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第101話 ベルとネロ

 護衛の二人から着替えや外泊許可をもらったマラクス……いや、ベルさんを個室に案内して着替えてもらうことにした。


 そしてリビングに戻ってきた彼女は、その印象が一変していた。


 首から胸元にかけて卵型に開いた、清楚で上品な仕立ての良い服を着ていて、パーティー会場にいてもおかしくないような格好だ。フォーマルウェアほどの格式は無いようで、ゴテゴテとした装飾は付いていないが、その姿からは上流階級のお嬢様といった印象を受ける。



「こんな服を選ぶなんて、お母様は何を考えているのかしら」


「すごくきれいだよ、マラクスおにーちゃん」


「この格好の時は、ベルと呼んでもらっていいわよ、ライムちゃん」


「わかった、ベルおねーちゃん」



 軽く化粧もしているみたいで、肌の(なめ)らかさも男装の時とは違うし、唇の艶も増して大人の女性らしさを演出している。


 ソラはやはり服の構造が気になるのかウズウズしているが、自重という言葉を再教育したのが功を奏しているようで何よりだ。



「ここまで印象が変わるなんて驚いたよ」


「おかしくないかしら?」


「すごくよく似合ってますよベルさん、大人の女性って感じが素敵です」


「公園で会った時の印象と違いすぎて、どう反応していいかわからないくらいです」


「でもこっちの姿のほうが断然いいねー」


「やはり両方の姿を比べると、こちらの方が自然に見えますね」


「でも、よその家でこの格好はなんだか落ち着かないわ」



 一緒に旅をした時も、夜間は胸を締め付けずに過ごしてもらっていたが、あの時は男性の格好だったからだろう。しかし、足首のあたりまである長いスカート姿は、とても良く似合っている。



「アズルちゃんの言った通り、やっぱりこっちの姿のほうが違和感がなくていいわ」


「この家の中にいる限り、外部に知られることは無いのです」


「安心してお過ごしくださいですよ」


「下着気になる、やっぱり脱がせたい」



 ソラはもう一度教育したほうがいいだろうか……



「キュキューキュゥ」


「ピピッピッ!」



 バニラもヴェルデも嬉しそうに鳴いているが、やはり性別を偽った格好や話し方に、違和感を覚えていたんだろう。



「そうそう、これも話しておかなくちゃね。

 コールちゃんは鳥型の守護獣持ちだけど、実は私にもいるのよ」



《来なさい、ネロ》



「なー」


「まっくろの猫さんだ!」


「可愛いなー、触ってみてもいいー?」


「ベルさんの守護獣ですから、クリムちゃんは触らせてくれないと思いますよ」



 ベルさんの呪文で呼び出されたのは、青くてきれいな瞳をした真っ黒の猫だった。大きさは成猫くらいで、アメリカンショートヘアのような精悍な顔つきをしている。パット見た印象は、気難しい性格といった感じだ。



「ヴェルデは触るくらいなら許してくれますが、その子はダメなんですか?」


「コールちゃんの守護獣ってかなり人懐っこいみたいだけど、この子は私のお母様でも警戒して近づかないわ」


「でも、お兄ちゃんだったら大丈夫じゃないかな」


「ヴェルデちゃんもこんなに懐いてるんだし、呼びかけてみたらどうかしら、リュウセイ君」


「試してみても構わないか?」


「えぇ、いいわよ」



 ベルさんに許可をもらえたので、ネロを呼んでみることにしよう。ヴェルデは俺の力を感じて懐いてくれているが、これはコールを通じてマナ共有で繋がっているのが大きな理由だろう。果たしてそれが無いネロに、近づいてもらえるだろうか……



「こっちに来てもらってもいいか、ネロ」


「なー!」


「……ネロまでそうなってしまうなんて、ちょっと信じられないわね」


「これは私も驚きました……」


「お館様をはじめ、誰一人懐くことはなかったですからね」



 護衛の二人も驚いているが、俺の呼びかけに応えたネロが、足元に寄ってきて甘えてくれる。ヴェルデと同じように体温もあって、サラサラの毛の感触が気持ちいい。せっかくなので魔法も見せてもらおうと、ソラに一度降りてもらい、床に膝をついてネロの頭を撫でる。



「魔法を見せてもらってもいいか?」


「なーう」


「ちょっとネロ!? そんなことまで聞いてしまうの」



 左肩に浮かび上がった表示は、[障壁[物理]【風】|障壁[魔法]【風】|□□]となっている。ヴェルデは一枠だったので、守護獣とはそういったものだと思っていたが、ネロは元々二枠持ちで三枠目の解放も可能だった。



「物理と魔法障壁があって風属性か、ネロは凄いな」


「なーっ!」


「私は水属性ですけど、ネロさんと同じですね」


「風属性は発動が早くなるんだよねー?」


「そうよクリムちゃん、私はこの子のおかげで、ずいぶん助けられているの」


「ネロはもっとベルさんの力になりたいか?」


「なぅっ!」



 ネロが力強く鳴いて、俺の手をペロペロと舐めてきた。ヴェルデもそうだが、この子も契約者のベルさんのことが大好きみたいだ。



「それなら魔法を、もう一枠開放してしまおうか」


「お兄ちゃん、この子も三枠持ちなの?」


「あぁ、開放できる枠を持ってるから、これで状態異常耐性の障壁も張れるようになるはずだ」


「私も三つ目の状態異常耐性を発現待ちしてますから、同じですね、ネロさん」


「なー」


「すごいね、ネロちゃん!」


「三枠なんて羨ましいよー」


「ピピー……」


「ヴェルデは全属性の強化ができるんだから、落ち込まないでね」


「ちょ、ちょっと待って、枠の解放とかネロが三枠持ちになるとか、一体どういうことなの?」



 混乱し始めたベルさんに、俺と真白の魔法やみんなの持っている枠数の話をしたが、開いた口が塞がらないと言った表情で、護衛の二人も唖然としている。こうして守護獣のことも打ち明けてくれたし、本名も教えてもらっているので、こちらも自分たちの情報を開示するのがフェアだろう。


 ベルさんの許可をもらえたのでネロの魔法枠を開放したが、その後は俺の肩に上がりマフラーのように首にぶら下がっている。温かくて気持ちいいんだが、頭の上にはヴィオレとヴェルデがいるので、非常ににぎやかになってしまった。



「なんだかネロを取られてしまったみたいで、複雑な気持ちだわ」


「その気持は良くわかりますよ、ベルさん。でもリュウセイさんと同時にお願いをしたら、必ず私たちの方を優先してくれますから、心配は無用です」


「なーう」


「ピピーッ」


「あらあら、ここもずいぶんと人が増えて楽しくなってきたわね」


「私たちも旦那様の頭の上に行ってみたいのです」


「挑戦するですよ、イコちゃん」



 人化を解いたイコとライザも頭の上に飛んできたが、さすがに四人だと密集しすぎて狭いと思う。



「とーさん、頭の上がいっぱいになってるよ」


「ぎゅうぎゅう詰めだね、お兄ちゃん」


「たまにならいいが、この状態で外は歩きたくないな」



 ヴィオレとヴェルデがいるだけでも、街なかで何度も確かめるように見られることが多いので、更にネロやイコにライザまで加わったら、人だかりができてしまいそうだ。イコとライザには時々抱っこして歩くことで、勘弁してもらおう。


 それより、晩ごはんまでもう少し時間があるので、ベルさんや護衛の二人の魔法も見せてもらえたら、枠の数を確認してみたい。



◇◆◇



 頭の上も落ち着きを取り戻し、ベルさんたちの魔法を見せてもらった。開放できたのはベルさんだけで、護衛の二人は残念ながら一枠しか持っていないと判明した。ベルさんは元々二枠持っていたので、三種類の攻撃魔法が使える英雄の誕生だ。


 潜在的な魔法枠を持った人はもっと多いのかと思っていたが、ビブラさんにマリンさん、それにラチエットさんやカスターネさんも一枠しかなかった。信用できる人にしか教えていないのでサンプル数は少ないが、開放されていない枠を持っている人は、案外少ないのかもしれない。



「お待たせしました、夕食のカレーです、たくさん食べてくださいね」


「こっちが辛い方なのです」


「こちらは甘口ですよ」


「こんな色をした食べ物は初めてだわ」


「とても食欲をそそる匂いです」


「チーズと卵の入ったパン以来のマシロ様の料理、楽しみです」



 二人の護衛は食事前に帰るつもりだったらしいが、真白が誘ってみるとベルさんが若干引くくらいの勢いで食いついてきた。旅の途中で食事どきに出会った人は、全員がベルさんの家で働いていて、真白の料理目当てで食材の提供をしてくれたらしい。喜んで誘いに乗ってくるのは、ある意味当然といえる。


 話を聞く限り家の格は高いみたいだが、そこで働く人ですら惹きつけてしまう真白の料理は、さすがとしか言いようがない。今夜のカレーの話が伝わったら、一体どんな事になってしまうだろうか。



「それじゃぁ、みんないただこうか」


「「「「「「「「「「いただきます[なのです/ですよ]」」」」」」」」」」



 ベルさんたち三人はお祈りをして、まずはカレールーだけスプーンで食べている。俺も同じように食べてみたが、何度かカレーを作っている間に、更に味の深みが増して洗練されたものに変化していた。正直言って日本で食べていたものより美味しい、さすがは料理上手で可愛い自慢の妹だ。



「これは……王族の晩餐会でも食べられないような料理よ」


「香辛料をふんだんに使った複雑な味なのに、それを絶妙の配合で一つにまとめている、カレーとは味と香りが織り成す魅惑の交響曲、そんな素晴らしいものを生み出すとはまさに神の所業」


「後を引く辛さが次はまだかと私に命令して、スプーンを持つ手が止まりません、これはまさしく魔性の食べ物、私の頭はいま悪魔に支配されています」



 グルメ漫画みたいなことを言い始めた護衛の二人だが、そのどちらもカレーを(すく)うスーンが止まらない、ルーばっかりじゃなくてナンも食べてくれ、モチモチで美味しいから。



「やっぱり、カレーはおいしいね!」


「明日の分もあるから、またパンに乗せて焼こうね」


「嬉しいですマシロさん! 明日が楽しみです」


「そんな食べ方が……」


「明日までここにいてはダメでしょうか……」


「あなた達は明日から出張なんだから、そんな事をするとお母様に怒られるわよ」


「「……………!!」」



 ベルさんの言葉で護衛の二人は、黙々とナンを食べ始めた。結界に捕縛された時もお仕置きを恐れていたが、彼女の母親は一体どういう人なんだろう。ネロが近づこうとしないのは、単に怖がってるだけじゃないよな?


 俺の足元で丸くなってるネロに視線を向けてみたが、答えは当然返ってこなかった……


次回、ソラの取った作戦とは……

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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