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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 おうとぐらし!

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第105話 500年

 王都で道に迷い財布を落とし、雨の中で転んで泥だらけになっていたエルフ(もりびと)族のスファレを、持っていたタオルでとりあえず綺麗にして、冒険者ギルドまで案内してきた。俺は依頼完了の報告に、スファレはギルドカードの発行や落とし物の問い合わせをするため、一旦別れてそれぞれ窓口で手続きしている。


 飲食スペースに行くと、真白とソラが待っていた。受付けをざっと見渡した限り、コールの姿は見当たらなかったので、まだ戻ってきていないみたいだ。



「お兄ちゃんお帰り、雨大丈夫だった?」


「リュウセイ、お帰り」


「傘を持ってるから俺は大丈夫だが、コールがちょっと心配だな」



 しがみついてきたソラを抱き上げ、真白の隣に並んで座る。スファレは室内でもローブを脱いでいないので、冒険者たちに囲まれるような事態にはなっていない。



「お兄ちゃんと一緒に入ってきた人が、コールちゃんかと思ってたんだけど違うんだね」


「コールと身長、同じくらいだった」


「あの人は王都に来たばかりで道に迷ってたから、ここまで案内してきたんだ」


「住宅街の方にいたの?」


「西門から入って近道しようとして、うっかり踏み入れたと言っていたよ」


「斜めのほうが断然早い、行こうとするの無理ない」


「途中で財布を無くしたらしくてギルドに相談に来たんだが、何か届いてなかったか?」


「私の処理した書類、財布はなかった」



 うまく見つかるか他のエルフの情報が聞ければいいと考えていたら、ギルドの入り口からコールが入ってくるのが見えた。大きく手を振ると、こちら気づいたようで近寄ってくる。



「コールお帰り、濡れたローブは脱いでくれ」


「コールちゃん、お疲れさま」


「髪の毛ふく、こっち来て」


「すいません、よろしくお願いします」



 濡れたローブを汚れ物のバッグに詰めて、ソラと一緒に椅子に座ったコールの髪を拭いていく。それをやっていた時にスファレがこちらの方に歩いてきたが、少し離れた場所で終わるのを待っていてくれているようだ。


 真白にブラシで髪の毛を整えてもらったコールが受付けに移動すると、スファレはこちらに近づいてきた。



「どうだった?」


「落とし物は届いておらんようじゃったし、個人情報は教えられないと言われてしまったのじゃ」



 やはりこの世界でもその辺りはしっかりしてるか。王都に来るのは珍しい種族だし、もしかしたら教えてもらえるかもしれないと思ったが、ちょっと甘かったな。



「お兄ちゃんが迷子になってたって言ってたの、女の人だったんだね」


「財布無くしたって聞いた」


「リュウセイの言っておったパーティーメンバーじゃな、われの名はスファレというのじゃ」


「私は真白っていいます、よろしくお願いしますスファレさん」


「私ソラ小人族、よろしくお願いします」


「さっきここにいた子は、鬼人族のコールと言うんだ」


「これはまた珍しい取り合わせじゃな」



 お互いの軽い自己紹介が終わった所に、報告を終えたコールが戻ってきたので、全員の顔合わせも済んだが、問題は無一文のスファレをどうするかだ。俺としてはお詫び云々以前に、彼女をこのまま放置するという選択肢は既にもう無い。



「お兄ちゃん、スファレさんもコールさんも濡れちゃってるから、うちでお風呂に入ってもらったら?」


「そうだよな、やっぱりそれが一番だな」


「濡れたままは問題、お風呂が最適解なの間違いない」


「私もその方がいいと思います、家なら雨でも洗濯物が干せますし」


「という訳なんだが、良かったら俺たちの家に来て休んでいかないか?」


「われには何も返せるものはないが、お世話になっても良いのじゃろうか」


「お兄ちゃんも放っておけないって顔をしていますし、うちには部屋も沢山ありますから何日でも泊まっていって下さい」



 まだスファレがエルフというのはバレていないが、やはり同性の誘いだと警戒心も薄れるのか、最終的に家に来ることを了承してくれた。外はまだ明るいしスファレも一緒なので、転移で帰らずに箱型の辻馬車を拾って帰路につく。



◇◆◇



「リュウセイ、傘わたし持つ」


「ありがとう、ソラ。

 みんなはこれを使ってくれ」



 辻馬車を降りて全員分の傘を取り出し、ソラを抱っこしながら家に向かって歩いていく。



「先程コールの髪を拭いておった時もそうじゃったが、お主たちは本当に仲が良いの」


「一緒の家に住んでるし、家族みたいなものなんですよ」


「すごく暖かい家ですから、スファレさんもくつろげると思います」


「王都で一番ご飯美味しい」



 やはりスファレの持つ神秘的な雰囲気のおかげなんだろう、ソラもコールも固くならずに済んでいる。食事のことやお風呂の話をしながら歩いていたら、あっという間に家まで到着した。



「むむ、何なのじゃこれは……」


「何か気になることがあったか?」


「大したことではないのじゃ、違和感というか何か懐かしい感じじゃな」



 家の敷地は妖精の結界に守られているが、それに反応したんだろうか。精霊とのハーフと言われるだけあって、その辺の感覚が鋭いのかもしれない。


 特に問題ないようなので玄関を開けると、イコとライザがタオルを持って出迎えてくれる。相変わらず気遣いが完璧なメイドさんだ。



「お帰りなさいませなのです、旦那様、マシロ様、コール様、ソラ様」


「お帰りなさいませですよ、皆さま」


「お客様もいらっしゃいませなのです」


「濡れたお召し物は、こちらで預かるですよ」



 帰宅の挨拶をすませ、イコにはお風呂の準備をお願いする。そしてライザは汚れ物を受け取って洗濯部屋に向かい、ローブを脱いで金色のきれいな髪と長い耳をしたスファレの姿が、この場に残った全員の前で(あらわ)になる。



「ふぉぉぉぉぉー、エルフ! 初めて見た!! 耳触っていい?」


「落ち着くんだソラ、耳はエルフの大事な場所らしいから、やめておく方がいい」


「ぐぬぬぬ……なら我慢する」


「フードに隠れてたから全然わからなかったよ」


「私もまさかエルフ族だとは思っていませんでした」



 興奮したソラの声が聞こえたようで、玄関ホールにみんなが集まってきた。



「おかえりなさい、とーさん、かーさん、コールおねーちゃん、ソラおねーちゃん」


「みんなお帰りなさいー」


「お帰りなさいませ、ご主人さま、皆さま」


「あらあら、エルフを連れてくるなんて一体どうしたの?」


「ピピピー!」


「キューィ!」



 リビングからライム達が集まってきたが、手に絵札を持っているからみんなで遊んでいたんだろう。ライムを抱っこしたりバニラの頭を撫でたりしていたが、スファレはさっきからブツブツとなにかを言っているだけで、挨拶の返事も返していない。



「獣人族……、鬼人族……、小人族……、極めつけは竜人族に妖精族じゃと……」


「どうしたんだスファレ」


「……一つ尋ねたいのじゃが、お主が抱いておる白い(けもの)は霊獣なのか?」


「ひと目でわかるなんて凄いな、この子は霊獣のバニラだ」


「キュキューイ!」


「つまりここは聖域なんじゃな」


「階段の横に小さな木が植えられてるだろ、あれが霊木だ」



 スファレは玄関ホールの奥にある植木鉢を一瞥(いちべつ)すると、下を向いて両手を強く握りしめる。もしかしてエルフ的に、聖域や霊獣を神聖視するような慣習があるんだろうか。たしか自分たちの住んでいる所を聖域化したエルフがいたらしいしな。



「竜人族や妖精族がおるのはまあ良い、問い詰めたい気持ちはいっぱいじゃが、ひとまず置いておくとしよう。じゃが、聖域と言われては捨て置けん、一体どの様な経緯でそうなったのじゃ、洗いざらいぶちまけるのじゃ!」


「俺たちは聖域を侵していた、邪魔玉(じゃまぎょく)という邪気を出す玉を浄化したんだが――」



 まだ靴も脱いでない状態だが、スファレに強い調子で問い詰められ、ここを聖域化した経緯を話すことにした。


 邪魔玉を浄化して身に付けていたら、いつの間にか霊魔玉(れいまぎょく)に変化していたこと。それを感知した白竜のフィドと、聖域の一つである泉の花広場に行ったこと。その聖域の守護獣であるバニラが、俺たちと一緒に暮らしたいと希望していたこと。そして大陸最古の霊獣である白蛇の協力と霊木の同意を得て、フィドの力で地脈を活性化させ霊魔玉の力を開放したこと。


 話が進むにつれ、スファレの握っている手がプルプルと震えだす。かなり怒らせてしまっているようだが、俺にはその理由がまだわからない。



「たった数ヶ月で霊魔玉を作り上げ、それを一日で開放したのじゃな」


「あの時は大陸最高峰の力が集まってたから、その場で力の解放が出来たよ」


「三百年じゃ……」


「三百年って、どうしたんだ?」


「……われは霊魔玉を作るのに三百年費やしたのじゃっ!」



 フィドが言っていた自分たちの里を聖域化したのは、スファレの住んでいた場所だったようだ。



「そうだったのか、聖域に詳しい人に出会えて嬉しいよ。霊木の育て方とかよく知らないし、色々教えてもらえないか?」


「精霊に協力してもらい百年かけて安定化させた霊木より、そこの鉢植えの方が生き生きしとるのじゃ!!」


「そういえば、霊木がかなりの精気を枝に込めてくれたと、フィドが言ってたな」


「われが生涯の半分を費やして成し遂げた聖域化をあっさり達成しおってっ!!!

 お役目として縛られてきた、われの五百年を返すのじゃ……うわぁぁぁーーーーーーーーん!!!!!」



 スファレは泣きながら俺の胸を両手でポカポカ叩いてくる。力が入ってないので全然痛くないが、この外見の女性を泣かせてしまった罪悪感は半端ない。


 周りにいるみんなもどうして良いかわからず見守るだけなので、俺はスファレをそっと抱きしめて頭を撫でる。



「スファレが里のために尽くしてきた時間は、決して無駄じゃないと思う。ここが聖域化できたのは、色々な偶然や特別な力が集まった例外みたいなものなんだ。それを長い時間をかけて自力で成し遂げたのは、やっぱり凄いよ。

 体も冷えているし、お風呂の準備もできたから、温まって心を落ち着けてくれないか?」


「ひっく……お主には、われに働いた無礼を、今ここで返してもらうのじゃ」


「俺は何をすればいいんだ?」


「われに風呂の入り方を教えるのじゃ」



 ――推定年齢五百歳以上のエルフの女性に、とんでもない要求をされてしまった。


作中に出てきた話題はサクッと回収。

難聴系や朴念仁ではないですが、空気が読めないのは主人公補正(笑)


◇◆◇


迫りくる魔の手、試される理性、そして主人公の取った行動とは……

次回:のじゃロリとお風呂

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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