさか竜族と知り合いになってしまわれるとは……」
「リュウセイの近くが一番安心できるのじゃ、己と変わらぬ“人”として見てくれるからの」
「みんなは私に色々な楽しいを教えてくれるのよ、それにリュウセイ君の頭の上は居心地がいいの」
「ピピーッ」
スファレと一緒に暮らし始めてわかったが、彼女はとにかく普通に憧れている。生まれてからずっと、お役目としての期待や特別な視線にさらされていたので、みんなと同じ扱いをされるのがとても嬉しいようだ。
そんなスファレの頭をそっと撫でると、微笑みながらこちらを見上げてくれた。
「獣人族の二人に鬼人族や小人族まで、こうして仲良くしているのは、他のパーティではまず見られない光景です」
「あるじさまは優しくてあったかいからねー」
「大切なご主人さまです」
「私とヴェルデを絶望の淵から救ってくれた人たちですから」
「ピッ!」
「みんな私の家族になってくれた、とても大切な場所くれた、知らない事いっぱい体験させてくれる」
「ライムもおねーちゃんたち大好き」
王都に拠点を作ったことや、これから北の街に行ってみることなど伝えている時、部屋の扉がノックされ受付嬢が入ってきた。
「朝から姿が見えなくなっていた子供の目撃情報が届きました」
「それは本当かね」
鱗を愛でていたギルド長が一瞬で仕事の顔になり、受付嬢に詳細の報告を促す。竜の鱗が絡むと残念な人になるが、こうして即座に切り替えができる辺り、さすが責任ある立場にいるだけはある。
クラリネさんによると、朝早くに冒険者ギルドにも寄らず街の外に出た子供がいたらしい。時々そうして遊びに出かける子だったので、すぐ帰ってくるだろうと思っていたが、お昼になっても家に戻らず、心配した家族がギルドに相談していたようだ。
「植林地の点検をしてる作業員が、森へ入っていく小さな人影を見たらしい」
「なんで子供が一人で森に入っていったんだ?」
「雨の多いこの時期に、近くの森にだけ生息するキノコがあるんです。とても美味しくて人気の高いキノコで、子供たちも大人と一緒に採りに行ったりするのですが、それを探しに森に入った可能性が高いですね」
「作業員も不審に思って探したらしいが、子供は見つからなかったようだ」
「お兄ちゃん、森の奥に入っていっちゃたのかもしれないよ」
「浅い場所で見つからずに、奥の方に踏み込んでしまったか……」
「リュウセイ、我らもその子を探すのじゃ」
「森の探索はスファレが頼みだ、すまないが頼む」
「われもその子供のことは気になるのじゃ、任せておくのじゃ」
「感知魔法でも探せる、行こうリュウセイ」
「わかった、ソラもよろしく頼む」
全員で応接室を出て受付フロアへと移動する、そこには手の空いた冒険者達が集まり、シンバを中心に捜索チームの編成をやっていた。
タケノコは生えませんよ、戦争になるので(笑)
北へ向かう旅を通じて、主人公たちは大きな流れの中に身を置くことになります。
鬱展開にはなったりしませんので、安心してお楽しみください。




