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色彩魔法 ~強化チートでのんびり家族旅行~  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 おうとぐらし!

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第103話 シェイキア

誤字報告ありがとうございます、頭文字しか合ってなかった……


◇◆◇


今回は、ベル(マラクス)側の話になります。

 龍青たちの家から帰ったベルは、屋敷の奥にある大きな扉を目指して廊下を歩いている。その顔は楽しげで肌もツヤツヤと輝いていて、睡眠も十分に取れたことが伺える。


 他人の家で初めて女性として過ごすことになり、最初の方こそ落ち着かない気持ちだったが、そんなことはすぐに気にならなくなった。家の中は隅々まで掃除が行き届き、お風呂もあの規模の家としては他では見られないほど大きく、ベッドにいたっては完全特注品だ。


 屋内を誰かに見られる心配もなく、声が外部に漏れることもない。しかも、敷地内に誰かが侵入すると即座に発見され、場合によっては捕縛されてしまう。その安心感と、靴を脱いで生活するという安らぎと快適な生活環境のおかげで、ベルは自宅にいるときよりくつろいだ時間を過ごしてしまった。



◇◆◇



「失礼します、お母様」



 扉をノックして中に入ると、部屋の中には書類に何かを書き込んでいる女性がいる。彼女はベルの母親で、名前はシェイキア。この家の当主でありベルや隠密を束ねるリーダー、部下たちからお館様と呼ばれる人物だ。



「お帰りベルちゃん、昨夜はお楽しみだったみたいじゃない」


「何を言っているんですかお母様、普通に泊まってきただけですよ」


「でもでも、そんなに生き生きとした顔で帰って来たんだから、お母さんとしては期待しちゃうわ」


「お母様は覗いてたんじゃないの?」


「無理無理、あそこは王城なんか比べ物にならないくらい強力な結界が張り巡らされてるんだもん、捕縛されて玄関前に転がされるのがオチよ」



 いつもの調子でふざけた話し方になる母を前にして、ベルも普段の口調で話し始める。



「でも、お母様のお側付(そばづ)きなら、見つからない気がするんだけど」


「あれは技術や道具でなんとかなるものじゃないよ、現にベルちゃんの護衛だってあっさり捕まったじゃない」


「声を上げる間もなく捕らえられていたのには驚いたわ」


「妖精の魔法って恐ろしいね、お母さんびっくりだわ」


「しかも二人の家妖精が守ってるなんて、非常識な場所だもの」


「王城以外に聖域ができちゃったのも驚いたけど、とんでもない子たちが王都に来ちゃったね」



 シェイキアの家は貴族や資産家の不正を調査する密偵として活躍しており、王家や王国を守る役割を担う御三家の一つだ。情報収集に長け裏方に徹しているシェイキアの家、精強な武人を多数排出し王族の近衛(このえ)を務める獣人族の家、そして政治や経済の安定をつかさどる優秀な文官を育成する家。


 この三家で大陸の安寧(あんねい)を維持し、王国と王家をあらゆる方面から支えている。



「でも偶然リュウセイ君と公園で出会えてよかったわ」


「ベルちゃんったら、ずっと会いたがってたもんね」


「あんなに楽しい出張の旅は初めてだったんだから、仕方ないじゃない」


「それで久しぶりに会ってみてどうだった?」


「もう驚くことばかりだったわ――」



 ベルは楽しそうに龍青の仲間たちのこと、流れ人(ながれびと)の特殊な魔法で自分とネロの魔法枠が三つに増えたこと、白竜とマナの繋がりを持ち一般人の数百倍の量を保有していること、お風呂のことやブラッシングのことまで伝えていく。


 はつらつと話す娘の珍しい姿を見たシェイキアは、外泊許可を与えて正解だったと嬉しくなった。もちろん自分たちの役目として、龍青たちの状況を内部から調査するという目的はあった。しかし、自ら対外的に男として生きていくと決めていた娘が、こうして話をしている姿は乙女そのものだ。


 不正の調査ならともかく、一般人のプライバシーを一方的に探るのはフェアではないという信念があるため、自分たちの素性を明かす判断を娘に任せたが、予想以上に良い結果をもたらしたようで、シェイキアはとても満足していた。



「こっちでも断片的に情報は拾ってたんだけど、聞けば聞くほど凄い子たちじゃない」


「みんなが王都に拠点を作ってくれて良かったわ、これからがすごく楽しみだもの」


「ねぇ、あの子たちをうちで取り込んじゃわない?」



 その言葉を聞いてベルの周囲の温度が下がった。

 足元にいるネロも警戒して毛を逆立てている。



「お母様、それは本気で言っておられますか?」


「割と本気よ」


「流れ人に干渉するのが禁忌に触れるというのは、もちろん知っておられますよね」


「当然知ってるけど、あの子たちはあなたに協力してくれるって言ったんでしょ?」


「それとこれとは話が別です!

 彼らを本気で取り込もうとするなら、私はあなたと敵対しますよ」


「ふしゃぁぁぁぁぁぁ」


「冗談、冗談だから、ベルちゃんもネロちゃんもそんなに怒らないでよ。

 どれくらい真剣にあの子たちのことを想ってるか、ちょっと確かめたかったの。

 もう絶対に言わないから許してちょうだい」



 ベルとシェイキアの周りには、いつの間にか隠密たちが集まっており、二つに分かれて睨み合っている。二人の間の緊張が解けると、集まっていた隠密たちは音もなく散っていく。


 数年ぶりに見た本気で怒る娘の姿に、シェイキアは内心冷や汗をかいていた。彼らの持つ力が魅力的なのは確かだが、実際に取り込もうなどとは考えていない。そんな事をすれば三家のパワーバランスが崩壊するし、そもそも王家が黙って見逃すなんてあり得ない。


 逆に娘が彼らに依存しすぎて、家に招き入れようとするんじゃないかと心配したが、その結果はこの有様だ。



「お母様の冗談は、どこまで本気なのか解りづらいから勘弁してちょうだい」


「ホントにごめんねベルちゃん、それにネロちゃんもごめんなさい。

 危うく家が二分しちゃうとこだったわ」


「みんなは誰かの助けになるならと、善意で言ってくれてるのよ。私たちが自由に行動を縛っていいわけ無いじゃない」


「でもネロちゃんにまで本気で怒られるとは思ってなかったなー」


「ネロはもう完全にリュウセイ君たちの味方よ、例えお母様でも本気で牙を剥くから覚悟してね」


「守護獣の気持ちにここまで影響を与えちゃうなんて、今度の流れ人ってホントに怖いなぁ……」



 龍青たちの情報をある程度掴んでいたシェイキアも、聞けば聞くほど今回この世界を訪れた流れ人に興味が出てきていた。



「お母さんも今度あの子たちの家に遊びに行っちゃダメ?」


「彼らならお母様も歓迎してくれると思うけど、人前に出たくないんじゃなかったの?」


「お母さんのことを引きこもりみたいに言わないでよー、失礼しちゃうな」


「だって昔“お母さんは影の頭領を目指すわ”とか言ってたじゃない」


「そういうのに憧れてただけで、今だってちゃんと王城とか出向いてるもん」



 どんどん子供っぽい話し方になる母の姿に、また悪い癖が出てきたなとベルは頭を抱えたくなっていた。だが、一度こうなってしまうと彼女が満足するまで諦めない、それがいつものパターンだ。



「行くのは構わないけど、あまり変なことしないでよ?」


「ベルちゃんは心配性だなぁ、ちょっとリュウセイ君と一緒にお風呂に入ったり、抱っこしてもらったりするだけだから、大丈夫よ」


「それのどこがちょっとなんですか、お母様! ご自分の年齢を考えて下さい!!」


「え~、お母さん、まだまだイケると思うんだけどなぁ……」



 こめかみを押さえながらその場にうずくまってしまったベルに、ネロが心配そうな顔をして近寄っていく。そんな二人の姿をシェイキアは愉快そうに眺めていた。



「いいですか、リュウセイ君に変なことをするのは、絶対にダメですからね」


「お母さんにリュウセイ君を取られるのが嫌なの?」


「なんでそうなるんですか!」


「だってベルちゃんがそんなに必死なのって珍しいんだもん」


「私は一般的な常識の話をしてるんです!」


「じゃぁ、お母さんの代わりにベルちゃんが、リュウセイ君と一緒にお風呂に入ったり、抱っこしてもらったら?」


「……えっ!?」


「お母さん、ベルちゃんの子供の顔が早く見たいんだけどなぁー」


「おっ……お母様! いい加減にして下さーーーーーーーーーーーーいっ!!!」



 その日、貴族街にある大きなお屋敷に、これまで聞いたことのない絶叫が響き渡った。

 中で働いていた使用人たちは一斉にその手を止め、書類の書き直しや調度品の破損が発生したという……



◇◆◇



 顔を真っ赤にしたベルが乱暴に扉を締めて部屋を出ていった後、シェイキアの背後に執事服を着た初老の男性が音もなく現れた。



「お館様、少々遊びが過ぎるのではありませんか?」


「あの子は真面目すぎるから、ああやって時々発散させるくらいで丁度いいのよ」


「だからといって、あそこまで怒らせる必要はないかと」


「ベルちゃんって反応が可愛いから、ついついからかいたくなるのよねぇ」



 これもシェイキアの悪い癖の一つで、隠密達がお仕置きを怖がる原因になっていた。初老の男性は困った顔をしてシェイキアを見つめるが、椅子に座っている彼女はそんな視線を軽く受け流している。



「お館様は彼らのことを、どうするおつもりですか?」


「最終的には会ってから決めるけど、あなたはどう思う?」


「先程ベルお嬢様が話された内容や、これまでの情報から勘案いたしましても、彼らは国に多大な貢献をしております、これまで通りの生活をしていただくのが最善と判断します」


「そうなのよねー、あの子たちは目の前で困ってる人を助けてるだけなんだろうけど、悪魔の呪いの治療をしちゃったり、聖域の危機を救ったりとんでもない事をしてるのよね」



 制約なく使える空間転移に、呪いや邪気を浄化したり欠損部位まで修復してしまう治癒、それに竜人族の力を自らに宿すことが出来るという、これまでに存在しなかった数々の魔法を有している。


 彼らがその力を私利私欲に使わないだろう事は、娘が信頼を寄せている点から見ても確実だが、一度は自分の目で確かめてみたい、シェイキアはそう考えていた。



「その力を悪用されないように守るのが、我々の使命だと思われます」


「それは決定事項だから、うちの者たちには全員伝えておいてね」


「畏まりました」



 真面目な話は終わったとばかりに、シェイキアは椅子に浅く腰掛け直し、手を頭の上で組んで大きく伸びをする。



「私が動けそうな日はいつ頃になる?」


「今月はお役目が詰まっておりますので、早くても来月初頭になります」


「それならもうすぐね、異世界の料理が楽しみだわー」


「昨夜帰還した二人は、“かれー”と言っておりましたね」


「香辛料を二十種類以上使った料理なんて味の想像ができないよ」


「王侯貴族ですら、そこまで贅沢に香辛料を使った料理を口にすることは無いでしょう」


「時間のかかる料理みたいだから、行ってすぐに食べられないでしょうけど、他のものも全部美味しいみたいだし、早く来月が来ないかなー」



 シェイキアは椅子の上で足をブラブラさせながら、その時はどんな事をしようかと、楽しそうにあれこれ想像していた。




 こうして王国を守護する立場に就く当主が、龍青たちの家へ訪問することになった。


資料集へシェイキアを追加するのは、もう少しだけ先になります。

そこにも記載しますが、隠密たちの上下関係がゆるいことや、ちょっとおちゃめな人物が多いのは、彼女の影響です(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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