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第98話 リフォーム

ブックマークや評価、それに感想ありがとうございます。


第8章の最終話になります。

 突然風呂場に乱入してきたイコとライザを加えた三人で湯船に浸かり、十分温まった後にお湯から上がると、寝間着に着替えて寝室へと向かう。二人は飛んで移動しても構わないが、何となく俺が抱っこして運んでいる。



「こうやって運んでもらうのは、初めての体験なのです」


「ヴィオレ様が旦那様の頭から離れない気持ちが、わかったですよ」


「そこが落ち着くからと言ってくれるが、二人もそう感じるのか?」


「いつまでもこうしていたいのです」


「離れられなくなりそうですよ」


「まぁ、気に入ったのなら出かけるときにも時々こうしような」


「嬉しいのです」「ありがとうですよ」



 二人に抱きつかれながら寝室に戻ると、ヴィオレが飛んできてまだ湿っている頭を避けて肩の上に降り立つ。



「二人とも、お風呂はどうだったかしら?」


「至福のひと時を過ごせたのです」


「こんなに素晴らしいものとは思ってなかったですよ」


「二人にも喜んでもらえてよかったわ」


「他の妖精にも、この気持を伝えたいくらいなのです」


「みんな絶対損してるですよ」



 お風呂はかなり気に入ってもらえたみたいで良かった、これからも毎日入ってもらおう。出来れば他の家族と一緒に。


 二人をベッドに降ろし、俺も部屋履きを脱いで上にあがったが、さっきからずっとソラに睨まれている。何となく理由は想像できるから、理由は正直に話そう。



「どうしたんだソラ、ちょっと怖い顔になってるぞ」


「イコとライザ、私より背が高い、でもリュウセイと一緒のお風呂ずるい」


「二人は妖精だから年齢は無いに等しいんだが、ソラはどうしても年頃の女性として意識してしまうんだ、その気持ちは変えられそうもないから、許してもらえないか」


「大人の女性として見てくれてるならいい、抱っこしてくれたら許す」


「とーさん、ライムもいっしょに抱っこして」


「二人とも構わないぞ、三人でブラッシングをしようか」



 あぐらをかいた足の上に座ってもたれかかってきた二人の頭を撫で、ブラッシングの準備を始める。さっき話したのは嘘偽りのない正直な気持ちだが、ソラとなら一緒のお風呂でも問題ないかなと、心の隅で思っているのも事実だ。


 ただ、それを許してしまうとクリムやアズルを始め、他の家族にも混浴を迫られそうなのが怖い。今回の一件も、既成事実を作ろうとした真白の策略かもしれないと思ってしまうのは、疑心暗鬼すぎだろうか。


 そっと伺い見た妹は、とてもいい笑顔でイコとライザに話しかけていた……



◇◆◇



 今日はイコとライザが膝枕をしてみたいと希望し、ベッドに沈むクリムとアズルのねこみみをモフりまくっている。バニラはライムの膝枕でブラッシング中だ。



「獣人族の方の耳を思う存分触れるというのは凄いことなのです」


「イコちゃんのなでなでも凄く気持ちいいよー」


「この手触りと柔らかさは、癖になってしまいそうですよ」


「ライザさんのモフモフはとても安らげますからー、癖になっていいですよー」


「バニラちゃんも、これから毎日ブラッシングしてあげるからね」


「キュ~ン」


「今日からモフモフ五割増しになった、この家族素晴らしい」



 お風呂に入って洗ってもらったバニラの毛並みは、以前触った時以上にモフモフだ。体の大きさこそ子狐くらいだが、そのモフ係数は家族の中でも一番だろう。



「家の妖精って、こうして家族みたいに暮らすことってあるの?」


「私たちはここが初めての棲み家ですから、他はよく知らないのです」


「でも、普通は隠れてそっと見守るですよ」


「家の妖精って気に入った場所に勝手に棲み着くものだものね」


「ヴィオレ様が皆さまのことを話してくれなかったら、勝手に棲んでいたかもしれないのです」


「でも、一緒に食事をしたりお風呂に入ったりするのは、とても楽しいのですよ。こうしてお話できる皆さまと出会えて幸せですよ」



 質問の答を聞いた真白が嬉しそうに二人の頭を撫でる姿を見ていると、不思議な力があるとはいえ人と同じように笑ったり喜んだり出来るのだから、もっとこんな関係が増えればいいと思ってしまう。



「二人を連れてきてくれてありがとう、ヴィオレ」


「いいのよリュウセイ君。私も楽しいし、こうして喜んでいる他の妖精が見られるのも嬉しいわ」


「大きくなった状態だと、飛んだりしない限り普通の人と同じに見えます」


「私も力がみなぎっているし、あの子たちの人化が維持できているのも、聖域のおかげね」


「ピピピーッ」


「ヴェルデも元気になってるの?」


「ピッ!」



 聖域は精霊にも良い影響を与えると言っていたし、それに近い存在のヴェルデも元気になれるんだろう。家族も一気に増えて、全員が幸せになれる環境が整った今日は、本当にいい一日だった。




―――――・―――――・―――――




 朝、ゆっくり意識が覚醒してくると、胸と左右の腕に心地よい重みが感じられる。俺の上に登って眠っているライムはいつもの光景だが、今日からはバニラも一緒になって丸まっている。そして昨日から家族になったイコとライザが、左右から縋りつくようにして寝息を立てていた。


 気が向いた時に休むだけと言っていたヴィオレも、家族になってからは毎日規則正しく眠っているし、イコとライザの二人もそんな生活に馴染んで欲しい。



「……おはようございますなのです、旦那様」


「……おはようございますですよ、旦那様」


「おはようイコ、おはようライザ。

 ゆっくり休めたか?」


「もう木の上や倉庫の柱には戻りたくないほど、ぐっすり眠れたのです」


「旦那様のぬくもりを感じると、とても安らぐですよ」



 いつものように朝のまどろみの時間を過ごしていると、小さく身じろぎしたイコとライザが起きてきた。ずっと一緒の姉妹として存在し続けたからだろうか、二人は起きるタイミングも同時だった。



「ライムちゃんとバニラ様も、気持ち良さそうなのです」


「安心しきって眠っている姿は、とても可愛らしいですよ」


「二人も同じように眠れたなら良かったよ」



 胸の上で眠っている二人を確認して微笑むイコとライザを、そっと抱き寄せるように腕を曲げて頭を撫でると、気持ち良さそうに目を閉じて受け入れてくれる。



「旦那様、良ければこのベッドも少し大きくするのです」


「私たちが増えたので、少し窮屈になってしまってるですよ」


「こんな大きな物も加工できるのか?」


「二人でやれば大丈夫なのです」


「二つのベッドの間に小さなベッドを加えて、三台を一体化させる加工なら時間もかからないですよ」


「それは凄いな、お願いしてもいいか?」


「お任せなのです」


「旦那様の期待に応えるですよ」



 元々あったベッドに、同じ大きさのものを加えた連結状態で使っているが、十人近くに増えてしまった家族だと手狭のは確かだ。全員が密着して眠るので問題は発生していないが、部屋の広さにはまだまだ余裕があるし、大きいに越したことはないだろう。大は小を兼ねるとも言うしな。


 途中で起きてきた真白たちとも、必要なものをどんどんリクエストしていき、ライムが起き出すのを待って朝食をとった。食べ終わったら買い物に出発だ。



◇◆◇



 メイド服に着替えたイコとライザと手をつないだ真白は上機嫌で街を歩いているが、この世界に無いフリル付きのエプロンやカチューシャを身に着けた二人は、とにかく目立っていた。


 いくら人化したとはいえ元のサイズが小さい妖精なので、背の高さもコールより十センチほど低い。すれ違う人の視線は、微笑ましく見守ってくれている感じなので、真白は自作の可愛い服を着せて街を歩く、母親のように見られていそうだ。



「イコおねーちゃんと、ライザおねーちゃん、すごく目立ってるね」


「メイド服は可愛すぎる、目立つのは必然」


「私もあんな服を着て、街を歩いてみたいです」


「ソラちゃん、同じの作ってー」


「大きい服時間かかる、でも必ず作ってあげる」


「やったー、ソラちゃん大好きー」


「ご主人さまとマシロさんに教えていただいた、“ねこみみメイドさん”に挑戦できます」



 俺と真白から日本のサブカル知識を仕入れた三人は、やる気満々だ。二人に似合うことは確定的に明らかなので、ここは自由にやってもらおう。


 二人と手をつないでいるコールもチラチラとこちらを見てるが、もしかしてメイド服を着てみたいんだろうか。



「コールも作ってもらうか?」


「あっ、いえ、私はその……きっと似合いませんから」


「あの服の構造、胸が大きくても似合う、コールが着ても絶対かわいい」



 そこまで見抜いているとは、さすがソラの洞察力は鋭い。ヴィオレの水着を作ったり、ラチエットさんの教えを受けて、服の構造に造詣(ぞうけい)が深くなった成果だな。



「ソラおねーちゃん、ライムも着てみたい」


「それなら私の分もお願いしようかしら」


「私もお願いね、ソラちゃん」


「いつか全員分作ってみせる、任せて」



 そうなると俺は、メイド軍団と街を歩くことになるのか。ゲームのプレイ動画で、参加者全員がメイド服や執事服を着てダンジョンを攻略する企画物を見たことがある、それをリアルで再現できそうだな。



「あっ、お兄ちゃんは執事服だからね」



 やはりここできっちり追い込んでくる辺り、さすがは俺の妹だ。



◇◆◇



 雑貨屋で木材に石材や補修用の建築資材、それに塗料や保護剤など色々購入したが、魔法で次々収納していったら、いきなりスカウトされてしまった。家に追加してもらったベッドもそうだが、ああいった大型家具を納品する時に、収納魔法持ちは必須らしい。


 冒険者活動を当面やめるつもりはないのでお断りしたが、時々ギルドにも依頼を出すそうなので見かけたら受けてみよう。フィドのマナを共有させてもらってるので、店ごと持ち運ぶくらい簡単だしな。


 イコとライザの私服や寝間着も購入したが、今は仕事中なのでメイド服は脱がないというこだわりがあり、私服の披露はまたの機会に持ち越しとなった。二人とも姉妹を意識して、白のワンピースを選んでいたが、とても良く似合うと思うので楽しみだ。


 継ぎ足す分のベッドも購入し、全てを家に運び込んでからお昼を食べた後に、二人が作業を開始した。家全体を作り変えるに等しいので、バニラも連れて庭でしばらく遊んでいたら、それほど時間もかからず作業は終了した。



「これは……凄いな、驚いたよ」


「床もピカピカで新築の家みたいだね」


「バニラさんに清浄魔法をかけますから、家にあがってもらいましょう」


「ありがとう、コールおねーちゃん」


「キュキューッ」



 魔法で綺麗にしてもらったバニラが、ピカピカに磨かれた床の上を嬉しそうに走り回る。霊木を植えた鉢の下には木の枠が作られていて、水や土で床が汚れないように配慮されていた。玄関の横に新たに設置された下駄箱に靴を並べ、午前中に購入した屋内用のスリッパに履き替えて全員でリビングに向かう。



「暖炉の前に敷いてくれた、フカフカの絨毯が最高だよー」


「寒いのは苦手ですが、寒くなるのが楽しみです」



 リビングも全て新築同様に床が磨かれ、家具の下にもしっかりとワックスがかけられている。妖精魔法と結界魔法のコンビネーションで、家具を持ち上げながら一気に作業ができるのは、姉妹妖精ならではの技だ。



「これなら汚れにも強いから、油や汁が飛び散ってもお手入れが楽だね」


「すごく清潔な感じになっていますから、安心して料理ができます」



 厨房の床は土がむき出しだったものが、磨かれた石の並んだタイルに作り変えられ、明るくて衛生的な印象が大きく向上している。


 洗濯部屋には木製の物干し台や物干し竿が設置されていて、ここもタイル張りの床に変わっていた。



「ふぉぉぉぉー、このベッドは凄い、元から一つだったみたいに完璧」


「こんな加工まで出来てしまうなんて、本当に驚きだわ」


「資材が豊富に使えたおかげなのです」


「ベッドの頭の部分は、ヴェルデ様が止まりやすいように加工してるですよ」


「ピピピーッ!」


「良かったねヴェルデ」



 ベッドは継ぎ目が見えないほど精密につなぎ合わされていて、ヘッドボードは新たに一枚物として作り直されていた。ヴェルデもそこに降り立って、嬉しそうに鳴き声を上げている。



「こんなに住みやすくしてくれて、本当にありがとう、嬉しいよ」


「住んでいる人に喜んでもらえるのが、家の妖精の使命なのです」


「こうして皆さまの笑顔を見られるのが、家の妖精の幸せですよ」



 イコとライザの魔法で家全体がリフォームされ、俺たちはますます快適な暮らしを手に入れることができた。


バニラのモフパワーは両手で100万モフ+100万モフの200万モフ、更に両足が加わって200万×2で400万モフ、そして全身が毛に覆われているので常人の3倍、400万モフ×3の1200万モフだーっ!!

(ウ○ーズマン理論)


次章も王都編が続きます。

再登場するあの人もいますので、ぜひお楽しみに。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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