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第110話 揺らぐ価値観

 全員がお風呂に入り終え、順番にブラッシングも終わらせていく。俺たちが五人+三人で一緒に入ったおかげで、今日も三回のお風呂で終わっている。妖精の二人はともかくとして、エルフの女性とは問題がありすぎると思うが、ベッドの上でゆったりする時間が増えたので、これ以上考えるのはやめよう。


 ソラの視線がちょっと痛いが、シェイキアさんには逆らってはいけない迫力みたいなものがあったんだ、その点を考慮して勘弁して欲しい。なんだか可哀想だし、ソラとは一緒に入っても良いかな、などと考え始めた俺は状況に流されすぎだな、……気をつけよう。



「な゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


「うわー、ネロちゃん本当に凄いことになってるなぁ」


「私がやってもこんなにはならないんだけど、何かコツがあるのリュウセイ君」


「これといって特別なことはやっていないはずなんだが……」



 今日も俺の膝の上でブラッシングを受けているネロは、全身をビクンビクン震わせながら気持ち良さそうに鳴いている。



「ネロちゃんって、お兄ちゃんにブラッシングされてる時は触らせてくれるんだよね」


「な゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛う゛」


「私も触ってみていい?」



 みんながネロを撫でている姿を見て、シェイキアさんもそっと手を出してきた。



「ふしゅぅぅぅぅぅー!」


「ネロちゃんひどーい、私はベルちゃんのお母さんなのにー」


「ひっひっひっ、ネロも敵と味方がよくわかっておるのじゃ」



 今日は散々(あお)られたり(からか)われたりしたスファレは、触ろうとして拒否されたシェイキアさんの姿を見て、ちょっと悪い笑みを浮かべている。



「いいもん、いいもん、後でリュウセイ君の抱っこで癒やされてるもん」


「お母様、あまりリュウセイ君を困らせることはやめて頂戴」


「ベルちゃんも遠慮せずにリュウセイ君に抱っこしてもらえばいいのに、すごく落ち着けるんだよ」


「あらあら、リュウセイ君の夜のお仕事がどんどん増えていくわね」



 前にも同じように言われたが、いかがわしい感じがするので、その言葉はやめて欲しい。ベルさんは顔を赤くしてシェイキアさんに説教をしているが、あまりブレーキ役になっていないのがちょっと残念だ。


 震えすぎて疲れたネロがベルさんの膝の上に移動するのを見たシェイキアさんは、今がチャンスとばかりに俺の膝の上に移動してきた。すっぽり収まってしまう小さな体をそっと支えると、嬉しそうにちらっとこちらを見上げ、背中を目一杯預けてくれる。



「そういえばシェイキアさんの魔法って何が発現してるんだ?」


「私はこれよー」



 呪文を唱えて見せてくれたシェイキアさんの左手には、[感知|□□]と浮かび上がっていた。自分自身でも諜報活動をすると言っていたので、感知というのはかなり適している魔法だ。



「もう一つ枠が開放できるからやっておこうか」


「ホントなのー、嬉しいなー」


「二つ一度に感知できる、とても便利」


「ソラちゃんて何枠使えるの?」


「私、三つ」


「うっわー、むちゃくちゃ凄いじゃない、羨ましいなー」


「コールおねーちゃんは四つ使えるようになるよ」


「魔神がいるわ!」


「うぅっ、やっぱり魔神なんですか、私」



 俺がアージンで読ませてもらった本はかなり有名みたいで、事あるたびに魔神と言われるコールがちょっと可哀そうだ。落ち込む彼女の頭をそっと撫でて、シェイキアさんの魔法枠を開放する。



「すごいねー、感知魔法が二つになってるよ」


「二つ同時だと消費するマナの量も増えるから気をつけてくれ」


「大丈夫だよ、私もエルフだからマナの量には自信があるんだ」



 昨日マナ共有したスファレも真白と同じくらいあったので、シェイキアさんも常人よりかなり多んだろう。



「良かったですね、お母様」


「ご飯も美味しいしリュウセイ君って優しいし、私この家の子供になっちゃおうかな」


「ちょっ、お母様!?」


「前は冗談でリュウセイ君たちをうちの家に取り込もうかって言ったけど、何かもう私たちの家がこっちに吸収されちゃってもいいんじゃないかなー」



 何やらとんでもないことを言い始めているが、冗談なんだよな?

 そもそも超年上の子供が出来ても困る。



「三家すべて吸収、国の頂点に立とう、リュウセイ」


「あるじさまとライムちゃんが同化したら、獣人族の家は力で支配できそうだねー」


「獣人族ってー、強い人に惹かれますからねー」


「残るは文官の家だけじゃな」


「二つの家をリュウセイさんが支配下に置いた時点で、もう勝負はついてる気がするんですが……」


「とーさん、王さまになるの?」


「いや、ならないからな」



 お風呂を上がってから王国にある御三家の話も聞かせてもらったが、そこを取り込んで国を乗っ取るなんて正直ゴメンだ。俺としては、ここにいる家族と楽しくのんびり生きていく方がいい。



「リュウセイ君の作る国も面白そうよね」


「きっと妖精と仲良く出来る国になるのです」


「守護獣や霊獣も、もっと仲良しになれるですよ」


「ピピーッ」


「キューーン」


「なぁぁぁー」


「お兄ちゃんが王様になったら、私が王妃様かぁ……ふへへへっ」



 黙って聞いてるだけかと思った真白は、どこか遠い場所にトリップしていた。



◇◆◇



「はぁ~、今日は楽しかったぁ、ありがとねリュウセイ君」


「楽しくくつろげたなら良かったよ」


「スファレちゃんとも久しぶりに話ができたし、有意義な一日だったよ」


「われも王都に来たら一度挨拶に行こうと思っとったから、会えて良かったのじゃ」



 みんなでベッドに入り、とりとめのない話をしていたが、次々と眠りに落ちていって、起きているのは俺とエルフの二人、それにベルさんくらいだ。今日は既にライムが俺の上に登ってきていて、丸くなったバニラやネロと一緒に寝息を立てている。


 隣にはみんなに場所を譲ってもらったスファレと、腕枕を体験するまで帰らないと言い始めたシェイキアさんがいるので、少し落ち着かない。里にいた頃の因縁もあるんだろう、この二人はお互いに同じ待遇でないと嫌のようだ。


 そしてシェイキアさんの向こうには、前回のお泊りは客室を使ったベルさんもいるが、この人数を収容してしまえるベッドは本当に凄い。こうして来客があるたびに、イコとライザがいてくれるありがたさを実感してしまう。



「お母様はリュウセイ君にベタベタしすぎよ、もう少し慎みを持って欲しいわ」


「だってこんな男の子に出会ったのって初めてなんだもん」


「我らの里にはおらんような手合い(タイプ)じゃからな」


「スファレやシェイキアさんのいた里の男性って、どんな感じなんだ?」


「それは私も聞いたことなかったわね」


「一言でいうと“つまらん”じゃな」


「それと古代エルフ種って男性上位社会なんだ」



 寿命の長い種族なので、とにかく向上心に欠けるらしい。ダラダラやっていてもいつか身に付いてしまうし、里を出て生活するなんて考えない人ばかりで、覇気が全く感じられないそうだ。


 一方マナの量が多かったり、レアカラーが発現しやすいなど魔法に対する適正が高いので、自分たちは優れた種族だと思い込んで他を見下す特徴もある。特にその傾向は男性の方が強く、里にいる女性の立場はあまり良くない。



「里でずっと暮らしておれば、それが当たり前と思ってしまうのじゃがな」


「私は若いうちに飛び出しちゃったしね」


「われも里を離れることが多かったから、そのような思想に染まりきらなんだのじゃ」



 村社会にありがちな、一種の洗脳状態に陥ってしまうのか。寿命が長いだけに、一度その思想に染まってしまうと、抜け出すのは難しいんだろう。



「だがシェイキアさんはこの街で暮らしていた時間の方が長いんだから、普通の考えを持った男性も周りに沢山いただろ?」


「私たちの種族って容姿の整った者ばかりなんだけど、リュウセイ君の印象を正直に聞かせてくれる?」



 質問に質問で返された形だが、スファレもシェイキアさんも容姿に関しては、ついつい見とれてしまいそうな程だ。身長や体型に関しては人族に及ばないものの、顔の造形などは緻密に計算されたアートのような美しさがある。



「きれいで美しいのは確かだが、俺には守りたくなる可愛さの方を強く感じる」


「われと最初に会ったときと、ほぼ同じ答えじゃな」


「一緒にお風呂に入った時に、そうなんじゃないかって思ってたけど、やっぱりね」


「どういうことなんだ?」


「この世界だとソラちゃんみたいな種族もいるじゃない」


「小人族はこれ以上あまり成長しないようだし、ソラも十五歳になるからこの世界だと大人だな」


「つまりね、私たちのような容姿でも性の対象に見られえちゃうんだ……

 特にエルフは他の種族にもそう思われちゃうから大変なんだよ」


「そのせいでお母様も、王都に来てからだいぶ苦労してきたの」


「今はベルちゃんが色々代わってくれてるから、すごく楽になってるんだけどね」



 今までの価値観が揺らぐことを聞いてしまい、思わず危険な単語(合法ロリ)が口から漏れそうになった。日本のサブカル知識は、この世界だと大変危険だ。心の奥底に封印しなければ、スファレやソラと今までどおり向き合っていけない。



「我らに近づいてくるのは、エルフの持つ力か体が目当てじゃからな」


「それは以前ベルさんからも聞いてたけど、まさか古代エルフや小人族までその対象になるとは思ってなかった」


「リュウセイ君の家族がそんな目で見られないように、守ってあげるんだよ」


「それを知らないままだったら、家族に嫌な思いをさせる事態を見逃していたかもしれない。教えてくれてありがとう、これから気をつけるよ」


「やっぱりリュウセイ君はいい子だなぁ、ご褒美に私の耳を触らせてあげるよ。

 ……っていうか触って欲しいな」


「われもリュウセイじゃなかったら一緒に風呂など入らんし、耳も触らせんのじゃ」



 二人が触りやすい位置に体を移動してきたので、両方そっと撫でてみる。触れた瞬間はビクッとされるものの、気持ち良さそうに受け入れてくれているので、眠りにつくまで撫で続けた。


花の妖精ヴィオレの使う魔法とは別種ですが、エルフは種族的に魅了(チャーム)持ちということです。主人公は異世界人であることと、妹に鍛えられているので効果ありません。


隠密たちがシェイキアにそういった感情を表さないのは、人材の厳選に加えて恐怖支配してるから(笑)

(なので、お仕置きを異常に怖がります)


◇◆◇


次話でこの章が終了します。

資料集の方は、その時に一気に更新しますので、お待ち下さい。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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