九 占い嫌いな理由
裕樹の熱は大したことはなさそうだ。
しかし、それでも、予言は三つとも的中したことに変わりはない。
私は、この予言が的中したことを、認めざるを得なかった。
はじめのときは、私は事前にあの手紙の内容を見ていた。それが深層心理で影響し、実際の出来事に私自身がしてしまったのでは、という言い訳も通用しない。今日、土曜日の内容に関しては、私は手紙に目をとおしていなかったのだから。
第一、意図的に自販機を故障させたり、ゴキブリを踏んだりすることなどできないのだ。
私は悔しいが、認めなければならない。
私が何故、占いの類に嫌悪感を抱くようになったのかを思い出そう。
それは、私の母が騙されたからだった。
母は真面目な人だった。私が生まれて間もなく、父が交通事故で死んでしまったせいで、母は私を育てるために、それこそ身を粉にして働いた。昼は家電メーカーの工場で部品を取り付け、夜はラーメン屋でアルバイトをした。そのかいあって、私は特に不自由することなく、大学まで行かせてもらった。しかし、苦労がたたったのか、母の腰は五十歳にしてボロボロになっていた。
就職し、私が家を出ていた隙をついて、奴らは母に近付いていた。
奴らの一人は、よく当たる占い師がいると、母を連れ出した。
母を連れ出した人物と占い師は結託しており、彼女の生い立ちを調べつくしていた。夫を失ったこと、腰の持病のこと、そして私のこと。あとで知ったことだが、これはホットリーディングという占いのテクニックの一つだ。
人を疑うことを知らない母は、見事に占い師に騙される。一度信じてしまえば、占い師の言葉が神聖なものとまで感じられるようになるという。
やがて、それまでの不幸や苦労は、すべて悪い霊の仕業だと、奴らは母に吹き込んだ。
母は、奴らの言葉をすべて鵜呑みにしてしまった。
なんでも奴らの指導者のいうことを聞けば、その悪い霊がいなくなるのだという。
母はそのために、それまでこつこつと貯めていた貯金を使い果たしてしまう。一度の占いに、数十万という金が必要になっていた。
そして、母からそれ以上搾り取ることができないと判断した奴らは、あっさりと母を見放した。
なぜ私に相談してくれなかったのだろうか。
母のことを、なぜもっと注意して見ていなかったのだろうか。
私は当時に戻り、自分自身を殴りつけてやりたい。
しかし、時間は戻らない。
母は失意のまま、脳溢血でこの世を去った。
私がすべてを知ったのは、葬式の後、空っぽになった母の貯金通帳を見たときだった。
アルバイト先の仲間が、私にすべてを語ってくれた。その仲間は、目を輝かせて占い師のことを話す母を止めてくれたようだが、そのときはすでに彼女の精神は奪われていたようだ。聞く耳を持たない状況だったと、悲しそうに、そして私に申し訳なさそうに語ってくれた。
騙される方が悪い。そんな言葉もあるが、私は奴らを許さない。今でも奴らを探している。そして、母を騙したことを悔やませてやるつもりだ。
しかし、一介のサラリーマンには、姿を消してしまった奴らの行方を知る術はない。母の他にも被害者は多いようで、警察も動いてくれているのだが、占い師の本名すら分からない状況なのだという。
だから私は、占いの類を嫌悪している。そんな詐欺師たちの言葉は、一切信じることができないのだ。
しかし、これだけは認めざるを得ないのだろうか。
自己嫌悪をおぼえながら、私は今日届けられた手紙の封を破る。